Fate/stay night-Ceux qui tuent un ami- 作:甘茶々
あいつが俺の前に現れたのは、たしか、中学のときだったか。
「おーい席につけー。出席の前に転校生を紹介するぞー」
当時の俺の担任だった教師が確か、そんな間延びした感じで言ってたのは覚えてる。それで、教師に呼びかけられて教室に入ってきたんだ。
「初めまして、ヒィロ=シルトです。今日からこのクラスでお世話になります。よろしくお願いします」
その時の俺は、外国人なのに日本語上手だなー、とかそんなことを考えていたように思う。
「この通り、ヒィロは外国の出身だけど日本語も上手だから、みんな仲良くするよーに。じゃあ、ヒィロは衛宮の隣に座れー」
それであいつ―――ヒロは俺と初めて言葉を交わしたんだ。
「初めまして、エミヤ。ファーストネームを教えて下さい」
「よろしくなヒロ、だっけ。俺の名前は士郎って言うんだ。あと、敬語はいいぞ。これからよろしくな」
「ヒィロなんですが…、まあいいや。よろしくです」
そういって、握手したんだっけな。
なんだったかな、確かお前が上級生に絡まれてた時だったかな。気づけば無我夢中になって上級生をぶん殴りに行ったっけ。
あの時のお前の顔と言ったら、びっくり、なんて言葉じゃすまされないぐらいの顔をしてた。
「どうして敵わないって分かってる相手に向かっていったんですか?私には分からない。理解に苦しみます」
「握手、しただろ?」
「え…?」
「友達を守るためだったら、敵わないとかそんなの、どうでもいいだろ」
よくもまあ、上級生と喧嘩しながらこんな会話をしてたなって今でも思うよ。
「友達…。私が?」
「ああ、というか前にも言ったけど敬語はやめろよな。なんか他人行儀な感じがするぞ」
「―――ああ…、ごめん。友達に対しては逆にマナー違反だったかな。なら「俺」も、友達を守るためだったら全力を尽くすのが礼儀だよね」
俯きながらヒィロがそう呟くと、首元を中心として、まるでガラスが割れた時にできる亀裂のように青白い光が彼の体全体に走る。
「épée(起きろ)」
まさか転校生のヒロが魔術師で、学校のど真ん中で魔術をぶっ放すとは思わなかった。驚いたんだぞ?本当に。
それからだよな。友達としても魔術師としても友達になれたのは。
「なんだったんだ今の…。ヒロが光って、すごい速さで動いて、気づいたら…」
「シロウ、言い忘れてたよ。俺さ、魔法使いなんだ」
あの時の笑顔は、その言葉に引っ張られたからなのかな。似てる、って思ったんだ。俺を救ってくれたあの人に。
冬木市の新都。玄木坂四番地にある中高級マンション『蝉菜マンション』。そこに、現在穂群原学園2年C組に所属する生徒。ヒィロ=シルトはいた。
「さて、正直俺が聖杯戦争に参加する理由はないわけだけど…」
何かの礼装の類なのか、魔力を帯びた指輪を弄びながら独り言を零す。
「士郎のあの手の甲の痣、それに間桐である桜にも手の甲に痣があった。そういうことなんだよな。まるで示し合わせたかのように手放せないものばかりだ」
「それにブゥクリィエか…。アレは独断なのか?なんてものを降霊させているんだ。複雑怪奇すぎて術者の性格が透けて見えるよ」
指輪を懐にしまい、制服を着る。
「まずは桜だ。せめて魔力だけでも補ってやりたい。後の事は間桐と協議すればいい」
「それに士郎は…、そろそろ聖杯戦争について話さないとな」
扉を開け、外に出る。エレベーターに乗り、マンションの入り口に出たところで、ヒィロを待つ者がいた。
「ほう。街中で見かけたときはもしやと思ったが、その魂魄の在り様は驚いたぞ、雑種」
金髪に紅い瞳、どこか威圧を含んだ雰囲気を孕むその男は、ヒィロを見かけるなりそう告げた。
「どちらさま、でいいんだよな?しかも、雰囲気から察するに、サーヴァントかい?」
ヒィロはまるで、襲われる心配など考えていないかのように平静な表情のまま尋ねる。
「貴様、我に拝する赫々を以てして我の名を知らぬと…?度し難い愚かさだが、貴様のその魂の在り方に免じて許す。今日は貴様をこの目で見ることが目的だったが…、また、面白そうなものを拾った。必ず勝ち上がれよ。その時には再び我の前に立つ栄誉をくれてやる」
サーヴァントはそう話すと背を向け、夜の街に消えていった。気配がなくなると、無意識に入っていた肩の力を抜き、ため息とともに言葉が出る。
「はあー。とてつもない質量の魔力を持った魔術師っていう奇跡を信じて尋ねてみたけど、やっぱりサーヴァントかぁ…。受肉したサーヴァントなんて反則にもほどがあるぜ畜生ー!ますます桜にこれを渡さなきゃならなくなった」
懐にしまっていた指輪を服の上から握り占め、ヒィロは桜のもとへと急ぐのだった。
黄金のサーヴァントは先ほど出会った少年がいるであろう方向を横目に坂道を下る。
「くはははは!よもやこのような薄汚れた現世にあそこまで洗練された魂が存在するとはなんとも度し難い!不釣り合いも甚だしいというものだ。なあ?綺礼」
サーヴァントは烏に向かって話しかけている。綺礼と呼び掛けた烏からは低音の男性の声が返ってくる。
「生憎だが、魂の良し悪しを見抜くような審美眼を持ち合わせていないのでな。どう反応したら良いのかな?ギルガメッシュ」
烏から返ってきた答えにふんと鼻を鳴らしながら黄金のサーヴァントーーーギルガメッシュは口を開く。
「酒を見定める眼はあっても持ち腐れだな綺礼。しかし奴め、己が眼に虹が宿っていることを自覚していないと見える。かの様な規格外の魂に眼とくれば...奴の起源は現世ではなく【外】に起因するモノだろうよ。魔術師の端くれであるなら灯台下暗しとはまさにこのことだ」
烏であるが故に術者である綺礼という男性の表情は窺い知れないが、声色からは一抹の興味の色が湧いていることが分かる。
「ーーーヒィロ=シルトは根源の渦を起源とするというのか?」
「愚問だな。そうでなくてあの魂と眼をどう説明する。あれは紛れもない化け物だ。人間の形を取った原初そのものと言ってもいい。しかし、生まれも、身体も我の庭で人間であるなら等しく我の財産だ。愛でてやろうではないか」
そう笑みを浮かべながら坂道を中頃まで下る頃、ギルガメッシュの前に青い長髪の女性が通りかかる。
ギルガメッシュは笑みを深め、すれ違い際に女性に告げる。
「ーーー今のうちに死んでおけよ?娘」