~もうそう世紀末次元~ 遊戯王ADSで世紀末トーナメント同人 作:黒糖信者
そんなことを考えながら書いてみました。
少しでも楽しんでいただけたらうれしい限りです。
※注意事項
当SSは、ニコニコ動画にて本体様が投稿していらっしゃった「遊戯王ADSで世紀末トーナメント」シリーズ(完結済み)の二次創作作品です。このシリーズをご存知ない方はご視聴頂いた上で当作品を読んでいただくことを強くお勧めいたします。
part1
http://www.nicovideo.jp/watch/sm29930147
本体様ツイッターアカウント
https://twitter.com/0UEwyNR16xA7qXv
part14まであるじゃないか!そんなに沢山は見られない!という方は、せめてこちらの動画だけでもご視聴頂けますと幸いです。
part10
http://www.nicovideo.jp/watch/sm31527697
「決まったああああ!勝者、ヴェノム!」
ブラスターの声が拡声器を通して会場に響き渡った。世紀末大会1回戦第6試合、彼岸対ヴェノムのゲーム。勝ち残ったのはヴェノムだった。
決闘者ヴェノミナーガはデュエルディスクを外して目を瞑る。声を上げるでもなく、拳を天に突き上げるでもなく、微笑みを浮かべることすらしない。ただただ落ち着き払った彼女の振舞いは、まさしく神の名に相応しいように見える。
「まさかあの彼岸が負けるとは…EMEmやガエル相手ならまだしも、ヴェノム相手に」
「正に地雷デッキだね、当たりたくないなー」
「しかし…本当にナーガと分体の力だけで勝ったなぁ」
「これ…「ヴェノム」じゃなくて「ヴェノミナーガ」じゃない?」
「ヴェノムや他の爬虫類って役に立ってたか?」
「素材になったりヴェノミナーガのために墓地を肥やしたりはしただろ…あと分体の役にも立ってた。あいつら素の能力じゃどうしようもないんだし、仕方ないんじゃね?」
ざわつく観客席から様々な言葉が降り注ぐ。しかし、言葉の形は違えど意味することは大差なかった。ヴェノム・コブラやヴェノム・ボア達は勝利を得たというのに居心地悪そうに縮こまってしまう。
「有象無象の戯言など気にするな。安心しろ、我が何もかも喰い尽くしてくれる」
静かに、しかし力強く言い切るヴェノミナーガ。彼女の背中は広く大きく、ヴェノム達皆を背負って余りあるように見える。
「ありがとうございます、ナーガ様…」
嬉しい。頼もしい。心強い。ヴェノミナーガに付き従うヴェノム達は、そんな感情でいっぱいになっていたことだろう。なんといっても今のヴェノムには絶対無敵の神がいる。そして神を支える分体がいるのだから。
しかし、そんなヴェノム達の表情にはどこか寂しげなものが見え隠れしている。彼らの前に立ち、彼らを導くはずのヴェノミナーガは、そのことに全く気付けていなかった。
---
「ナーガ様、おめでとうございます。そしてありがとうございます」
「うむ。安心するがいい、お前たちには我がいるのだからな」
一回戦を終えて控室に引き上げたヴェノム達。首を垂れるヴェノミノンに対し、ヴェノミナーガは静かに言い切った。
「次の相手は…HEROと宣告者のいずれか…か」
トーナメント表を思い出してヴェノミナーガは呟く。途端にヴェノム達は身体を震わせた。後攻0ターン目ダークロウを擁するHEROと、豊富な誘発に加えオネストのサーチギミックを持つ宣告者。どちらもヴェノムにとっては非常に厳しい相手だ。
「案ずるな。言っただろう、お前たちには我と
ヴェノミナーガは再び同じことを言い聞かせた。その声は静かで、態度も落ち着き払っているように見える。しかし、彼女の陰に佇む分体は何かを案ずるように俯いた。
「ありがたきお言葉…身に余る幸せでございます。しかしナーガ様、一つ宜しいでしょうか?」
「何だ?」
ヴェノミノンが口を開く。ヴェノミナーガは快く発言を許した。彼女は「ヴェノム」の、いや爬虫類全ての絶対的エースであり、偉大なる毒蛇の女神だ。しかしヴェノミナーガは決して暴君でもなければ独裁者でも無かった。彼女は「ヴェノム」のエースであり、良きリーダーであり、民を思いやる神だ。いや、そうであろうとしていた。
「お言葉ではありますが…我らはナーガ様のしもべであると同時にナーガ様の剣でもあります。我々を、我々の力を、もっと頼っては頂けませんか?」
ミノンの言葉を聞いた途端、ヴェノム達に先ほど以上の動揺が走った。当然のことだろう。何せヴェノム達は「デッキを組めるかすら怪しいライン」とまで言われた挙句、その言葉を一切否定出来ないような有様なのだから…。
ヴェノミナーガは静かに微笑み、言葉を返す。
「我は良き信徒に恵まれているな…その想いはしかと受け取っておこう」
跪くヴェノミノンを、自分を信じて付き従うヴェノム達を順に見つめ、ヴェノミナーガは今一度決意を固めた。
10年もの歳月を経てようやく訪れた好機なのだ…今こそ、今こそ…と。
---
ヴェノミナーガがこの世に生を受けたのは、今からおおよそ10年前。共に生まれたヴェノミノンやヴェノム達は、その時からずっとヴェノミナーガの傍にいた。
自分が生まれた時のことをヴェノミナーガは生涯忘れないだろう。割れんばかりの大歓声。目を開いた瞬間飛び込んで来たのは自身に跪くヴェノミノンとヴェノム達。そして彼女の周りを埋め尽くし、歓喜の声を上げる爬虫類達。
自らがどれほど期待されているのか。どれだけ待ち望まれていたのか。何を背負って生まれてきたのか。彼女は一瞬で理解した。
そして、それだけのものを背負うに足る力を彼女は持ち合わせていた。事実、ヴェノミナーガは今でも十分通用する最高級の能力を備えている。誕生から10年以上もの月日が経っているにも関わらず、彼女に並ぶ耐性の持ち主は数えるほどしかいない。攻撃力の上昇値は申し分なく、万が一に備えた再生能力まで持ち合わせている。彼女が一度着地すれば、途端に勝機を失うデッキは数知れないだろう。
しかし…実戦において彼女が軸となることは殆ど無かった。
厳しい召喚条件は、デッキ全体を彼女に特化することを強いた。環境においては歯が立たず、精々ファンデッキにおいて使われるのが関の山。
稀に彼女が戦場に顕現することがあっても、その時彼女の贄になるのはいつも生まれが異なる爬虫類ばかり。唯一彼女に付き従うことが出来るヴェノミノンすらも”ヴェノミナーガを召喚するための生贄”という役割しか与えられないことが殆ど。彼女と共に生まれ、彼女を信じ、彼女に付き従うヴェノム達は常に蚊帳の外だった。
私は
世紀末次元に招かれ、
私の肩に、背中に、またじわりと重いものがのしかかる。しかしそれは神が背負うべきもの。リーダーが、エースが抱えてしかるべきもの。
私が彼らを勝利へと導くのだ。導かねばならないのだ。
ヴェノミナーガはそう信じ込んでいた。
---
「緑光の宣告者の効果発動!ヴェノム・スワンプの発動を無効にして破壊する!」
「ふん、小癪な真似を…」
世紀末大会2回戦第3試合。ヴェノムの相手として立ち塞がったのは宣告者だった。デュエルディスクを構えたヴェノミナーガと神光の宣告者が決闘場で相対する。
ヴェノミナーガは1回戦同様落ち着き払っているように見えた。ただし、あくまで見えるだけだ。
まずい、まずい、まずい…。そんな言葉がヴェノミナーガの頭を埋め尽くす。トーナメント表を見た時から2回戦が鬼門となることは分かっていた。どうすれば勝てるか、ずっと考え続けてきた。しかし…彼女の思考も虚しく打開策は見つからなかったのだ。
蛇神降臨に依存する以上、宣告者を一度でも踏めば戦術が瓦解する。いくらヴェノミナーガが最強無敵の神であろうとも、降臨そのものを止められてしまえばどうにもならない。更にはどうにか降臨に成功しても、サーチ出来るオネスト2枚と朱光の宣告者で処理されてしまう。
HEROを相手にするよりいくらか良くとも…彼我の相性差と戦力差は絶望的に思えた。
「…我はジェントルーパーをリリースしワーム・イリダンをアドバンス召喚。ターンエンドだ」
「蛇神降臨の儀式なんてものを見過ごす訳がない。神さえ止めれば後は紙束同然、行くぞ!儀式召喚!」
瞬く間に神光の宣告者が並んでいく。が、まだ終わったわけでは無い。
「ならば我はデッキから毒蛇の供物を発動。ワーム・ヤガンと神光の宣告者2体を破壊する。更にEMウィップ・バイパーの効果を発動!これで貴様らは供物を止めることは出来ない」
「ちっ…」
宣告者達が供物として捧げられ、フィールドは更地に戻った。ヴェノミナーガは内心ほっと息をつく。
「これで神光の宣告者は終わりの筈…」
「ならば新しく呼び出すまで。再び儀式召喚!更に墓地の極光の宣告者の効果を発動!」
3体もの神光の宣告者が並び立ち、うち2体がトレミスの素材となった。更にはクリスティアまでもが着地する。あまりにも絶望的な盤面にヴェノミナーガは言葉を失った。
「終わりだ…ダイレクトアタック!」
神光の宣告者が言い放つと同時に、3体のモンスターがヴェノミナーガのライフを削り取る。文字通りの完敗だった。
世紀末大会では、先行と後攻を入れ替えながら1勝1敗以外の結果になるまで対戦を繰り返す。よって一度の敗北が即座に敗退に繋がるわけでは無い。しかし…この試合は”ヴェノム先行のゲーム”だった。すなわち、次は宣告者が先行となり、それを落とせばヴェノムの敗退となる。
いや、まだだ。相手の手札次第ではまだ勝機はあるはず…
「私の先行!神光の宣告者を儀式召喚!」
ヴェノミナーガの藁にも縋るような考えはあっさりと打ち砕かれた。神聖な光を纏った天使が戦場に舞い降りる。最早蛇神降臨は不可能となった。鈍く冷たい絶望感がヴェノミナーガの心を覆っていく。
私がいながら…皆からあれほどの忠誠を捧げられていながら…こんな所で終わるのか…
済まない…お前たち…
(ナーガ様…ナーガ様…!)
突然ヴェノミナーガの頭に声が響く。声の主は、カードという形に身を変えて彼女の手札にいるヴェノミノンだった。
(今こそ我らの力をお使い下さいませ!ナーガの存在を呼ぶのです、さすれば道は開けます!)
「……」
道、だと?どうやって?私は封じられ、一切の効果も使えない。そんな状況で?
しかし彼女はヴェノムのエースであり、リーダーであり、神でもある。信徒の前で戦いを諦めることなど出来はしない。例え勝機が見いだせなかったとしても…凛として、堂々と、ヴェノムの先頭に立っていなければならない。
「…私はデッキよりヴェノム・ボア、ヴェノム・サーペント、ヴェノム・スネーク、ヴェノム・コブラを墓地に送ることでナーガの存在を特殊召喚」
(ナーガ様の贄になれるなら!墓地に行くなど朝飯前で御座います!)
(ナーガ様、ミノン様、どうかご武運を…)
分体の素材となったヴェノム達は、喜び勇んで墓地に身を投げてゆく。ヴェノミナーガは牙を食い縛った。
心臓が締め付けられるようだ。これ程までに尽くしてくれる信徒がいるというのに、皆の期待を一身に背負っているというのに、私は彼らに応えることが出来ないのか…?
(次はヴェノム・スネークとワーム・ゼクスを!そしてガガギゴと私を!!)
「……」
ミノンの言葉のままにモンスターを召喚していく。あっという間に5体もの爬虫類が場に並んだ。
「皆!揃ったな!」
召喚され、カードから本来の姿に戻ったヴェノミノンが声を張り上げた。
「良いか。我らはナーガ様の忠実なるしもべ。ナーガ様の信徒、ナーガ様の贄であるっ!」
ヴェノミナーガは僅かに俯く。そうだ、だからこそ私が、私が…
「しかしそれだけか?我らはただ偉大なる神を崇めるだけの弱者か?否!断じて否!」
何…?
考えもしなかった言葉が耳に飛び込んで来た。ヴェノミナーガは思わずミノンに目をやる。
ヴェノミナーガは、その時初めてヴェノミノンの背中を正面から見つめた。
「我々は最早力無き弱者ではない!
ヴェノミノンの背中は、こんなにも大きかったのか…?これ程に頼もしいものだったのか…?
「我らはナーガ様の牙、ナーガ様の鱗、ナーガ様の剣であるっ!」
召喚されたヴェノム・スネークやガガギゴ。墓地に眠るヴェノム達。皆の表情が高揚していく。
「我らの力を侮る天使どもに教えてやるのだ!我らは神に縋るだけの弱者ではないと!驕りの代償は奴らの血肉!奴らの敗北!」
生まれた時から共にいた。常に私に尽くしてくれた。が…それでもなお知らなかった。ヴェノミノンが、ヴェノム達が、こんなにも…
「馬鹿な…一切の効果を使わずにこれ程の打点を並べただと…!?」
呆然とする神光の宣告者を一瞥し、ヴェノミノンは遂に牙をむく。
「行くぞ、我が同胞達よ!」
「ウォオオオオオオオオオオオオオッ!」
ヴェノミノンの声に、爬虫類達の叫びが続く。ただただそれを眺めるヴェノミナーガ。そんな彼女の陰に佇むナーガの存在が口を開いた。
「ヴェノミノンの言葉の意味、少しは分かったか?」
ヴェノミナーガの脳裏に控室でのヴェノミノンとのやり取りが浮かぶ。
「よく見ておけ…お前を信じ、仕え、身を捧げることも厭わない。しかし同時に、お前の力になることを心底望んで止まない。お前に頼られることこそが至上の喜び。そんなお前の信徒達の姿をな…」
ヴェノミナーガは返す言葉を見つけられなかった。だが…彼女に憑りつき、彼女を苦しめ続けてきた重圧が溶けるように消えていったことだけは確かだった。
---
「決まったああああ!勝者、ヴェノム!」
ブラスターの声が拡声器を通して会場に響き渡った。世紀末大会2回戦第3試合、宣告者対ヴェノムのゲーム。勝ち残ったのはヴェノムだった。
神光の宣告者はがくりと膝をつき…ヴェノミナーガは柔らかく微笑んだ。
「皆…ありがとう…お前たちがいなければこの勝利は無かった。よくやってくれたな…」
ヴェノミナーガの言葉にヴェノム達の顔がぱっと華やぐ。いや、華やぐというほど小奇麗な反応でも無いようだ。
「勿体なきお言葉…ありがとう…ございます…」
「私たちはナーガ様のお力に…なれたのですね…」
「ナーガ様、ナーガ様…」
感極まって涙ぐむものまで出る始末。そんな彼らを見つめるヴェノミナーガの瞳は、未だかつて無いほど穏やかで暖かかった。
---
「馬鹿な…我の力が失われていく…」
世紀末大会準決勝。決勝の座を賭けてヴェノムと激突したのは復活した太古の魔物、カオスだった。
「神の力は信者の力。貴様が絶対無敵の存在だというのならば、その力の源を絶ってやるまで」
カオスの瞳は鋭く冷たい。微かにだがかつての私に似ている…そんな感覚がヴェノミナーガの頭をよぎった。
墓地の爬虫類を根こそぎデッキに戻され、ヴェノミナーガの攻撃力は0まで下がった。しかし彼女は落ち着いている。外見だけではなく、内面もだ。
「理屈は分かった、現実もそうとは限らない」
召喚されたヴェノミノンが言い放つ。彼の生贄となったのは、デッキに眠るヴェノム達。
「ナーガ様のためとあらば、贄となることなど朝飯前!」
「私どもの力、どうか受け取って下さいませ!」
そう言い残しながらヴェノム達は墓地へ身を投げていく。神の力は信者の力。ヴェノミナーガの力が瞬く間に蘇っていく。
相変わらずヴェノミナーガの陰に佇む分体が静かに口を開いた。
「分かっているとは思うが…」
「ああ、分かっているとも。我が写し身よ。よく分かっているさ」
その返事を聞けて安心した、とばかりに分体は再び陰へと身を引いた。ヴェノミナーガは息をつき、自身の在り様に思いを巡らせる。
なんと心強いのだろう。どれだけ恵まれているのだろう。私は眷属に護られ、信徒の力を受け取り、しもべに支えられてここにいるのだ。
身体に漲る力を噛み締め、心に宿った想いを抱き締め、ヴェノミナーガはカオスと向かい合った。
「さぁ行くぞ…我らの力、見せてやろう!」