~もうそう世紀末次元~ 遊戯王ADSで世紀末トーナメント同人   作:黒糖信者

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戦友、相棒、同志、そして仲間。定義は人によって違うのでしょうが、大切な存在である。ということだけは共通するかと思います。だからこそ時に辛いし、苦しいし、重圧にもなる。でも、決してそれだけではないはず。断じてそれだけではないはずです。
そんなことを考えながら書いてみました。
少しでも楽しんでいただけたらうれしい限りです。


※注意事項
当SSは、ニコニコ動画にて本体様が投稿していらっしゃった「遊戯王ADSで世紀末トーナメント」シリーズ(完結済み)および、それを題材として書かれた遊史様の「遊戯王ADSで世紀末トーナメント三次創作 カオスにトラウマを植え付けられたモルモラットがリハビリする話」を基とした四次創作作品です。このシリーズ、及び小説をご存知ない方は御覧頂いた上で当作品を読んでいただくことを強くお勧めいたします。

遊戯王ADSで世紀末トーナメント part1
http://www.nicovideo.jp/watch/sm29930147

本体様ツイッターアカウント
https://twitter.com/0UEwyNR16xA7qXv

遊戯王ADSで世紀末トーナメント三次創作 カオスにトラウマを植え付けられたモルモラットがリハビリする話 目次
https://yugioh-history.com/novel/story-of-the-ratpier-top

遊史様ツイッターアカウント
https://twitter.com/yusi_ygo

遊史様の小説は大変素晴らしく、全ての世紀末ファン必見の作品です。是非是非ご一読ください。


仲間

「え……?」

 

アトラは思わずそう聞き返した。嬉しいはずの知らせなのに、彼女の表情は明るく華やいだりはしない。僅かに見開かれた目。軽く開いた口。胸元で、行き場を失ったかのように彷徨う両手。喜ぶ以前に、そもそもアトラは言葉の意味をきちんと飲み込むことすら出来ていなかった。

 

「だからね、アトラ。もう一度デッキに戻ってきて欲しいの。今なら貴方の力を生かせるはずよ。大活躍だって出来ると思うわ」

 

フレシアは優しく言葉を繰り返した。ぽかんとしたアトラとは対照的に、彼女は満面の笑みを浮かべていた。

 

「ね、ねっ!アトラ、また一緒に頑張ろう!」

 

トリオンはアトラの手を取り、きらめく瞳をまっすぐに向けてくる。弾けるほどの笑顔を湛え、今にも踊りだしそうな様子だった。

 

「ていうか、なんでアトラさんはデッキに入ってなかったんですか?こんなに私と相性が良いのに…」

 

「あのねぇランカ、それは貴方が生まれたからこその話であって…」

 

無邪気に質問を投げかけるランカ-ランカの蟲惑魔。ハナカマキリの力を宿す、最年少の蟲惑魔である-と、彼女を窘めるティオ。

 

「とにかく…アトラ、一緒に戦いましょう?」

 

サラが静かに口を開く。舞い上がっているトリオン達と比べると落ち着いた様子だが、サラの瞳には強い力が籠っていた。

 

「えっと…あの、その…」

 

仲間の視線を一身に集め、アトラは言葉を濁す。もう話の内容は飲み込めていただろう。にも関わらず…アトラは俯いた。

 

「考え…させて…」

 

ぽつりと一言だけ絞り出し、アトラは皆に背を向けた。そのままとぼとぼと歩き去って行く。

 

「え、アトラ!?」

 

後を追おうとしたトリオンの腕を、カズーラが掴んで捕まえた。

 

「多分…今追いかけたら…駄目…」

 

カズーラの有無を言わせぬ声色に気圧されたのか、トリオンは立ち止まって言葉を飲み込む。が、アトラを視線で追うことまでは止められない。

 

何故だろうか?トリオンの目には、アトラの背中がやけに小さく映った。

 

 

 

---

 

 

 

蟲惑魔達は、食人植物と落とし穴がひしめく魔境に居を構えている。家の周囲に広がる森へと踏み入り、奥へ奥へと進んでいくと…少し開けた場所に、小さな泉が湧き出していた。鬱蒼とした森の中で、そこだけは涼やかな空気が漂っている。

 

アトラは、泉のほとりで膝を抱えて座り込んでいた。

 

鳥のさえずり。風の音。木々のざわめき。虫の声。森の中は沢山の音に囲まれていて、故にとても静かだった。目を瞑ると、余計なことが頭から抜けていく。自分が森と一つになっていくような、何もかもを受け入れてもらえるような、そんな感覚。アトラにとってとても大切なひと時だった。

 

がさり、がさり。草木を踏み分ける音が響いてくる。だんだんと近づいてくる。聞き覚えのある足音だった。アトラはゆっくりと目を開く。

 

「隣……いい…?」

 

枝と葉っぱ塗れになったカズーラが、アトラの隣に立っていた。

 

「いいわよ。ここにいるって、よく分かったわね」

 

「アトラは…よくここに来るから…そうかなって」

 

ぺたり。と地面に座り込み、カズーラは足を投げ出した。長い髪を梳き、絡みついた枝葉を取り除いていく。

 

見てないようで、見てるのよね。アトラは内心舌を巻いた。世紀末大会の前、自分がデッキから外れそうになった頃も…アトラはよくこの場所に通っていたのだ。

 

カズーラはそれ以上何も言わなかった。黙々と髪を梳き、服を整え…それが終わると後は何もしない。ざわめきが生み出す沈黙が、再び彼女達を包み込む。

 

そのまましばらく時間が過ぎた。明るかった太陽が陰ってきた頃、アトラはようやく口を開いた。

 

「ねえ、何も聞かないの…?」

 

「アトラが…話したくなったら…聞く。そうじゃないなら…聞かない」

 

カズーラの返事に、思わずアトラは笑ってしまった。ある意味では優しいけれど、同時に容赦がない。そして何より芯が強かった。優しいけれど気弱なトリオンでは、きっとこういうやり方は出来ないのだろう。

 

 

「正直…怖いのよ」

 

ぽつり。アトラの口から本音が零れ落ちる。

 

「私が必要だって言ってもらえて…嬉しいの。嬉しいと思うの。またみんなと一緒に戦えると思うと…身体が熱くなるの」

 

カズーラは口を挟まない。じっとアトラを見つめていた。

 

「でも、それよりも、嬉しさよりも…ずっとずっと、怖いの」

 

アトラは自らの身体を抱き締める。彼女の身体は震えていた。

 

「だって、私がデッキに戻ったら…また…みんなに迷惑かけちゃうかもしれない…。世紀末大会の前みたいに…」

 

「は…?」

 

静かにアトラの言葉を待っていたカズーラが、自ら口を開いた。それもアトラの言葉を遮るように。

 

カズーラの言葉にアトラの肩が震えた。恐る恐るカズーラを見やる。いつもの眠たそうな半目ではない。カズーラの眉は険しく吊り上がっていた。その眉にふさわしく、視線も針のように鋭く尖っている。

 

「迷惑……?何、言ってるの…?」

 

「え、えっと、その…」

 

カズーラに気圧され、舌がうまく回らない。思わず視線を彷徨わせてしまう。

 

「私たちは……みんなで一緒に戦いたくて…頑張った。それだけ。迷惑なんてしてない。一緒に頑張った時間を…迷惑だなんて言わないで」

 

「あ…」

 

ようやくカズーラの怒りを理解する。彼女の顔を直視出来ず、アトラは思わず俯いた。

 

「次…迷惑かけた、なんて言ったら…本気で怒るから」

 

「……ごめん」

 

 

再び訪れる沈黙。だが、先ほどまでとは違った。アトラは両手を固く握りしめた。掌に爪の痕が残るほどに。

 

 

「ごめんね、カズーラ…もう迷惑なんて言わない」

 

重くなった口を無理矢理開き、アトラは言葉を続けた。

 

「でもね、私、怖いの」

 

再び同じ言葉を繰り返す。膝を抱え込み、顔を埋め、ぎゅっと身体を縮こめる。

 

「私たち、世紀末大会に向けて頑張ったじゃない?何度も試して、沢山デッキを組み替えて、数えきれないくらい回して、みんなで一緒に考えて…」

 

アトラの脳裏に修練に励んだ日々が浮かぶ。まるで昨日のことのように。

 

「でも、私はみんなと一緒には戦えなかった。力が足りなかった。私は…弱かった」

 

アトラの言葉に涙声が混じる。カズーラの顔が僅かに歪んだ。

 

「みんなは強いよ?蟲惑魔は強いんだって…サラさんが、みんなが証明してくれた。私、とっても嬉しかったの」

 

アトラは無理矢理に顔を上げ、笑顔でそう言い切る。語った言葉にも、浮かべた笑顔にも、嘘偽りは欠片も無い。彼女は蟲惑魔達が、自分の仲間達のことが、大好きで仕方ないのだから。

 

一方、カズーラは唇を噛み締めた。この後に続く言葉が…おおよそ分かってしまったから。

 

「でも…だから…戻るのが怖いの。やっと諦められたのに。やっと受け入れられたのに。みんなは私より強いから、だから仕方ないんだって思えたのに。もう一度戻れるかもしれないなんて思ったら、それでもしもまた駄目だったら、私、私…」

 

アトラの声は掠れて消えていった。白く透き通った頬を、一粒の雫が伝っていく。カズーラは何も言わずに目を伏せた。

 

ぽたり。ぽたり、ぽたり…。零れ落ちた雫がアトラの膝を濡らしていく。嗚咽は押し殺せても、流れ落ちるものまでは止めようがなかった。

 

 

 

「話してくれて……ありがと」

 

夕暮れが水面を照らし、あかね色の輝きを放ち始めた頃。カズーラはぽつりと口を開いた。アトラは膝に顔を埋めていたが、頬の涙痕は乾いていた。

 

「アトラはさ…大会の時…私たちのことを支えてくれたじゃない。頑張って!って…送り出してくれた。観客席からも…応援してくれた」

 

ぴくり、とアトラの肩が跳ねた。ゆっくりと顔を上げ、両目を拭う。恐る恐るカズーラに目をやると、彼女はまっすぐに泉の向こうを見つめていた。夕日に照らし出された横顔は凛々しくて、なんだかいつもの彼女じゃないみたいだ。

 

「デッキの中にいても…アトラの声が聞こえた。私、嬉しかった。みんなも、同じ。絶対、同じ」

 

たどたどしく、途切れ途切れだが、カズーラは懸命に言葉を紡いでいく。

 

「それに、その…。アトラが応援してくれなかったら、私、多分…諦めてた。最後まで戦えたのは…前を向いていられたのは…アトラのお陰」

 

言葉を切り、呼吸を挟む。そしてカズーラはすっくと立ち上がった。思わず目で追ったアトラと、彼女に向き直ったカズーラの視線が真っ向から交わる。沈み始めた夕日の中で、カズーラの瞳は蒼く輝いていた。

 

「だから…今度は…私の番。私たちの番なの」

 

カズーラが右手を差し出す。アトラの右手はびくりと震えたが、それ以上は動かなかった。動かせなかった。

 

「アトラなら……きっと大丈夫。一緒に…戦おう?」

 

夕日が消えていく。月が輝き始める。空気がだんだんと冷えていく。カズーラは何も言わず、じっとアトラを待っていた。

 

 

 

---

 

 

 

月明かりが照らす中、どうにか家に帰り着いて。こんなに遅くまで遊んでいて!とみっちりフレシアにお説教され、アトラがデッキに戻ると皆に伝えてから数日が過ぎた。アトラの言葉を聞いたトリオンは泣いて喜び、サラは安心したように息をつき、ランカは無邪気にアトラにまとわりついてきたが…それはひとまず置いておこう。

 

今、アトラはカードという形に身を変えてデッキに収まっていた。カードとなった彼女を使役するのは当然、サラの蟲惑魔。世紀末蟲惑魔のエースであり、エンジンであり、デッキそのものを支える最重要モンスターだ。

 

サラ()の効果でデッキからティオを召喚、誘発効果の対象はトリオンよ」

 

「どうぞ。増G効果で1枚ドローします」

 

そんなサラと向かい合っているのは十二獣モルモラット。入院中の彼女をサラが見舞い、紆余曲折の末デュエルをすることになった。今はそれだけでいいだろう。

 

戦況は…サラがやや有利といったところか。9期の闇を一身に背負った十二獣を相手に、ハンデとして先行を譲っていながらも互角以上に渡り合う。これが世紀末蟲惑魔の…サラ蟲惑魔の力だった。

 

「私のターン、ドロー……先に動くわね」

 

引き込んだカードを一目見た途端、サラの瞳が僅かに輝いた。

 

「素材を取り除いてサラ()の効果発動、デッキから蟲惑魔を召喚」

 

(……え?)

 

アトラは耳を疑った。カードという形に身を変えているモンスター達は、例えまだデッキの中に眠っていようとも、フィールドの様子は手に取るように分かるのだ。

 

(ここでサラさんの効果を…?モルモラットちゃんの手札にはほぼ確実に幽鬼うさぎがあるのに…なんでそんなことを?)

 

「……? チェーン2、幽鬼うさぎを捨てて効果を発動します」

 

一瞬戸惑いながらも、モルモラットは幽鬼うさぎを投げる。そう、ここで効果を使えばそうなることは分かっていた。サラにも当然分かっていたはずなのだ。

 

(あっ!)

 

アトラは目を見開く。あった。一つだけ。うさぎを被弾するリスクを冒してまでもサラの効果を使う理由が。

 

「禁じられた聖槍を発動、対象はティオ。サラ()を公開、特殊X召喚」

 

サラは淡々とデュエルを進めていく。

 

(もしかして…いや、これは絶対に…)

 

サラの狙いを察した途端、アトラの全身が震え始めた。歯の根が合わない。奥歯がカチカチと鬱陶しい音を立てる。肌が粟立ち、視界が歪む。アトラは自らの身体を強く抱き締めた。震えはちっとも収まらなかった。

 

「ランカ召喚。効果…サーチ先は…」

 

一呼吸置き、サラは宣言する。

 

「――アトラの蟲惑魔、かな」

 

アトラの予想は当たった。(デッキ)から抜き放たれ、彼女はサラの手札へと加わる。傍観者でも応援者でもない。蟲惑魔の剣として、蟲惑魔の矛として、サラはアトラの名を呼んだのだ。

 

(私に…出来るの?本当にやれるの?またあの頃みたいに…やっぱり駄目だったで終わっちゃうんじゃないの…?)

 

心臓が暴れる。冷や汗が止まらない。眩暈に耐えられず、アトラはぎゅっと目を瞑った。

 

「手札から…アトラの蟲惑魔を召喚」

 

サラの言葉と共に、アトラはカードから元の姿へと戻っていく。せめて外見だけは取り繕いたかったけど…無理なものは無理だった。

 

「トリオンを攻撃表示に変更、バトルフェイズ。トリオンでサラブレードに攻撃」

 

サラの声も、トリオンの声も、やけに小さく遠く聞こえた。音も、景色も、分厚い曇りガラスを通しているかのようにぼやけて歪む。

 

迷惑なんかじゃない。カズーラはそう言ってくれた。でも、だけど、だからこそ。そんな言葉をかけてくれるみんなの…足を引っ張ってしまったら…。

 

怖い、怖い、怖い…

 

「アトラ」

 

突然、分厚いガラスが砕けて散った。サラがアトラの手を取ったのだ。指を絡めて優しく握りしめる。柔らかい暖かさがアトラの手を包みこんだ。サラの指が、その感触が、アトラを現実へと連れ戻す。さっきまで遥か彼方から聞こえるようだった声が、今度は確かな質量を持ってアトラに届いた。

 

「大丈夫よ…貴方は一人じゃない。私達がいるわ。私達が信じる貴方を、貴方自身を、信じて」

 

サラはまっすぐアトラの瞳を見つめていた。優しく、でもぎゅっと力強く握った手。伝わる体温。確かな感触。冷え切っていたアトラの指先に、身体に、心に火が灯る。心臓が大きく音を立てた。

 

無邪気なランカ。しっかり者のティオ。アトラの手を握るサラ。

 

ぽん、と背中に暖かな感触を覚える。振り返ると、そこにいたのは三人の仲間。臆病だけど優しいトリオン。みんなのお姉さんなフレシア。今度は私の番、と言ってくれたカズーラ。召喚されていないにも関わらず、無理矢理デッキの中から、墓地の中から出てきてくれたのだ。

 

フィールドにはみんながいた。アトラの背中を支えていた。アトラの声を待っていた。アトラの傍に、みんながいた。

 

「……っ!」

 

震えが止まる。アトラの身体を血潮が巡る。サラが握った手を離した。もう大丈夫、大丈夫。拳を握りしめ、口を結び、零れそうになった雫を無理矢理堪えて。アトラは前へ向き直った。

 

背中の感触が消えていく。召喚されていないモンスターが長々とフィールドに居座ることは許されないのだ。だが…この一瞬があれば、それで十分だった。

 

小柄な、だけどとても大きな背中に。華奢で、でも力に満ちた肩に。背負いきれないほど重い、けれど何よりも心強いものを背負って。アトラは堂々と右手を掲げた。

 

「私がフィールドにいる限り!蟲惑魔(サラさん)は手札から落とし穴を発動することが出来るっ!」

 

アトラは叫ぶ。上ずりそうな声を抑えて、彷徨いそうな視線を定めて。高らかに己の力を叫ぶ。

 

「更に…っ!蟲惑魔(サラさん)の操る通常罠カードは、その発動と効果を無効化されない!」

 

サラの瞳が煌めく。ティオは両手をぐっと握りしめる。

 

「そして~、私の効果!さっきティオさんが伏せた狡猾を手札に戻すっ!」

 

うずうずしていたランカが、待ってましたとばかりに声を張り上げる。

 

「アトラさん、お~ねがいっ!」

 

歯を見せて笑い、ランカは右手を上げた。アトラも右手を上げて応える。ぱちんっ!と手を打ち、アトラは再び叫ぶ。

 

「手札から、狡猾な落とし穴を発動!」

 

「対象は……ダイガスタ・エメラルと十二獣ドランシア」

 

サラが対象を宣言する。落ち着き払ったいつもの声では無かった。口調こそ変わらぬものの、彼女の声は明らかに高かった。

 

二体のモンスターが落とし穴に飲まれていく。モルモラットのフィールドは更地となった。

 

「ティオで…ダイレクトアタック」

 

やったわね!と声をかけ、ティオが先陣を切る。モルモラットへの直接攻撃、残りライフは5800。

 

「続いてランカ」

 

「お先に失礼!行ってくるね~」

 

ぺろりと唇を舐め、ランカが続く。モルモラットのライフが削れた。残り4300。

 

サラ()

 

短く一言。サラの一撃がモルモラットを襲う。残りライフは…1800。

 

「そして、アトラの蟲惑魔で…ダイレクトアタック」

 

小さく息をつき、モルモラットに狙いを定める。アトラの掲げた右手から蜘蛛の糸が放たれた。モルモラットを絡め取り、獲物の動きを封じ込める。両の拳を固く握った。

 

今こそ、今こそ、今度こそは。

 

「はぁああああああっ!」

 

叫びと共に、アトラは走った。渾身の力を。大切な支えを。背負ったものを。なにもかも、なにもかも全てを右拳に籠めて。

 

一閃。アトラの拳がモルモラットを捉えた。最後のライフを削り取る。丁度、ぴったり、1800。

 

デュエル終了を告げるブザーが鳴り響いた。勝者は…蟲惑魔。

 

 

 

「………」

 

デュエルフィールドがかき消えていく中、アトラは無言で立ち尽くしていた。

 

(勝った。勝てた。私が…役に…立てた…?)

 

踏みしめた床が、妙に柔らかいように感じた。ふわふわと水中を漂うような、あるいは何かの映画でも見ているような。そんな奇妙な感覚に包み込まれる。

 

「アトラーっ!」

 

背後から響いた声。一瞬遅れて、どんっ!と衝撃が走る。体温と吐息が身体に伝わる。びくりと振り返ろうとするが、抱き着いた腕が、くっついた身体がアトラの動きを阻んだ。

 

「アトラ…あとら…あとらぁ…」

 

トリオンだった。ぼろぼろと涙を零しながら、鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、トリオンはアトラに抱き着いていた。

 

「………」

 

何も言えなかった。何か言いたいのに、言葉をかけたいのに、アトラの口は動かなかった。

 

「ね、言ったでしょう?きっと大活躍だって出来るって!なんといっても、アトラは攻撃力が1800もあってかっこいいんだから!」

 

「フレシアさん、それよりアトラの効果を…まーいいや。凄かったよ、アトラ」

 

にこにこと優しく微笑むフレシア。突っ込みを入れつつも、笑顔でアトラを称えるティオ。

 

「ほら~、やっぱりアトラさんと私の相性って最高じゃん!これからも一緒に頑張ろ!」

 

屈託のない笑みを浮かべ、ランカがアトラの肩をたたく。

 

「……」

 

誇らしげな笑顔を浮かべて、でも何も言わず、カズーラが歩み寄ってくる。

 

「……やったね、アトラ」

 

たった一言。でも、それだけで十分。アトラの瞳がじわりと熱くなった。

 

そして最後に、サラが口を開く。

 

「アトラ…貴方のお陰よ。ありがとう…」

 

ぽろり。アトラの瞳から雫が零れ落ちた。胸がじーんと熱くなる。一度溢れたら、もう止まらなかった。熱い雫がぽろり、ぽたりと流れ落ちる。頬を、服を濡らしていく。心臓が高鳴る。心が、身体が、アトラの全てが暖かな何かで満たされていく。

 

「みんな、みんな…ありがとう…!」

 

ぐしゃぐしゃの顔で、ぼろぼろの涙声で、でも満面の笑顔で。アトラは言葉を絞り出した。

 

みんなの力になれたのだ。これからは、ずっとずっと、みんなと一緒だ。肩を並べて戦えるのだ。とめどなく溢れる涙を、零れ落ちそうなほどの笑顔を、抑えることなどできはしなかった。

 

 

 

 

直後にモルモラットが決闘疲労症で倒れ、病室が大騒ぎになったのは…また別のお話。

 

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