やっと夏休みです。と言っても三日前から旅行に行ってたわけですが……。
「すまない、チルノにアリス。頼みがあるんだが」
いざ森へ足を踏み入れようとした時、藍に呼び止められた。
「……どうしたの?」
「橙も連れて行ってやってくれないか?皆行ってしまうのに橙だけ遊べない、というのはどうも橙が不憫でな……」
なるほど。確かにこんな幼さそうな子が遊べないというのは可哀想だ。
私はもちろん構わないけど……。
「いいぞ!どんとあたいにまかせるがいい!」
チルノはそう言ってから胸を張った。
そんな訳だから橙も一緒に来るかと思いきや。
「私は行かなくていいですよ」
そう橙は言った。
「何故だ橙?お前だって遊びたいだろう?遠慮なく行ってこい。私は一人で十分だ」
「私は、藍しゃまと一緒にいれればそれで構いません!むしろ、藍しゃまと一緒にいたいです!」
橙は聞いてるこっちが恥ずかしいセリフを軽々と言ってのけた。
「おぉ……橙……私は最高の幸せ者だ……ちぇえええええええええん!」
「藍しゃまぁぁぁぁ!」
藍は泣きながら、橙は笑いながら抱き合った。
「おぉ……これが愛……」
「どうしたのアリス?」
「え!?あ、いや、なんでもないわ、あはは……」
なんで今さっき変なこと言ったんだろ私……。しかもチルノに何気に心配されたし……なんか悔しい。
「と、とりあえず、行きましょうか!」
「あ、そうだな!いくぞー!」
あの二人は放っておいても大丈夫よね。……ね?
しばらく歩いた後。
……羽が見えてる。多分、大妖精の羽だと思うんだけど……あれ、隠れてるつもりなのかしら?
チルノをチラッと見てみると、気付いていないのか、ガンガン進んでいる。
チルノと大妖精であろう人物が隠れている木が近付き――
「……うわぁ!食べちゃうぞー!!」
――予想通り、大妖精が出てきた。
「うわっ!?……なんだ、大ちゃんじゃん!びっくりした……してないよ!」
「そっかぁ。やっぱりチルノちゃんも驚かなかったかぁ……」
「もっちろん!あたいがびっくりすることなんて、ありえない!」
今驚いてたような。
「そうだよね!チルノちゃんが驚くなんてありえないよね!」
「うん!それじゃ、あたいたちは先行くね!」
「気を付けてねー!」
「ばいばーい」と言いながら大きく手を振るチルノと大妖精。一応私も小さく手を振っておいた。
――――――――――
「なんか広い場所に出たな」
あのちょっとした闘いの後、しばらく歩くと開いた場所に出た。別に何か特別なものがあるわけでもなさそうだけど。
「早く行って、終わらせちゃいましょう」
そう言ってゆっくりと進んでいく妖夢。早くとは何だったのか。
「そうだ、そうしよう」
とは言っても、俺だってこんなの早く終わらせて一息つきたい。どうしてこんなに怯えなきゃならんのだ。
ゆっくりと一歩一歩進んでいくと、不意に妖夢の体が止まった。
「うわっ、どうした妖夢」
ぶつかりそうになった体を慌てて引き戻してからそう言った。
「……何かいます」
小声で妖夢はそう言った。……マジで?
周りを見回してみるが、特に何も見えない。……誰がいるんだ?
不意に、俺の左腕にヒヤッと冷たいものに握られた。
「妖夢、それ刀じゃない。それ俺の腕」
「……え?何の話ですか?」
「俺の腕間違えて握ってたぞ」
「握ってませんけど……?」
あれ、妖夢が刀と間違えて俺の腕握ったのかと思ったんだけど……。違ったのか?
でも、今さっき確かに……。
「――!?」
俺の左腕は、赤く染まっていた。しかも、手の形のようにも見える。
「わ……!?」
「どうしたんですか影斗さん?」
「こ、これ……」
妖夢の前まで俺の左腕を持ち上げた。
「ひゃ……!?やややめてくださいよそういうの……」
「俺に言われても……」
俺がやったわけじゃないから……ねぇ?
そんな感じで怯えていると、どこからかいい匂いが漂ってきた。
多分これは……芋の匂い?
なるほどなるほど。穣子さんですね。どこに隠れて焼き芋食べてるのか知りませんけどバレバレですよ。でもこの赤い手形なんていつ付けたんだ?
そんなことを考えていると、急に風が強くなり、草木がざわざわと揺れ始めた。風が夏の割にはやけに冷たい。
「……あれ?」
妖夢が何かに気付いたのか、不思議そうに俺の後ろを見た。俺もつられて、後ろを見た。
視界の先には、黒色の髪の、白い服をきた――いかにも幽霊みたいな格好をした――女の人が立っていた。
「私たちが来たとき、あんな人いましたっけ?」
「いや……いなかったよ」
ずっと付いてきていたのか、はたまたいきなり出てきたのか……。あの女の人は俯いており、それに加えて髪で顔が隠れているため、誰なのかは分からない。
女の人は、何をするでもなく、ずっとその場で立っている。
だが突然、その女の人は消えた。
「な……き、消えましたよ!?やっぱり幽霊だったんですかあの人!?」
「さ、さぁ……とりあえず、進もうか」
また来ないとは限らないので、一歩でも出口に近付いておきたい。
またまたゆっくりと歩いていると、目の前に先程の女の人が現れた。
「うおぉ!?」
「ひぃ!?」
次は目の前に現れてきた女の人だが、特に何もする様子もない。……何もしてこない、っていうのも気味が悪いな。
妖夢と俺が後ずさると、また女の人は消えた。
かと思うと、妖夢がビクッと体を強張らせた。そして、妖夢が怯えた顔でゆっくりと後ろを振り返った。またもやつられて俺も後ろを見た。
「――!?」
後ろには、妖夢の肩に手を置いている、例の女の人がいた。
そして女の人は、俯かせていた顔をゆっくりと上げ始めた。
「あ……」
その女の人は、目があるはずの部分が丸い空洞になっていた。そして、ニタァと口を三日月の形にして笑い、こっちへ手を伸ばしてきた。
――その手のひらは、赤かった。
「うわああああああ!?」
「きゃああああああ!!」
俺と妖夢は思い切り走った。早く逃げなきゃヤバい!
そして広い場所からまた細い道に逃げようとすると、何かにつまづいた。バランスを崩した俺は、当然転んでしまった。
「いてて……ってはああああ!?」
なんと、地面から無数の白い手が生えていた。しかもそのうちの一本が、俺の足首を掴んでいた。
「おい!離せ!!離してくれ!」
「いやあああああ!!離してください!」
後ろを見てみると、あの女の人がゆっくりと、今にも倒れそうなふらふらとした歩き方で近付いてくるのが見えた。
足首を掴んでいる白い手を、自分の手で払いのけようとすると、逆にその手を別の白い手に掴まれた。ちょ、マジかよ!?
唯一残された右手を地面から離す訳にもいかない。なんとか左腕を掴んでいる白い手から逃れようと左腕をじたばたさせても、腕は全然引き抜けない。
こうしている間にも、あの女の人は近付いてきている。
「離せ!離せってんだよ!!」
イチかバチか、残った右手で俺の目の前にある白い手を殴った。自分の体を支えるものがなくなったので倒れ込んでしまった。そしてしたたかに地面に右腕をぶつけた。
倒れ込むのと同時に、両足首と左腕の握られていた感覚が消えた。
顔を起こして周りを見ると、白い手は消えていた。
「逃げよう妖夢!」
体を起こして走り出したが、妖夢は走らず、座り込んだままだ。
「何やってるんだ妖夢!早く逃げなきゃ!」
妖夢のところに戻って促す。
「あ、あ……」
妖夢は怯えたように女の人を見て、座り込んだまま後ずさっている。腰が抜けちゃったのか!?
「妖夢、早く行くぞ!」
咄嗟に妖夢の腕を持ち、そのまま引っ張って走り出す。
左右を木に挟まれた狭い道を走る。チラッと後ろを見てみると、残念ながらあの女の人の姿は見えた。
「きゃ……!」
妖夢がバランスを崩して転んでしまった。
「妖夢、大丈夫か!?」
「……す、すみません……大丈夫です」
「そっか……」
見たところ怪我もないようだし、安心した。
今女の人はどこかと見てみると、すごい速さで無数の白い手がこちらに向かって生えてきていた。
「なにあれ速い!?急ごう!」
また妖夢の手を引いて走り出す。
すると、なんと前から白い手が生えた。
「うおおおおおおお!?」
後ろからも白い手が迫ってきているため、ここで止まるわけにもいかない。
飛び越そうとして、思い切り飛び跳ねる。下を見てみると、白い手たちが俺たちを掴もうと懸命に手を伸ばしていた。それにゾッとしながらも、なんとかギリギリ飛び越すことが出来た。
次いで二回目の前から迫る手。これもなんとか飛び越える。着地時に体勢を崩し、スピードが落ちてしまった。やば……。
白い手との距離が一気に縮まる。
負けじと走るペースを上げる。
「……ん?」
何か、ゆらゆらと揺れる光が見えた。……もしかして、出口か!?
あそこまで行けば、俺たちの勝ちに違いない!
いい加減体力の限界を迎えかけていたのだが、少しマシになったような気がした。
「待て……」
低い女の人の声が聞こえた。
それも、すぐ近くで。
「なんでだよ!?」
女の人は、俺たちのすぐ後ろに立っていた。さっきまでのふらふらとした足取りはどこに行ったのか、ものすごいスピードで走っている。
いや、よく見ると走っていない。浮いていた。
あと少しで出口なのに……。
「いやああああ!離して!離してください!」
妖夢が女の人に掴まれてしまった。
なんとか振り切ろうと走る。掴まれてからそんなに経っていなかったため、妖夢は腕を引き抜くことが出来た。
これで少し距離が空いた。それに出口はもう少し。逃げ切れる!
ペースを下げずに走る。女の人はまだ追ってきている。
出口に思い切りダイブする。地面に倒れ込んでから二、三回転がった。
顔を上げると、女の人は俺たちを凝視していたが、森から出てくることはなかった。
女の人はそのまま俺たちを見ていたが、しばらくするとスー……と薄くなっていき、消えていった。
俺はしばらく森を見ていたが、もう出てくる様子はなさそうだったので、妖夢の方を見た。
「はぁ……はぁ……終わったー……」
「長かった……はぁ……ですね……はぁ」
二人とも息が上がっている。しばらく休みたい。
「……あ、影斗さん、何か書いてますよ?」
「え?……あ、ホントだ」
しばらく座って休んでいると、妖夢が出口の横に立てられていた看板を指差した。
よく見ると【ここから西へ】と書かれてあった。そっちに行くと先に肝試しを終えたはずの魔理沙と霖之助もいるのかな。
「あれ、穣子さん。魔理沙と霖之助は?」
「この先にいるわよ」
看板通り西へ向かっていると、一人穣子さんが芋を焼いていた。
「肝試しお疲れ様」
穣子さんは、出来上がった焼き芋を二つ持ち、こちらを振り返った。
「私からのちょっとしたプレゼントよ」
「ぎゃあああああ!!」
「きゃあああああ!!」
俺は、目の前が真っ黒になった。
「ふふ、肝試しが終わってたと思ったら大間違いよ」
なんか知らないけど長くなってしまいました。
この肝試し魔理沙&霖之助ペアが空気になってしまった……。
それでは、また次回。