「くっ、天津飯……頑張ってくれるのはいいが、頼むから死なないでくれよ」
「最大、量の27%……25、%……これでは枯渇、するのは……時間、の、問題です……」
地上でもアスナや夕映が感じ取れた、新気功砲による天津飯の多大な消耗
未だ地下を移動しているクリリン達が感知出来るのは、言わずとも当然のことであった
そして全部で五つある敵の気の内、四つが今いる場所から殆ど動かずにいる
このことから、天津飯が命を賭して足止めを買って出ていることも、直接目にせずとも予想出来た
「それに天津飯だけじゃなくヤムチャさんにネギ、コタローに餃子まで!」
そして天津飯の気に隠れてはいたが、他の面々の気にも気付く
自身と同格、ないしは腕の劣る彼らが最前線に出ているという事実
思わずクリリンはその場で足を止め、顔を俯かせ葛藤した
(くっ、どうする。俺も、いや、それじゃこの子が……)
「クリ、リンさん。もし、援護に向かいたいの、でしたら……私のことはどう、か、気になさらないでください……」
「!」
それを察してか茶々丸が、途切れ途切れだが自らの意思を言葉にする
今すぐ行きたいなら構わず置いていけ、ということだ
彼女の言葉を受け、クリリンの両膝が震えた
もう一息でそれは折れ、両腕を下ろし、茶々丸をその場に置いてしまいそうなほどに
「……いや、それは出来ないよ」
しかし数秒したのち、それは止まった
面も上げ、より決意に満ちた表情で再び駆け出す
「です、が……」
「俺が今この場で、確実にネギや他のみんなに貢献出来ることは、お前を無事地上まで届けてやることだ。やれることを、俺はやる!」
抱きかかえられている茶々丸からは、クリリンの表情は見えなかった
だが彼が葛藤を振り払い、心に決めたことを偽りなくそのまま言葉にしたのは、機械の彼女でも理解できた
「……わかり、ました。ならせめて私にも、やれるだけ、の……サポートを……」
「サポート?」
「地下と、地上を繋ぐ全ルートは……事前にイン、プットしてあり、ます。敵との鉢合わせを避け、て……迂回する必要は、もう無い、でしょうし……最、短ルートをナビゲート……します」
「大丈夫か?その、内部の機械に負担とか……」
「短時間で、なら、まだ……稼働可能、です」
「……わかった、頼む」
迷いを断ち切り、クリリンは速度を上げ、更に駆けた
向かう先は仲間達が待つ地上、それを変えることはもうない
(っ、なんだ!?新しく地下へ向かう気が……ピッコロじゃない……まさか!)
たとえ新たな異変に気付き、一抹の不安を覚えたとしても
「……よし。これで術式は、全て込め終えた」
「済んだか、ネギ!」
「みたいやでヤムチャさん!」
右手を突き出し、詠唱を続けていたネギが息を吐く
その先にいたのは、コタローが生成した影分身達
「はっ!!!はぁっ、はぁっ……はっ!!!はぁっ!!!」
天津飯は今もなお、新気功砲で敵の足を止め続けている
気の消費は限界に着々と近付いており、あと二十発と続かぬだろう
しかしどうにか、その限界に到達する前にネギは間に合わせることが出来た
(気の産物の影分身にどこまで魔法が使えるかは半ば賭けだったけど、これなら!)
「ネギ坊主、拙者の影分身にはせずとも良かったのでござるか?」
「これ以上は時間を掛けられません。その代わり、この影分身達の援護を全力でお願いします」
「うむ、心得た」
ネギ達の傍らには、意識を回復し自力で舞空術で浮いている長瀬楓の姿
敵から食らった直接的な攻撃は腹部への一撃のみでダメージは浅く、戦線復帰は難しくなかった
(それにしても、天津飯殿のあの技……試合では不殺の決めがあったとはいえ、もし使われていたら拙者の勝ち目は万に一つも……改めて、差を見せつけられたでござるな)
いかにあの試合で、勝ちを『拾わせてもらった』か
再確認した楓だったが、それをいつまでもは引きずらない
(分身達を、周囲へ……)
攻撃の余波に飲み込まれぬよう幾らか距離を取りつつ、囲むように影分身を移動させる
それに少し遅れて、『策』を施したコタローの影分身達も移動を開始した
「にしても悟飯達、間に合わへんかったか。なあネギ、やっぱり二人を置いて俺らだけ逃げるいうんは……」
「……僕も本当はそう思ってる。けどそれじゃあ、悟飯君やトランクスさんを逆に裏切ることになるから」
「……せや、な」
あとは頃合いを見て天津飯の所へ全員で集まり、撤退作戦を始動させるのみである
しかし、この結果は彼らが一番に望んでいたものではない
『足止め中に敵の親玉を悟飯とトランクスが倒し、帰還したところでこの場を任せて撤退』
これが最上の結果、だがそれは叶わなかった
このまま自分らが撤退した場合、手下四人が逆に加勢に向かい悟飯達は二対五の戦いを強いられることとなる
それに悔いが残るコタロー
ネギも本心では同じだったものの、そこはグッとこらえた
トランクスを悟飯の所へ行かせた時、ネギ達は『無理に残らず撤退する、という選択肢がこちらにはある』ことを示していた
だからこそトランクスは、この場を自分達に任せて悟飯の援護に行ってくれたのだ
「そんなにしょげるな、コタロー」
「ヤムチャ、さん……」
「俺達だけであの四人をこれだけ長時間抑えられたんだ、悟飯達の助けには充分なれたさ」
ネギの言葉に同意こそしたが、それでも表情は晴れず
そこへ続いて声を掛けたのはヤムチャだった
彼は撤退直前の今も、繰気弾で天津飯への援護は続けている
消耗も相当の筈なのだが、コタローのことを放ってはおけなかった
彼からすれば、遥かに格上の敵相手にここまでやれたこと
これまで幾度と足を引っ張ってしまっていた皆の力になれたことに、満足感すらあった
「なにも怖くて逃げるわけじゃない、あくまで撤退は撤退だ。全員無事のまま、地上へ帰ろうぜ」
「……せやな!」
(四人、でござるか……っ!?)
取り繕ったものでなく、ヤムチャの本心からの言葉
それに少なからず救われたか、コタローの顔に差していた陰が引く
「ネギ坊主!急ぐでござる!」
「え?」
「天津飯殿の所へ!敵は既に……」
直後、焦燥の面持ちで両目を見開いた楓が、叫んだ
「ぐあああああああああっ!」
「て、天さんーーー!」
そしてネギ達の目の前で天津飯が爆ぜたのは、それとほぼ時を同じくしてのことであった
「へっ、一発当てただけであのざまかよ……他愛もねえ」
新気功砲の攻撃範囲から少し離れた場所から腕だけが一本、伸びていた
伸びた先の掌からは、撃ったばかりで僅かに残った気の光
天津飯を攻撃したのは、この腕だ
そして周囲の地面に亀裂が走り、腕だけでなく頭、肩、上半身と順々にその姿を露にしていく
それはボージャックの部下の一人、ビドーに他ならなかった
(お疲れ様。けど、わかってるんだろうね)
(発案しあの雑魚の攻撃を止めたのこそお前だが、その分我々が食らってやったのだ)
(まさかそのまま獲物を全部持っていくなんて言わねえよな?)
新気功砲の攻撃が止まると、仲間からの念話がすかさず飛んできた
ザンギャ、ブージン、ゴクアの三人
(ちっ、しょうがねえ。散々俺らをコケにしたあのハゲは、お前ら三人で好きにしろ)
彼らの協力なくして成り立たなかった作戦、ビドーは悪態つきながらも相応のリターンをくれてやった
絶え間なく、そして激しく降り注いでいた新気功砲
それはネギ達から、視覚からの詳細な情報授受を遮っていた
激しい爆発で姿かたちはおぼろげにしか見えず、全員が下の方で密集してしまえば三人か四人かの正確な判断は難しい
そこでビドーは、仲間三人を自身の上方で盾兼目隠しとして利用
地面に潜って攻撃範囲内から脱出したところで、腕を地上へ突き出して攻撃を加えたのだ
もし天津飯が余力のある内に実行されていたならば、彼の抜群の視力がそれを捉え何らかのアクションが起こせたかもしれない
もし楓が『敵は四人』という情報を知っていれば、影分身による多方向からの複数の情報から異変を一早く知らせられたかもしれない
「さあ、今度はこっちの番だ」
しかしその『もし』は一つとして起こらず、ネギ達へ最悪の形で襲い掛かった
「行けーーーー!!」
コタローは、すぐさま影分身を向かわせる
本来ならこの影分身達も楓のそれと同様に予め配置につかせ、天津飯が撃ち終えたタイミングと同時に仕掛けることで少しでも長く足を止めさせる計画だったのだ
だが新気功砲から脱出した彼らは既に体勢を整えつつあり、明らかにタイミングとしては遅れをとった
とはいえこうなった以上、これが今出来る次善の行動
楓の影分身も加勢すると、ネギ達四人は天津飯と餃子のもとへ飛んだ
「あらあら、随分と大勢でお越しだこと」
「数の多さだけで我々を、さっきまでのように抑え込めるとでも?」
新気功砲を何十発も浴びたボージャックの部下達
服はかなりボロボロで、脱出しようと抗ったことによる疲労も少なからず散見される
だが負傷という意味合いでのダメージはというと、天津飯と彼らを隔てる圧倒的な実力差を表すかのように、ほんの少々しか与えられていなかった
『遠距離から広範囲かつ連射』という条件によって威力が落ちていた可能性を含めても、彼らの多大な実力を示す一つの物差しとしても問題はあるまい
さて、この影分身の特攻なのだが、ネギ達が後手に回ったことで三人には迎え撃つための余裕があった
全方位から多数迫ってくることを確認、ザンギャおよびブージンは笑みすら見せる
「面白い、やれるものならやってみな!」
一番先に動いたのはゴクア
剣は抜いておらず、圧倒的実力差を誇示するべく素手のまま倒してみせる心づもりのようである
「そら!もう一発!」
まず楓の影分身を拳一発で撃破
続いて、横から攻め入ろうとするコタローの影分身を、腰を捻り回転させた腕で薙ぎ払う
影分身の直接的な攻撃は、一発として食らわず
だがその代わりに、撃破されたコタローの影分身から何かが飛び出してきた
「っ、何しやがったこいつ!この!次から次へと鬱陶しい!」
それは幾多もの拘束魔法で、正体はネギが予め仕込んでいた
影分身の消滅をトリガーとして起動し、一矢も余すことなくゴクアに巻き付いていく
引きちぎること自体は彼の力からすれば容易かったが、矢継ぎ早にコタローの影分身が迫り風矢と共にゴクアをその場に留めさせていた
これを四人全員に決め、その隙に……というのがネギの当初描いていた撤退プラン
実際ゴクアを相手に、最大何秒持つかはともかくとして結果は出ている
しかし残りの面々は、それを易々とは通さない
「……ふむ、どうやら直接触れると面倒そうだ」
「あらそう?あんなの種が分かればなんてことないじゃない……そらっ!」
ゴクアが一足先に飛び出し交戦したことで、影分身の性質をブージンとザンギャは捉えた
彼らのもとにも迫ってきているわけだが、それをザンギャが迎撃
右掌に集めた気を散弾銃の弾丸のように飛ばし、直接触れることなく影分身達を撃ち落とす
「なるほど……確かに、脆い」
「そういうわけで、先に行くわよゴクア」
「おい、お前ら!」
ブージンも彼女に倣い、威力を抑えた広範囲の気功波攻撃で影分身を仕留め始めた
せっかくの
行き場をなくした魔力は、影分身を構成する気と共に霧散する
こうして多数を撃破し包囲が薄くなったのを見るや、二人はゴクアを置いて飛び立った
影分身の接近を許さぬよう気弾で弾幕を張りながら、脅威がネギ達へと迫る
「おい、どないするネギ!あいつら来てまうで!」
「……僕が追加の風矢に風霊召還を出して、少しでも時間を稼ぐ。撃ったらすぐ追いつくから、皆は先に!」
「アホ!んなことお前一人だけにさせへ……ヤムチャさん!?」
天津飯達のもとへ飛びながらその様子を見ていたコタローは、影分身による足止め作戦が半ば破綻したことに嫌でも気付かされた
更にはネギが他を差し置いて
しかし直後、彼の目は別の方向へと向けられる
すぐ横にいた筈のヤムチャの姿が、ない
「くっ、この!離せ!」
「へへ……」
後方まで目をやると、そこにいた
片足を掴まれ、身動きが取れないヤムチャの姿
影分身達を一早く退け、ビドーがヤムチャに狙いを定め見事捉えていた
もう片方の足で蹴りを入れて振り払おうとするが、びくともしない
「さっきはよくも、猪口才な真似をしてくれたな」
「ぐあぁっ!」
「なっ、何してんねんお前!」
「馬鹿よせ!来るなコタロー!」
ビドーは四人の中で一番多く、ヤムチャの繰気弾を食らっていた
格下相手に不覚を取り続けた怒りが、足首を掴む右手からも伝わってくる
拳を振り上げるコタローをヤムチャが制すが、もう遅かった
「上等だ、二人まとめて……相手してやる」