女神が人類を護るためにオーク軍勢の前に立ちはだかるも、実は全員、前世が歴戦の仮面ライダーだったので、「変身!」の掛け声とともに元の姿に戻ってオークをずたずたに蹴散らすお話。   作:主(ぬし)

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タイトル通りです。Twitterで反応を貰えたので、思いついた熱が冷めない内にざざざーっと書き上げました。熱い展開になっていれば幸いです。


女神が人類を護るためにオーク軍勢の前に立ちはだかるも、実は全員、前世が歴戦の仮面ライダーだったので、「変身!」の掛け声とともに元の姿に戻ってオークをずたずたに蹴散らすお話。

 その世界では、人類はもはや絶滅寸前だった。

 栄華を極めたのもわずか数十年、現在は全人類合わせてもわずかに数千人。曇天の下、朽ち果てる寸前の城を枕にして守るのは、満身創痍でない者の方が少ない騎士たち。その数は数百にも至らず、子どもと見分けもつかぬ若者ばかり。必死の形相の彼らが対するは、見るに堪えない醜悪な様相のオークの軍勢。濁った肌色の肉体は筋肉の塊で、その上から申し訳程度の鎧をつけている。その鎧も、もとは討ち取った騎士の死体から剥ぎ取ってきたもので、彼らにとっては戦利品程度の意味合いしかない。豚のような鼻頭からおぞましい腐臭を放ち、ハエのたかる分厚い唇でこれ見よがしに舌なめずりをしてみせる。オークたちの数は見えるだけでも数万。彼らにとって、人間は適度に柔らかい性処理の道具であり、調理すれば余るところのない食料でしかない。そして、彼らに乱獲と絶滅を危惧する理性はない。人類は絶滅の崖っぷちにいた。

 

「誇り高き騎士たちよ! ここで踏ん張らねば、妻や娘が、親が、友が、オーク共の餌食にされてしまう! なんとしても防ぐのだ! なんとしても!!」

 

 騎士たちを率いる若き騎士団長が、なけなしの力を振り絞って仲間を鼓舞する。しかし、降りしきる雨に打ち据えられた騎士たちから応じる声はない。当然だった。自殺を図らないだけ、まだ勇気があると褒め称えられるべき状況だ。団長はぐっと内臍を噛み、塊根に胸中に涙を流した。中程で折れてしまった愛剣には、人類に伝わる伝説の女神が刻まれている。人類の窮地を助けてくれるはずの、救済の女神たち。しかし、そんなものは伝説だった。誰の助けも来ない。人類の歴史はここで終わる。ただただ、悔しかった。

 

「全軍、攻撃開始。降伏など認めるな。人間は全部、犯すか、食べろ」

 

 オークの中でも一際巨体のオーク・キングが怨霊のような低音で命令を発する。もちろん、命令を受ける以前より、オークたちにはそのことしか頭にない。鉄や岩を削り出しただけの粗末で堅牢な盾と剣を引きずり、オークの軍勢が包囲の輪を狭め始める。騎士たちのボロボロの剣先がガクガクと恐怖に震える。

 

「ここまでか……」

 

 騎士団長が諦めに俯いた、その時だった。

 

 

 

 

 

「なんだぁ、貴様らは!? どこから現れた!?」

 

 

 

 

 オーク尖兵隊長のギョッとした声に、騎士団長はハッとして顔を上げる。そこには、四人の細い背中があった。若い女の、白くて美しい背中。目と鼻の先に突如出現した女の匂いに、騎士団長は思わず声を上げて尻もちをついてしまった。それに気づいた一人、赤いドレスを身にまとった女が長髪を靡かせ優雅な動きで振り返る。

 それは、この世のものとは思えないほどに美しい、まさに女神だった。ドレスは自ら仄かに発光し、風もないのに羽のように宙をゆらゆらと凪いでいる。他にも、青の女神、緑の女神、黄の女神、それぞれが際立って美しく、まるで別次元の生命であるかのように凛とした空気を纏っていた。

 

「ま、さか……貴女がたは……女神、様……?」

 

 騎士団長は反射的に、己の剣を彼女の前に飾した。そこに刻まれた、伝説の救いの女神の姿と、目の前の女たちの姿を見比べた。とてもよく似ている。決然とした強い意志を示す横顔が、厳しい目つきで周囲をぐるりと見渡す。そして、全ての状況を察し、四人互いの顔を見て険しく頷いた。ドレスに包まれた華奢な指が怒りに握りしめられ、ギリリときつい音をたてる。女神たちは壮絶に怒っていた。

 

「なんだ、女ども。どこから来たかは知らんが、美味そうではないか。さては女神の生き残りだな」

 

 女の匂いに釣られて、オーク・キングが軍勢を掻き分けて前に進み出てきた。女神に対する非礼な物言いに騎士団長は頭に血が上る感覚を抱いたが、目の前にさっと出された腕に制止された。見上げれば、赤の女神が微笑んでいる。

 

「よく頑張りましたね。もう、大丈夫です」

 

 なんの根拠も見いだせないのに、騎士団長はその言葉に心から安心して、脱力した。いや、彼女の存在自体が根拠なのだ。そう思わせるほどの貫禄と説得力が、女神たちにはあった。

 

「ぶはは、何が大丈夫なのだ? これだけの軍勢を前に、たかが女神風情が何ができる。女神など、とうに全員犯し尽くして、子を百人は産ませてから殺してやったわ」

 

 しかし、愚かなオーク・キングには、まだわからなかった。多少、距離があったせいかもしれない。それまでに、各地で人間を守っていた女神や精霊を狩り尽くした実績があったからかもしれない。彼女たちの美しい容姿に酔いしれてしまっていたからかもしれない。理由がどうであっても、結果的に、彼は絶対的に愚かな選択をした。攻撃を続行する、という選択を。そんなことは絶対にしてはならない。無残に刈り取った命を嘲笑い、護るべき無垢な人々を背にしたその者たちに戦いを挑むなど、絶対に。

 

「……だ、そうですよ」

「……ええ」

 

 ズアッ!!と、彼女たちのドレスが一際大きく舞った。まるで火山の近くにいるような熱風を皮膚に感じ、騎士団長の頬を汗が伝い落ちる。これは闘気だ。体内で燃える義憤が毛穴から噴き出し、現実の大気に作用して周囲の空気を蜃気楼のように揺らめかせたのだ。

 

「私たちには、何も特別な力などありません」

 

黄の女神。

 

「私たちは、最初は、ただ一人の無力な人間に過ぎませんでした」

 

緑の女神。

 

「でも、護りたかった。大切な人たちを、一人でも多く救いたかった。そのために出来ることはなんでもやった」

 

青の女神。

 

「そうして、私たちはこの拳を手に入れた。特別でもなんでもない。大切な人を護りたいという願いを叶えるために。叶えられなかった人たちの分も背負うために」

 

赤の女神。

 

 横並びに立ちはだかった女神たちが、同時に、静かに瞼を下ろす。瞼の裏に映るのは、彼らがかつて守り抜いた者の笑顔。守れなかった者の涙。それら全てを力に変換し、彼女たちは再び目を開く。

 開かれたその口から迸ったのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 以前はビルディングをなしていた瓦礫の山に、男たちが四肢を投げ出して横たわっていた。

 男たちは、ついに平和を勝ち取った。この世を手中に収めんとする悪の組織を撃滅し、恒久的な平和をこの世にもたらした。男たちは四人だった。たった四人だった。史上最強の四人だった。だが、もうその生命は風前の灯だった。その仮面は砕け、スカーフは破れ、愛機のエンジンは燃え尽きていた。それでも彼らは、瓦礫に身体を預け、青空を見上げながら満足げに微笑んでいる。後悔することは死ぬほどある。でも、これでよかったのだ、と。

 人々のために燃やし続けた魂が、ついにその炎を絶やそうとする、まさにその瞬間、彼らに天からの声が降り注いだ。

 

「褒美……?」

 

 天の声は、褒美を授ける、と言った。争いと戦い続けた彼らに、争いのない満ち足りた世界で、幸福に包まれた新しい人生を送らせてやる、と。それらは戦士たちが手に入れようとしてあがいた理想の世界だった。

 

「……だ、そうだぞ」

「……ああ」

 

 戦士たちは一度だけ互いの顔を見て、笑みを交わし、すぐにこう返した。

 

 

「では、今はまだ争いの絶えない、不幸な人々の元へ、我々を送ってほしい」

 

 

 天の声は大層困惑して「なぜ」と問うた。戦士たちは即答した。

 

「それが、俺たちだからさ」

 

黄の戦士。

 

「どんなに傷つき、どんなに苦しもうと、俺たちは戦う」

 

緑の戦士。

 

「そこに悪がある限り。そこに、人々の涙がある限り、俺たちは何度でも立ち上がる」

 

青の戦士。

 

「そうとも。それが───俺たち、××××××××だからだ」

 

赤の戦士。

 天の声は、それ以上何も言うことはなかった。誇り高い己の子らを熱い眼差しで見つめ、彼らの願いを叶えた。たった一つだけの計らいをして。せめて、争いとはもっとも遠い、美しい姿として転生させたのだ。

 

 

 

 その、誇り高き彼らの名前は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「 変身(・・)ッッッ!!!!! 」」」」

 

 

 ザン!!と空気を切り裂き、ズドン!!と大地を踏み鳴らし、四人の女神が高らかに吠えた。

 それぞれの予備動作は、演舞というには攻撃的で、殺陣というには見事に過ぎた。何千回と繰り返された動きに合わせ、風が唸り、拳がギチギチと革のような音を立てる。渦を巻いていた曇天が怯えたように震え、雨がピタリと止んだ。

 次の瞬間、女神たちの下腹部に眩い光が集中し、ベルトの形に結集する。腰留めとはまったく異なる、赤、青、緑、黄のベルト。炎や風をモチーフにした刻印がギラリと輝き、その内部に秘めたパワーを今か今かと漲らせている。刹那、そのパワーが炎となり、洪水となり、竜巻となり、雷撃となり、女神たちの全身を包み込んだ。

 

 騎士団長は見た。彼女たちの背中が倍以上に膨らみ、その首から鮮やかなスカーフがたなびくのを。

 

 騎士たちは見た。その光景を、永遠に忘れることはなかった。彼女たちを包み込んでいたエネルギー流が曇天に風穴を開け、降り注ぐ陽光の柱に照らされた、四人の戦士の背中を。

 

 オーク・キングは見た。仮面の戦士の背後に、ここではない別の世界の人々の姿を。人々は、戦士たちが守ってきた命。戦士たちに守る理由を、力を与えてきた、無辜の人々。その数は───万や億で数えられるものではなかった。それほどの人々を護りきって、護り抜いて、それでもなお戦うことを諦めない戦士が、四人もいる。

 オーク・キングは、今さらになって、己の選択を疑った。手遅れだった。

 

「行くぞぉッッ!!」

「「「 応ッッ!! 」」」

 

 戦士たちが地を蹴って前進を開始する。その鎧はまるで彼らの肉体のように靭やかで、どんな金属よりも硬質に輝いていた。その動きは、この世界のどの種族よりも速かった。キュクロプスですら小石のごとく吹き飛ばすだろう。竜ですら怒涛の気迫に怯えるだろう。ぬかるんだ地面を意にも介さず、一歩一歩でクレーターを穿つほどの勢いで突進してくる。戦士たちは、示し合わせたわけでもないのに均等に分散し、四方の軍勢に突入を図る。

 正面のオーク・キングの軍勢には、赤いスカーフの戦士が対した。あまりに速すぎる。さっきまで百歩以上の距離が開いていたのに、もう剣先が届く先にいる。突進に無理やり押しのけられる風が悲鳴を上げ、吹きすさぶ突風に煽られて木々が捻れ、岩ほどもある削りだしの盾が勝手に持ち上がる。戦士の仮面はもう目の前。昆虫を模した仮面の双眸は抑えきれない憤怒に真っ赤に燃えていて、オークたちの背中を怖気が走り狂った。

 

「ぼ───防御態勢を───」

 

 近づきすぎていた。彼も、彼の軍勢も、すでに余さず間合いの中にいた。少なくともオーク尖兵隊長は、その拳が触れた瞬間には肉片となって蒸発し、絶命していた。ライダーパンチ、その技名を耳にしたのは、慌てて身を伏せたオーク・キングのみだった。それが、耳にした最後の音だった。竜の息吹など足元にも及ばない圧倒的な熱量と破壊力が、分厚い筋肉も鎧も剣も盾も、何もかもを一緒くたに裁断して吹き飛ばした。オーク・キングの自慢の鎧もマントも塵と消え、体毛は焦げ付き、鼓膜はいくつかの内蔵と同時に破裂した。小岩ほどもあった巨体が落ち葉のように投げ出され、泥に塗れる。

 微かに残った視力で彼が見たのは、かつて人類を滅ぼしかけた軍勢が、たった四人の戦士を前に、蹴散らされていく壮絶な光景だった。

 

「お前たちは───何者だ───?」

 

 絶命する寸前の問いかけに、赤の戦士が振り返り、堂々と応えた。

 

 

 

 

「仮面ライダー。人々の希望の結晶だ」

 

 

 

 

 

 

 

・赤の女神アストレア(仮面ライダーアストレア)

 火を司る美しき女神。その正体は、赤いスカーフをたなびかせる、炎の仮面ライダー。仮面ライダーV3の系統を辿る最後の戦士。型式では仮面ライダーV99となる。四人の中ではもっとも戦士としての歴が長く、リーダーとしてライダーたちを率いてきた。ライダーパンチの威力は全ライダー中、もっとも強力。

 

・青の女神イシュタル(仮面ライダーイシュタル)

 水を司る美しき女神。その正体は、青のスカーフをたなびかせる、水の仮面ライダー。仮面ライダー3号の系統であり、その最終形態。元は悪の組織に所属していた戦士であり、現在ではアストレアとは良いライバル関係にある。俊敏さと攻撃技術に長け、一対多数の戦闘を得意とする。

 

・緑の女神エオス(仮面ライダーエオス)

 風を司る美しき女神。その正体は、緑のスカーフをたなびかせる、風の仮面ライダー。スカイライダーを祖としており、飛翔能力を有している。単独で大気圏突破も可能。連続ライダーキックを必殺技とし、特に空中戦では敵なし。

 

・黄の女神バウト(仮面ライダーバウト)

 雷を司る美しき女神。その正体は、黄のスカーフをたなびかせる、雷の仮面ライダー。仮面ライダースーパーワンの技術を発展させて誕生した、科学技術の粋を極めたライダー。全ての攻撃に雷撃属性が付加され、自身への攻撃に対してもカウンターの雷撃を自動防御として放つ。




楽しんでもらえれば、幸いです。ううう、二日酔いがまだ続いている……。助けてアマゾンズ。

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