やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。Delusion story   作:神納 一哉

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この話は入学式の事故で八幡が左足麻痺という後遺症を持ってしまったらというDelusion storyです。

ご都合主義、キャラ改変、原作改変になります。

八幡は家族に愛されていて、雪乃もそんなに尖っていません。

そう言ったものが駄目な人はブラウザバック推奨です。


もしも比企谷八幡が事故の後遺症を持っていたら

高校生活を振り返って 二年F組 比企谷 八幡

 

俺の高校生活は入院生活から始まった。

 

入学式の日、道路に飛び出した犬を助けようとして車の前に飛び出してしまったのだ。

 

結果、俺は車に轢かれ、入院四週間、全治二カ月という大怪我を負った。

 

飛び出した俺が悪いのにもかかわらず、俺を轢いた車の持ち主は治療代と入院費、通院費を出してくれて、お見舞いにも来てくれた。感謝しかない。

 

入学式から約一月後、五月中旬より、松葉杖を突きながらではあるが高校生活を開始した。

 

クラスメイトも必要以上に関わってこない。ぼっちには最適な生活を送ることが出来たと思っている。

 

問題があるとすれば、怪我が完治しても松葉杖が手放せなくなったことだろうか。左足麻痺という後遺症が残ってしまったのだ。

 

まあ自業自得だろう。体育の授業は免除されるので、ある意味ラッキーである。障害者手帳ももらえたし。

 

あまり運動をしない分、勉強をすることが多くなったので、学力も向上したと自負している。これからは理数系をもう少し頑張りたい。

 

二年になりクラスが変わったが、誰の邪魔にもならないよう、これからも快適なぼっち生活を送りたいと思います。

 

勉強も頑張ります。

 

     ×  ×  ×

 

放課後の職員室に呼び出された俺は、椅子に座っている白衣の女性教諭の前で立たされていた。

 

担当教科は現国だったと思うんだが、なぜ白衣を着ているのだろうか?

 

「比企谷、この作文は何だ」

 

「確か、高校生活を振り返ってという題名の作文だったと思いますが」

 

「うむ。間違ってはいない。間違ってはいないのだが…。なあ比企谷、君には友人はいないのか?」

 

「極力人と関わらないようにしていますけど、ひとりだけ相手をしてくれる物好きな友人がいます。恋人はいません。それでも学校では階段を上るときとかは元クラスメイトやクラスメイトが手を貸してくれるので感謝しています」

 

「随分と達観しているのだな」

 

「こんな身体でしょう。下手に他人と関わって裏切られたらそれこそ命に関わりますからね。自衛手段ですよ」

 

「いや、そんなことは無いと思うが」

 

「…中学の時に他人の悪意ってやつに敏感になりましてね。五体満足だったその時でさえ命の危険を感じたのだから、こんな身体で多人数に囲まれたらそれこそ死活問題ですよ」

 

「………君は、部活とか入っているのか?」

 

「入っていませんね。帰宅にも時間がかかりますし」

 

「ふむ。それならば一緒に来たまえ」

 

「へ?いや、あの…」

 

颯爽と立ち上がって職員室の扉を開けて廊下へと出ていく白衣の女性教諭の後姿を見て、俺は大きなため息を一つ漏らしてからゆっくりと職員室を出て、扉を閉める。それから特別棟の方へと歩いて行った女性教諭の後を追って、カツカツとリノリウムの床を杖で突きながら進んで、階段の前で立ち止まった。

 

松葉杖を二本まとめて左手で持ち、右手は階段の手すりにかけて一段ずつゆっくりと階段を上っていく。一人で階段を上るのにもだいぶ慣れたつもりだが、それでも再び白衣の女性教諭の姿を目にしたのは、階段を上り始めてから三分ほどの時間が経過してからだった。

 

「遅かったな」

 

「………これでも結構早くなった方なんですがね」

 

「軟弱者め」

 

「………それで、目的地はそこの教室ですか?」

 

「ああ、そうだ。雪ノ下、入るぞ」

 

プレートに何も書かれていない何の変哲もない空き教室の扉を、白衣の女性教諭は無造作に開いて中に入る。

 

「平塚先生。入るときにはノックを、とお願いしていたはずですが」

 

「ノックしても君は返事をした試しがないじゃないか」

 

「返事をする間もなく、先生が入ってくるんですよ」

 

白衣の女教諭―平塚先生―の言葉に、彼女は不満そうな視線を送ってから、ちらりと俺を見て表情を固くした。

 

俺は、彼女を知っている。

 

二年J組、雪ノ下雪乃。

 

普通科よりも偏差値が二~三ほど高い国際教養科において、一際異彩を放っている、学年成績一位の才色兼備な美少女。それが雪ノ下雪乃である。

 

「平塚先生。一つお聞きしますが、彼を連れてきたのは何故でしょうか?」

 

「ああ。彼は比企谷。入部希望者だ」

 

「おい、入部希望者ってなんだよ」

 

「君にはペナルティとしてここでの部活動を命じる。異論反論抗議質問口答えは認めない」

 

俺に抗弁の余地を許さず、平塚先生は怒涛の勢いで判決を申し渡す。

 

「平塚先生。私が聞いているのはそういうことではないのですが」

 

「ふむ。どういうことかね?」

 

「彼は彼の意志でここまで来たのか、それとも、平塚先生に従ってここまで来たのかです。最も、平塚先生が命じている時点で、彼の意志でここに来たわけではないということがわかりました」

 

「まあ、こいつはやけにのんびりと階段を上ってきたが」

 

やれやれというように両手を広げて平塚先生がそう言うと、雪ノ下は冷ややかな表情を浮かべて平塚先生を見た。怖い怖い。

 

「………左足麻痺の人を介助せずにここまで来させたのですか?」

 

「そう大したことでもないだろう?たかが三階だ」

 

「では試しに体感してみてください。話はそれからです。よろしいですか。平塚先生」

 

「体感ってどういうことかね?雪ノ下」

 

そう尋ねる平塚先生を無視して、雪ノ下は俺の前へと近づいてくると、慣れた手つきで左手の松葉杖を取り、そのまま俺の左腕を担ぐようにして持ち上げて、その細身で俺の身体を支えて部室内へと歩き出す。

 

それから部屋の中央のテーブル側に置かれた椅子に俺を座らせた。

 

「比企谷くんは部室で待っていてちょうだい。あとで紅茶を淹れるわね。それと、松葉杖をお借りしてもいいかしら」

 

「ああ。悪いな」

 

「いえ。じゃあ、いい子にしていてちょうだい」

 

「お前は俺の母ちゃんか」

 

「そうね。薫陶はいくらか受けているわ」

 

そんな言葉を残して、雪ノ下は部屋の隅に置かれていたロッカーを開け、中からブックバンドのようなものを数本取り出し、それを持って廊下へと出て行った。平塚先生が何かを言っているのが聞こえたが気にしないでおく。

 

雪ノ下は一年前の入学式の日に俺を轢いた車に乗っていたらしい。

 

事故当日には見舞いに来たし、入院中も週にニ、三回の割合で授業のノートを持って見舞いに来てくれた。おかげで勉強が遅れることもなかった。むしろ普通科の俺に国際教養科の授業レベルは良すぎたまでもある。

 

お互いの趣味が読書ということもあり、雪ノ下とは馬が合った。退院する頃には連絡先の交換も済ませており、いつしか友達としてメールをやり取りをしたり、本を貸し借りしたりする程度には仲良くなっていた。

 

先程言った物好きな友人とは雪ノ下のことだ。そんなわけで俺は雪ノ下のことも奉仕部のことも良く知っている。

 

俺の障害が確定し、梅雨が明けた頃、雪ノ下が部活を始めたと連絡を入れてきた。曰く奉仕部。困っている人に救いの手を差し伸べるボランティア精神に基づいた部活動とのことだ。

 

奉仕という言葉の響きにエロスを感じちゃうのはしょうがないよね。健全な男子高校生だもの。

 

それはさておき、おそらく雪ノ下は平塚先生を階段下まで連れていき、左足を屈脚固定してから左手に松葉杖を持たせて階段を上らせるはずだ。パンツスーツだったから屈脚固定も問題ないだろう。

 

「雪ノ下の奴、体力無いのに無理したんだよなあ」

 

俺はそう呟くと、雪ノ下に特別棟の階段前に呼び出された時のことを思い出し、苦笑するのであった。

 

     ×  ×  ×

 

「比企谷くんには一人で階段を上る訓練をしてもらおうと思います」

 

ある日の放課後、特別棟一階の階段前で、雪ノ下はジャージ姿でそう宣言した。

 

「いや、駅とか商業ビルにはエレベーターがあるし」

 

「移動教室は二階だったりするでしょう?それに二年になれば教室も上の階になるわよ。それまでには階段を上れるようにしておかないと」

 

「ふむ。言われてみれば確かにそうだな」

 

「幸いなことに、奉仕部の部室は特別棟の三階にあるの。階段を上る訓練には最適だと思わない?」

 

「いきなり三階っていうのはきつくない?まあ家の俺の部屋も二階にあるから、階段は上っているんだが」

 

俺が入院しているうちに、家の廊下や階段には手すりを付けてくれた。階段は両側に付けてくれたので、室内では松葉杖を使うことはなく、外出専用となっている。

 

「比企谷くんの家の階段は手すりが両側に付いているから、公共施設の階段とは違うでしょう?」

 

「………なんで知っているんですかね?」

 

「施工したのは雪ノ下建設関係の工務店よ」

 

「なんか、悪いな」

 

「雪ノ下家は紹介しただけよ。工賃はちゃんと比企谷くんのお父様から適正価格をいただいたのだから、気にすることはないと思うのだけれど」

 

「ん。そうだよな」

 

親父に感謝しつつ、階段前まで進んでから松葉杖を二本纏めて左手に持ち、右手で階段の手すりを掴む。

 

「とりあえず、二階まででいいか?」

 

「ええ。私はあなたのすぐ後ろで待機しているから」

 

「それ危ないからね」

 

「信じてるわ。比企谷くん」

 

「………善処します」

 

右足を上げてから体を捻って左足を持ち上げ、一段づつ上っていく。結構な重労働である。

 

そうやって十分ほどの時間をかけて二階へ到達すると、俺は踊り場の端で床に崩れ落ちた。

 

「………きっつ。麻痺舐めてたわ。障害者手帳が出るだけのことはある」

 

「そうね。ここまで時間がかかるとは思っていなかったわ。そんなにきついものなのかしら?」

 

「正座した状態で左足を縛って固定してみろよ。そうすれば左足麻痺の感覚が疑似体験できるぜ。最も、体を捻って上に持ち上げる必要が無いから、厳密に言えば膝下欠損状態だけど、それでも少しは気持ちがわかるかもしれん」

 

「………比企谷くん、ベルトを貸してもらってもいいかしら?あと、松葉杖も」

 

「別にいいけど、やってみる気か?」

 

「ええ。幸い運動しやすい恰好だし、障害というものがどういった感じかを知るにもいい機会ですもの」

 

そう言って微笑むと、雪ノ下は俺からベルトと松葉杖を奪い、俺の側に正座をしてから折り畳んだ左足にベルトを巻き付けて締めあげ、固定した。

 

「………立つのも一苦労だわ」

 

雪ノ下は何度かの試行錯誤の末、立ち膝状態から松葉杖を使って立ち上がると、ゆっくりと階段の方へと歩を進めていく。

 

「ここで、左手で松葉杖を揃えて持って…、右手で階段の手すりを持って…」

 

「気を付けろよ」

 

「ええ…」

 

床を這って階段下へと辿り着くと、俺は右手で手すりを持ち、勢いをつけて立ち上がった。

 

「念のため、俺も雪ノ下の後ろで待機するが、あまり期待しないでくれ。落ちそうになったら、まずは松葉杖を離せ。いいな」

 

「………わかったわ」

 

そんな感じで、結果、雪ノ下が上れたのは二階と三階の中間の踊り場までだった。踊り場に膝をついて倒れてゼイゼイ言っている雪ノ下が色っぽく見えたのは内緒だ。

 

「ごめんなさい。片足の自由が利かないのって思っていた以上に厳しかったわ」

 

「まあ、わかってくれればそれで十分だ。ありがとうな」

 

「別に、お礼を言われる筋合いはないのだけれど」

 

「俺が言いたかっただけだから、気にしないでくれ」

 

     ×  ×  ×

 

「比企谷、すまなかった」

 

部室に入って来るとすぐ、平塚先生は俺の前で土下座をしてそう言った。

 

ちらりと雪ノ下に視線を送ると、彼女は掌の上にブックバンドのようなものを載せて揺らしながら小さく口角を上げる。

 

「私が体感した左膝下欠損よりも、比企谷の症状の方が重いんだよな。それなのに君はかなりの速さでここまで上ってきていた。私には到底できないことだ」

 

「まあ、雪ノ下が特訓を手伝ってくれましたから。慣れてるんですよ。ここの階段は」

 

「君が言っていた友達とは、雪ノ下のことだったのか」

 

「ええ、まあ。奉仕部の理念とも合致するとかで、階段の上り下りの特訓をしてもらいました」

 

「雪ノ下も人が悪い。なぜ連絡してくれなかった」

 

「………その、奉仕部としての仕事ではなく、友達の手伝いだったので」

 

話を振られた雪ノ下は、なぜか顔を赤くしながらぽしょりとそう呟いた。

 

それを見た平塚先生が、底意地の悪そうな笑みを浮かべる。

 

「ほう。友達の手伝いねえ」

 

「はい。友達の手伝いです」

 

「部活動の時間にねえ」

 

「部室にはこの階段を使わないと行けませんから大丈夫だと判断しました」

 

「ふむ。まあそういうことにしておこう」

 

「ご配慮、感謝します」

 

雪ノ下がそう言って頭を下げると、平塚先生は俺に向き直った。

 

「比企谷、ペナルティとして部活動を命じるのは撤回させてもらう。そのうえで、お願いがあるのだが聞いてもらえるか?」

 

「なんでしょうか?」

 

「奉仕部に入ってくれないか?友人と過ごす放課後は楽しいと思うのだが?どうだ?」

 

そんなもの、答えは決まっている。

 

ちらりと雪ノ下に視線を送ってから、俺は平塚先生に返事をする。

 

「わかりました。奉仕部に入部します」

 

これから、俺の高校生活は忙しくなりそうだ。

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