時間は、少々遡る
「
「四つ身分身 朧十字!!」
目の前の敵、ザンギャへ光矢が貫きに
そして影分身が拳を打ち込みにかかる
楓の影分身数体が先陣を切って時間を稼ぎ、その一瞬で魔力と気をそれぞれ込めて放った攻撃だ
(さっきもそうだったけど……数が多けりゃいいってもんじゃないわよね)
それらを、ザンギャは慌てることなく捌く
手のひらから無数の気弾をばらまき、光矢の大群の中央に命中
誘爆で軌道を反らしたものと合わせて、ほぼ全てを自身のもとまで届かせない
残るは四方から迫る楓の影分身、うち一体に狙いを定め、駆けた
防ぐ間も与えず顔面を掴むと、それを土台にし跳び箱のように乗り越え背後につく
そこから蹴りを浴びせ、飛ばした先の反対側の影分身と合わせて二体を撃破
そのまま両手から気功波を放ち、残りの二体も撃破した
「
これで全てかと思われたところで、真上からネギの雷撃
ザンギャは両腕を上げ、これをガードする
(そうそう、せめてこのくらいの攻撃はしてくれないと)
「これも駄目か……」
「ネギ坊主、来るでござるよ!」
僅かに動きを止められたが、あくまでそれだけ
これを上回るネギの攻撃魔法はそう多くない、『詰み』の二文字がネギの頭をよぎる
一通りを受け切ったザンギャは攻撃に移り、楓は新たに出した影分身でそれを迎え撃つ
「楓さん、すみませんが時間稼ぎを頼めませんか?さっき以上に、出来るだけ長く!」
「随分と難題でござるが……引き受けたでござる!」
(”雷の暴風”だ!さっきの攻撃が効かないならこれしか……)
詠唱にかかる時間は、雷の斧の比ではない
しかし有効打と成り得る攻撃、ネギは僅かな希望をこの魔法と楓に託す
楓もネギの語気からその旨を読み取ったか、温存を考えず今まで以上に影分身を全力で生成しザンギャへ向かわせた
「ラス・テル マ・スキル マギステル……(急げ!)」
(さっき感じたよりも強い力……大技、ってわけね)
今まで以上に二人が前衛・後衛に分かれた動きを見せたことで、ザンギャもすぐさま見抜いた
取り囲もうとする影分身達の攻撃を苦にもせず捌きながら、どうしてやるかと思案
(溜めさせるだけ溜めさせて、撃つ寸前に邪魔してパァにさせるっていうのも面白いけど……えい)
ひとまずちょっかいを掛けてやろうかと、影分身達の間を縫って指先から気功波をネギ目掛けて放つ
「させぬ!」
しかしそれを、ネギの傍に控えていた楓本人が阻んだ
気を込めた右拳で弾き飛ばし、ネギを攻撃から守る
(くっ、あの攻撃でここまでの衝撃……)
(あれ一発でそんなに参ってるんじゃ……これは無理かしらね)
「しまった!」
次の瞬間、ザンギャは飛び上がった
超スピードで真上に浮上し影分身の包囲網から脱出、影分身達はその動きを捉えられない
(影分身は、間に合わぬか!)
楓達とザンギャの間を隔てるものは、無い
ザンギャの右手には瞬く間に気が充填され、威力は先程の数倍はあるだろう
下から影分身が追ってくるが、それよりも彼女の攻撃の方が間違いなく早い
腕を振り上げたザンギャが、楓達へ向けて振り下ろす
その直前に、ことは起きた
「気功砲ーーー!!!」
「ぬぅぅぅうう、わあああああぁぁっ!!」
「っ、今のは……ブージン!?」
天津飯の咆哮が、そして直後に凄まじい轟音が飛び込んできた
ザンギャは思わず攻撃の手を止め、ブージンの名を叫ぶ
天津飯の攻撃を叩き込まれ、落ち行く彼の姿を確かに捉えていた
(馬鹿な、息も絶え絶えだったあいつのどこにそんな力が……)
「「「「うおおおおおおっ!」」」」
「なっ、しまっ、この……」
その僅かな時間のうちに、影分身は追いついた
両足を片足ごとに二体づつ、抱え込むように掴み、楓本体とネギから遠ざけさせるように投げ飛ばす
咄嗟のことでザンギャはその一連の流れを受け入れてしまうが、ただでは転ばない
「そら!ちっ……」
溜めていた気は飛散させず、狙いも正確なまま気功波を楓達へ放つ
しかし先程と違い、距離と時間に充分な猶予
影分身達が間に入って盾となり、更に楓自身も気功波を放って応じることでどうにか届かせずに済んだ
(救われたでござるな、天津飯殿に……っ!?天津飯殿!)
ザンギャから目を離せない現状、天津飯の方を見やる余裕は無い
だが楓は気の動きから、次に天津飯の身に起きたおおよそのことを理解してしまう
天津飯に大きな気が迫り、両者の気が揺れる
情報は、これで充分
残る一人の敵が、天津飯へ襲い掛かった
「あっ……が……」
これまで幾度となく、刃先から手、そして腕を経て感じてきた
狙った獲物を捕らえ切り裂き、止まることなく刃が通り抜ける感触
(……くそっ!!)
確かにゴクアはその感触を得た、だが違っていたのだ
思い描いた理想と、目の前の結果が大きく
(しくじった!真っ二つにしてやるつもりだったのに……届かなかった、あいつに折られたせいで!)
天津飯の前半分を切り裂き、真っ赤な血を浴びた刀身を憎々しげに見やる
その長さは、本来の半分にも満たないものだった
さきのトランクスとの戦いで折られていたことを失念していたゴクアは、攻撃を繰り出す距離を誤っていた
その結果天津飯を一刀両断せんとする思惑は失敗に終わる
「た、い……」
しかも一振りで決める心づもりであったためか、第二撃の始動が明らかに遅れた
天津飯へ『刃を向け直し』、今度こそ両断すべく『より距離を詰め』、そして『逆方向へ一閃』
この3動作を行うよりも早く、天津飯の技が目の前で炸裂する
「太……陽拳!!」
「っ!!?」
先程の気功砲で気を殆ど使い切った天津飯だったが、消耗の少ないこの技はどうにか放てた
いや逆に、気を使い切ったからこそ、最善の選択であるこの技を放てたともいえる
「んっ!ぐっ、ああああぁぁっ!」
目の前が真っ白に染まるほどの、まぶしい光
眼球から顔全体へと痛さと熱さが伝わっていき、ゴクアは悶え声を上げる
目の前には確実に目標がいる
にもかかわらず、すかさず剣を振るうことは叶わなかった
(逃げ、られた!何処へ……下か!)
その間に、天津飯は逃走する
もう攻撃するだけの力がないゆえの、これまた最善の選択
視界は効かないものの、気の動きを探ることでおおよその移動方向だけは掴んだ
「このおおおっっ!」
気功波を数発、撃ってはみるが手応えは無し
それから、数秒
痛さと熱さが引き、物の色と輪郭が姿を見せていく
漸く視力が戻ったその時、辺りを見渡すが天津飯の姿は無し
ゴクアは怒りで柄を強く握り、睨み下ろした
「……まだ、近くか。このまま逃がすかよ」
(お願い、間に合って。間に合って!)
「天、さ……」
「大丈夫だ、餃子……気を抑えて、そのまま静かにして、いろ……」
建ち並ぶ廃屋の内の一つ
その中で壁に背を預け、呼吸は小刻みに会話を交わす二人
餃子と、天津飯
「その、怪我は……」
「心配、いらん……かすり傷だ……」
太陽拳で逃げる隙を得た天津飯は、真っ先に餃子が蹴飛ばされた方角へ向かった
崩れた建物のすぐ側に倒れているのを見つけ、今に至る
「うそ……だって今も血、止まってない」
「すぐに死ぬ量じゃないさ、それに……今、止血のために気は使えんだろう」
「でも……」
ボロボロの餃子は、そんな自分以上に重傷な天津飯の身を案じずにはいられない
両断とはいかずとも横一文字に大きく切り裂かれた腹からは、今も血が流れていた
とりあえずの処置として上の服を破き巻いたが、気休めにしかならないだろう
気の高熱で傷口を焼くか、あるいは気で血流をコントロールするか
出血を止めるため、この場で出来る二つの手段
どちらも天津飯は行わず、ただ耐えていた
敵に気で居場所を探られないため
自分自身と、何より隣にいる餃子の身を守るため
「今俺達は、どちらもろくに動ける身体じゃない……やり過ごすしか、無い。悔しいがな」
(違う。天さんは、一人だけなら……まだ、逃げられたかも、しれない)
下まで降りて自分を探す時間を、逃走に割けた筈だ
こうして二人揃って同じ場所に隠れているのも、もし見つかった時囮になって逃げる隙を少しでも作ろうとしているからではないのか
(僕はあの時、天さんを守ろうとした。けど……)
共にボロボロで動けず、天津飯に至っては失血でいつ倒れるかもわからない
こんな現状を振り返り、それ以前の自分の行動を振り返り
(……結局僕は、天さんに守られている。いや、僕があの時無理をしなければ、ここまで天さんに迷惑を掛けずに済んだかもしれない)
無力さ、そして悔しさに奥歯を噛み締めた
(けど、天さんが死ん……)
「餃子、気を抑えるんだ……来るぞ」
「っ!」
本当に、自分の行動が正しかったか
これ以上の酷い結末、天津飯の死が起きていたのだろうか
そう自分に問い直したくなったところで、天津飯の声
邪悪な気の接近を、ここで漸く餃子も感じ取る
ゴクアが近くまでやって来ていた
「大丈夫だ、血痕は出来る限り消しておいた。それに気付かれなければどうにか……ん?」
天津飯は自身の気を高めぬよう注力しつつも、敵の気の動きを探る
もし断続的に距離が狭まるようなら、痕跡を見つけられた可能性が高まる
その時は然るべき行動を起こそうと考えていたのだが、その様子は無い
が、おかしいのだ
(近付く、離れる以前に……動いていない、だと?)
敵が周辺に降り立ったのを確認してから数秒
動きが、完全に止まっていた
もし探すのを諦めたのなら、ネギやヤムチャなど、他の者の始末に回る筈
(索敵に注力しているのか?いや、違うこれは……まずい!)
と、ここでもう一つ、『動かない』以外の敵の情報を確信する
『気を高めている』
(あいつ、周り全てを破壊するつもりか!!)
天津飯は咄嗟に、片膝を立てる
「天さん……駄目……」
「このままでは、二人ともやられる。俺が外に出れば……」
「駄、目……」
「いつここへ撃たれるか分からない、早く行かねば……ぐぅっ」
立ち上がろうと力を込めたところで、体勢を崩す
圧迫された腹部から一層多く血が溢れ、痛みと脱力感が大きく襲い掛かる
これでは時間稼ぎの交戦どころか、建物の外へ出られるかも怪しい
既に外では、身を隠せそうな建物がゴクアの攻撃で次々と破壊されていた
一棟、また一棟
音が近づく、ここへ撃たれるのは一発後か、二発後か
「餃、子……せめて俺の、陰に隠れろ……」
「次は……ここかぁっ!」
そしてついに放たれる、二人纏めて消し飛ばす必殺の攻撃
光弾が天津飯達の居る建物へ、真っすぐと飛んでいく
対抗する手段は、無い
「間に、合えーーーーーっっ!!」
ただし彼女は、別だった
「何っ!?」
彼方から、弾丸のように何かが飛び込んだ
光弾と、その狙いの先の建物の間に割り込み、一人の少女が立ちはだかる
本来その先に待つ未来は、着弾し爆散する肉塊だろう
しかしそうはならなかった
「天、さん……あれは……」
「な、何故……」
光弾は、消えた
気合で掻き消す、とも違う完全消滅
まるで元からなかったように消え、少女の身体には傷一つなし
「何故、来たんだ……アスナ!」
「ごめん天津飯さん、それに夕映ちゃん。私馬鹿だから、来ちゃった」
自身のアーティファクト”ハマノツルギ”を携え、少女神楽坂明日菜はそこに立っていた
(……けど、私にもやれることがあった。こうしてさっき、天津飯さんを守れた!)
二週間共に修行し、幾度となく間近で触れてきた天津飯と餃子の気
微弱ながらもアスナはそれを、背後から確かに感知していた
「おい女、今何をした」
「……だーれが教えるもんですか」
ゴクアの問いには、答えない
答える気は、さらさらない
彼が利する行動全てに、アスナは並々ならぬ嫌悪感を抱かずにはいられない
「天津飯さん!這ってでも、ここから逃げて!」
場所を悟られぬよう、ゴクアの方から目は逸らさぬまま
絞るように剣の柄を両手で握り直す
(そして、今これからも!)
少女の、あまりにも無謀な防衛戦が始まった
次の話は書き進め中です、目途が立ったら活動報告で告知すると思います