「おーいチチー、ブルマー」
「パルー!本屋ちゃーん!」
「武天老師様!」
「まきちゃん!」
地上の観客席では、地下での事態を受けてパニック状態になっていた
無理もない、ただの武道大会の観戦のつもりが殺人現場に居合わせてしまったのだから
もしあの凶悪犯が地下から出て、地上までやって来たら
こう考え我が身を案じた一般人が多数、会場から出ようと客席からの移動を試みていた
その一方で彼らの動きに逆らい、出口ではなく客席まで移動する集団が有り
「こんな非常事態だ、脱出の時なんかも考えて知り合い同士は固まってた方が良いと思ってな」
「カモさん!そちらにいらしてたんですのね」
決勝開始当初、天津飯や餃子と共にいた亀仙人達
彼の他にまき絵やカモ、そしてウーロンと五月
そんな彼らをチチやハルナ、あやかといった面々が迎える
図らずとも亀仙人達以外の面々は、観客席から出て行ったアスナ達三人を除けば既に集結済みであった
「しかしえらいことになったもんじゃ、まだセルとの戦いから一年やそこらしか経っとらんというのに……」
「それにあの悟飯さんがここまで……ああっ!」
「ごっ、悟飯ちゃん!」
地下での様子は、中継カメラによって余すところなく映し出されている
少し前に起きていたトランクスとゴクア、クリリンとザンギャの戦いは勿論
現在の天津飯やヤムチャの奮闘、そして悟飯の戦いもだ
そして一同が特に視線を注いでいたのは、やはり悟飯の戦いだった
勝負を急いでの強襲、その隙を突かれ今はボージャックの攻撃を食らっている悟飯
ネギやコタローをものともしない桁違いの実力、それを知っているあやかはこの状況に動揺を隠せない
更なる一撃を浴びたところで、悟飯の母チチが思わず声を上ずらせた
「おいおい!悟飯の兄貴はこっち側で一番の使い手だろ!?それがこのザマじゃまずいじゃねえかよ!」
「…………」
「くっそぉ、途中まではいい勝負してたってのに……」
「……それじゃよ、カモ」
「へ?」
あやか同様、カモもまた悟飯の強さはよく知っている
元居た世界で相当の達人の刹那と楓、この二人を遥かに凌駕するピッコロ
彼が一年前倒せなかった難敵を、悟飯が倒したのだという話も聞いていた
となれば動揺が声になって表れても仕方がなく、更には亀仙人が言葉が続ける
「画面越しでもわしには分かる、今の悟飯は必要以上に勝ち急いでおるんじゃ。そのせいで焦って攻防のバランスを誤り、敵につけ込まれてしまっとる」
「つまり、敵と渡り合える実力そのものはちゃんとあるってことか。けどよ爺さん、なんでまた悟飯の兄貴はそんなに……もしかして、今も続いてるこの地響きか!?」
「そうと見て、間違いないじゃろうな」
「己の命を削る大技、アルか!」
「【気功砲】、そういう技と聞き及んでるです」
会場中央でもカモや亀仙人と同様に、夕映が言及していた
直接目にしたわけではなく、この世界での知り合いからの伝聞で詳細は欠いている
しかし肝心な部分はしっかり聞かされており、それがアスナと古にも伝えられた
「天津飯さん、私達にはそんなこと何も言って……」
「言えばアスナさんが懸命に止めてくると、分かっていたんでしょうね」
近くに設置されたカメラは否応なしに新気功砲の衝撃で全壊、ゆえに天津飯の様子をモニターから詳しく窺い知ることは叶わない
しかしこの三人は分かる、今の天津飯に起きている如実な変化が
「確かに、尋常じゃないアルよ。ただの気功波の比じゃないほどに、気がどんどん減てるアル。ユエもこれ、分かるアルか?」
「こちらの世界でも修行は続けてきたので、それに伴って以前より幾らかは」
「駄目よ……駄目よ、こんなの」
地下にいる戦士達の中で、現在最も気を燃え上がらせているのは間違いなく天津飯だ
己の命をも賭して放つ連続攻撃、悟飯や他の戦士の気が混ざる中でもとりわけ明確に感じ取れた
「っ!アスナさん、早まってはダメです!」
「行かせて夕映ちゃん!」
そして気付けばアスナの足先は、地下へ続くトンネルの方へと向いていた
先程から狼狽していたアスナの様子を気にかけていた夕映はそれにいち早く気付き、腕を掴んで制止する
魔力による身体強化を咄嗟に施し、どうにか振り解かれずに堪える
「行かせません!」
「だって!このままじゃ天津飯さんが!」
「今のアスナさんが行ったところで、皆さんの力になれることは殆ど無いです!」
「っ……」
「お二人が地上に残られた意味、私はその時居合わせませんでしたが……つまり、そういうことの筈ですよね?」
ネギとコタローが天津飯達に同行し、アスナと古はそうせず
大会の予選及び準決勝を見届けていた夕映にとって、この別れ方が実力に沿ったものであると判断するのは難しくなかった
「う……け、ど……」
「アスナさん!考えれば分かる筈です!」
それをアスナは、言葉で即座に否定出来ない
言葉でもそうだが、行動でも表れていた
いかに魔力で身体能力を強化したとはいえ所詮は夕映の細腕、今からでも全力を出せば易々振り解ける
しかしそれをしない、夕映に正論をぶつけられ動揺が腕まで延び、アスナは力を込められない
そして、苦悩する少女達をよそに、地下での戦いは進んでいた
(くっ、急げ!急ぐんだ!でないと……)
「そぉら小僧!さっきまでの威勢はどうした!」
防御のため前に出した両腕に、敵の鉄拳が絶え間なく叩き込まれる
攻防が入れ替わった状態、それでいて敵の攻撃は重い
攻撃の衝撃が全身を、そして早く決めねばという焦燥が頭の中を駆け巡る
本来この状態に置かれた悟飯は、徹さなければならない
敵の攻撃を防ぎ、見切り、攻撃に転じる機を見つけ出すことに、だ
自分が一人、敵も一人、となればこれは戦いの基本の一つに違いあるまい
だが悟飯は、それに徹しきれない
暗に提示されてしまっていたタイムリミットが、彼を追い込んでしまっていた
(天津飯さんがまた、あの時と同じように!)
否が応でも思い出す、一年前
ピッコロが倒れ、17号を吸収したセルが18号に迫ったあの時
自分達が天界での修行を控え身動きが取れない中、ただ一人セルを足止めせんと動いたのが天津飯だった
使ったのは今回と同じ、新気功砲
地上と天界、遠く離れていながらも、気の著しい消耗は鮮明に感じ取れた
このまま使い続ければ死んでしまう、悟飯の父悟空が堪らず叫んでいたが悟飯もまた同じ考えだった
そして我慢できず単身援護に向かおうとするも、力量不足を理由に悟空に止められた
奇しくも、地上でのアスナと夕映のやり取りに近い光景
結果から言えば天津飯は死なずに済んだが、一歩間違えればその逆も当然あり得た
天界から助けに向かえなかった悟飯は、己の無力を嘆かずにはいられなかったのだ
(させて、たまるかあぁぁっ!)
あれから一年、悟飯は力を得た
精神と時の部屋での修行、セルゲームを経て、超サイヤ人の壁を超えるまでの覚醒を見せ、強敵セルを倒してみせた
あの時とは、違う
ゆえに天津飯をあの時と同じ苦しみから、一刻も早く解放させたかった
「甘いっ!」
「がっ!」
しかし非情にもその思いは、空回り続ける
機が熟さないまま放った悟飯の攻撃は、ボージャックの追撃に上から押しつぶされた
ボージャックが言い放った言葉は攻撃そのものに対して向けられたものだが、悟飯の抱く思いに対する叱責のようにも聞こえた
「金色に変身した時は驚いたが、見掛け倒しだったようだな!」
「……違う!」
地に這いつくばる体勢になった悟飯、真上から拳を振り下ろされる
それに対し同じく拳を握り、下から叩き上げて迎え撃った
位置取りからして悟飯の不利は否めない、しかし懸命に抗う
「ぐぐぐぐぐぐ……ぐああああっ!」
ぶつけられた『見掛け倒し』という言葉が怒りに、そして怒りが力に換わる
潰されるどころか片膝を立て、更にはそのまま立ち上がろうかという勢い
だが、形勢逆転は叶わない
ボージャックの足元近くにいた悟飯は、防御も不十分なまま横から蹴りを食らってしまう
(ま、まずい!)
蹴飛ばされた先には、瓦礫の山
鋭利に尖った石材が、さあ来いとばかりに向いている
それに気付いた悟飯はすぐさま体勢を戻そうとするが、食らった蹴りの威力は強く間に合わない
(くっ、だったらせめて気を防御に集中させ……)
ならばと次に講じるは次善の策
その身が瓦礫に迫る、あと5m、3m、1m……
「悟飯さん!!」
「!」
悟飯の背に、暖かいものがぶつかった
激突、更には突き刺さることを覚悟していた石材、とは明らかに違う
「……良かった、間に合った」
悟飯を助けた戦士は、第一声にそれを呟いた
”非力ゆえ救えなかった大切な人を、力をつけた今こそは助けたい”
彼もまたこの思いを、悟飯同様に持ちあわせていた
いや、同様ではなくそれ以上か
彼の場合『取り返しのつかない死』という結末を迎え、それから幾年もの日々を重ねてきたのだから
「あ、ありがとうございます!」
聞こえたその呟きは悟飯もよく知る声、見上げずとも分かる
歓喜の色を多分に含ませ、悟飯は礼を述べた
「ほう、暫くは起きんようにしたつもりだったが……案外早かったな」
「その余裕もそこまでだ……」
抱きかかえていた悟飯を降ろすと、彼の周りが一変
噴き出た気で砂塵が舞い上がり、パラパラと音が鳴る
更には髪が一瞬にして逆立ち、金色に染まる
そして緑色に変わったその両目で、戦士トランクスはボージャックを睨みつけた
その目つきは、かつて人造人間やセルに向けられたものと同じ
何が何でも、貴様は倒す
目は口ほどにものを……と言うが、トランクスのこれはその最たる例だろう
「悟飯さん、まだ戦えますね?」
「は、はいっ」
トランクスは既に戦闘態勢に入っており、悟飯へ声をかけるも視線は正面から変わらず
「今回はセルゲームと違って、倒す相手は一人じゃない……それに何より、時間がありません」
「……わかりました」
皆まで言わずとも、伝わった
「行きましょう、悟飯さん!」
「はい!トランクスさん!」
第2ラウンド、開戦!
来月はもう少し多く書きたいです