~もうそう世紀末次元~ 遊戯王ADSで世紀末トーナメント同人 作:黒糖信者
どんな人であっても、きっと一人はそんな人がいることでしょう。
そんなことを考えながら書いてみました。少しでも楽しんで頂けたら嬉しい限りです。
※注意事項
当SSは、ニコニコ動画にて本体様が投稿していらっしゃった「遊戯王ADSで世紀末トーナメント」シリーズ(完結済み)および「遊戯王ADSで世紀末【DR】VS【多元魔導】」の二次創作作品です。このシリーズをご存知ない方はご視聴頂いた上で当作品を読んでいただくことを強くお勧めいたします。
part1
http://www.nicovideo.jp/watch/sm29930147
本体様ツイッターアカウント
https://twitter.com/0UEwyNR16xA7qXv
part14まであるじゃないか!そんなに沢山は見られない!という方は、せめてこちらの動画だけでもご視聴頂けますと幸いです。
遊戯王ADSで世紀末【DR】VS【多元魔導】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm28497015
「混沌」
「グリモ!ゲーテ!…セフェルッ!」
ジュノンの叫びは虚空に消えていく。相互に繋がってこそ真価を発揮できるのがジュノンの操る魔導書達。その繋がりを絶たれてしまえば…文字通りただの紙束と化してしまう。
「そんな…馬鹿な…」
見るも無残に変わり果てた魔導書達を見つめ、呆然と立ち尽くすジュノン。今の彼女には敗北の恐怖を感じる余裕すら無い。当然だろう。多元の力を得てからというもの、彼女に絶望を与えるほどの決闘者などただの一人もいなかったのだから。
「この次元を統べる比類なき猛者だと聞いていたが…買い被りだったようだな」
混沌帝龍はゆっくりと右腕を上げる。ジュノンの目には、その手はまるで死神の大鎌のように映った。
「苦渋の選択を発動。続いて死者蘇生。混沌の黒魔術師を蘇生。苦渋を回収し再び発動」
彼の戦い方には、調和や美しさなど欠片も存在しない。豊富な資源を食い潰すように、引いたカードをそのまま叩きつけるように、粗暴で乱雑で…ただただ強い。相手の連携を断ち切り、絆も支え合いも否定し、純然たる力で何もかも押し潰す。それが混沌帝龍の、カオスの戦い方だった。
「終わりだ…混沌の黒魔術師3体でダイレクトアタック!」
漆黒の魔弾がジュノンに迫る。彼女は久方ぶりに”敗北”を覚悟した。
---
「…ノンさん、ジュノンさん…!」
「う……」
肩を揺する小さな手と声が、ジュノンの意識を呼び覚ます。重い瞼を開けると声の主が目に飛び込んで来た。多元魔導書士 バテルである。
「また書庫で眠り込んで…毎晩遅くまで魔導書と睨めっこしてるからだよ。このところずっとでしょ?」
「……」
ジュノンは身を起こして目をこする。まだ目が覚めきってはいないが、それでも分かるほどに彼女の瞳は虚ろだ。机に突っ伏して眠り込んでいたせいで身体のあちこちが痛む。
「無理に止めはしないけどさ…ほどほどにしてよね」
そう言い残し、バテルはジュノンの書庫を後にした。
ジュノンの無理を何故止めないのか?簡単だ。ジュノンが何故書庫に籠るのかをバテルは理解している。そして自分ではジュノンの無理を止められない、自分ではジュノンを励ますことが出来ないと分かっているからだ。
(混沌帝龍に負けてからずっとああだもんな…ジュノンさんが負けるだなんていつぶりかも分からないんだし無理は無いけどさ…)
思わずバテルはため息をつく。かつてEMEmに敗れた時もそうだったが…ジュノンは自信家故に、一度落ち込むと非常に長引くのだ。
(このままだと埒が明かないし、仕方ないなぁ…)
バテルは意を決し、ラメイソンの出口へと向かっていった。
---
ここは世紀末次元が誇る闘技場。至る所に刻み込まれた無数の傷跡が、この場所の歴史と戦いの激しさを物語っている。世紀末次元の戦いの歴史を紡いできたこの場所で、多元魔導法士 ジュノンとDR-ブラスターが向かい合っていた。
「珍しいですね、貴方がデッキの調整に付き合って欲しいと頼み込んでくるだなんて」
「あれ?私はそんなこと言ってませんよ…?ジュノンさんが新しい魔導書を試したがっているとバテル君に聞きましたが…」
話が噛み合わない。ジュノンは横目でバテルを睨みつける。当のバテルは顔を背けて口笛を吹いていた。
この子はまた余計なお節介を…重い身体を引きずってまでわざわざ足を運んだというのに。
とはいえ、ブラスターを呼びつけてしまったのは事実。勘違いでした、で終わらせるのは流石に気が引けた。
「……そうでしたね、ともあれ始めましょうか」
それに…好敵手と向き合って闘技場に立っているとどうしようもなく血が騒ぐ。どれほど強くなっても、逆にカオスに完膚なきまでに敗北し沈み込んでいても。ジュノンは骨の髄まで決闘者だった。
「え、あれ?えーっと、うーん…まあ、いいか!では…」
一瞬困惑しながらも、ブラスターはデュエルディスクを構えた。
「
「スタンバイフェイズ、ラメイソンの効果を発動します」
「じゃあドロールで。神判は止めさせて貰いますよ」
「う…刺さりますね…クレッセンを発動してエンドです」
取って取られてを繰り返す五分五分の戦い。2勝2敗で迎えた5戦目、先行はジュノンだった。ドロール&ロックバードの直撃を受け、やむなくターンを明け渡す。
「では私のターン、黄金櫃から入ります。続いてバーナーをPスケールにセッティング」
瞬く間に征竜がフィールドを埋めていく。DRの物量と展開力は凄まじい。まさしく全てを力で押し潰すデッキだ。
(1ターンもたついただけでこれですか…彼を相手にするなら、やはり私の初動の不安定さは看過出来ませんね)
敵の力量に舌を巻きながらも、ジュノンは冷静に自らの弱点を分析していく。
「ドラゴサックをエクシーズ召喚、そして効果発動!」
「通す訳にはいきません、手札のエフェクト・ヴェーラーの効果を発動します」
それは二人にとってごくありふれたやりとり。デュエルとなれば、いつでも必ず一度は交わす程に慣れ親しんだやりとり。だが、ジュノンの頭を懐かしい既視感がかすめる。
そういえば。昔、昔、遠い昔。同じ会話をしたことがあった。
(私が多元の力を得る前。彼がDRとして覚醒する以前。世紀末次元などまだ知りもしなかったあの頃。こんなやりとりをしましたね…)
二人が表の次元にいた時。ジュノンがまだ神判魔導を、ブラスターが征竜を使っていたあの頃だ。
魔導書の神判。青き眼の乙女。ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン。
ドラゴサック。光と闇の竜。飛翔するG。
使うカードも戦術もお互い様変わりしたが…よく考えれば何も変わっていないような気もした。
~~~
「テンペストの効果を発動!光と闇の竜をサーチします」
「グリモでバテルをサーチし召喚、神判をサーチして発動!」
~~~
ふと目を瞑れば、まるで昨日のことのようにはっきりと瞼に浮かぶ光景。あれからもう3年近く経っているにも関わらず、だ。
思わずジュノンの口元が緩む。どこか虚ろだった彼女の胸に、暖かなものが満ちていく。
征竜と神判魔導は同時に産声を上げた。ジュノンたちが神判を得て環境に食い込んだ時、ブラスターもまた仲間達と共にこの世界に産まれてきた。
二人が鎬を削って争った時も。表の次元で世界の頂点を決すべく激突した時も。この世紀末次元へと招かれた時も。多元魔導という大きすぎる力を得て戸惑い、悩み、独りになりそうだった時も…。
~~~
「………一体何の用ですか?人と会うような気分では無いのですが」
「ええと、その、デュエルの相手をお願い出来たらと…この力を得てからというもの、他の決闘者だとまるで相手にならないんですよ」
「ほら、ジュノンさんもたまには表に出なよ?最近魔導書にかじりついてばっかりじゃん」
「バテル、人を引きこもりみたいに言わないで下さい。それに私はデュエルをするような気分では……あぁもう分かりました、やればいいのでしょう?そんな顔をしないで下さい、全く…」
~~~
思い返すと良く分かる。ずっとずっと、ジュノンの傍にはブラスターの姿があった。
だが、一緒だったからこそ思い知ることもある。
(私は結局…表の次元で世界を獲ることは叶わなかった。そして神判を失った私達は瞬く間に環境を追われた。あらゆる手を尽くして生き残り続ける彼を、ただ見ていることしか出来なかった…)
「真紅眼の鋼炎竜をエクシーズ召喚…あの、どうしましたか?」
ブラスターの呼びかけがジュノンを現実に引き戻す。そこには絶望的な盤面が広がっていた。
ジュノンのフィールドは更地、手札はグリモ1枚。ブラスターのフィールドには真紅眼の鋼炎竜が2体とギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴンが並んでいる。ここまで押し込まれてしまえば多元魔導と言えども挽回は難しい。
だが、ジュノンの瞳は生きていた。まだ死ぬわけには、諦めるわけにはいかなかった。
ずっと共に歩んできた。鎬を削り合ってきた。数えきれないほどにぶつかり合い、幾度となく死闘を繰り広げ、その果てに今ここで彼と向き合っている。
(あの時は…表の次元では貴方に負けました。でも、もう負けません。負けるわけにはいきません)
ジュノンの右手に力が籠る。今の手札で勝てないのなら…あれを引き当てるより他に手は無いのだ。
(この勝負、勝たせて貰います…貴方の
歴史と傷跡が刻み込まれた闘技場。白い石造りのフィールド。それをぐるりと見下ろす観客席。今は誰一人として観客はいない。吹き抜ける風がジュノンの髪をなびかせていく。
眼前にそびえたつのは、亡霊を従えた漆黒の巨竜。そして鋼の鎧と炎を纏った紅き眼の竜たち。ざわめく亡者の魂と共に、または尾先から真紅の炎を噴き出しながら。身一つも同じのジュノンを見下ろしている。
そして、その最も奥にいるのが…竜たちを従える存在。紅く輝く力の象徴。DR-ブラスター。彼の小さな瞳と、ジュノンの翡翠色の瞳が真っ向から交わった。
瞼を閉じてゆっくりと息を吸い込み、ジュノンは目を見開く。
「ウオオオオオオオオオオオオオ!」
普段のジュノンからは想像もつかない咆哮。渾身の力を右手にこめて、自らの誇りを右腕に賭けて、大切な絆をデッキに託して。彼女はカードを抜き放った。
息を止め、振り抜いた右腕を少しずつ戻していく。心臓の鼓動が身体に響く。指が強張る。ゆっくりと、ゆっくりと、右手を返していく。ジュノンの瞳がカードを捉えた。引き当てたカードは…「皆既日蝕の書」。来てくれてありがとう、とカードに微笑みかけ、ジュノンはブラスターに向き直った。普段通りの冷静さを取り戻し、彼女は堂々と言い放つ。
「勝利の方程式は全て揃いました」
「一体何を…この状況ではどうにも…」
「すぐに分かります。行きますよ…!」
戸惑うブラスターを意にも介さず、ジュノンは魔導書の力を解き放った。
勝負は決した。絶望的な盤面を押し返し、ジュノンは勝利を収めた。
「ここに来て誘発1枚のせいで負けますか…」
「紙一重でしたよ。僅かな一押しが勝負を分けることもあります」
頭を抱えるブラスターと、落ち着き払った様子のジュノン。だが、ジュノンは内心で胸を撫で下ろしていた。
(表の次元で敗れ、こちらの次元で一勝。これで対等です。二度も負けるようでは…貴方の好敵手ではいられません)
が、内心の気の緩みがひょっこりと顔を出してしまうことは多々ある。
「まあ、ですが…周りを取り込んで成長しない貴方は正直さほど怖くありません」
今のジュノンのように。
「そう言われても周りが弱すぎて……いや」
ブラスターはしばし口を閉ざして虚空を眺める。彼は何を見ていたのか。いや、何も見てはいなかったのか。
数秒の間を置いて、ブラスターの目の焦点が合う。
「1人で強くなりすぎたのか」
ざわり。空気が歪む音がした。
ブラスターの身体が熱を帯びていく。自身に限界を覚え、更なる強さを求め、その身に何かを取り込んで進化していく時。決まって彼は灼熱の塊と化すのだ。
(…っ、まずいっ!)
ジュノンは目を見開くが時すでに遅し。ブラスターの瞳は焦点を失っていた。肌を焼き、髪を焦がす熱気が周囲を包み込む。
ブラスターは天を仰ぎ、地の果てまで轟く咆哮を上げた。
…………
………
……
…
「これで……どうですか……」
息も絶え絶えながら、ようやくジュノンは声を絞り出す。彼女の視線の先には、脱力しながら宙に浮かぶブラスター…いや、ブラスターらしきものがいた。
融合。儀式。シンクロ。エクシーズ。4つの召喚法を文字通りその身に取り込んだ姿。XDR-ブラスターだった。
だが…既に暴走は収まりつつあった。取り込んだ力が彼の身体から抜けていく。しゅるしゅると身体の色が抜けていき、だんだんと見慣れたブラスターの姿へ戻っていった。
が、本来の姿へと戻った途端、糸が切れたかのように彼は落下していく。どさり、と音を立てて地面に崩れ落ちた。
「なっ!?」
ジュノンは血相を変える。やり過ぎたのか?彼の身体に負担がかかりすぎたのか!?不穏な考えが頭を埋め尽くしたが、今は悩んでいる場合では無かった。彼女はボロボロの身体に鞭を打ってブラスターに駆け寄っていく。
「大丈夫ですかっ!」
すぴぃ~~。
「…………」
彼から返ってきたのは、実に健康的な寝息だった。
地面に寝そべり、心地よさげに寝息を立てるブラスター。ジュノンはしばし絶句し、頭を抱えた。
---
「本当にごめんなさい…ご迷惑をおかけしました…この通りです…」
縮こまって平身低頭するブラスターと、呆れながら彼を見下ろすジュノン。彼女の魔導衣は所々が破れ、その上あちこちに焦げ跡が残っている。2人の周りは数多のクレーターと爪痕で抉られ、歴史ある闘技場が見る影もない。トドメに、そこらじゅうからごぼごぼと灼熱のマグマが湧き出している始末。
「全く貴方は…周りを取り込むとはそういうことではありません。ペンデュラムを取り込んでDR化した時もそうでしたが、毎回毎回、進化するたびに暴走を繰り返していますよね?反省して学ぶということが出来ないのですか?」
「はい、すみません…申し訳ありません…生きててごめんなさい……」
叱られた子犬のような様子でひたすらに謝るブラスター。デュエル中の力強い彼とは似ても似つかぬ姿に毒気を抜かれたのか、ジュノンは息をついて追及を止めた。
DR-ブラスター。ジュノンの唯一の、そして恐らくは永遠の好敵手。今は目の前で縮こまっているが…ジュノンと曲がりなりにも渡り合える決闘者は彼くらいのものだ。
彼はこれからも成長していくのだろう。何かを取り込み、時に暴走し、強くなっていくのだろう。
だが…暴走する彼を捨て置くわけにはいかない。彼を相手取り、抑え込み、事態を収拾する者が必要だ。
私に並ぶ決闘者に…例えば混沌帝龍にはそれが出来るだろうか?
いや。彼にはきっと無理だ。仮に止められたとしても、身勝手な彼のことだ。どれだけ周囲に被害が及ぶか分かったものではない。
なら……選択肢は一つしかないではないか。
「全く…本当に仕方が無い…」
ブラスターに背を向け、ジュノンはため息をつく。だが…彼女の瞳にはどこか明るいものが宿っているようにも見えた。
彼女の表情がほころんでいたことをブラスターは知らない。いや、もしかすると彼女自身すらも気付いていなかったのかもしれない。
ジュノンの笑顔を知っていたのは、物陰から二人を見つめていた混沌帝龍だけだった。
「………」
鈍く冷たく、だが鋭い瞳。感情を伺うことの出来ない硬い表情。彼が何を思っていたのか。それは誰にも分からなかった。