やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。Delusion story 作:神納 一哉
職場見学の少し前あたりの昼休みになります。
由比ヶ浜はこの日は三浦、海老名と教室で過ごしていました。
ご都合主義、原作改変、キャラ改変(崩壊)です。
そういったものが嫌な方はブラウザバック推奨です。
今日は雨が降っていて、ベストプレイスで昼食をとることができそうになかった。
かといって、教室で弁当を食べるのは気が引ける。というのも、昼休みの俺の席は、普段なら俺がベストプレイスで食事をしているのをいいことに、名も知らぬクラスメイトの女子が占拠しているのだ。今も俺のこと見ているし。
俺は弁当を持つと、いつもよりはやや遅れて教室から退散する。
自販機でスポルトップと共に野菜生活100いちごヨーグルトミックスを購入し、特別棟の階段を上って奉仕部の部室となっている教室の前に辿り着いた。
なんとなく居住まいを正してから教室の扉を四回ノックする。
「どうぞ」
「邪魔するぞ」
雪ノ下の返事を確認してから扉を開け、放課後にいつも使っている椅子を引いて腰を下ろす。
「いつもは外で食ってるんだけど、さすがにこの雨だと食えなくてさ。悪いけどここで飯食ってもいいか?あ、これ、場所代がわり」
野菜生活100いちごヨーグルトミックスを雪ノ下の前に置き、机の上に弁当箱とスポルトップを置いて、ちらりと雪ノ下を見る。
雪ノ下の前には緑色を基調としたナプキンが敷かれ、その上にいかにも女の子のお弁当といったお弁当箱の蓋がちょこんと置かれていた。
雪ノ下は左手にお弁当箱を持ち、右手は箸を持ったままで、俺の方を見ていた。
「あ、同じ机じゃ嫌か?だったらあっちの隅の方で食うけど」
「いえ、この机で食べていいわよ」
「悪いな。じゃあお言葉に甘えて」
「………その、飲み物、ありがとう」
「どういたしまして」
いくらかのやり取りをした後で、自分の弁当を包んでいるナプキンを解きながら、気になっていたことを口にする。
「その七夕パンさんのナプキン。それって去年の限定のやつか?俺、買えなかったんだよな。後でちょっと見せてもらってもいい?」
「ええ、食事が終わってからでよければ」
「ありがとう。楽しみだ」
「比企谷くん。あなた、パンさんが好きなのかしら?」
「ああ。大好きだ。むしろパンさんが好きすぎて、裁縫を覚えたまでもある」
「そのナプキンの絵柄は、パンさんの夕涼みの一場面かしら?まさかそれはあなたが?」
「目敏いな。確かにこれは、パンさんの夕涼みの一場面をモチーフに刺繍したナプキンだ。それに気づくとは、雪ノ下、お前もかなりのパンさん仲間だな」
パンさん仲間を見つけて思わずテンションが上がってしまい、ブログのコメントに返事をするような気やすさで雪ノ下に話しかけてしまった。
ちらりと雪ノ下を見ると、彼女は弁当箱の上に箸を置いて掌を握り、なにやらふるふると震えているように見える。
ヤバい、馴れ馴れしくしすぎて怒らせてしまったか。
「比企谷くん。あなたもパンさん仲間なのかしら?」
「愚問だぞ雪ノ下。俺の口からパンさん仲間という言葉が出た時点で、確かめなくてもわかるだろう?」
「それもそうね。ごめんなさい。高校で初めてパンさん仲間を見つけたから、気分が高揚してしまったみたいだわ」
「いや、気持ちはわかる。俺がさっき馴れ馴れしくしすぎたのも、気分が高揚したからだし」
「ふふ。ではお互いさまということにしましょう。とりあえず、食事を済ませてからお話ししましょうか」
「ああ。そうしてくれると助かる」
雪ノ下は怒っていたのではなく、俺と同じようにテンションが上がっていたということだった。
理由も俺と同じく、パンさん仲間を見つけたからだということに、俺の雪ノ下への好感度が赤丸急上昇である。
パンさん仲間に悪い奴はいない。ちなみに『パンさん仲間』というのは、非公式ながらも多数のパンさん好きからの支持を誇るパンさんファンクラブ『孤独なパンさん』というブログで提唱された、パンさん好きの仲間を表す言葉である。
弁当を食べながら、今日は七十五点くらいかなと自己採点をする。ちょっとおかずのバランスが肉寄りになっているのが減点の理由である。明日は逆に野菜を増やして調節しよう。
「………明日は野菜のテリーヌで野菜分を増量するか。実際のメインはささみの大葉包みとかにして、卵焼きときんぴらごぼう、きゅうりの一夜漬けなんかを入れれば野菜増し弁当にできるな」
「その野菜のテリーヌには何を使うつもりかしら?」
「そうだなあ。ほうれん草と人参と玉ねぎ、ひき肉の代わりにライトツナフレークを使えばいい感じになると思うんだが」
「確かにお肉じゃなくてツナ缶を使うのはいいアイデアだと思うわ。比企谷くん。あなたお料理もするのね。それもかなりの腕前とお見受けするけれど?」
「いやいや、まだまだ修行中だから」
「比企谷くんなら、由比ヶ浜さんにもっとうまく教えられたのではないかしら?」
「いや、無理。そもそも人にものを教えることなんて俺にはできる気がしない。それに、由比ヶ浜は俺の言うことをおとなしく聞いてくれないだろう。キモがられて終わりだ」
「そうかもしれないわね」
お互いに苦笑して話を切り上げ、食事を終わらせることを優先することにした。雪ノ下となら料理の話をするのも楽しいかもしれない。
弁当を食べ終わり、スポルトップで喉を潤してから、弁当箱の下に敷いていたナプキンを持ち上げて雪ノ下の方を見る。雪ノ下も同じようにナプキンを持ち上げてこちらを見ていた。
「あー、その、良かったら?見せてもらっても?」
「ええ。その代わり、比企谷くんのナプキンも見させてもらってもいいかしら?」
「じゃあ、とりあえず交換ってことで」
「ええ。ありがとう」
雪ノ下には俺のナプキンを渡し、雪ノ下から渡された七夕パンさんのナプキンをチェックする。
さすがは本家ディスティニー謹製。パンさんの魅力を引き出している。
「パンさんへの愛を感じるわ。素晴らしい作品ね」
「そう言われるとクラフター冥利に尽きるな」
「他にも何か作っていたりするのかしら?」
「ストラップとかぬいぐるみとか、抱き枕とかも作ったりはしてるけど」
「もしかして、猫乗りパンさんとか、両手を広げたパンさんの抱き枕とか?」
「まあ、そうだな」
「比企谷くん。あなた『パンさんと猫とハチさん』のハンドクラフターのハチさんなのかしら?」
「まあ、そうだな」
雪ノ下に素性がばれた。いやまあパンさん仲間だから別にいいんだけど。
「ちなみに、猫乗りパンさんが乗ってる猫は、俺んちの飼い猫がモデルだ」
「ハチさんの作品の実物が見れて、その上猫さんまでいるなんて、比企谷くんの家は桃源郷なのかしら?」
「雪ノ下も猫好きか?」
「ええ。大好きよ」
少し紅潮した頬でにこりと微笑まれる。何この子、凄い可愛いんですけど。
「なあ雪ノ下。俺ととも………」
「よろしくお願いします。とりあえず連絡先を交換しましょう。猫好きのパンさん仲間なんてこれはもう運命の出会いと言っても過言ではないわ」
俺に全てを言わせずにスマホを取り出して連絡先の交換を促してくる雪ノ下。まあ異論はなかったので、俺もスマホを取り出して連絡先を交換する。
「ふふ。比企谷くんがパンさん仲間だなんて、世の中は狭いわね。そうだわ。お近づきの印にその七夕パンさんのナプキンを受け取ってもらえるかしら。使用済みのもので申し訳ないのだけれど」
「ありがたい申し出だが、いいのか?もう手に入らないものだろう?」
「同じものを何枚か持っているから気にしないで」
「じゃあありがたく頂戴する。代わりと言っちゃなんだが、そのナプキンを受け取ってくれ。使用済みのもので申し訳ないが」
「いいの?一点物だと思うのだけれど」
「刺繍の技術向上のために縫ったものだから、似たようなのがいくつかあるんだ。家族には猫の刺繍の方が受けがいいからなかなか使ってもらえなくてな。それに自分で使うよりもパンさん仲間に使ってもらう方が俺としても嬉しいし」
「そういうことなら、ありがたく頂戴するわ。友情の証として大切に使わせてもらうわね」
「お、俺も、友情の証として大切に使わせてもらうぞ」
「ふふ。ありがとう」
そう言って微笑む雪ノ下に見惚れた俺が無言になったことで、雪ノ下が心配して話しかけてきたそうだが、全く記憶に無い。
予鈴を聞いて我に返ると、涙目の雪ノ下が俺の顔を覗き込んでいて、反射的に思わず仰け反ってしまい、拗ねた雪ノ下を宥めるために結果として五時限目をサボったのは二人だけの秘密だ。
そしてこの昼休みを境に雪ノ下の俺に対する態度が変わりすぎて、由比ヶ浜や平塚先生、葉山や戸塚、材木座に色々と追及されることとなり、なし崩し的に皆に俺の趣味がバレてしまったことが、これからの高校生活において吉と出るか凶と出るかは、経過をみてみないとわからない状況である。
まあでも、趣味嗜好の似通った友人ができたので良しとしよう。
何が言いたいかと言うと、パンさん仲間は最高だということかな。