東方漆風録   作:零霧

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第31話 悲しき人間と魔法使いは気が合う、そして……

 

 

 

 周りには木が生い茂っていて、鳥のさえずりが心地いい。基本的に日陰が多いので、こんな夏の日でも風がそよそよと吹いている。

 ここは、魔法の森。

 俺は、その魔法の森に建っている、一つの家の前にいる。

 玄関であるドアをコンコン、と軽く叩く。

「お邪魔します」

 そして、ドアを開けて中に入った。

「……いきなり入ってこないでよ」

「ノックしたじゃん」

「私まだ返事とかしてないじゃない」

「だってアリス、基本家にいるじゃん」

「まあそうかもしれないけど……はぁ」

 肩を落としため息をつく金髪の少女は、アリス・マーガトロイドことアリスだ。つまり俺は、アリスの家に来たのだ。

「で、今日は何しに来たのよ?」

「相変わらず人形だらけだな、ここ」

 見渡す限り人形、人形、人形だらけだ。これ全部アリスの手作り、というのもまた驚きである。

「……話聞きなさいよ」

「ごめんなさい」

 槍らしきものを装備した人形――上海人形とかいったか――を操り始めたので謝る。さすがにあれで突かれるつもりはない。

「まあ、あれです。ここに来た理由は……ありませ痛いちょ、お願いなんかめり込んでるから!!冗談だからさ!!」

 結局あれで突かれた。腹にあの槍がめり込んだ。体験したことない感覚だった。いや……

「たしか神奈子に……」

「どうしたのよ?すごい虚ろな目をしてるけど……」

「いや、変なこと思い出しちゃって……」

 忘れよう。あれだけは忘れよう。……忘れたい記憶だけはちゃっかり記憶してるんだよなぁ、俺……。

「で、本当何しに来たのよ?次は鳩尾だからね」

 勘弁してくれ。

「いやね、今日も暑いなー、と思って」

「そうね。それがどうしたの?」

「こんな日は、何がしたい?」

「家でゆっくりしたいわね」

「俺か。ほら、こんな日は外に出て――」

「日なたぼっこでもしたいわね」

「俺か。こう、スイカを割ったりさ……」

「だから家でしょ?」

「俺かぁぁ!!違うよね!?こう……ほら、チャプチャプと、冷たい水に入ってさ」

「海……かしら?」

「正解です。という訳で、早速行きましょう」

 そう言って、アリス宅――通称マーガトロイド邸――から出ようとすると、

「ちょ、今から海に行くの?」

「違うよ。守矢神社に行くの」

「……どうして?」

「話し合うことがあるから。ほれ、行きますよ――あ」

 そういえば、もう一個行くところがあった。

「ごめんアリス。一人で行ってくれない?ちょっと寄るところがあるんだ」

「まあ、場所は分かるし問題ないけど……」

 ならば安心だ。そういうことなら……

「湖にいるチルノと大ちゃんも一緒に連れて行ってくれ」

 たしか面識はあったはずだ。あることを望む。

「えぇ……あの子苦手なのよね……まあ、分かったわ」

 渋々といった様子だが、なんとか納得してくれた。助かった。

「ありがとう。それじゃ、また後で」

「ええ」

 軽く手を振って別れ、俺たちはお互い反対方向へと飛んでいった。

 

 

――――――――――

 

 

 周りには木が生い茂っていて、鳥のさえずりが心地いい。基本的に日陰が多いので、こんな夏の日でも風がそよそよと吹いている。

 まあつまり、ここは魔法の森である。

 だが、ここは先ほどのマーガトロイド邸があった場所よりも奥であり、日陰が多いというより、日陰しかない、と言ったほうが正しいかもしれない。それに、あまり風も心地よいものではなく、ジメジメしている。

 そんなところに、これまたぽつんと建っている店がある。

 その店の名は『香霖堂(こうりんどう)』。

 影斗は、その店の扉を開けた。

「いらっしゃいませ。……あぁ、影斗君か。今日は、何を探しにきたんだい?」

 暇そうに新聞を読んでいた男性が、影斗に気付き声をかけた。白髪で、その髪の毛からちょこんと一本のくせ毛があり、眼鏡を付けている。黒色と青色の、和服とも洋服とも見える服を着ている。

 この男こそ、この香霖堂の店主、森近(もりちか)霖之助(りんのすけ)である。

「よ、霖之助。どうでもいいけどさ、もうちょっと安全なところに建ててくれないかな?さっきも妖怪に襲われちゃったよ……」

 どうやらここに来る前に、影斗は妖怪に襲われたようで、そのことに関して愚痴っている。

「ははは。そうか、でも僕にはここぐらいがちょうどいいんだよ」

「そうか。ならいいよ」

 ここまでの会話で分かったと思うが、この二人は顔見知りである。友人と呼んでもいいかもしれない。

 影斗はたまにここに来ては、掘り出し物を探している。そして半分位の割合で妖怪に襲われる。

「なあ霖之助。水着はあるか?」

「水着?……ちょっと待ってくれ」

 そう言って霖之助はガサゴソと商品たちを漁り始めた。漁るという表現はおかしいと思うかもしれないが、これで正しいのだ。商品ならその辺に散らばっているのだから。

 

「影斗君。見つかったよ」

 しばらくして、霖之助が影斗に声をかけた。

 霖之助は、結構な量の水着を両手で抱えている。

「――ふぅ。結構見つかったよ」

 商品棚に置かれた水着は、男物、女物とお互い多くあった。

「ありがとう。これ、全部貰っていっていいか?」

「全部かい!?」

「やっぱダメか。じゃあ半分くらい……」

「てっきり、君が着る分だけかと……」

 そう思ったのなら、なぜ女物まで持ってきたのだろうか。

「別に全部持っていってくれて構わないさ」

「本当か!?」

「でも、こんな量の水着、何に使うんだい?」

 これは当然の疑問だろう。一人の男性がこの量の水着――それも女物まで――を買うなどそうそう見られない光景である。

「そういや、まだ言ってなかったな。実は――」

 

「――なるほど。そういうことか。それは楽しみだね」

「霖之助も来るか?」

「そうだね。僕も行かせてもらうとしよう」

「よし、それじゃ、また。……あ、お代」

「今はいいよ。その湖水浴場で出来た売上げを渡してもらえれば」

「了解。それじゃ」

「ありがとうございました。またのご来店お待ちしてるよ」

 お互い別れを告げ、影斗は水着が入った袋を持ち、守矢神社まで帰るのであった。

「これ……意外と重いな……」

 




どうも、前書きにネタがなかったので後書きに避難してきた零霧です。
アリス編だけではあまりに短かったので霖之助の分も入れることにしました。
ちなみに今回、三人称なるものをやってみました。そんなに変わってないかもしれませんが……。
それでは、また次回。
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