アメリカ代表決定戦が終わり、今年のアメリカ代表は大我の所属しているビッグスターで決まった。
アメリカ代表を決めたビッグスターはGBN内のフォースネストに集まっていた。
ビッグスターのフォースネストは格納庫を模した物で10機分のMSハンガーに至るところにコンテナが無造作に積まれている。
それぞれがコンテナの上に座るかコンテナにもたれ掛るかしている。
フォースネストの壁にはでかでかと「ONE FOR ACE ACE FOR VICTORY」と書かれている。
現在のビッグスターのメンバーは9人。
フォースリーダーのルークにエースの大我。
主力メンバーのクロエ、ジェイク、ディランに専属ビルダーのリヴィエール。
メンバーのほとんどは現実世界の自分に似せたアバターを使っているが、リヴィエールは自身のアバターには余り興味はなく、正式アカウントを持っているのにも関わらず、ゲスト用のアバターのハロシリーズの中からガンダムOOに出て来る紫色のHAROを使っている。
それでもリアルでも愛用しているデザインのガスマスクは外せないようだ。
他には大我の親衛隊を自称するジョー、ライアン、ウィリアムの3人。
元々はそこにレオを含めた10人がビッグスターのフルメンバーだ。
「さて、諸君我らビッグスターがアメリカ代表戦を勝ち抜き代表の座を勝ち取った訳だが……」
一番高く積み上げられたコンテナの上でリーダーのルークがそう話し始める。
「これ長くなるパターンよね」
「でしょうね」
「好きにやらせておけばいいだろ」
ルークの前置きが長い事はいつもの事でクロエ達もウンザリしながらも聞くしかない。
「……そんな下らない話しをする為にフォースネストに集まった訳じゃないだろ。さっさと本題に入れよ」
大我はバッサリと切り捨てる。
ルークはため息をつく。
「大我はせっかちだね。僕は皆を代表して代表の座を勝ち取った喜びをだね」
「まだ早いだろ。俺達はまだスタート地点に立ったに過ぎない。俺達の目的はこの程度じゃないだろ」
「分かってるさ……けどね」
「本題に入れ」
大我にそう言われてルークも黙る。
これ以上、茶化して長引かせたとしても大我は機嫌を損ねるだろう。
世界大会を前にエースの精神状態を乱したくはない。
ルークと大我はビッグスターを結成した時からの付き合いでルークも大我が一度機嫌を損ねると機嫌を直すのが面倒だと言う事は熟知している。
「今年の世界大会の出場チームが全て決まった」
ようやく真面目な話しになりチーム全員がルークの言葉に耳を傾ける。
「今年の世界大会は荒れると僕は見ている。今年は去年の覇者であるギリシャの『皇帝』アルゴス・アレキサンダーに加え、イギリスの『神槍』クリフォード・マーウッド、ロシアの『鉄人』オルゲルト・グシンスキー、ドイツの『機動要塞』ヘルマ・ディートリッヒ、日本の『鬼畜の子』藤城珠樹、そして我らがアメリカの『ブレイクデビル』藤城大我とジュニアクラスのトップクラスのダイバーが一同に揃っている」
その名は誰もが知っている。
GBNにおいてはガンダムにおける赤い彗星を初めとした二つ名や異名と言った称号を持つダイバーも少なくはない。
それぞれが高い実力を持つが故にそう呼ばれている。
ルークが挙げた今年の世界大会に出場するダイバーの中もまたそれ相応の実力者たちだ。
大我もアメリカ予選を勝ち抜く中で誰かが、悪魔の名を持つガンプラを使い敵を一撃で破壊する様子からまるで破壊の悪魔、ブレイクデビルだと言った事からそう呼ばれる事が多々ある。
大我たちも大我がそう呼ばれている事は知っていたが、その異名の出所は、大我にもそろそろ異名が必要だと思ったルークが匿名で書き込み、自ら拡散した物だと言う事までは知らない。
「彼らは高い実力と共にかつてGBNで伝説となったフォース。『ビルドファイターズ』の血縁者でもある」
ビルドファイターズのメンバーは年代も近い事もあって、それぞれの子もまた同年代となり親の影響を受けてガンプラを始めてGBNで頭角を現して来ている。
「彼らは伝説を継ぐ者として新たな伝説となる可能性を秘めている」
「関係ないだろ。俺らの親が何者だって関係ない。そいつ等が俺の前に立ちはだかるならぶっ潰すだけだ。どの道、全員ぶっ潰すつもりだったんだ」
ルークにとっては警戒すべき相手なのかも知れないが、大我にとってはいずれは倒さねばならない相手。
それが今年の世界大会になったに過ぎないだけの事だ。
「全く……頼もしい限りだよ。彼らの事は大我に任せる。だけど、残された時間は多くはない。各々はしっかりと準備を進めて置くように!」
ルークがそう締めるとそれぞれが世界大会の為の準備に取り掛かる。
大我たちは世界大会までの残された時間を最大限の使い、そして日本へと発つのだった。
日本代表チーム結成から地獄のような特訓を生き延びて龍牙達は遂にその日を迎える。
今まではGBN内で集まっていたメンバーも現実世界で合流し、監督の麗子の引率の元世界大会の会場に向かう。
「……これが世界大会の会場」
龍牙達は東京湾の港で会場の大型客船『木馬号』を見上げていた。
龍牙も世界大会はGBNの運営会社が所有している客船に乗り海の上で行われると言う話しは知っていたが、実際に会場となる木馬号を見てその大きさに圧倒される。
木馬号には世界大会出場の36チームの選手と監督や大会運営のスタッフやその他諸々の部屋に世界大会用の特設サーバーとGBNへのログイン環境を完備されており、期間中の生活も大会運営から快適な物を用意されている。
「ここで2週間、世界を相手にバトルするのか……」
世界大会は2週間かけて行われる。
ガンプラバトル強豪校である千鶴たちは公欠扱いになっているが、龍牙達星鳳高校は今年は全国大会準優勝と実績を残しているが、学校や部活としてではなく個人で出場する世界大会の参加を公欠扱いにする事は渋ったものの諒真の交渉により毎日空いている時間で課題を行い大会終了後に提出する形で公欠扱いになった。
「おーい! 神。早く来ないと置いて行くぞ!」
世界大会の部隊である木馬号を見上げている間に皆は乗船手続きに入っており、諒真に呼ばれて龍牙も急いで合流する。
手続きは問題なく終わり、日本代表チームは木馬号に乗船すると用意されている個室に荷物を置く。
船内では食堂を初めとした共有部以外はそれぞれの代表チーム以外は平時には入れないようになっている。
大会が本格的に始まるのは明日からで今日は開会式も兼ねた懇親会があるだけで、麗子からくれぐれも他国の選手と揉めないように厳命を受けてそれぞれが夜まで自由行動となっている。
自由時間に入る前に麗子は何度も念入りにその事をチーム全体に言い聞かせていた。
バトル外で他国のダイバーと揉めた場合、間に運営が入り、下手をすればチームに何らかのペナルティが与えられかねないからだ。
特に問題を起こしそうな貴音には特に念を押して、貴音も無用なトラブルを起こすのはただの馬鹿だと言って自由時間となった。
龍牙は出入り自由な共有部を一人で探索する事にした。
木馬号はこの時期はジュニアクラスの世界大会で使われているが、それ以外の期間はGBNの運営がガンプラクルーズと称して船旅をしながらGBNを楽しめる企画を行っている為、船内のいたるところにGBNの様子を写したモニターやガンダムやガンプラ関連のポスター等が貼られている。
「なんか凄いな……」
星鳳高校に入学した時はこの高校で全国大会を目指す事しか考えていなかったが、入学から数か月の内に目的である全国大会に出場し、今ではそれ以上のレベルのダイバー達の集まる世界大会に出場している。
ジュニアクラスとはいえ、ここまでのレベルの大会となると規模がまるで違う事をようやく実感した。
適当に見回っていると、やがて甲板に出る。
誰もいないと思っていたが、甲板には先客がいた。
「……あの子も大会の参加者なのか」
甲板には龍牙達と同年代と思われる少女が海を眺めていた。
腰まで伸びた白銀の髪に透き通るような白い肌、龍牙は思わず息を飲んで見とれてしまう。
すると向こうも龍牙の事に気が付いたのか目が合う。
「えっと……邪魔する気は無かったけど……」
そこまで言いかけると龍牙はある事に気が付いた。
GBNでは自分では母国語を離していても自動翻訳機能で相手には相手の設定している母国語に変換される為、外国人を相手でも問題なく会話が成立するがリアルではそうもいかない。
いつものように日本語を使ったが、相手が日本語を分からない可能性がある。
少女は龍牙に対して鋭い視線を向けながら龍牙の方に歩いて来る。
「別に構わないわ」
少女はすれ違いざまにそう呟く。
向こうはそれ以上話す気はないのか船内に入って行く。
「ふぅ……」
少女がいなくなり、龍牙は柄にもなく緊張していた事に気が付く。
龍牙も異性の知り合いや友人がいない訳ではないが、どことなく少女はこれまで知り合って来た異性とは違う気がしていた。
「これが世界か……」
龍牙は日が沈みかけた夕焼けを見ながらそう呟いた。
完全に日が沈んだ頃、船内の宴会等が行われる大広間で大会運営が主催する開会式も兼ねた懇親会が始まっていた。
名目は大会を前に各国のダイバー達が互いに親睦を深めるとなっているが、会場ではいくつものグループで固まっている。
どの国も積極的に他国のダイバーとは関わり合いになろうとはしない。
下手に関われば会話の中からも自分達のチーム内の事情を他国に知られる事を恐れての事だ。
「大我の奴……来てないのか?」
龍牙はビュッフェ形式で料理の乗った皿を手に会場を見渡す。
大我を探しているが、会場には36チームのダイバーと関係者がいる為、その中から特定の一人を見つける事は至難の技だろう。
「なんだ? 誰か探しているのか?」
きょろきょろを辺りを見渡していた龍牙に光一郎が声をかける。
「大抵初めてこの場に来る奴は緊張してビビりまくってるのに今年の一年は皆図太いな」
そう言う光一郎の手には山盛りの料理が乗った皿を持っている。
光一郎の言う一年には自分以外にもレオや千鶴も含まれているのだろう。
レオも千鶴も普段とは何も変わらず、緊張した様子もない。
「まぁ……あれだけ鍛え上げられれば嫌でも自信を持ちますよ」
代表となってからはまさに地獄のように麗子にしごかれて来た。
それが龍牙の中で自信に繋がり、気持ちで負ける事はない。
「まぁな」
「それで大我の奴を探してたんですけどね」
「リトルタイガーか……アバターだけじゃなくてリアルでもちっこかったから流石に見つからないだろ。この人の中じゃ」
「ですかね」
龍牙はそう言うが、大我が来ていれば見つけやすいとは思っていた。
大我のいるところでは大抵、何かしらのトラブルが起こる。
これ程緊張感でピリピリしていれば、その可能性も高くなる。
「どの道、大会が始まれば嫌でも目立つだろ。それよりも今のうちに大会を楽しんどけ、大会が進行するとそんな事も出来なくなるかも知れないからな」
そう言う光一郎はどこか遠い目をする。
大会は2週間かけて行われるが、始めに毎回違うルールで6回のバトルが行われる。
その結果で国にポイントが入り、最終的に上位8チームが決勝トーナメントに進む事が出来る。
大会が進行する中で、半分が過ぎた頃にはそれぞれのチームが決勝トーナメントに進める可能性が見えてくる。
順調にポイントを稼いでほぼ確実に決勝トーナメントに進めるチームとそうでないチームでは士気は違ってくる。
場合によっては確実に進めなくなるチームも出て来るだろうが、だからと言って途中で抜ける事は原則として認められてはいない。
勝ったところで決勝トーナメントに進めない事が分かっている状態で後半のバトルに出るのはもはや苦痛でしかない。
去年の日本も似たような状況になり、当時のチーム内の雰囲気を光一郎は今でも覚えている。
バトルが始まればそれぞれのチームの実力が見えているが、今は誰もが負ける気のダイバーはいない。
「なりませんよ。俺達は負ける為に来たんじゃないですから」
「だな」
去年は悔しい結果に終わったが、今年は国内のトップクラスのダイバーを集めてチームとして鍛えられている。
今年は去年のような結果になる事はないだろう。
「それにしても、運営以外でも結構大人の人がいますね」
龍牙はふと思った事を口にした。
会場の大半は龍牙達と同年代の少年少女だが、中には明らかに大人が何人もいる。
麗子のようにチームの監督だろうが、その数は全チーム数から考えても多い。
「まぁな。ジュニアクラスとはいえこの規模の大会となると色々と大人の事情とかが絡んで来るんだよ。あんまり日本じゃ馴染みはないけど、海外では俺達くらいの年でも企業と契約したGBNをプレイする所謂プロゲーマーってのもいるって聞くしな」
世界大会はジュニアクラスと言えども、GBN内では比較的大きな大会だ。
注目度もある為、GBNの運営と提携する企業等が関わって来る。
ガンプラ自体には関われずとも制作時に使用する工具のメーカーや塗料メーカー、ガンプラに関係なくともGBN内でGBNとコラボする企業等多くの企業が運営会社以外にもGBNには関わりを持っている。
それらに企業からすれば世界大会は自分達の会社の商品を世界にアピールする良い機会でもある。
「たとえばロシア代表なんかは日本の槙島グループが全面的にバックアップしてるって話しだ」
その企業は龍牙でも知っていた。
槙島グループは多くのオンラインゲームに関わっている会社だ。
現社長は大我の両親の所属していた伝説のフォース「ビルドファイターズ」のメンバーで若い頃はGBNをプレイしていた事もあって近年ではGBN関連のイベントに力を入れている。
そんな槙島グループは今年のロシア代表チームのスポンサーとなっている。
「今年はリーダーのオルゲルトの妹のカティアも代表入りしてるって話しだ。兄貴の方の実力は俺ら世代じゃ上位だが、妹の方も相当な実力者だと聞くな」
そう言う光一郎の視線の先には先ほど甲板であった少女の姿があった。
その傍らには自分たととは同年代とは思えないロシア代表チームのリーダーであるオルゲルトがいる事から、彼女がオルゲルトの妹であるカティア・グシンスキーなのだろう。
「尤もそれ以上の実力者がアイツだよ」
宴会場の檀上には司会進行のスタッフの他に一人の少年が立っていた。
遠目で説明がなくとも一目で分かる王者の風格。
彼こそが去年の世界大会で圧倒的な実力で他国よ全く寄せ付けずに優勝したギリシャ代表のリーダーにしてエースの『皇帝』アルゴス・アレキサンダーなのだろう。
開会式は去年の優勝者であるアルゴスに今年に意気込み等の質問をして、アルゴスは流暢な日本語で答えている。
「アレが皇帝か……直接見るとやっぱ別格ですね」
「だな……何でも王族の血族だって噂もあるくらいだし、去年以上に王者の風格になってるな」
光一郎も去年の世界大会に出ている為、アルゴスを実際に見た事はある。
去年以上に王者としての風格をアルゴスは身に着けてた。
アルゴスのインタビューが問題なく進んでいるように思われたが、檀上の辺りがざわめき始める。
「何かあったのか?」
「……馬鹿は来るってか。貴音さんの話は振りだったか」
龍牙は何となくざわめきの原因が何なのか感じ取っていた。
「ありゃリトルタイガーか? 何でまた檀上なんかに」
「……アイツのいるところに揉め事ありって事ですよ」
龍牙は大我との短い付き合いの中で確信していた。
大我のいるところにトラブル有りと。
大我の手にはマイクが握られているようで大我が口を開く。
「皇帝、アンタに聞きたい事がある」
「良かろう許可する」
大我を檀上からつまみ出そうとするスタッフをアルゴスは止める。
檀上の上で大我とアルゴスは対峙する。
「アンタが王様を気取ってふんぞり返っていられるのも後数日な訳だが、そんな気持ちでデカい面してんの?」
大我の言葉で会場の空気が凍りつく。
会場の隅では麗子が頭を抱えてため息を付き、貴音と諒真は笑いを堪えている。
大我は遠回しに今年の世界大会ではギリシャ代表が優勝しないと言っている。
アルゴスにも意味には気づいているだろうが、表情一つ変えない。
「言っている意味が分からないな」
「皇帝ってのは踏ん反り帰っているだけでずいぶんと頭の回転は悪いんだな。ならガキでも分かるように言ってやる。アンタは俺がぶっ潰す」
大我の明らかなアルゴスに対する宣戦布告に流石にこれ以上は勝手にはさせてはおけないと判断した司会者の指示で大我はスタッフに両脇を抱えられて宴会場からつまみ出される。
(アレが藤城大我か……父上が唯一生涯の友でありライバルと認めた藤城大悟の息子か……今年の世界大会は退屈しないで済みそうだな)
大我がつまみ出されて会場からはどこからか大我の行動を笑い馬鹿にするような声がちらほら聞こえて来る。
だが、アルゴスは内心喜んでいた。
去年の世界大会で優勝してからと言うもの、アルゴスはその実力が故に対等に戦える相手はチーム内にすらもいない為、退屈していた。
アルゴスに宣戦布告した大我の行動は会場の大多数のダイバーは身の程も知らずに思い上がった行動として見られているだろう。
しかし、対峙したアルゴスは大我は本気で自分を叩き潰す気でいる目をしていた事に気づいている。
アルゴスの父親が以前に行っていた。
誰よりも誇り高い父や唯一認めていた相手がいた事を。
だからこそ、アルゴスはこうして大我と対峙して理屈ではなくダイバーとしての直感として感じ取った。
父のように共になる事はあり得ないが、今後ガンプラバトルを続けていく上で何度でもぶつかり合うと言う事をだ。
開会式は大我の乱入で多少は予定が狂ったものの最終的には何の問題もなく、終わりそれぞれが明日から行われるバトルに備えるのだった。