~もうそう世紀末次元~ 遊戯王ADSで世紀末トーナメント同人   作:黒糖信者

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強さを拠り所とし、勝利のみを目指し、ただただ高みを求め続ける強者たち。
彼らの在り方には憧れますが、時折不安にもなります。強いからこそ、一度折れたらどうなってしまうのだろう?一体どうやって立ち直るのだろう?と。
そんなことを考えながら書いてみました。
少しでも楽しんでいただけたらうれしい限りです。


※注意事項
当SSは、ニコニコ動画にて本体様が投稿していらっしゃった「遊戯王ADSで世紀末トーナメント」シリーズ(完結済み)の二次創作作品です。このシリーズをご存知ない方はご視聴頂いた上で当作品を読んでいただくことを強くお勧めいたします。

part1
http://www.nicovideo.jp/watch/sm29930147

本体様ツイッターアカウント
https://twitter.com/0UEwyNR16xA7qXv

part14まであるじゃないか!そんなに沢山は見られない!という方は、せめてこちらの動画だけでもご視聴頂けますと幸いです。

part2
http://www.nicovideo.jp/watch/sm30022979


勝利

鬱陶しい。ただただ鬱陶しい。EMペンデュラム・マジシャンの目は険しかった。

 

1枚の誘発程度であればいくらでも踏み潰せる。多少の妨害なぞどうとでも捌ける。

しかし…眼前にいる敵は違った。”多少の妨害”どころではない。”相手を殺すつもりの妨害”をひたすらに投げつけてきた。

 

「エフェクト・ヴェーラーの効果発動!」

 

まただ。ちくりちくりと刺すような手札誘発。動きが鈍る。形が崩れる。布陣の強度が落ちていく。

 

「…鬱陶しい」

 

思わず口から零れた言葉。彼の眉は大きく歪んでいた。

 

 

 

 

「EMEmはもう時代に取り残されつつあるんじゃないか?」

 

「……」

 

「高いアド生成能力、封殺性能という強みよりも、メタを積むスペースに乏しい弱みの方が目立ってきている」

 

そんなことはない…とは言えなかった。誘発を積めないせいで先行展開を妨害出来ない。メタ枠を入れられないからSS封じで手も足も出なくなる。豊富なスロットアドを存分に生かしたガエルと、デッキ全てがコンボパーツで占められているEMEm。どちらが上なのか、結果は雄弁に物語っていた。

 

「単純な強さだけで勝てる時代は…終わったのか…」

 

ペンデュラム・マジシャンはそう呟くのがやっとだった。

 

 

---

 

 

「くそっ…またあの夢か…」

 

疼く頭を押さえ、ペンデュラム・マジシャンはゆっくりと目を開く。磨きこまれたテーブル、並ぶ料理と酒。目に入るものを脳が認識し、自分が今何処にいるのかを思い出す。

 

周囲の喧騒が頭に響く。思わず顔をしかめ、酒のグラスへと手を伸ばした。

 

「おい、そろそろやめておけ。身体に障るぞ」

 

「…うるさい」

 

ファンタズム・マジシャンの制止も聞かず、ペンデュラム・マジシャンはグラスを傾ける。アルコールが起き抜けの喉を焼き、痛みに思わず咳き込んだ。

 

「だから言ったんだ…」

 

軽く呆れながら、ファンタズム・マジシャンはウェイターを呼び止め水をオーダーした。

 

「ねぇ、あの夢って…」

 

おずおずと口を開いたのはEmヒグルミ。聞いていいのか迷っている。そんな様子で彼の視線は彷徨っていた。

 

「あぁそうさ。世紀末大会さ」

 

吐き捨てるように答えるペンデュラム・マジシャン。忌々しさ、悔しさ、やりきれなさ…。負の感情がごた混ぜになったような声色だった。

 

世紀末次元でも屈指の強者、それこそ優勝候補の一角として世紀末大会に挑んだEMEm。ヒキグルミという新たな仲間も加わった。絶対に勝ちあがってやると意気込んでいた。自分達ならだれにも負けはしないと信じていた。

 

しかし、彼らの戦いはたった一度で終わった。ガエルという相性最悪の相手と当たったとはいえ、初戦にて彼らは散ってしまったのだ。

 

エキシビションマッチではファンタズム・マジシャンも参戦しDRに一矢報いたが、それがルーツを呼び覚ます引き金となってしまった。結果どうなったのかは…あまりにも悲惨だったため割愛しよう。

 

 

誘発さえ踏まなければ。ガエルと当たりさえしなければ。

何度考えたかも分からないことが、また彼の頭をよぎっていく。

 

しかし、彼はれっきとした決闘者。決闘に「でも」も「もしも」も無いことなど、骨身に染みるほど理解していた。

 

「くそっ…今度こそはと思ったのに…」

 

拳を握りしめて目を瞑る。そう。今度こそ、今度こそ勝利の栄冠を手にするはずだったのに…。

 

 

---

 

 

神の手(コナミ)により産み落とされて以来、着々と成長を積み重ねてきたEM。しかし、成長とは時に痛みを伴う。場合によっては亀裂を生み、すれ違い、仲間同士の関係が壊れてしまうことすらあり得る。

 

仲間達から避けられている。壁を感じる。ペンデュラム・マジシャンがそんな感覚を抱いたのは、丁度モンキーボードが生まれた頃だった。

 

ペンデュラム・マジシャン、ドクロバット・ジョーカー、モンキーボード。彼らはEMEmの中核をなす存在だ。Emという仲間を得た彼らは強かった。いや、強すぎた。あまりにも強すぎたのだ。

 

他の仲間達から劣等感を抱かれ、避けられ、疎まれてしまうほどに。

 

「あいつら、僕たちのことを足手まといだと思ってるんだろ?だからEm達と手を組んだんだ」

 

「俺たちはパンプアップ・パンプダウンで殴り合う脳筋デッキなんだ、あんな先行制圧は俺たちのやり方じゃない」

 

「彼らのせいで私たちまでが白い目で見られる…私は楽しいデュエルがしたいだけなのに」

 

そんな声にならない感情が、表には出せない気持ちが、かつては一緒にいた仲間達から向けられたら?共に生まれ育った家族とも言うべき存在から、まるで腫物か厄介者のように扱われたら?一体どうすればいいのだろう。

 

 

ペンデュラム・マジシャン達が出した答えは簡単だった。

 

勝てばいい。勝って勝って勝ち続けて、誰より強くなってやればいい!

 

勝利。単純で明快で、絶対に己を裏切ることのない存在。強くあり続ける限り、決して自分たちから離れていくことはないもの。彼らはそれを拠り所にした。

 

最も…彼らは()()()()()()()()()()のかもしれないが。

 

 

決意のままに、彼らは勝った。勝って勝って、ひたすらに勝ち続けた。大会を荒らし、環境を染め上げ、渇きを癒すように勝利を貪った。EMEmにあらずんばデッキにあらず…と言わせしめたかは分からないが、当時はあながち間違ってもいなかっただろう。

 

あと一歩。求めた頂点まであと少し。自分達であれば世界の頂に届くはず。そう確信し、インフェルノイドに彼岸や帝、数多のデッキと死闘を繰り広げた彼らの日々。しかし、それは唐突に終わりを迎えた。

 

 

「何…だって…?」

 

ぽかんと空いた口から、ペンデュラム・マジシャンはようやくそれだけを絞り出す。

 

「もう一度言おうか?僕とジャグラー…牢獄行きだってさ…」

 

ヒグルミは目を伏せて呟く。乾ききった弱々しい声だった。

 

 

環境を荒らし続けた彼らに対し、世界の神から下された審判。途端にEMEmというデッキは崩壊した。よりにもよって、世界の頂点を決める戦いを目前に控えた時期に…。

 

更に苦難は続いた。Emという相棒を失ってもなお暴れ続けるEMを見かねたのか、モンキーボードも牢獄に送り込まれ、ドクロバット・ジョーカーとペンデュラム・マジシャンも制限という枷をはめられた。彼らは牙を抜かれ、爪を折られ、翼をむしり取られた。

 

彼岸、帝、そしてめきめきと頭角を表した青眼。彼らが世界の頂点を決めるべく火花を散らしていたその時。EMEm達は力を奪われ、ただただ指をくわえて見ていることしか出来なかったのだ。

 

血が滲むほどに拳を握りしめ、擦り減るほどに歯を食いしばり、それでもなお現実は変わらない。天下無双と謳われたEMEmは、華々しい戦いの傍観者へと成り下がった。

 

そして何よりも、他のEMの態度がペンデュラム・マジシャン達を抉った。彼らが力を失ったことをかつての仲間達は悲しんでくれなかった。それどころか喜びすらしたのだ。

 

これで堂々と戦える、と前を向くもの。

やっと厄介者が消えてくれた。と安堵するもの。

EMEmの仲間と白い目で見られずに済む。と笑顔になるもの。

 

直接言われたわけではない。面と向かって態度で示されたわけでもない。しかし、たとえ袂を分かったとしても共に生まれ育った間柄。EM達が何を考えているのか、分からないはずもなかった。

 

 

ペンデュラム・マジシャン達がどれほど傷付いたのか。それを語れる言葉などきっとありはしない。

 

 

それからおおよそ半年。彼らは世紀末次元に招かれ、かつての力を取り戻した。新たな仲間(ヒキグルミ)も生まれた。世紀末大会に備え、寝る間も惜しんで戦術を磨き上げた。一度逃した世界の頂。今度こそは掴んでみせると闘志を燃やした。

 

誘発に弱い、メタを積むスペースが無い。なら誘発を踏み越えてルーラーを着地させ、問答無用で圧殺すればいい。メタ枠が無くとも、誘発が積めなくても、先行で勝ち続けていればいずれ後攻も取れるだろう。

 

世紀末次元は修羅の世界。ここに軟弱者はいない。自分達の力を疎むものも、腫物扱いする奴もいない。いるのは戦いに飢えた兵だけ。

 

そんな世界だからこそ戦う価値がある。勝利に大きな意味がある。ここで最強になる。今度こそ勝利の栄冠をこの手に掴む。

 

そう誓って挑んだ世紀末大会。しかし…。

 

「くそっ!」

 

ペンデュラム・マジシャンは再びグラスを傾けた。

 

 

---

 

 

「全く…一体何をやっているのですか?」

 

頭上から降ってきた落ち着いた声。ゆっくりと目をやったペンデュラム・マジシャンは表情を強張らせた。

 

「なんでアンタがここにいる…」

 

賑やかな酒場には似合わぬ物静かな態度。丁寧だが自信に溢れ、どこか他者を見下しているにも聞こえる言葉遣い。そこにいたのは世紀末次元で最も最強に近い存在、多元魔導法士 ジュノンだった。

 

「店主から頼まれたのですよ。いつまでも居座って管を巻いている客に困っている、強くて手が出せないから力を貸してくれ…と。まさか貴方達だとは思いませんでしたが」

 

やれやれ、と息をつくジュノン。よくよく見ると彼女の後ろにはバテルの姿もあった。

 

「ヤケ酒ってやつかい?大人は怖いなぁ」

 

酒場に慣れていないバテルは、ジュノンの影から顔だけを出して声をかける。思わず睨み返したペンデュラム・マジシャン。おっと、と呟き、バテルは再びジュノンの後ろに引っ込んだ。

 

「彼らは大人ではありませんよ?敗北に打ちひしがれ、酒に溺れて悔しさを誤魔化すようなものを大人とは呼びません。それはただの負け犬です」

 

「何だと…?」

 

バテルに視線をやりながら淡々と放ったジュノンの言葉。が、言葉に感情が籠っていなければ相手を傷つけないという訳ではない。むしろ感情任せの罵り文句よりも余程相手を逆撫でする。

 

そして、勝利を拠り所とするEMEmにとって「負け犬」という言葉は到底看過出来るものではなかった。ペンデュラム・マジシャンはゆっくりと立ち上がり、真正面からジュノンと睨み合う。

 

 

「随分と偉そうなことを言ってくれるじゃないか…かつて俺達に完膚なきまでに叩きのめされたアンタが…」

 

「それは随分と昔の話でしょう?なんなら、今ここで戦ってあげてもいいのですよ?」

 

「…っ!」

 

思わず歯を食いしばり、拳を握りしめたペンデュラム・マジシャン。対して眉一つ動かさないジュノン。両者の態度の差はそのまま力量の差でもあった。

 

「おい、ここは大会の舞台じゃないんだ…ルールという縛りは存在しない。俺が戦おうとだれも文句は言わないぞ?」

 

ファンタズム・マジシャンが口を開く。口調は穏やかだが、ジュノンに向けられた視線は鋭い槍のように尖っていた。

 

「どうぞご自由に。貴方一人が加わったところで何も変わりはしませんから」

 

「っ…!舐めやがって…大口叩いたことを後悔させてやる!」

 

ジュノンの澄まし切った言葉が、負けることなどあり得ないといった態度が、EMEm達の最後の堰を切った。遂に声を荒げ、ペンデュラム・マジシャンはデュエルディスクを構える。

 

決闘(デュエル)!」

 

 

「くっ…くそっ…」

 

勝敗は決した。ペンデュラム・マジシャンはがくりと崩れ落ちた。

 

「ファンタズム・マジシャンがいればもう少し相手になるかと思っていましたが…拍子抜けですね。貴方達もこの程度でしたか」

 

軽く息をつき、ディスクを外すジュノン。彼女の表情も態度も、戦う前となんら変わっていなかった。

 

「時間を無駄にしました。これでは試し斬りにもなりません」

 

ペンデュラム・マジシャンの腕が震える。ファンタズム・マジシャンは歯を食いしばる。しかし、敗者が勝者の言葉を否定することなどできはしない。

 

そういえば、とジュノンは口を開く。

 

「本来の目的を忘れていました。貴方達は延々とここに居座っているそうですね?店主もいい加減迷惑だとのこと。そろそろ立ち去って貰えますか?」

 

「…」

 

死人に口なし、敗者に居場所無し。ペンデュラム・マジシャン達は何も言わずに酒場を立ち去った。

 

 

---

 

 

酒場を後にし、ペンデュラム・マジシャン達が向かった場所。それは世紀末大会が行われた闘技場だった。大会中は足の踏み場もなかった観客席だが、今は見渡す限り誰一人いない。

 

ステージを眺めていると、ガエルとの死闘が昨日のことのように瞼に浮かんだ。自分達の限界を突き付けられ、初戦で散った苦い記憶が。

 

インフェルノイド、彼岸、帝、クリフォート。かつて表の次元で鍔迫り合った強敵達も悉く敗北した。自分達を下したガエルも蟲惑魔に敗れ、その蟲惑魔ですら優勝を逃している。

 

なんて遠いのだろう。どれだけ差があるのだろう。追いつくことなど出来るのだろうか。しかしそんなことは関係ない。ペンデュラム・マジシャンは口を開く。

 

「強くなってやる…何をしてでも、どんな手を使ってでも、強くなってやる!」

 

彼の叫びは、端正な容姿からは想像もつかない程に激しかった。

 

「そうはいってもどうするのさ?僕たちにスロットアドなんて作れない。そんなデッキは…もう時代遅れなんだろう…?」

 

未だ俯いたままのヒグルミが口を挟む。

 

「分からねぇよ!どうすればいいのかも…何が正しいのかも…何も分からねぇよ!」

 

ヒグルミに向き直り、ペンデュラム・マジシャンは再び叫ぶ。血を吐くような叫びとは、きっと今の彼を指すために生まれた言葉なのだろう。

 

「でも…ガエル、ルーツ、ジュノン!三回も負けて!あんなことまで言われて!黙って引き下がれるかよっ!!このまま終わっていいっていうのか!!」

 

ペンデュラム・マジシャンの瞳から雫が零れた。乱暴に目元を拭って言葉を続ける。

 

「俺は強くなりたい!俺達は勝つことしか知らない。他の価値観なんて理解出来ない。理解したくもないっ!だから強くなる。もう一度勝つために!文句があるのか!!」

 

EMEm達は押し黙る。しばしの沈黙が場を覆ったのち、ファンタズム・マジシャンがくすりと笑った。

 

「…確かにそうだな。俺達には他に何も無いんだ、だったら強くなるしかない」

 

自分の掌を見つめ、ぎゅっと拳を握る。ファンタズム・マジシャンは顔を上げ、ペンデュラム・マジシャンをまっすぐ見つめた。

 

「付き合うぜ、相棒。強く、強く…強くなろうじゃないか」

 

闘技場を吹き抜ける風が彼らの頬を優しく撫でていった。

 

 

 

---

 

 

 

EMEm達が立ち去った酒場。一仕事を終えたジュノンはグラスを傾けていた。とろりとした琥珀色の液体を存分に味わい、満足したように微笑む。

 

「バテル、酒とは本来矢鱈と煽るものではありません。適度に嗜み、節度を守って楽しむべきもの。飲む分には構いませんが、酒に飲まれてはいけませんよ」

 

「そんなこと言われたって…飲んだことないんだから分からないよ」

 

まだ酒が飲めないバテルは、やや退屈そうに帽子を弄りながら料理をつついていた。

 

「ねぇジュノンさん、なんか今日はいつもにも増して意地悪じゃない?」

 

「いつもにも増して、というのは聞かなかったことにしましょう。バテル」

 

バテルは思わず肩をすくめる。

 

「あいつらって結構強いじゃん?あんなに言うほど弱くないでしょ…。昔あいつらに負けたのがそんなに恨めしいっていうの?らしくないよ」

 

バテルの表情には疑問がありありと浮かんでいた。確かにジュノンはとてつもなく強く、それ故に他者を見下している部分がある。丁寧な態度を一皮剥けば、内面に潜んでいるものはカオスやDRと左程変わらない。しかしそんな部分を表に出すことも、他人をあからさまに罵るような真似も、彼女は今までしてこなかったからだ。

 

「彼らは強く、優秀です。それにまだ若い。こんなところで折れるのは勿体ないですからね、それだけのことです」

 

「ふぅん」

 

バテルは思わず顔を綻ばせた。全く、ジュノンさんは素直じゃないんだから…。

 

「バテル、今何を考えましたか?」

 

「べ、別に何も…?」

 

バテルは思わず目を逸らして料理をつつく。本当にこの人は鋭いことこの上ない。

 

でも、それにしたって今日のジュノンさんの煽りは度を越していたような気がする。あれじゃ発奮させるどころか、心を折ってしまいかねないんじゃ…。

 

「それに…」

 

「ん?それに?」

 

バテルが聞き返すと、ジュノンはしばし虚空を眺めた。

 

…未だにはっきりと思い出せる。ジュノンの脳の芯に焼き付き、心の奥底に刻み込まれた苦い記憶。

EMEmを前に膝をついたあの時。生まれて初めて、自分より明確に強い奴がいると理解してしまった忌むべき瞬間。血が滲むほどに拳を握りしめ、力を願った惨めな自分…。

 

苦いものを飲み下すように、ジュノンは水を口に含んだ。

 

「何処かの誰かを見ているようで、腹が立ったので」

 

「……」

 

もしかすると、同族嫌悪…ってやつなのかな。そんなことを考え、バテルはついくすりと笑った。

 

「バテル…?」

 

「何でもないって!ご馳走様でした!」

 

慌てて手を合わせ、いそいそと帰り支度を始めるバテル。じっとりした目でそれを眺め、ジュノンはため息をついた。

 

「全く…誰も彼も、本当に仕方がない…」

 

一見すると愚痴のような言葉。しかしジュノンの顔は決して暗くは無い。むしろ、何かを懐かしむような暖かさが見え隠れしていた。

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