東方漆風録   作:零霧

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どうも、零霧です。
次回の更新は一週間後だと言ったな、あれは嘘だ。
今回のは読み飛ばしちゃったところで何の問題もないかと思われます。


第26話 名も無き幽霊

 目が覚めると、俺はどこかの部屋の中に居た。

「…………」

 寝転がったまま首だけを動かし、辺りを見回してみる。ちなみに俺は布団の上に寝かされている。

「ここ、どこ?」

 見た感じ、特に何の変哲も無い簡素な部屋だ。机と座布団が一個ずつ。あとは棚があるくらいか?

「いっ……!?」

 起き上がろうとしたら、体のあちこちから激痛が走った。

 痛ぁぁぁぁぁ!?え!?痛い痛い!?なんでなんでなんで!?

 

 ようやく落ち着いてみると、自分の体のあちこちに湿布が貼られてあるのが分かった。

「いつこんな怪我したっけ……?」

 自分の記憶を探り出していると、

「あ、お目覚めになったのですか」

 女の人の声が聞こえた。

 襖の方を見ても、誰も居ない。襖と逆の方、つまり壁側を見てみる。ちなみに声が聞こえたのはこっち側。いやまあ、こっち側に誰も居るわけ――

「気分はどうですか?」

 ――壁から半透明な女の人の上半身が出てきていた。

「ぎゃぁぁぁああぁぁあぁあ!!ゆっ、ゆれっ、幽霊ぃいいぃぃぃ!?まだ死にたくないぃぃぃぃぃぃいいいぃ!!そして痛いぃぃぃいいぃいぃ!?」

 幽霊に会うなんて!ここはどこだ!?まさか死後の世界か!?そして大きく体が動いたのでとてつもなく痛い!!

「わわっ!ちょ、ちょっと落ち着いてください!」

「怖い痛いいやだ痛い来るな近付くな痛い★●◆■▲♪うわあぁぁ!!」

「あの、ちょっと本当落ち着いてください!!」

「悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散……!!」

「呪詛のように呟くのやめてくれませんかね!?そして私は悪霊なんかじゃありません!!ですから落ち着いて――っていうかさっきから私の話聞いてます!?」

 

「うぅ……痛い……今なら遺体になれるよ……」

「うまいこと言ったつもりですか……?ちなみに今のあなた死ぬ直前の人間に見えないこともないですよ?なんかピクピクしてますし」

 確かに、うつ伏せで倒れていて体がピクピクと小刻みに震えているので、そう見えるかもしれない。

「あなたが悪いんじゃん」

「確かに登場の仕方が悪かったのは認めます。ですが、あんなに驚かなくてもいいじゃないですか……」

「いや怖いし」

 誰だって壁から半透明の女の人が来たら驚く。驚くよね?

「驚くよね!?」

「誰に言ってるんですか……。さっきの反応、結構傷付きましたよ私」

「あぁ……ごめん」

 確かにちょっと驚きすぎたかもしれない。でも、ああいうのはマジでやめてほしい。怖いから。

「私、ずっとあなたの世話してあげてたんですから、もうちょっと感謝されてもいいと思いますよ私」

「え?そうだったの?」

 ということは、この布団とか湿布とかは、この(幽霊)がやってくれたの?

「そうとは知らず……申し訳ないことをした。そしてありがとう」

「どういたしまして」

「あのさ、少し聞きたいことがあるんだけど」

「なんですか?」

「ここはどこ?ワタシハダアレ?」

「あなたが誰かについては省略します。まあ場所のほうは分からないと思いますのでお教えします」

 ちなみに今その幽霊は正座をしている。

「正座なんてしなくていいよ?」

 疲れるだろうし。

「あ、いえ。癖ですので。どうぞお気になさらず」

「あ、はい。分かりました。どうぞ続けてください」

 人の癖をとやかく言うつもりはないので先を促す。

「ここは白玉楼です」

「へー。……え?」

 ちょっと待った。白玉楼って、敵陣のど真ん中じゃん。ここがど真ん中なのかは知らないけど。

「あぁ。そうか。あなたは気絶していたので知らないのですね。すでに闘いは終わりましたよ」

「え、そうなんだ」

「はい。決してあなたを呪い殺そうとか思ってる訳ではないので……」

 一瞬だけ目を細めて女の人が言った。まだ引き()ってるのか……。

「う……悪かったよ。ごめんよ」

「別に気にしてなんかいませんよ?」

 絶対気にしてるよこの人。気にしてなかったらそんなこと言わないでしょ普通。

「一応聞いておこうか。どっちが勝ったの?」

「博霊の巫女たちが勝ったみたいですよ」

 あ、よかった。勝ってくれたのね。話しているうちに思い出したのだが、俺は確か西行妖の弾幕に当たって気絶したような気がする。

「それで、明日宴会を開くみたいですよ」

「そういえば……」

 宴会があったな。すっかり忘れてたよ。

「ところで、みんな――博霊の巫女たちは?」

 俺置いて帰ったりしてないよね?

「博霊の巫女たちでしたら、別の部屋で寝ていると思いますよ」

 俺置いて帰りはしなかったらしい。まあ帰られたとしても、明日宴会だからその時一緒に帰ればいい話なんだけど。

「そっか。ありがとう。色々と」

「いえいえ。これが仕事みたいなものですので。それはそうと、何か欲しいものはありますか?」

 欲しいものか……。あなたが欲しいです。何言ってんの俺!?気を失った時に頭でもぶつけたのか!?

「いや、今のところ無いです」

「そうですか。それではごゆっくりお休みください」

「ああ、お休み」

 今が何時か知らないけど外を見る限り結構暗い。もし今までずっとこの人が世話してくれていたとしたらめちゃくちゃ疲れてるだろう。そういえばさっきすごい大声で叫んだな。大丈夫だったかな?

「私はまだ寝ませんよ」

 まだ寝れないのか……大変だなぁ……。

「お疲れ様です」

「私は幽霊ですから。夜の方が好きなんです。朝や昼はどうも苦手で……」

 そういえばこの人幽霊だった。なんでこの人半透明なのかな、とか思ってたけどそういうことか。

 そして壁から出ていこうとする幽霊。なんで普通に襖から出ないんだろう。

「あ。今更だけどさ。名前は?」

 いや変な意味で聞いたのではなく。名前覚えてたらあとで「○○さんに渡して」とか言ってお返し出来るな、とか思って。

「名前……ですか?」

「いや、変な意味で聞いたんじゃなくて。まあ名前知っとくと後々便利だな、と思って」

 きょとん、としたような顔をしていたので理由を説明する。決して俗に言うナンパとかいうのではないよ?

「いえ、違うんです。私、名前が無いんです」

 頭を掻きながら幽霊が言った。

「名前が無い?」

「はい。生前はあったのかもしれませんし、幽霊になったすぐ後くらいは覚えていたのかもしれません。でも、長年ただの幽霊として生きてきたので、もう名前も覚えてないんです」

 幽霊は笑いながらそう言った。

「そういう訳で、私は名乗れないのですが……あなたの名前を聞いてもいいですか?」

「ん?あぁ。俺は月宮影斗。よろしく」

 能力は別に言う必要は無いだろう。闘う訳でもないし。

「月宮影斗さん、ですか。こちらこそよろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げる幽霊。結構礼儀正しいなぁ。そんなかしこまられても困るんだけど……。

「それでは、また」

「ん、じゃあな」

 軽く手を振りながら言う。幽霊もニコッと笑い、軽く手を振ってくれた。そして、壁の向こうへと消えていった。

 

 

 静かになった部屋の中で、影斗は一人呟いた。

「……名前が無い、か」

 そして、再びしばらくの沈黙が流れた。

「寝ようか」

 影斗は瞼を閉じ、やがてやってきた睡魔に、おとなしく従った。

 




次回の更新は一週間後だと言ったな、あれは嘘だ。(大事なことなので二回言いました)
すみません。これ後で改めて計算してみると「あれ?下手すると次って二週間後じゃね?」と気付きまして……。さすがにまずいと思い投稿しました。
次回の更新は一週間後になります。これは本当です。
それでは、また次回。
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