やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。Delusion story 作:神納 一哉
三浦家は比企谷家の隣にある。家族ぐるみの付き合いがある。
三浦優美子はイギリス人の父親(帰化済)と日本人の母親との間のハーフで、金髪緑眼が地である。(容姿変更が面倒なので素の見た目にしてしまおうと思います)
比企谷家の放任主義は変わらずだが、原作よりも家族仲は良好。ちなみに小町が家出をしたときは三浦家に駆け込んで一日中匿われていた。比企谷家には連絡済だったため、八幡も優美子に任せておけば良いと迎えにはいかなかった。
中学時代、八幡は優美子の専属マネージャーとして女子テニス部のオブザーバーとして活動していた。クラスは別。
幼いころから優美子と過ごしているため、対人で社交的とまではいかないがそこそこの対応はできるようになっている。
八幡はクラスメイトだった折本かおりには告白しておらず、いじめにもあっていない。
三浦優美子の呼称 八幡「ユミ」(幼稚園のときは「ユミちゃん」) 小町「ユミお姉ちゃん」
比企谷八幡の呼称 優美子「ハチ」(幼稚園のときは「はちまー」) 小町「お兄ちゃん」
キャラ改変が嫌いな人はブラウザバック推奨です。
「ごめんなさいっ!」
放課後、幼馴染に連れられて訪れた校舎裏で、俺は見ず知らずの女の子に開口一番で謝られた。
「なんでいきなりお断りされているわけ?なあユミ。これって新手のイジメ?」
「何バカなこと言ってんの。結衣もいきなり謝らないの。ハチが馬鹿なこと考えるっしょ」
どうやら頭を下げている女の子は、俺の幼馴染の
「えーっと、怪我させちゃってごめんなさい」
「いや、意味わからん」
「嘘っ!?」
「結衣、ハチの言う通りそれじゃあわからないし。あーしが説明する。ハチ、入学式の日に車に轢かれたじゃん。そんときアンタが助けた犬の飼い主がこの子。由比ヶ浜結衣っつって、あーしの中学からの友達」
「なるほど納得」
「理解早っ!?」
いちいちオーバーリアクションだなあと思いつつ、目の前の女の子を見て既視感を覚える。あれは確か中学のとき、部活行くときにユミを呼びに行ったときに見たような……。ああ、ユミの傍で縮こまってた地味巨乳の子か。
「あー。確かユミの中学のクラスメイト。髪色と髪型を変えて化粧するだけで随分垢抜けた感じになるんだな。中学んときは話したことないけど、俺はユミ、あー、そこの三浦の幼馴染の比企谷だ。まあ、よろしく」
「あ、あたしは由比ヶ浜結衣です。優美子とは中学の時から友達やらせてもらってます。その、サブレを助けてくれてありがとうございました。あと、怪我させちゃってごめんなさい!」
「別に謝られる筋合いはない。あれは俺が勝手にやったことだ。むしろ車にぶつかってしまった俺の方が悪い。その、犬に怪我はなかったか?」
「おかげさまで、サブレは元気だよ」
「そりゃよかった。んじゃ、これで」
「ハチ待つし。今日は一緒に帰るよ」
「いや、俺、これだからさ、ゆっくり帰りたいんだけど」
俺が松葉杖を片方持ち上げてそう言うと、ユミは頬を膨らませて俺を睨みつける。
「あーしが怪我人に無理させると思ってんの?つーか、今朝も一人で学校に来ちゃうし。ったく、怪我人なんだから幼馴染を頼れっての」
「あ、あたしも荷物持ちくらいするし。比企谷くんが勝手にやったって言うなら、あたしも勝手にやるもん」
意固地になったユミは言うことを聞かないから、素直にその好意を受け入れることにする。由比ヶ浜さんもなぜかやる気のようだが、まあ、いいか。
「お、おう。じゃあ遠慮なく。ありがとな二人とも」
「ハチ、それ反則。…結衣、ハチはあーしのものだからね。そこんとこよろしく」
「あ、あはは。幼馴染には敵わないかなーって」
「何が反則なんだよ。それともの扱いは止めろ」
「さっきの笑顔、あーしと家族以外に向けるの禁止。絶対だかんね。ハチはあーしのものなのは変わらないんだからいいっしょ?」
家族以外に見せるの禁止って、なんだそれ、そんなにキモいのか俺の笑顔。そして俺はユミの所有物決定なんですね。とほほ。
「あー。なんかごめんな、由比ヶ浜さん」
「あー、まー、そのー、ギリギリアウトくらいな感じ?たはは、何言ってるかよくわかんないね」
俺と目を合わさないようにして、由比ヶ浜さんがユミの方をチラチラと見ながらそう言ってくれる。怯えて逃げ出したりしないだけましなのかもしれない。まあユミの存在が大きいのだろうけど。
「結衣ん
「うん。それまであたしが比企谷くんの荷物持っていくね」
「じゃあ、よろしく頼む」
ユミから俺の鞄を受け取って、ユミと並んで歩き始める由比ヶ浜さん。俺はそんな二人の後ろを松葉杖を突いてゆっくりと着いて行く。
「ハチ、クラスで友達できた?」
「いや、特には。グループみたいのは出来上がってたし。いいんだよ俺は、一人静かに過ごせればそれで」
「ふーん。部活とかは入る予定ある?」
「ユミはテニス部に入るのか?」
「んー。高校のテニスってガチだから遠慮する。限界も見えていたし。部活とか入らないで何人かとつるんで遊び倒すとか良くない?」
楽しそうにそんなことを言ってから、ニヤリと口元を歪める。悪い予感しかしない。
「もち、ハチは荷物持ちだかんね」
「……俺が部活に入るって言ってもか」
「さっきも言ったけど、高校の部活って結構ガチなんよ。文系のやつは怪しいのばっかだし、それでもハチは部活に入る?」
「毎日は無理だぞ。小町が心配だ」
「大丈夫。小町からはハチを連れ回っていいっていう許可貰ってるし」
「既に妹から売られていただと!?」
まさか小町までユミ側に回っていたとは。これで俺は中学に続いて高校でもユミに連れ回されることが確定したのであった。
まあ、ユミに連れ回されるのは嫌じゃないんだけどな。
ユミのおかげで人付き合いの苦手な俺でもそこそこうまくやっていけたし、ハブられたりすることはなかったからな。女子率高めで、パシらされたりはしたけれども。
駅前で由比ヶ浜さんと別れ、ユミに鞄を持ってもらって改札を通る。そのままタイミングよくホームに来ていた電車に乗り込み、ユミに優先席に座らされると膝の上に二人分の鞄を載せられた。
「足、痛くない?」
「ああ、大丈夫」
「なんなら、明日、あーしが自転車に乗せていこうか?」
「チャリに二人乗りじゃ、松葉杖運べないだろ」
「じゃ、足治ったら、あーしをハチの後ろに乗せて」
「治ったらな」
「ふふ。約束」
微笑みを浮かべて、目の前に小指を出してくるユミ。俺がその小指に自分の小指を絡めると、ユミはそれを小さく上下に振る。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本の~ます。指切った」
「相変わらず指切り好きだな」
「まあね」
昔からユミは指切りをやりたがった。俺もユミとの指切りは嫌いではなかったのでよく指切りをしては、ユミにいいようにこき使われていた。
ユミに弁当を作ってもらったりとか、膝枕で耳かきをしてもらったりとか、プールに遊びに行ったりとか、良いこともあったからね。うん。
他愛のない会話をして家の最寄り駅で電車から降りる。改札を通り住宅街への道をユミの後ろに着いて歩いて行くと、近所の公園の前でユミが足を止めた。
「ちょっとさ、寄っていかない?」
「まあ、別に構わんが」
「じゃ、こっち」
そう言って滑り台の前まで歩いて行くと、ユミは俺を滑り台の降り口に座らせる。
「あーし、怒ってんだからね」
「いきなりなんだよ」
「学校に一人で行ったこと」
「いいだろ別に」
「良くない。小町からも頼まれてるし」
「また妹に売られていた」
兄よりも隣のお姉さんの方を大切にしすぎじゃないですかね?妹よ。
「で?なんでこんなところに寄り道してんの?」
「………約束、覚えてる?」
俺は滑り台の降り口に座っているから、目の前に立っているユミが俺を見下ろすような形になっている。
ユミは髪を弄りながら俺を見ているのだが、少し考えてみても何のことを言っているのかがわからなかった。
「ユミ、その、約束って?」
「昔、ここで指切りした。正確に言うと滑り台の下でだけど」
小さくそう言いながらユミは俺の両肩に手を置いて、目線を俺の高さに合わせるようにしゃがみ込んだ。
目の前に、ユミの顔が近づいてくる。
「はちまー」
顔を覗き込みながら、ユミは幼い頃の呼び方で俺を呼んだ。
「……ユミちゃん」
俺もユミのことを幼い頃の呼び方で呼び返す。
――はちまー。おおきくなったらあーしをおよめさんにしてくれる?
――うん。ユミちゃんをおよめさんにする。
――ゆびきりげんまん。うそついたら、はりせんぼんのーます。ゆびきった。
そうだ。確かにこの滑り台の下で、ユミをお嫁さんにするって約束をした。
「……まだ結婚できる歳じゃねえんだけど」
「うん。知ってる」
「予約していいか?……三浦優美子さん。俺と付き合ってください」
「はい。よろしくお願いします。好きだよ。ハチ」
「俺も好きだ。ユミ」
「……ん」
お互いの気持ちを確認した後、ユミに唇を奪われた。そういえばあの時もそうだったなあと、俺は幼い頃に滑り台の下で指切りをした後のことを思い出していた。
俺たちのファーストキスは幼稚園児のときでした。