「さて、バトルゾーンとやらに着いたわけでござるが……」
四台のマシンはレールに乗り、トンネルを通ってバトルゾーンへと到着した
トンネルと言ってもただの真っ暗な穴ではなく、全面に映像が投影可能な特別製
3Dを作成するときに出てくるような十字線、それが薄黄色に光って延々と伸びる
時折形を変え、海上を揺れる波や海面から飛び出すサメのようなものも映し出された
地下で四台のマシンは一度合流しそれらの映像を同様に見たが、途中で道が分かれ再び四散
「……妙でござるな、気も感じなければ姿も見えぬ」
レールもいつのまにか無くなり、穴から飛び出した後はそのまま落ちて自然停止
楓はマシンから脱出し、辺りを見渡して自身の置かれた現状を確認した
(遮蔽物もなし、となれば隠れられる場所は……まさか、砂の中でござるか?それとも……)
辺り一面が砂、楓が着いたのはいうなれば砂漠エリア
砂があるだけでなく照明と空調により、蒸し暑さと照りつける光までも砂漠そのものに再現されている
多少の起伏はあるがほぼ全体を見渡せる平面に近く、にもかかわらず今いる場所から人一人見つけられない
視覚で駄目と分かると気での探知に切り替えたが、それでも分からず
砂の中に隠れ、遠くからでは探知されない程度には気配の消せる達人がいるのか
あるいはここには既におらず、エリアを跨いでの移動が求められているのか
(なんにせよ、周囲を細かく見て回らねばならぬでござるな)
答えが現状はっきりしないため、楓は動くことにした
密度はあまり高くせず取り急ぎ影分身を八体生成、八方向へ向かわせる
そして自身は舞空術で真上に上昇、より広く全体を己の目で捉えようと試みる
「ふむ、やはりこれといって目につく物は……む?」
楓は蒸し暑さにたまらず、額の汗を一拭い
するとその間に変化があったようで、動きを止めた一体の影分身に目をやった
何か見つけたようだが、上空にいる楓本人はよくわからない
他の七体の影分身の指示は変えぬまま、直接確かめようと下へと降りた
「……これはっ!?」
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!」
場所は変わって、別のバトルゾーン
バトルアイランド2は火山のある自然島、その地下には当然マグマ溜まりやそこに隣接する空間も存在する
クリリンが割り当てられた場所はそこであった
穴から飛び出したマシンは数度衝突を繰り返したのち、マグマの流れる川のような地帯へ落下
たまらず自身の手でマシンをぶち破って脱出するが、時既に遅く頭に引火
しかし髪の毛が無いのが幸いし、しばし熱さに悶えたもののさほど燃えずすぐに鎮火出来た
「あーびっくりした、そうか火山あったもんな。さて、気を取り直して……」
楓のいた砂漠エリアとは対照的に、起伏が激しくあちこちで岩山がそびえ立っており広く様子を観察することが出来ない
とりあえず周囲を見てみたが、自身の戦う相手は目に入らなかった
「悟飯やトランクスより先に、見つけないとな!」
決勝の特別なルールによって優勝が現実的になり、やる気満々なクリリン
他のエリアで起きていることなど知るよしも無く、軽快な足取りで探しに駆け出した
マグマの川もひとっ飛び、岩山も難なく跳躍しエリア内を進んでいく
すぐそばにマグマが流れているだけあって、こちらもかなりの高気温
次第に汗が流れ始めたが、こんなことで止まってはいられない
(待ってろ銀河戦士~、世界温泉巡り旅行~……ん?何だありゃ)
そんな彼が足を止めたのは、このエリアに不似合いな物が目に入った時だった
周辺がマグマや火山岩だらけのこの一帯では、目につくものは大抵赤みを帯びた色合い
岩陰からにゅっと伸びる真っ白なそれはかなり目立ち、気になったクリリンはそこへと直行
遠目ではただ棒状の物としか認識出来なかったが、近付くにつれて次第にその正体が分かってきた
(棒、じゃないな……え、足!?)
そう、足だ
先端の方が直角に曲がり、つま先部分が真上を向いている、紛れもなく足
白のブーツ、そして同じくらい真っ白な大腿部をクリリンはこの目で確認する
(まさか、この暑さで倒れちまったんじゃないだろうな)
来たばかりの自分と違い、対戦相手は決勝が始まるずっと前からここで待っていたと考えられる
となればその間に脱水症状を起こしてバタリ、そうなってもおかしくない
急ぐ理由を『早く見つけて倒さなきゃ』から『早く様子を見て助けなきゃ』に変え、クリリンはなおのこと足を速めた
すぐ近くまで到着すると、意識があるか確かめるべく声を掛けながら岩陰を覗き込む
「おいっ!大じょ……うわっ!」
しかしそこに声を掛ける相手はおらず、予想外の事態にクリリンは驚愕の声を漏らした
「ああ、ああああ……足だけ!?」
あったのは、足一本のみ
股下数センチから丸ごと一本、ピクリとも動かぬ真っ白な足
あの時岩陰に隠れて見えてなかったのは、大腿部のほんの数センチ分だけ
断面から液を垂らし転がるそれを目にし、思わずクリリンは身を引いた
「な、なんで足だけが……本人は、腰から上は何処にいるんだよ!?」
そして当然の疑問を口にする、明らかにこの状態は普通じゃない
足一本を切断するにしろもぎ取るにしろ、果たしてどれだけの力が必要か
更にはそんな真似を、誰がこんな地下深くまで来て働こうというのか
「おい!おーい!誰かいないのかー!?」
気が動転したのかその足を拾って抱えながら、クリリンは再び周囲を探し出した
辺りを見回しても、耳を澄ましても、誰もいないし声も聞こえない
「いるなら返事してうおおぅっ?!」
少しして、咄嗟に足を止めた
目でも耳でも無く、今しがた止めた『足』に違和感
地を蹴って走っていたその足が岩肌を捉え損ねる、つまり僅かにスリップ
「な、なんだこれ?あっちにずっと延びて……まさか!」
クリリンは足下を見ると、滑らせた原因と思しき液溜まりを確認する
しかも今いる場所から一定の距離を置きながら、ポタポタその液が点々と続いているではないか
その跡を追っていく
「ていうかこの足、よく見たらこれって……」
そしてその間に落ち着きを取り戻したのか、両腕で抱えている足自体の異常さにも漸く気付く
あまりにも重く、硬く、断面や膝は自身のよく知るそれとはかけ離れ……
「まるでロ……っ!!?」
その状況の整理を終えるよりも先に、今度こそクリリンは見つけた
「あ……あな、た、は……もしや決勝、の……」
「お、おい!大丈夫か!」
本来戦うはずだった銀河戦士、その正体はミスターサタンの弟子
紅一点として大会に華を持たせるため、そしてミスターサタンが自身との交戦を避けるため急遽送り込まれた少女
「しっかりしろ!」
その変わり果てた姿はバトルステージ内のカメラが捉え、容赦なく地上へと映し出される
そしてその地上には、彼女の名をいの一番に叫ぶ少女がいた
「……うそ。聡美、あれってまさか」
「ちゃ……ちゃ、茶々丸ーーーーーーー!!」
絡繰茶々丸
葉加瀬だけでなく茶々丸を知る大半の者にとって、このモニター越しでの再会はあまりにも
あまりにも悲惨で、衝撃的過ぎた
(や、やっぱりロボット……ん、ロボット?あっ、まさか……)
足の断面から覗いていたのは、機械仕掛け
半分近く抉られた右脇からは、冷却液とオイルが少量ながら止まること無く流れ続ける
球体関節、ひび割れ、身体の内側から聞こえるせわしない駆動音
彼女が人間でない根拠は、挙げていけばきりがない
そしてクリリンは、彼女の特徴的な外見からとあることを思い出す
「なあ君、もしかして茶々丸って名前じゃないか?」
「そ、そうで、すが……な、なぜそれを……」
「やっぱりそうか!」
大会が始まるまでの間、古や五月から3-A生徒の話を聞かされたのは一度や二度ではない
特に古は腕の立つ面々についてよく話しており、茶々丸もその一人であった
「古菲と四葉五月、この二人の知り合いなんだ俺。ネギや他のみんなのことも知ってる」
「古菲さ、ん達の……」
「それより教えてくれ、いったい誰にやられた?俺が来るまでに何があったんだ?」
古の話に偽りがなければ、茶々丸は並みの武道家をものともしない達人の筈
にもかかわらずこの惨状、クリリンは嫌な予感がしていた
まだ近くにいるであろう、彼女をここまで痛めつけた人物
一体何者なのか、どういった経緯があったのか
身の上話はそこそこに切り上げ、茶々丸に尋ねた
「そう、でした……ここ、は、危険過ぎます……い、今すぐ、退避を……」
「てことはやっぱり、まだそいつはここから離れちゃいないってことか?」
「そう、です。私は、良いで、すから……あなた、だけでも急いで、地上へ……」
「何言ってんだ、古やネギの仲間を見捨てていけるかっての」
すると茶々丸は、詳細を語るより先にクリリンをこの場から立ち去らせようとするではないか
自身と彼がいるこの場所の危険性を再認識し、人間の『焦り』に近い表情を見せながら
「ほら掴まれ、取れた足と一緒に地上へ運んでやるよ。詳しい話は移動しながらでも……」
「いけ、ません……本当に、時間が無……」
勿論クリリンはそれに対し、はい分かりましたと納得するわけが無い
手を差し伸べ、二人一緒に地上へ出ようとする
「見ーつけた」
「!?」
「遅かっ、た……」
しかし茶々丸の言うように、もう遅かった
突如背後から聞こえてきた声、肌で感じた強大な気
クリリンが振り返ると、その人物は立っていた
ウェーブがかかって腰まで伸びたロングヘアーで、色はオレンジ
エルフのように尖った耳と、緑が少々混ざった青色の肌
「こんな所まで逃げてたのね、気が探れないから面倒かと思ったけど……新しく来た気をこっそり追ってみたら、ずばりだったわ」
その女は右手で髪をかき上げながら、獲物を見つけた肉食獣のような笑みを茶々丸に向け一歩ずつ近付く
「ま、待て!」
クリリンはその両者の間に入り、女の足を止めた
よくよく顔を見てみればこの女、相当の美人
茶々丸を手に掛けた人物と知らなければ、クリリンも思わず見とれていたかもしれない
しかし当然ながら今の彼に、そんな気は微塵も無かった
「邪魔する気?だったらそうね……二人まとめて、遊んであげるわ」
女戦士ザンギャは、クリリンも獲物として捉え、改めて笑った
以前感想で『時系列からしてあの一味は出てくるのか』という質問をいただき、『ネタバレ回避で言えません、決勝始まったら分かるんで待ってね』という返事をしたんですが、あれから半年も経ってしまい本当に申し訳ないです。
次は多分週末くらいに