東方漆風録   作:零霧

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どうも、零霧です。
作者にしては珍しく五千文字を超えました。だからといってどうということはありません。


第38話 さいきょー

「この辺も異常なし、と」

 飛び込みとか飛び蹴りとか危険な行為はしてないし、怪我人が出たというようなことも起きていない。

「次は焼き芋……焼き芋屋か……」

 焼き芋と言えば他でもないあの人なのだが、俺がそこへ行く度にその人は俺を睨んでくるのだ。それはそれは敵意ありありの目で。それが怖いからあまり行きたくない。でも行かないと職務放棄になっちゃうし。

 ヒュッと行ってヒュッと帰るか……なんだヒュッて。

「とりあえず、行こうか……」

 止まってても仕方が無いし。

「影斗さん!!」

 いざ歩き出そうとすると、大ちゃんが走ってきた。

「どうした大ちゃん。そんなに慌てて」

「はぁ……はぁ……」

 酷く息切れしている。こんなに疲れるまで走ってきたなんて、よほどのことがあったに違いない。

「はぁ……チ、チルノちゃんが!!」

「……チルノ?」

 

 

 俺は、行き先を変え、かき氷屋へ向かっている。

 大ちゃんに詳しいことは聞けなかったが、今チルノは大変なことになっているらしい。ちなみにその大ちゃんは、「他の人たちも呼んできます!」と言って走っていった。

 一体、何があったっていうんだよ……。

 

 

 かき氷屋に着くと、チルノが一人の男に羽交い締めされているのが見えた。

「ちょっと、何やってるんですか!!」

 急いで止めに入る。

「あ?てめぇ何だ?文句あんのか?」

 横から茶髪の男がそう言ってきた。こいつも仲間だろうか。まあ仲間だろうな。

「あの、その人離してくれませんか?」

 だが茶髪はこの際無視する。

「てめぇにゃ関係ねぇだろ!邪魔すんな!」

 黒髪が大声を出した。うるさい。近くで聞いたチルノは堪ったもんじゃないだろうな。

「それが関係あるんですよ。僕こういうのをなんとかする仕事なんで」

 話し合いに持ち込められればいいんだけど……。

「てめぇ、ここで働いてんのか」

 茶髪さん……そう言ってるよね。

「あのな、こいつが俺たちにかき氷をくれねぇんだよ。お前ら、客に対する礼儀ってのを知らねぇのか?どうなってんだよここ。客を選ぶのかよ?」

「お前らにやるかき氷なんてないんだ!」

「ほら、聞いたか?こいつ、他の奴らにやるかき氷は有って、俺たちにやるかき氷は無いんだとよ」

 何もなくチルノがそんなことをするとは思えないのだが……。

「チルノ、どうしてこの人たちにかき氷をあげないんだ?」

「こいつら、卑怯者なんだ!よこはいりしてきたんだ!」

 横入り?……なるほど、そういうことか。

「あの、割り込みは禁止されておりますので、後ろに並んでください」

「なんで並ばなきゃいけねぇんだよ。どうせ後から来るんだから、今貰ったっていいだろうが」

「他の人たちは並んでるんですよ。他の人たちは長い時間並んで待ってるのに、あなたたちだけ並ばないっていうのは不公平じゃないですか?」

 なんでこんなこと言わなきゃいけないんだ。大人しく並びなよ。

「あー……後な、これ見てみろ」

 そう言って、茶髪が右腕を俺の前に出した。今度は何だ。

「分かるか、これ?こいつにやられたんだよ」

 茶髪の右腕の所々に、氷の粒が太陽に照らされてキラキラと光っていた。

「……これが、何か?」

「はぁ?てめぇ俺の話聞いてたか?これこいつにやられたっつってんだよ。どう責任取ってくれんだよ。こいつ、ザコ妖精のクセに人間様に危害を加えやがった」

 ……ザコ妖精?

「……ザコとは、どういう意味ですか」

「は?妖精はザコだろうが。弱ぇクセして突っかかってきやがる。身の程を知れってんだ。実際、こいつの他にもう一匹妖精がいたんだけどよ、そいつ、一目散に逃げてったぜ?」

 笑いを含んだ声で茶髪がそう言った。

「お前!!大ちゃんをバカにするな!!」

 チルノが大声を出し、暴れだした。

 そのチルノを抑えていた黒髪が、

「このっ……静かにしてろ!クソガキ!!」

 そう言って、チルノの頭を殴った。

「いたっ……くない!」

 気付けば俺は黒髪の前まで加速し、右腕を振り下ろしていた。

「ぐふっ!?」

 黒髪が二、三歩よろめく。

 右拳にわずかな痛みが走った。そこまで来て、俺はようやく黒髪を殴ったのだと気付いた。

「いってぇ……てめぇ……!!」

「何しやがる!!」

「取り消せ」

「は?」

「チルノたちをバカにしたこと、今すぐ取り消せ!!」

 黒髪と茶髪は少し怪訝な顔をし、

「何言ってんのか分かんねぇけど……てめぇ、覚悟は出来てんだろうなぁ?」

「ぶっ殺してやんよ、クソが」

 指をポキポキと鳴らしながら近付いてきた。

「クズがぁ!!」

 黒髪が右腕を上げて走ってきた。右腕を振り下ろす直前にそれを後ろに下がって避ける。ちなみにチルノはさっき俺が殴った時に離している。

「おらぁっ!!」

 黒髪が右腕を振り下ろし、少し硬直しているところへ加速し、頭を殴る。

「ぐっ……」

 黒髪が怯んだ。まだ殴れそうだったので追撃を加える。殴って蹴って蹴って殴って――

「そらよ!」

「うっ!?」

 脇腹に衝撃を受け、体が一瞬宙に浮いた。茶髪に脇腹を蹴られたのか。いてぇ。

「くたばれやぁ!!」

 起き上がろうとしていたところで、腹に蹴りをくらい、また吹き飛ばされた。

 倒れているところに、頭を踏もうと茶髪の足が襲いかかってきた。それを転がって避け、体を起こす。

「弱ぇなぁ。喧嘩売ってきた割にはその程度かよ」

「……ざけんな!」

 加速し茶髪の元まで近付き、茶髪の顔面を殴る。なぜか何も抵抗がなかった。茶髪は仰向けに倒れ、苦しげに顔を抑えている。

「クソが!!」

 加速して近付き、その手ごと顔面を踏む。もう一発加えようとした時、髪を思い切り引っ張られた。

「調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

 そのまま後頭部を殴られた。足に力が入らず、地面に手を付く。

 そして頭を踏まれ、そのまま力任せに地面に押し付けられる。

「う……」

 茶髪が足元をおぼつかせながら起き上がった。

「てめぇ……マジ殺す」

 腹に蹴りをくらう。二発、三発と同じところを蹴られる。

「ぐ……が……」

「やめろー!えいとに手を出すなー!!」

 チルノの声が聞こえ、氷の風みたいなのが見えた。

「ちっ……このガキ!!」

 チルノの攻撃に怯んだのか、黒髪の足が俺から離れた。

 出来るだけ素早く起き上がり、

「うおぉ!!」

 ちょうど目の前にあった茶髪の頬を殴る。だが茶髪はよろめきもせず、

「おいどうしたぁ!!全然痛くねぇぞ!?」

 俺を殴ってきた。ぎりぎり頭を左に動かして躱す。

 力が入らなくなってきたのか?しっかりしろ、俺!

「おらぁ!!」

 そのまま一回転して手の甲で茶髪の目の横辺りを殴る。

「ぐっ……」

 茶髪は二、三歩よろめいた。なんで今のは怯んだんだ?

「こっちにもいるんだよ!」

 背中に痛みが走り、俺もよろめく。黒髪に背中を蹴られたのか。少しは考えさせろよドクズ。

 そのまま追い打ちをかけようと走り寄ってきたので、俺は振り向きざまに右腕を前に突き出した。何かに当たった感触。どうやら、運良く黒髪の腹に当たったらしい。

「うごっ……」

 なんかこの場から腹を押さえて動かないので一発顔面を殴る。だがよろめきもせず、「うっ」と声をあげ、殴られた方向に顔を向けただけだ。

 で、多分そろそろ来るだろ。今視界にいないし――

「ザコが!!」

 ――やっぱりか。茶髪が後ろから飛び蹴りをしてきた。それを右に動いて避ける。

「ぐはぁ!?」

「あ、わりぃ!!」

 茶髪の飛び蹴りはその場でずっと苦しんでいた黒髪の胸に当たった。黒髪は地面に倒れ込んだ。

 とりあえず着地したところを加速し、背中を蹴る。これにはよろめいた。もしかして……。

 茶髪がよろめき、少しだけ間が空いた。茶髪がこっちを振り返ったと同時に加速し、顔面を蹴る。すると茶髪は一瞬だけ体を浮かせ、地面に倒れた。

「てめぇ……ぜってぇ許さねぇ……!!」

 茶髪が憎々しげに俺を睨みながら言った。許してもらわなくても結構だよ。

「もう死んどけやぁ!!」

 茶髪と黒髪が走ってくる。俺もあいつらのところへ加速する。

 見たところ、茶髪の方がダメージくらってそうなので、まずは茶髪をなんとか黙らせるか。

 黒髪の少し右側に移動し、黒髪の左足首を蹴る。

「うあぁ!」

 黒髪はずっこけた。今のうちに、茶髪を潰す!

「てめぇ!」

 右腕で殴ってきた。それを左に動いて躱す。

 そしてお返しとして茶髪の腹を殴る。右腕を加速させて。

「ごほぉ……」

 茶髪の体がくの字に曲がる。もう一発左腕を加速させて腹を殴る。

 あいにく俺に力はあまりない。だから加速せずに殴っても大した威力は出ない。でも加速しながら殴った時は怯んだ。だが間が開いていないと加速は出来ない。それなら一部分だけを加速させればいい。

「おらぁぁぁ!!」

 黒髪が起き上がるのが視界の隅に見えたので、最後に茶髪の顔面を思い切り殴った。茶髪は二、三メートルくらい吹っ飛んだ。結構ダメージは与えたと思うんだけど……。どうだろう。

 という俺の心配は杞憂に終わり、茶髪が起き上がってくることはなかった。

「なっ……おい!起きろ!」

 黒髪が茶髪に向かって叫ぶ。でもそんなもの待ってる暇はない。一気に加速して近付く。

「ひぃ!来るんじゃねぇ!!」

 黒髪がみっともない声をあげた。

「このザコが!」

 茶髪と同じく思い切り顔面を殴り飛ばす。黒髪も茶髪と同じくらい吹っ飛んだ。そして起き上がることはなかった。

「……あ、謝らせてないな」

 まあいいか。もうこんなこと言わないでしょ。

「影斗さん!」

 声がした方を見ると、早苗やら霊夢やらがやってくるのが見えた。大ちゃんが呼んできたのだろう。

「……おー、みんなお揃いで」

「その、騒ぎを起こした人はどこにいるんですか!?」

 早苗が聞いてきた。

「それなら……あそこと……あそこにいるよ」

 茶髪と黒髪が転がっているところをそれぞれ指差す。

「あれ……もしかして、影斗さんが?」

「うん、まあ……」

 なんでそんな「信じられない」みたいな目で見てくるの?

「へぇ。影斗でもあれくらいは倒せるのね」

 霊夢からそんなことを言われた。あー……だから驚いてるのね。

「まあ、なんとかね」

「なんだ。私はてっきり影斗がボコボコにやられてるのかと思ったぜ」

「ハハハ……」

 結構ボコボコやられたけどね……。

「とりあえず、怪我とかあるかもしれませんから、私たちの屋台まで戻りましょう」

 怪我か……特に痛むところはないな……え、無いの?

「特に無いんですが……」

「もしかしたら何かあるかもしれないじゃないですか。一応です、一応」

 じゃあ、まあ一応看てもらっとこうかな。

「影斗にーちゃん、ありがとね!」

 たまに会う人里の子にそう言われた。

「どういたしまして?」

 こう返しておけばいいかな?

 

 

――――――――――

 

 

「……ごめん」

「どうしたんですか?いきなり」

 早苗に聞かれた。

「いや……騒ぎを止めるはずの人が喧嘩なんて起こしちゃってさ……」

 あの時は勢いでやっちゃったけど、今思えば結構ヤバイことしたよな……。

「何言ってるんですか、あれはあの人たちが悪いんですから。むしろ、影斗さんがしたことは正しかったと思いますよ」

「そうか……」

「そうですよ。だからそんな落ち込まないでください」

「あの時、影斗さんが近くにいなかったら、チルノちゃんはもっと危ない目に遭っていたかもしれません。あの時、影斗さんが近くにいてくれて、本当に助かりました。ありがとうございました」

 大ちゃんが近くにやってきて、ぺこりと頭を下げた。

「いやいや、そんな大したことをした訳じゃないし。それに、礼ならチルノに言いたいくらいだよ。あいつがいなかったら、俺は今頃ボロボロだったかもしれないし」

 あそこでチルノが気を逸らしてくれていなかったら、俺は今頃ここにいなかっただろうな。

「そういえば、そのチルノは?」

「チルノちゃんならそこに……」

 そう言って、大ちゃんはチルノの方を指差した。

「チルノ、ありがとな。助かったよ」

「…………」

 チルノにそっぽ向かれた。あれ……?

「えーと、チルノ?」

「……な……も……た」

「え?」

「あたい、何もできなかった!あたいはあいつらに捕まっちゃって、やっぱり影斗に助けてもらった!あたいは、弱――!」

「あーもうなによ。今日は似合わない奴がクヨクヨするのね」

 霊夢がこっちにやってきて、チルノの前に座った。

「チルノ。あんたは『さいきょー』なんでしょ?もっとしっかりしなさいよ、らしくない」

 そう言うと立ち上がり、先ほど座っていた椅子に戻っていった。

「へぇ、霊夢も言う時にはいいこと言うんだな。少し見直したぜ」

「そういうのじゃないわよ。ただ、あいつがウジウジしててムカついたからよ」

「へへっ、そうか。じゃあそういうことにしておくぜ」

 霊夢がいいこと言ったな……すげぇ……。

「よし!霊夢!」

 チルノが勢いよく立ち上がり、霊夢の元へと歩いていった。

「何か用?」

「あたいとしょうぶしろ!イヤとは言わせないぞ!」

「……へぇ、あんたが私に勝てるとでも?」

「もっちろん!あたいはさいきょーなんだからね!」

「いいわ。その勝負、受けて立ってやるわ」

「おーおー、また始まったぜ」

「観戦するとしましょうか」

 俺たちが観戦しようとしていると、

「おいおい!あそこで面白そうなものやってるぜ!」

「わー!きれい!」

 他のお客さんもやって来た。皆ワーワーと歓声をあげ、どこかの闘技場みたいになった。なんだかんだで騒ぐのが好きなんですね皆。

 

 勝負の結果だが、まあ、霊夢が勝った。だけど、チルノはまだ諦めずに霊夢に突っかかっていった。何回負けてもへこたれないのがチルノの強いところなんじゃないかな、と思う。

 

 結局、湖水浴場閉鎖まで弾幕ごっこは続き、大騒ぎの中湖水浴場の一週間は幕を閉じた。




意外と影斗の口が悪かったり。
次回はおそらく影斗たちが泳ぎます。
それでは、また次回。
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