新たな目標
全国大会が終わり9月となり星鳳高校も2学期となり授業が始まる。
新学期に入ると夏休み中にガンプラ部が全国大会で準優勝した事を大々的に祝われたが、彼らからすれば最後に負けて帰って来た事もあって内心は複雑だった。
新学期に入り少しするといつもの日常が戻る事となるが、龍牙達の日常は以前とは少し違っていた。
まず、新学期早々、大我が学校を休学している。
理由は龍牙達には分からないが、龍牙達も全国大会の決勝前夜から大我とは一度も顔を合わせてはいない。
同時に大我はガンプラ部を退部している。
そして、ガンプラ部も目標としていた全国大会が終わり、3年生の史郎は引退して2年の静流を新部長として新体制で始動した物の当面の目標もなくただ毎日を過ごす日々が続いている。
これまでは地区予選を勝ち抜き全国大会を目指す事を目標にして、全国大会出場が決まってからは全国大会を勝ち抜く事を目標にして来た。
その全国大会も終わり、目標もなく龍牙達は部室に集まっている。
竜胆は部室に寄りつかず一人でGBNにログインしていて、岳も一人で黙々と新しい作品の制作に取り掛かっている。
史郎は部長の引き継ぎでちょくちょく顔を出している。
決勝戦で負けたあの日の事は誰も離さない。
アリアンメイデンとの戦いは聖鳳高校は結果だけを見れば手も足も出せずに惨敗した。
その大きな敗因は大我が抜けた事だが、それは誰も口にしない。
それを口にして認めてしまえば、自分達は大我がいなければ全国大会を戦えなかったと認めてしまうからだ。
だからこそ、大我への恨み言一つ零さずに自分達の無力さを噛みしめるしかなかった。
「……何か最近部室の空気が重いですね」
明日香が場を和ませようと誰に問いかける訳でも無くポツリと零す。
それに誰かが答えると言う訳でもないが、重い空気に見かねた静流が先ほどから見ていたPCの画面を龍牙達の方に向ける。
「いい加減終わった事を気にする事は止めなさい。中々面白い記事を見つけたわ」
静流にそう言われて龍牙達は何気なく静流に向けられたPCの画面を見る。
画面にはGBNの海外のサーバーで行われているバトルの記事のようで日本語に翻訳されている。
「えっと……アメリカ代表決定戦に流星の如く現れた超新星……このガンプラ!」
内容としてはアメリカサーバーで行われている世界大会の代表決定戦で破竹の勢いで勝ち進んでいるフォースの特集記事のようだ。
そして、一番大きな写真に写されているガンプラに龍牙達は知っていた。
全国大会準決勝で共に戦ったガンダムバルバトス・アステール・アルファだ。
記事は大我の所属フォースであるビックスターの特集記事で大我がビッグスターのエースとして紹介されている。
その記事を見る限り、大我は立ちはだかる敵を一撃で粉砕して来ているようだ。
「アメリカ代表決定戦が全国大会決勝戦をすっぽかした理由みたいね」
「世界……藤城の奴……そんな舞台を見ていて……」
以前大我は全国大会を馬鹿にするような事を言っていた。
あの時はただ自分達の目標を馬鹿にされたようでただ腹が立った。
今でもそれを認めた訳ではないが、大我がそれ以上を見据えていた。
龍牙は無意識のうちに拳を握り締める。
自分達の目標としていた全国大会は終わり、目標を見失った日々を過ごしていた。
その間にも大我は世界大会と言う大舞台を目標に日々精進を重ねていた。
それが龍牙には悔しくもどかしく感じた。
「あの! 黒羽先輩! その世界大会にはどうしたら出られるんですか?」
そんな龍牙の心のうちを察した明日香が静流に追いかける。
その質問の答えは龍牙でも知っている。
「そうね。日本の代表は毎年全国大会の優勝チームが出ているわね」
「そんな……」
明日香にもその意味が分かり、視線を逸らす。
星鳳高校が負けた全国大会の決勝戦で勝っていれば星鳳高校は世界大会に出る事が出来ていたのだ。
「負けた私達に世界大会に出る資格はないわ。それも藤城君がすっぽかしたせいでね」
「それは……」
静流の言葉に部室の空気が更に重くなる。
部員の誰もが少なからず思っていた事だ。
決勝戦に大我が入れば勝てたかも知れないと。
それでも口に出さず、思っていた事も無かった事にしていた言葉を静流は口にした。
「いい加減認めないと前には進めないでしょ。私達は藤城君がいたから全国に行けたし、決勝まで勝ち進めた。でも、藤城君がいなくなったから負けた」
静流の言葉に誰も反論出来ない。
今まで星鳳高校が勝ち進めたのは大我が敵のエースを倒して来たからだ。
もはや、それは認めざる負えない事実だ。
「もう彼はここには戻ってこないでしょうね。これで来年結果を残せなかったら。私達は……」
「そんな事はさせません!」
龍牙は勢いよく立ち上がると静流の言葉を遮る。
「藤城の奴がいなくても俺達は戦えます! 来年はもっと強くなって優勝します! そして、世界大会で藤城にも勝ちます!」
そう言い切る龍牙に目には闘志が宿っている。
静流も敢えて大我の事を教えた甲斐があったと言うものだ。
目標を失いただ日々を無意味に過ごしていたが、新しい目標が出来て龍牙はそこに向かって突き進むだろう。
「盛り上がっているところ悪いんだけど、来年なんて言ってられないんだよな」
そこに諒真が割り込んで来る。
諒真とも全国大会が終わってからは顔を合わせる機会は無かった。
「会長? どういう事ですか?」
「それがさ、さっき学校に連絡があったみたいでさ。今年の日本代表の選出方法が変わったんだよ」
学校の方にGBNの運営から連絡があり、それを生徒会長である諒真の元に伝えられてこうしてガンプラ部に伝えに来た。
「今年の優勝校のアリアンメイデンが世界大会出場を辞退したんだよ」
「まさか……それで準優勝のウチが?」
本来世界大会に日本代表として出場する筈のアリアンメイデンだったが、監督の麗子から辞退したいとGBNの運営の方に申し出があった。
理由としてはアリアンメイデンの実力では世界を相手に勝ち抜ける程の実力ではないからだと言う事だ。
事実として世界から見て日本のジュニアクラスの実力は低いと言わざる負えない。
特にアリアンメイデンは戦い方も固定されている為、世界と戦うのは厳しい。
それでGBNから学校側に連絡が来たと言う事は静流は準優勝校の星鳳高校が繰り上げで世界大会に日本代表として出ると思い至ったが、諒真は首を横に振る。
「そこまで上手い話じゃないんだよな。アリアンメイデンの監督さんがそのまま日本代表の監督として就任する事は変わりないけど、メンバーの選出が変わったんだよ」
麗子は辞退したが、代わりに新しい代表メンバーの選出を提案した。
その選出方法がきっかけで学校に連絡が来たようだ。
「まずはランキングの上位3人、つまりはダイモン、コジロウに千鶴の3人だ。そこに全国大会の優勝チームと準優勝チームから各2人づつ」
諒真は指を立てながら説明する。
ランキング上位と全国大会で優勝と準優勝チームからメンバーを選出するようで、星鳳高校は準優勝している。
つまりは星鳳高校から2人を世界大会の日本代表として選出するように言われたと言う事だ。
「ここまでで7人。世界大会の代表は10人必要だから残りは3人。この3人は監督がスカウトして来るらしい」
ランキングや大会の順位は目安に過ぎない。
中にはランキングで上位に入れなかったチームの中にも麗子が必要とする人材がいる可能性を踏まえて、残りの3人は麗子がスカウトして来る。
そして集められた10人が今年の世界大会の日本代表と言う事になる。
「ウチから出す2人は最低限全国大会で1戦以上は出ている奴に限るけど、俺も縦脇も出る気がないからそっちで出たい奴が出て良いから」
諒真は用件だけ言うと帰って行く。
諒真が帰った部室は静まり返る。
「……先輩」
「分かっているわよ。出たいんでしょ?」
龍牙は頷く。
何か裏があるんじゃないかと勘繰りたくなるような振って沸いた話しだが、これに乗らない手はない。
「話しは聞かせて貰った」
そこに今度は竜胆が部室に入って来る。
竜胆も日本代表の話しは聞いているようだ。
「龍牙。少し付き合え」
「……分かりました」
これまで部室に余り顔を出さなかった竜胆が久しぶりに部室に来たらどこか雰囲気が違う。
龍牙は戸惑いながら竜胆に付いて行く。
「さて、一人目は神君としてもう一人はどうする?」
「私はいいかな」
「僕も世界を相手に戦えるだなんて自惚れは出来ないですよ」
明日香と冬弥は早々に辞退する。
「僕も興味はないな」
黙々と作業をしながら話しを聞いていた岳も辞退する。
静流は横目でちらりと史郎を見る。
「実力で言えば黒羽さんか八笠君なんだけど……」
「……部長はそれでいいの?」
静流は候補の中に始めから自分が入っていない事を遠回しに非難する。
「どうしたの? 急に。実力で言えば当然だと思うけど」
「本当に後悔しないの?」
静流の言葉に史郎は視線を逸らす。
史郎は答えず、部室の空気は重いままだった。
龍牙が竜胆に連れて来られたのは部活でもGBNにログインする為に使われるゲームセンターだった。
道中、竜胆からは何の説明も受けてはいない。
「竜胆先輩?」
「龍牙。今から俺と戦え」
竜胆はそう言うが雰囲気はただらなぬものを感じる。
「それは構いませんけど……」
「ただ戦うんじゃつまらない。そうだな……負けた方は世界大会に出る事を辞退するってのはどうだ?」
「辞退って」
「俺もお前も近接戦闘を得意としている。星鳳高校から似たようなタイプのファイターを送り出す訳にもいかないだろう。ウチから世界大会に出るのは俺かお前かのどちらかで良い」
龍牙にも竜胆の言う事は理屈としては分かる。
どちらも近接戦闘を得意としている。
世界大会を勝ち抜く為に集められたファイターの中に確定しているだけでも近接戦闘に長けている右京もいる。
何人も似たような戦闘スタイルのファイターは必要ないと言う事も理解出来る。
「……分かりました」
竜胆の意図は分からないが、竜胆とのバトルは回避できそうに無い。
それと同時に龍牙は竜胆を相手に今の自分がどこまで戦えるのかを試して見たくも思っていた。
そして、ここで尻込みをして逃げるようなら、世界を相手に戦える筈もない。
だから龍牙は竜胆とのバトルを受けた。
龍牙と竜胆はログインすると受付でフリーバトルの申請を行う。
以前に戦った時は大我が乱入して来て決着は付かず終いだったが、これなら決着が付くまで戦える。
バトルフィールドは以前に戦った時と似ている森林地帯でのバトルだ。
「今日は今までの練習とは違い一切の手加減は無しだ」
「望むところです」
バーニングデスティニーとドラゴンガンダムオロチは互いに向かい合い戦闘態勢を取る。
先に動いたのはドラゴンガンダムオロチ。
踏込み間合いを詰めると連続で青竜偃月刀を突き出す。
それをバーニングデスティニーは腕で受け流す。
連続突きを受け流されながらもドラゴンガンダムオロチは蹴りを繰り出し、バーニングデスティニーは腕でガードしながらも後方に下がる。
「腕を上げたな」
「竜胆先輩のお陰で。次は俺から行きます!」
バーニングデスティニーは勢いをつけて突っ込み殴りかかる。
その一撃を青竜偃月刀の柄で受け止めるとドラゴンヘッドを展開する。
「これをどう防ぐ?」
バーニングデスティニーはバルカンを撃ちながら後方に下がりながらドラゴンヘッドをかわす。
だが、ドラゴンガンダムオロチは距離を詰めて青竜偃月刀を振るう。
ビームシールドを展開して防ぐが、勢いで吹き飛ばされてしまう。
「どうした? その程度か! 龍牙!」
何とか体勢を整えるが、ドラゴンガンダムオロチは追撃の手を緩める事はない。
ドラゴンガンダムオロチの攻撃を防戦一方だったが、バーニングデスティニーのガードを青竜偃月刀で打ち崩すと胴体に蹴りを入れる。
バーニングデスティニーはそのまま蹴り飛ばされて倒れる。
「……やっぱ竜胆先輩は強い」
バーニングデスティニーは何とか立ち上がる。
「見せて見ろ。お前の力を!」
ドラゴンガンダムオロチはドラゴンヘッドをバーニングデスティニーに差し向ける。
8つのドラゴンヘッドは真っ直ぐバーニングデスティニーに向かって行く。
バルカンで迎撃し、2つは破壊出来たが残る6基がバーニングデスティニーに喰らい付く。
「けど……」
「ん? これは……」
「俺は!」
出応えは確かにあった。
6基のドラゴンヘッドに喰らい付かれたバーニングデスティニーはまだ動いていた。
「俺は……アイツと大我ともう一度戦うんです!」
バーニングデスティニーは6基のドラゴンヘッドの内、両手で1つづつ受け止めて、1つを足で踏みつけて防いでいた。
残り3つは左肩と右足、腹部に噛みついていたが、致命傷にはなっていなかったようだ。
バーニングデスティニーは踏みつけているドラゴンヘッドを踏み潰して、両手で受け止めているドラゴンヘッドを強引に引き抜いて破壊する。
「だから、俺は世界大会に出ないといけない……だから竜胆先輩でもそれだけは譲れません!」
自身に喰らい付いているドラゴンヘッドもバーニングデスティニーは無理やり引き剥がす。
ドラゴンヘッドの攻撃は致命傷にはならなかったが、バーニングデスティニーは満身創痍だが、拳を構えて龍牙の闘志は衰えてはいない。
むしろ、追い詰められて更に闘志が増している事を竜胆は肌で感じていた。
「ああ。それで良い! 来い! 龍牙!」
ドラゴンガンダムオロチはハイパーモードとなり金色に輝く。
そして、青竜偃月刀を構える。
バーニングデスティニーも光の翼を最大出力で展開する。
2機はにらみ合い同時に地を蹴る。
「ハァァァ!」
「うぉぉぉぉぉ!」
ドラゴンガンダムオロチに青竜偃月刀の突きとバーニングデスティニーの拳が同時に出る。
2機は交差してドラゴンガンダムオロチの突きはバーニングデスティニーの肩を切り裂き光の翼の片方が吹き飛ぶ。
光の翼の片方を失い、肩の装甲もフレームにまでダメージが及びバーニングデスティニーは膝をつく。
「……大した物だ。龍牙。お前は本当に強くなった」
ドラゴンガンダムオロチの胴体にはバーニングデスティニーの拳がめり込んでいた。
その一撃に膝関節が耐え切れずにもげていたが、龍牙の渾身の一撃は確かに竜胆に届いていた。
ドラゴンガンダムオロチは倒れ龍牙の勝利のアナウンスが入る。
「ありがとうございました!」
バトルが終了し、エントランスに戻って来ると龍牙は竜胆に頭を下げる。
龍牙も竜胆がこのバトルを仕掛けた意味に薄々は感づいていた。
表向きは似たタイプのファイターは必要ないと言うものだが、龍牙は自分が世界を相手に戦う覚悟があるのかを見極める為だったのだと思っている。
世界を相手に戦う為には先輩であろうとも力で押し退けるだけの覚悟が必要なのだと言う事をバトルを通じて教えたかったのだと。
「礼には及ばんさ。俺が勝てば本気で辞退させる気だったからな」
それは本当の事だろう。
竜胆に一対一で勝てないようでは世界を相手に戦えはしない。
「俺に勝ったからには藤城の奴と戦うだけじゃ駄目だ。戦って思い切りぶん殴って倒して来い」
「……分かりました。約束します」
龍牙は大我ともう一度戦いたいが為に世界大会に出ようとしていたが、竜胆はそれだけでは終わらせてはくれない。
竜胆は部の中で大我との折り合いが悪かった。
決勝戦を直前で行方を暗ませた事に最も腹を立てているのは竜胆だろう。
それに対して掲示板等で誹謗中傷をするのではなく、ファイターとしてバトルで決着を付ける手段として部を捨ててまで参加する世界大会で大我を倒して優勝を阻止する事が意趣返しとなる。
それを竜胆は龍牙に託した。
龍牙はその重さをかみしめた。
龍牙と竜胆の決闘の翌日。
諒真は再びガンプラ部の部室を訪れた。
この日は竜胆も含めてガンプラ部の部員は全員揃っている。
「それでウチから出す二人は決まったのか?」
諒真が来る前に昨日の事は皆に話し、竜胆は出ないと言う事も伝えてある。
そうなれば静流が出るのだろうと口には出さないものの誰もが思っている事だろう。
「皆、実力で言えば黒羽さんが出るのが一番なんだろうけど」
史郎は普段とは少し違い何か決意を持っている雰囲気で話し出す。
「僕が出てもいいかな」
それは誰もが予想していなかった事で反応に困った。
史郎にも参加資格はあるが、史郎の実力では世界を相手に戦えないと言う事は口に出さずとも明白だ。
「意外だな。俺は八笠か黒羽辺りになると思っていたが」
「僕もそれが一番だと思っていたよ。でも一晩考えたんだ。僕は全国大会の決勝戦で負けても悔しくは無かったんだよ」
史郎の言葉を皆は静かに聞いている。
全国大会で決勝戦で星鳳高校は負けた。
龍牙や竜胆、静流は敗北して悔しがり、岳は大会の結果自体には興味はなく、明日香や冬弥はそこまで行けるとは思っていなかった為、概ね満足はして敗北を受け入れていた。
だが、史郎は大我がいなくなった時点で内心では勝負を諦めていたのか、負けたのに悔しく無かった。
「それに僕は部長なのに大会では何も出来なかった。戦う事も皆をまとめる事も」
元々史郎が部長になったのは唯一の3年生で実力は静流には及ばなかった。
部長と言う事で隊長機に設定されていたものの、バトルでは諒真が仕切る事が多かった。
「僕は他の皆のように実力はないから、これから先もGBNを細々とプレイする事になると思う。だけど、そうなる前に世界を舞台に戦えるなら足手まといかも知れないけど挑戦してみたいんだ」
龍牙達は内心驚いていた。
入部して数か月になるが、史郎がここまで自己主張をしたのは初めてだ。
それだけの決意を持っているのだろう。
「良いんじゃない? まだ部長なんだし、少しくらい自分勝手をしても」
真っ先に賛成したのは静流だった。
静流は部内では最も史郎との付き合いは長い。
史郎は部長と言う立場にありながら、自己主張もしないで周りに合わせてばかりでヤキモキしていた。
史郎が世界に通用するかはともかく、ここで強く自己主張するのは静流にとっても喜ばしい事でもあった。
「まぁお前らがそれで良いなら俺は全然かまわないけどな」
諒真も反対する気はないようだ。
元々、全国大会に出たダイバーから2人を選ぶように言って来ている以上は実力が伴わなくても資格があれば問題はない。
「んじゃ決まりだな。俺は監督の方に連絡を入れて来るから」
諒真が部室を出て行くと史郎は大きく息をつく。
半ば勢いで言ってしまったが、不思議と後悔はなく、清々しい。
「部長! 一緒に頑張りましょう!」
「そうだね。自分で言い出した以上は後悔しないように頑張ろう」
「はい! その為には特訓と……川澄先輩。俺にガンプラ作りを教えて下さい」
余り話題に興味の無かった、岳が手を止める。
「世界を相手に戦うには今のバーニングデスティニーじゃ駄目なんです。俺だけじゃない。バーニングデスティニーも強くならないと」
ここまでの戦いで感じて来た事だ。
龍牙は戦いの中で成長して来た。
これから先更なる強敵と戦うには龍牙の成長だけでなく、バーニングデスティニーの更なる強化も必要となって来る。
龍牙は制作スキルに関してはそこまで高くはない。
短期間で強化するには高い制作技術を持つ岳に指導して貰う必要があった。
「僕からもお願い出来るかな?」
「……部長命令ならまぁ」
岳も引き受けてくれるようだ。
「だが、龍牙。幾らガンプラを強化してもお前が扱えなかったら意味はないんだ。代表チームの合流までの短い期間だが、みっちり鍛えてやるからな」
「お願いします! 竜胆先輩」
星鳳高校は世界大会と言う新たな目標を見つけて、それに向かいそれぞれが進み始めるのだった。