宴会はまだまだ続くみたいです。
「でね、影斗はこう言ったの。『お願いです殺すの一日でいいんで待ってもらえませんかねちょっと色々やることあるかもしれないんで…………』って」
「あと一日になったら何するつもりなんでしょうねぇ?」
「その後私だって知ったら『今度藍にでも頼んで紫だけ飯抜きとかしてもらおうかな……それとも靴に画鋲でも仕込んでもらおうかな……』って言ってたわね。ね、影斗?」
「地味ね、さすが影斗」
「地味だぜ、尊敬するほど地味だぜ」
なにこれ死にたい。俺が何をしたっていうのさ。俺はご飯取りに来ただけなのにこの仕打ちはないんじゃないかな!?
と思いつつ俺が何も言えずにプルプル震えている――一応言っておくが、俺は決してどこかの青いプルプルしたモンスターではない――と、
「そ、それは誰だってびっくりすると思います……」
誰かがそう呟いた。全員が驚いたように一斉に声がした方に顔を向ける。俺も同じくそちらを見る。
その声の主は、妖夢だった。
「誰だって、そんな状況に、なったら、驚くと、思います」
やけに途切れ途切れになりながら喋る妖夢が、俺には天使か聖母、女神に見えました。
「どうしたの、妖夢?顔色が悪いけど……」
幽々子が妖夢の顔を覗き込み、そう言った。さっきまで妖夢が光り輝いていて見えなかったが、確かに顔色が悪い。どうしたどうした?
少しした後、心配そうに妖夢を見ていた幽々子が、うっすらと笑ってこう言った。
「もしかして妖夢……この話が怖かった、とか?」
「な……!?ち、違います!そんなこと、あるわけないじゃないですか!!」
妖夢はもちろん幽々子の疑問を否定した。妖夢に限ってそれはないだろう。確か幽霊だし。半人半霊らしいし。
「じゃあ、どうしたの?」
「いや、本当に大丈夫ですから!気にしないでください!!」
妖夢が青白い顔でそう言った。ホントに大丈夫なのか?
「……そう。あまり無理はしないようにね?」
幽々子がまた心配そうな顔に戻り、そう言った。
やっぱり、いつも荒ぶって妖夢に大変な思いをさせていても、いざという時は心配してくれるんだな……いい主人だなー。
「ところで、へたれ影斗は何をしに来たの?」
「……ご飯取りに来たんだよ」
紫の口から一つツッコミたい単語が出てきたが、スルーすることにした。
「ここで食べればいいのに。どうして離れて食べるのかしら?」
紫の二つ目の質問が飛んできた。
「なんでだろ……まあ、一人で食べたい時ってあるじゃない?それだよ、それ」
特に理由があるわけでもないし、適当に答えておく。 あ、強いて言うなら、酒が飲みたくないからかな。いくらノンアルコールビールとは言っても、酒は酒なんでしょう?
「そう。寂しい人ね」
紫が笑いながらそう言った。 今何かが心に刺さったぞ。
「うるさいよ!いいだろたまには!」
そう言って、少しずつ食べ物を自分の皿へ移していく。
「じゃ、そういうことで!」
そう言って、俺はさっき一人で食べていた場所へ戻っていった。
――――――――――
「なんだい影斗。やけにつれないねぇ」
神奈子様が影斗さんの方を見てそう言った。
「まあいいんじゃない?あいつの気分でしょ?」
若干不機嫌そうな顔をしながら、霊夢さんが言った。
「……まあ、それもそうか。さて、飲もう飲もう!」
そう言って、神奈子様は酒を一気に飲んだ。 何故酒をそんな美味しそうに飲むことが出来るのか。お酒不味いですよ……。
「あ、そうだ早苗」
酒を飲み干した神奈子様が、私の方へ振り向いて言った。
「なんですか?」
「影斗のことだけど」
影斗さんのこと?何かあったのでしょうか?
「早苗のこと――」
そこまで言われて、私は神奈子様が何を言うつもりなのか分かった。
神奈子様の次の言葉を聞くのが怖くなる。不安になりながらも、次の言葉を待つ。
少しの間の後に、神奈子様は言った。
「――好きだって言ってたよ」
一瞬、耳を疑った。だけど、神奈子様はこういう時に嘘を
影斗さんに嫌われてないことが分かって、安心したと同時に、自分がバカみたいに思えてきた。避けられてる、目を逸らされる、なんて勝手な被害妄想なんかして、バカなんですか私……。
「あ、「異性として」って言ってたよ」
「…………へ?」
アヒャヒャと笑いながら言った神奈子様の言葉に、今度こそ本当に耳を疑った。
「もう……何言ってるんですか」
「いやホントだよホント~」
これはさすがに神奈子様の悪ふざけだと分かった。
いくらノンアルコールビールと言っても、少しながら入っているんでしょう。 神奈子様、微かに顔赤いですし……。「アヒャヒャ」って笑ってますし。
影斗さんの「好き」はそういうのじゃないでしょう。だって影斗さんは、家族なんですから。
――――――――――
私は今、非常に困っている。
今、私は黙々と食事に勤しんでいる。だが、誰も好きでこんなことしてる訳ではない。断じてない。
では何故か。答えは簡単。一緒に食べる友達がいないからだ。
と言っても、友達がいない訳じゃない。だが、今その友達は別の人と話しているのだ。
――あそこに割り込めばいいじゃない。
前向きな考えが浮かんだ。
――無理よ、私に出来るわけないでしょ?
直後、後ろ向きな考えが浮かぶ。
そう考えてしまったせいで、浮かしかけた腰を下ろす。
なんで邪魔すんのよ、ウジウジしてる奴は割り込まなくていいわよ。
ネガティブな思考を押し殺し、少し考える。
「……よし」
決心し、勢いよく立ち上がる。そして早苗の元へと歩き始める。
――どうやって、話しかけるの?
ここに来て決心が鈍った。
無理よ。どうやってあそこに割り込め、って言うのよ……。絶対迷惑よ。
どうして話しかけるだけでこんなに迷わなくちゃいけないのだろうか。 気軽に話せない自分が嫌になる。そんな奴と友達になってくれる人なんていないのに……。
「……ダメ、考えちゃ」
また自分を責めているのに気付き、その思考を無理矢理止める。
一回こうなったら、ずっとこうなってしまう。 皆がいる中で、それだけは避けなくちゃ。
不意に、そういえば、と思い出し、辺りを見渡す。確か、影斗が離れて一人で食べていた気がする。
影斗の姿は、すぐに見つけることが出来た。ここから少し離れた場所――影斗がずっと寝てたブルーシート――で食べていた。
影斗に邪魔扱いされないかしら……?いや、大丈夫。相手は影斗よ。そんなことはないはずよ。 きっと。 多分。
そう信じて、私は影斗のところへ行くことにした。
――――――――――
「ねぇ、影斗」
「……ん。アリスじゃん、珍しい」
食べていた魚を飲み込み、返事をする。
「……えと……食べていい?」
「いやお願い食べないで」
何を言っているんですかアリスさん。俺食べても美味しくないですよ。
「あ……ごめんなさい……じゃ……」
すごく悲壮感を漂わせる顔をして、アリスは去ろうとした。 時々こっちを恨めしそうに見てくる。
ん?もしかして……。
「もしかして、俺を食べる、って意味じゃない?」
「……何言ってるの?」
アリスは、こちらに振り向き、本当に意味が分からない、という顔をした。
「俺を食べたいんじゃなくて……ここでご飯食べたい、ってこと?」
足りないであろう言葉を入れ、詳しくしてから聞いた。
「誰が影斗なんか食べるのよ……まあ、そんな感じよ」
「あ、そうだったのね。じゃ、お好きにどうぞ」
適当に下を指差して言った。
「最初からそう言ってたわよね私」
アリスは近付いてきながらそう言った。 なんてこと言うんですこの人。
「いや、修飾語が足りないよ」
「それくらいカバーするのが普通でしょ?」
「そう思っていた時代が私にもありました。だけど、意外とそれ難しいんだよ」
俺もついこの間修飾語の大切さを知ったよ。
「難しいわね……」
「難しいよね……」
コミュ障二人で飲み物を一口。うん、オレンジジュースが美味い。
「…………」
「…………」
さて、会話がない。自分も相手も話題を作れない人だから辛いね。……さて、真面目にどうしようか。
「……何飲んでるの?」
「え、っと……紅茶よ。質問ある?」
「いやないですけど。おしゃれで素敵だと思いますけど」
紅茶だけど質問ある?なんて聞かれても何聞けばいいか分からないよ。
「影斗は何飲んでるの?」
「オレンジジュースだけど質問ある?」
「お酒は飲まないの?」
「絶対飲まない」
誰が飲むか。自分の意思じゃ絶対飲まない。
「アリスは酒飲めるんだっけ?」
「まあ、飲めないことはないけど……あまり飲みたくはないわね」
「なんで?」
「酔って迷惑かけたくないからよ」
チラッと向こう――酒飲んで大騒ぎしてる皆様――を見てアリスは言った。
「……ふーん、なるほど」
アリスが酔って大騒ぎしている姿を想像してみた。 出来なかった。
「想像出来ない」
「ええ、私も出来ないわ」
「――おーい!影斗にアリスー!こっちへ来ーい!!」
あれからしばらく話していると、魔理沙がこっちに向かって手を振りながら、そう言った。なんだなんだ?
「これから何が始まるんでしょうね?」
「さあ……大惨事とかは勘弁してほしいな……」
そんなことを言いながら、俺たちは魔理沙のところへ向かった。
「これから何が始まるんです?」
そう聞くと、ほとんどの人が口を揃えてこう言った。
「「「肝試しよ」」」
……大惨事だ。
宴会だってのに暗いところが入ったような入らなかったような。
次回は肝試しになると思います。きっと。多分。
それでは、また次回。