Fate/stay night-Ceux qui tuent un ami-   作:甘茶々

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開戦の兆し

 ドゥー=ブゥクリィエは魔術師である。降霊の名門にしてロードに最も近いとされている名門の内の一つ、ブゥクリィエ家に生まれた。その魔力回路はメインとサブを合わせて90を超え、前当主サリェル=ブゥクリィエからも齢13歳にして当主の座を譲り受けている。

 そんなドゥーは今、アジアの島国である日本の辺境都市、冬木に訪れていた。第五次聖杯戦争への参戦を表明したからだ。

 そして、正式に参戦するための布石として、冬木の管理者である遠坂へと面通しをするところなのだ。

 

「トゥー、ドゥーエ、ツヴァイ、もしものときは頼んだよ。とはいっても、そうなることはほとんどないと思うけどね。それじゃあ、いこうか」

 

 誰もいないはずの虚空を見つめて言葉を漏らすドゥー。言葉を打ち切ると遠坂邸の呼び出しベルを鳴らす。

 

《歓迎しますわ、ブゥクリィエ現当主様。今、迎えのものを寄こしますのでおあがりください》

 

 インターホン越しで音声が流れたと同時に、目の前に突然白髪で褐色肌の男性が姿を現す。

 

「ほう、これが本物のサーヴァントですか。どのような姿をしているかと思えば、アジア人種の黄色いサルの英霊か。黄色恥ずかしくて肌を焼いたと見える。」

 

 ドゥーは自らよりも1.5倍ほどの体躯を持つ、ましてやサーヴァントに対して挑発を行うが、サーヴァントは反応せず背を向けてドゥーを無言のまま案内する。

 扉がサーヴァントの手によって開かれ、玄関へと入る。その際サーヴァントは霊体化し、ドゥーの視界から消失する。

 古くもきれいに整えられたアンティーク調の落ち着いた雰囲気が、ここを魔術師の工房の真っただ中であること忘れさせる。そんな玄関に彼女はいた。

 

「初めまして。私が遠坂家六代目当主、遠坂凛です。本日は様式に則った参戦の表明に敬意を表して攻撃は行いませんが、今後このような舐めた真似をするようなら地獄を見せますので、何卒よろしくお願いいたしますわね」

 

 そういって彼女―――遠坂凛は朗らかに笑う。その笑顔は美しいのだが、いかんせん先ほどの言動が相まって目が笑っていないような印象を受ける。

 

「初めまして、冬木の管理者さん。君を舐めているわけではなかったのだけれど、いかんせんアジアの辺境だろう?どうしても田舎者のイメージが崩れなくてね。こうして相手の工房に入って観光…、観察しようと思ったんだよ。さて、自己紹介が遅れたね。私がブゥクリィエ家十一代目当主ドゥー=ブゥクリィエである。よろしく頼むよ」

 

 黒髪に青い瞳で愛くるしい顔と体躯をもつ少年からは、その見た目に反して嘲りと慢心が見て取れた。

 

「あら、聖杯戦争の開始を早めて私と私のサーヴァントをこの場で相手にする算段かしら?そういうことなら今すぐにでも地獄を見せてあげるけれど、どう?」

 

 笑顔を崩さない凛だが、魔力を迸らせ威嚇するかのような言動をとる。

 

「ははは、今はやめておくよ。それともやはり黄色い野蛮人はまだサーヴァントも召喚していないマスター候補を襲うような自制もできない愚者ということかな?魔術師であるならば余裕と優雅さを持つべきだと忠告しておくよ、クックック」

 

 笑いながら挑発を重ねるドゥーだったが、凛に背を向け扉を開ける。

 

「あら、もうお帰りかしら?お茶も準備してたのだけれど、よかったら召し上がって?」

 

「遠慮しておくよ。それと一つ訂正しよう。君の英霊は優秀なようだ。それは破魔の効果でもあるのかい?ドゥーエをヤるとはやるじゃないかサーヴァント。その剣はぜひとも欲しいところだ」

 

 先ほど霊体化していた凛のサーヴァントが再び現界する。その手には二振りの中華刀のような宝具。サーヴァントは険しい表情のまま口を開いた。

 

「アレはなんだ?」

 

「ほう、存外低い声だなサーヴァント。答えは自分で考えろ、だ」

 

「ふん…」

 

 ドゥーとサーヴァントがそう言葉を交わすと扉は締まり、緊迫した空気が霧散する。それと同時に彼女がキレた。

 

「ンキイィ―――!!!!!なんなのよあのドグサレ小僧!!!!!いい年こいて調子乗ってんじゃないわよ!!!!!アーチャー、方針変更!まずはあの調子こいたガキをぼっこぼこにするわよ!いいわね!!!」

 

 虎もかくやといった咆哮をあげる凛に対して、サーヴァント―――アーチャーの表情は晴れない。

 

「いや、あれは正面からいくと絡み取られるタイプの敵だ。気づかなかったかね?先ほど君は攻撃を仕掛けられていたんだぞ。それに…その攻撃に使用された奴の魔術が奇妙でな」

 

「なんですって?不可視の魔術攻撃…?というか、今あたし攻撃受けてたの!?」

 

「そうだ。私でも目視できなかったが違和感を感じたものでね。迎撃を試みたが正解だったようだ。威力は君のガンドにも劣る低級なものだったが…、アレは意思を持っていたように感じる」

 

「あのガキ…、時計塔でも天才と呼ばれているのは伊達ではないようね…。」

 

「ほう?そうなのか」

 

「ドゥー=ブゥクリィエ。時計塔でも指折りの降霊術師よ。噂だけど、魔術師を束ねて英霊の召喚を試みて失敗したってのもあるわ。だからこの聖杯戦争に参加したんじゃないかしら」

 

「会いたい英霊がいると?」

 

「分からないけどね。とにかく、あいつは要注意ね。後で綺礼にそれとなく探りを入れてみるわ。まあ綺礼がぼろを出すとは思えないけど」

 

 そう言うと凛はジャケットを羽織る。

 

「さて、行くわよアーチャー。町を案内するわ」

 

「やれやれ、忙しないマスターだ」

 

 

 

 

 

 どこかで捕まえたのかタクシーに乗ってドゥーは移動している。また、隣に友人でもいるかのように会話をしている。

 

 

(どうだった?)

 

「すごいよあの子。魔力の質なら僕と並び得る。それにあのサーヴァント…ドゥーエの残基を一気に100ほど削ってた。あの宝具、セイバーのような括りではなさそうだ」

 

(僕らとの相性は悪そうだね)

 

「もともと僕と霊体である君らでサーヴァントを御せるわけがないよトゥー。だから僕らは召喚しなきゃいけない。彼を」

 

(そうだね)

 

「さて、じゃあいこうか」

 

(早く見たいなあ。ドラゴンキラー)

 

 

 

 

 

 


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