第四、第五試合と立て続けにポイントを取り逃した日本代表は窮地に立たされている。
第五試合の結果により順位が変動し、決勝トーナメントに進める上位8チームから外れた。
現時点でアメリカ、ギリシャ、ロシア、ドイツ、イギリスの5チームは決勝進出が確定している。
残る枠は3つで最後の第六試合に勝たねばそこで日本の世界大会は終わる。
「最後のバトル形式が公表されたわ」
「最後はオーソドックスなタイマンか……それもよりにもよって相手はロシアか」
諒真が第六試合の組み合わせ表を見ながらそう言う。
最後の第六試合は各チームから代表1人を出してのバトルだ。
今までのように細かいルールもなく、一対一でバトルして勝った方に50ポイントが入る分かりやすいルールとなっている。
日本はこのバトルに勝利して、他のチームの結果により上位8チームに入れるかどうかが決まる。
日本としては自分たちと上位を争うチームと当たれば、そのチームに勝利することで上位8チームに入れる可能性が高くなるが、そう都合よくはいかない。
「ロシアかぁ……もう決勝トーナメントが確定してるから適当に流してくれたりはしないかなぁ」
「無理。私たちが相手ならたぶん、潰しに来る」
貴音の楽観的な意見を珠樹がバッサリと切り捨てる。
ロシアはすでに決勝トーナメントに出れるため、第六試合の結果はこだわる必要はない。
場合によっては無駄な戦いを避けて勝ちを譲ることもあり得たが、日本はここまでポイントを稼ぎ実力を見せてきた。
向こうからすれば決勝トーナメントに厄介なチームを残すことを避けるためにここで潰しておいた方が良いと考える可能性もある。
ロシアからすれば次のバトルに負けたところで関係はないため、負けた時のリスクもない。
仮に負けたとしても、その時の反省点を決勝トーナメントで当たった時に反映させることもできる。
「ロシアはグシンスキー兄妹のどちらかが出て来る筈。それに対して私たちは神君に出てもらうわ」
「俺ですか?」
龍牙は思いもよらない指名に面食らう。
今回は一対一ということで出るのは個人での実力に長けている光一郎やレオ、右京や貴音辺りが出ると思っていた。
これは麗子の決勝トーナメント進出を賭けた賭けでもあった。
ロシアも後のない日本代表は光一郎といった実力と実績を持ったダイバーを出すと考える。
そこであえて実績のない龍牙を出すことで相手の裏を突く作戦だ。
「ええ。今の私たちにはもう後はない。安全策を取るよりも貴方のこれまでの成長と勝負強さに賭けるわ。いけるわね」
「……分かりました」
龍牙も覚悟を決める。
自分が負ければチームは終わる。
これまでに龍牙のガンプラバトルにここまでのプレッシャーのかかる場面は一度もない。
全国大会の決勝戦でも大我不在に皇女子高校と戦わなければならなかったときも部の仲間たちがいた。
今回は自分一人でロシアと戦わなければならない。
自分一人の肩にチームの命運が乗せられている。
だが、大我はその責任を常に背負い続けている。
ここでプレッシャーに負けて第六試合に出ることを辞退したりしたら、一生大我には追い付けない。
龍牙にとって大我の前に立つ資格を得るためには逃げ出すわけにはいかない。
麗子の判断に誰も意を唱えることもない。
日本は他の国に比べてバトルの実力は劣るとされていながらも、ここまでこれたのは麗子に鍛えられたからだ。
麗子の訓練は地獄だったが、今となっては実力に結びついていることを実感している。
そんな麗子の判断と同時に皆も龍牙を仲間として、ここまでの成長を認めている。
だからこそ、日本の命運を賭けた最後の1戦に龍牙を麗子が出すと決めたことに異論もなく、龍牙を信じている。
「俺らのことは決まったところで、中々面白い組み合わせを見つけた」
組み合わせ表を見ていた諒真が18組の組み合わせの中から一つを選んで見せる。
組み合わせはランダムに決められたが、その内の一つがアメリカとイギリスの組み合わせだ。
どちらもすでに決勝トーナメント進出が決まっているチーム同士の組み合わせだ。
「どっちも勝つ必要はないけど、アメリカは大我が出るだろうからな。あの大我が消化試合だろうと流すと思うか?」
諒真の質問に対して皆はすぐさま答えが一致した。
そんなことはあり得ないと。
大我の性格的に勝つ必要がなかろうと関係ない。
仮に負けておいた方が得がある場面でも、大我は気にせず勝ちに行く。
イギリス側の出方までは分からないが、イギリス代表のバトルスタイルは真っ向から堂々と戦うことを好んでいることもあり意図的に負けるとも考えにくい。
第一試合で大我とイギリス代表は戦っているため、場合によってはその時の決着と決勝トーナメントを前に大我の実力を把握するためにまともに戦う可能性はある。
決勝トーナメントを前に優勝候補の一角同士の本気のバトルは一見の価値はある。
「バトルは向こうの方が先なんだ。俺たちの命運をかけた一戦前に刮目させて貰おうぜ」
第六試合が始まり、バトルが消化されていく。
そして、優勝候補に名を連ねるアメリカとイギリスのバトルが始まる。
アメリカからは全てのバトルに出ているエースの大我が、イギリスからもリーダーにしてエースのクリフォードが出ている。
バトルフィールドはデブリ帯でバトルが開始される。
今回も今まで同様に大我のオメガバルバトスは武装強化されている。
だが、今までとは違い、今回の第六形態は新装備のバーストメイスカスタムが追加されているだけだ。
以前のバルバトス・アステールのメインウェポンであるバーストメイスと見た目は変わらないがさらにカスタムしたものだ。
「クリフォード・マーウッド。初戦では決着がつかなかったが、今度こそはぶっ潰してやるよ」
「同感だ。だが、勝つのはこの私だ」
「上等だ。ぶっ潰す!」
オメガバルバトスとダブルオーランサーは共に加速する。
オメガバルバトスがバーストメイスカスタムを振るう。
その際、バーストメイスカスタムの先端部が高速で回転する。
新機能の一つで先端部がドリルのように回転することで打撃時の攻撃力を上げている。
「遅い!」
オメガバルバトスの一撃をダブルオーランサーは回避する。
バーストメイスカスタムはダブルオーランサーには当たらず、戦艦の残骸を跡形もなく吹き飛ばした。
攻撃を回避したダブルオーランサーはGNブラスターランスのビームを撃つが、GNフィールドで防がれる。
「これまで武装強化であの時の機動力は失われている。GNフィールドはそれを補うものか」
クリフォードは前回戦った時とは装備が違うため、まずは相手の能力を把握することを優先している。
「そして、これも!」
四方から襲ってくるブレードプルーマを腕部のGNバルカンでけん制しながら回避する。
ブレードプルーマを回避したところを、今度はテイルメイスが飛んで来るが、それも回避する。
「機動力は落ちているが、攻撃力は恐ろしく強化されているというわけか」
体制を整えたオメガバルバトスはチェーンソーブレードをガンモードにしてレールガンを撃ちながら突撃してくる。
まだ距離はあるが、オメガバルバトスはバーストメイスカスタムを振るう。
明らかに届かない距離ではあるが、バーストメイスカスタムの先端が外れると柄の中からチェーンが出てきて先端部と繋がっている。
これも新機能の一つだ。
先端部と柄をチェーンで繋ぎ、フレイルのようにも使うこともできるようになっている。
普通の使うときよりも威力は落ちるが、間合いを大幅に伸ばすことができている。
「おっかないね」
「どうした? その程度か?」
「言ってくれる」
ダブルオーランサーは攻撃をかわしてGNブラスターランスを構えて突撃する。
オメガバルバトスの攻撃を掻い潜り、接近してGNブラスターランスを振るい、先端部を戻したバーストメイスカスタムの柄で受け止める。
「このバトルはチームの勝敗には関係ない」
「だから適当に流すのか?」
大我にそう言われるとクリフォードはコックピット内でにやりと笑みを零す。
「逆だ。チームの勝敗とは関係ないからこそ、私はチームのことを気にすることなく一人のファイターとして君と相まみえることができる!」
クリフォードはチームを率いるリーダーとしての責任がある。
だからこそ、チームのために個を殺して動かねばならないことも多々ある。
しかし、このバトルにおいて勝敗はチームには無関係だ。
チームのリーダーとしての責任を負う必要がないこのバトルはクリフォードにとってはただのファイターとして戦える。
「そうかよ。そっちの事情は俺には関係ないね」
オメガバルバトスはダブルオーランサーを弾き飛ばすと胸部の大口径バルカンを撃ち込む。
ダブルオーランサーは素早く体制を整え、加速すると一瞬のうちにオメガバルバトスの背後に回り込みGNブラスターランスを振るう。
攻撃はGNフィールドで防がれるが、そのまま振りぬきオメガバルバトスを弾き飛ばす。
「そうだろう。君はそう奴なんだろう。君の父君がそうだったように。そして、私は父から君の父君のことを聞かされている。チームのエースの名に恥じない実力に破天荒な人柄。父は一度も君の父君には勝てなかったと聞いている。だからこそ、父からガンプラ作りとバトルを教えられた私が君を討ち取ることで父が果たせなかったことを果たす!」
「親の世代のことなんて知るかよ」
ダブルオーランサーは機動力を最大限に駆使してオメガバルバトスを責め立てる。
それをオメガバルバトスはバーストメイスカスタムでいなすか、GNフィールドで防ぐ。
「ふっ……そうだな。今、私と君はこうして対峙したった一つの勝利を奪い合っている。今まで数多のダイバーと戦ってきたがこれほど、心が滾るバトルは初めてだ!」
「それには同感だ。勝つのは俺だがな」
「否! 私だ!」
オメガバルバトスはダブルオーランサーの動きに合わせてバーストメイスカスタムを振るう。
「こちらの動きに対応してきたか」
「アンタの動きは確かに早い。だが、うちの姉ちゃんのようなねちっこさはないから見切りやすい」
大我は確実にクリフォードの動きに反応してきている。
オメガバルバトスの蹴りをGNブラスターランスで受け止めるが、完全に受け止めることはできないため、無理に受け止めようとはしないで勢いに身を任せる。
「そう簡単に勝たせてはくれないか……ならば仕方がない。私も切り札を使わせてもらおう!」
ダブルオーランサーは両肩のオーライザーのGNビームマシンガンでけん制しながら距離を取る。
「トランザム!」
ダブルオーランサーのトランザムが起動し、赤く発光する。
そして、GNブラスターランスを高らかに上げると先端から巨大なビームの刃が形成される。
「これがダブルオーランサーの第七の槍、ライザーランスだ!」
ベース機のダブルオーライザーのライザーソードと同じように巨大なビームの刃を形成したダブルオーランサーの切り札であるライザーランスを振り下ろす。
射線上のデブリを破壊しながら巨大なビームの槍がオメガバルバトスを飲み込む。
クリフォードは手ごたえを感じたか、すぐに攻撃をやめたりはしない。
大我のオメガバルバトスがそう簡単にはやられる相手ではないと知っているからだ。
「……なんだ?」
攻撃の手を緩めることもないクリフォードだったが、違和感を感じ取った。
そして、ビームの中から赤い球体が飛び出してくる。
「あれは……」
「トランザムがアンタだけの専売特許だと思うなよ」
赤い球体がはじけるとそこには無傷のオメガバルバトスがいた。
オメガバルバトスの特殊機能の一つであるトランザムを使い、GNフィールドの防御力を極限まで高めたトランザムGNフィールドで防ぎ切ったのだ。
「……まったく。これで仕留めきれなかったのは君が初めてだよ。本当に大した男だ」
ダブルオーランサーもトランザムを解除する。
トランザムシステムはガンプラの完成度によりガンプラへの負担や持続時間が変わってくるが、限界まで使わなければ機体性能の低下は最低限に抑えられる。
ダブルオーランサーはGNブラスターランスのビームを撃ち迫るオメガバルバトスを迎撃する。
「しばらくの間はGNフィールドは使えないようだね」
「だからどうした」
オメガバルバトスはトランザムGNフィールドを使ったため、一定時間はGNフィールドの展開ができなくなっている。
両肩の装甲に内臓されているGNドライヴはGNフィールドにしか使っていないため、トランザムを使ってもGNフィールドが一定時間使えなくなるだけで済む。
ビームをかわしながら接近してバーストメイスカスタムを振るうが、ダブルオーランサーは回避するとGNマイクロミサイルを撃つ。
GNマイクロミサイルはオメガバルバトスの右肩に直撃するとGN粒子を内部に注ぎ込み内部から破壊しようとするが、それよも先にGNドライヴごと肩の装甲をパージして防ぐ。
ダブルオーランサーはGNブラスターランスをオメガバルバトスに向けるが、死角からブレードプルーマが飛んできてGNブラスターランスを破壊する。
すぐに腰のGNジャベリンを投擲してブレードプルーマを破壊するとバックパックのGNバスターランスを抜く。
「君とのバトルは本当に心が滾る! だからこそ私は全力で君を倒す!」
ダブルオーランサーは再びトランザムを起動させる。
今度はライザーランスを使うのではなく、純粋に機体性能を向上させるためだ。
強化された機動力で加速して、GNバスターランスを振るう。
攻撃はオメガバルバトスを捉えるかと思われたが、オメガバルバトスは青白く発光して攻撃をかわす。
「機動力を強化するシステムはこっちにもあるんだよ」
「FXバーストか」
オメガバルバトスはバックパックのリミッターを解除したバースト状態となり、機動力を極限まで向上させたバーストモードとなる。
赤と青に輝く2機はデブリの間を高速で動きながら何度もぶつかり合う。
「褒めてやるよ。俺にここまで使わせたことをな」
「光栄だよ。だが、誇るのは君に勝ったことをだ!」
ダブルオーランサーはGNバスターランスを振るい、オメガバルバトスはチェーンソーブレードで受け止めるが、チェーンソーブレードは粉々になる。
「ちっ!」
オメガバルバトスはバーストメイスカスタムを振るうが、ダブルオーランサーはチェーンで飛ばしても届かないくらいに距離を取るとGNビームマシンガンを撃ちこむ。
GNフィールドは張れないが、表面の対ビームコーティングでダメージを与えることはできない。
オメガバルバトスは腰のワイヤーブレードを射出するが、ダブルオーランサーはGNジャベリンで弾き、死角からのブレードプルーマをかわしてGNジャベリンを投げてブレードプルーマを落とすと残る2基もGNバルカンで撃ち落とす。
その間に射出されたテイルメイスをGNバスターランスで粉砕する。
(そろそろ粒子残量がまずいな)
ダブルオーランサーのトランザムが限界時間に近づいてきているため、クリフォードは攻勢に出る。
加速してGNバスターランスを振るう。
ダブルオーランサーの渾身の一撃はオメガバルバトスに到達する少し前に何かに当たり一瞬だけ止まる。
「まさか! ピンポイントでGNフィールドを張ったというのか!」
オメガバルバトスはすでにGNフィールドを張ることが可能になっていた。
片方のGNドライヴを撃ちなっているため、高出力のGNフィールドは張れないが、残るもう片方のGNドライヴの粒子を一点に集めることで通常時以上の強度のGNフィールドを出して攻撃を止めたのだ。
「捕まえた」
攻撃を防いだオメガバルバトスはダブルオーランサーの右腕を掴む。
ダブルオーランサーのパワーでは引きはがすことはできず、掴まれた右腕にはオメガバルバトスの爪が食い込んでいる。
ダブルオーランサーを掴んだオメガバルバトスは至近距離からダブルオーランサーにバーストメイスカスタムのダインスレイヴを撃ち込む。
ダインスレイヴが撃ちだされる少し前にダブルオーランサーは右腕に左腕のGNバルカンを撃ち込んで破壊して回避して直撃だけは回避できた。
その余波で左肩のオーライザーが損傷しオーライザーの部分をパージする。
「ハァハァ。今のはさすがにやられると思ったよ」
「しぶといな」
右腕を失ったダブルオーランサーは左手に最後の槍であるGNグレイヴを持たせる。
すでにトランザムもバーストモードも限界時間まで使い解除されている。
トランザムを限界時間まで使ったことでダブルオーライザーの性能は一時的に低下している。
完全に回復される前に大我が動く。
ダブルオーランサーも無理には仕掛けずに右肩のオーライザーのGNビームマシンガンで応戦しながら後退するも機動力の落ちているダブルオーライザーでは完全に振り切ることはできない。
「生憎とこう見えて諦めが悪いんだよ。私はね。最後まで足掻かせて貰う!」
オメガバルバトスを振り切れないダブルオーライザーは前に出る。
オメガバルバトスの攻撃をよけながらもGNグレイヴを突き刺そうとするも、オメガバルバトスの装甲は貫けない。
「これでは厳しいか……だがしかし!」
「ちょこまかと」
オメガバルバトスは両手でしっかりとバーストメイスカスタムを握り締めるとフルスイングする。
それに合わせるようにダブルオーランサーはトランザムを起動させる。
限界時間まで使ったトランザムだったが、若干回復して約1秒間程度の使用が可能になっていた。
その1秒間のトランザムを使い、左肩のGNドライヴからGN粒子を放出させて強引に体をねじらせると攻撃を回避して、オメガバルバトスの下に潜り込む。
「狙いはそこだ!」
普通に攻撃しただけではGNグレイヴではオメガバルバトスの装甲は貫けない。
クリフォードの狙いは胴体の装甲の隙間だ。
そこを正確に貫くことでオメガバルバトスに致命傷を与えようとしていた。
しかし、クリフォードの最後の一撃が装甲の隙間を捉える前にオメガバルバトスが少しだけ体をずらしてGNグレイヴはオメガバルバトスの胸部装甲に当たると胸部装甲がパージされて勢いが完全に殺されてしまった。
「リアクティブ……アーマーだったのか」
1秒のトランザムを使った最後の一撃は完全に防がれた。
クリフォードの攻撃は完全に大我に見切られていた。
本来ならば反応すらできない速さでの攻撃だったが、大我もクリフォードが何か仕掛けて来ると考えた。
そこでリミッター解除、トランザム、バーストモードに続く第4の特殊システムであるナイトロシステムを起動させていた。
頭部のヒートホーンに青い炎が灯りダイバーの反応速度を極限まで高めたことでクリフォードの最後の一撃にも反応して見せた。
そして、胸部の増加装甲は胴体への打撃攻撃を防ぐために一定以上の衝撃が加わるとパージして攻撃を防げるようになっている。
ナイトロを使った反応速度で攻撃を見切り、胸部装甲で攻撃を受けて防いだ。
攻撃を防いだオメガバルバドスはドリルニーでダブルオーランサーの胴体を狙う。
すでにトランザムも使えず、全ての槍を使い切ったダブルオーランサーにはどうすることもできない。
胴体にドリルニーが迫るコックピットでクリフォードは笑っていた。
バトルには負けたが、自身の持てる力を全て出し切っての敗北に悔いはない。
負けこそはしたが、この戦いの中でクリフォードはこれまでになく充実していた。
「アンタは世界大会で戦った相手の中で皇帝の次くらいには強かったよ」
「……次は我々が勝つ!」
クリフォードはそう宣言し、オメガバルバトスのドリルニーがダブルオーランサーの胴体をぶち抜き、勝負は決まった。
「ふぅ」
「ふぅじゃない。隠し玉を3つも使うなんてどういうつもりなんだ?」
バトルが終了してログアウトすると大我をルークが問い詰める。
元々、決勝トーナメントには進出が決まっているため、バトルの勝敗にこだわる理由はないが、大我の好きにさせていた。
相手が相手だけに負けはしないと思っていても苦戦はさせられると思っていた。
それでも大我なら何とかしてくれると思っていたが、まさかオメガバルバトスの隠し玉である防御力を強化するトランザム、機動力を強化するバーストモード、反応速度を強化するナイトロの3つも使った。
本来ならば決勝トーナメントまで取っておきたかったが、勝敗が重要ではない第六試合で見せてはいいものではない。
「そうしないと勝てる相手じゃなかったんだから仕方がないだろ。それにバトルロイヤルの時のように使ったときにバルバトスを強制的に止める細工をしてないってことは使っても問題ないってことだろ。リヴィエール?」
「まーね」
以前に大我が隠し玉の一つを使おうとしたときにリヴィエールが事前に使ったときに強制的に機能を停止するように細工がされていた。
今回は問題なく使えたということはリヴィエールとしては使っても構わないと大我は解釈している。
「まったく……それりもリヴィエールはさっきから何をしてるんだい?」
バトルが開始されれる前からリヴィエールはモニターも見ないでひとりで何かをしているようだった。
「ちょっとね。まったく自分の才能が怖いわよ。いつになっても超えるべきは自分自身の才能よね。決勝トーナメントまでには仕上げとくから」
リヴィエールはリヴィエールで何やら思いついたようで完成したオメガバルバトスから興味が移っているようだ。
こうなったリヴィエールには何を言っても無駄であることはチーム全員が知っている。
(日本の相手はロシアか……上位が順当過ぎてもつまらんから何が何でも勝ち進んで来いよ)
日本とロシアのバトルが開始される少し前、カティアは槙島グループのワークスチームでメンテされたガンダムマークⅡメーチェを受け取る。
ロシアからはカティアが出ることになっている。
「このバトルの勝敗は決勝トーナメントから負けたところで君の評価に影響はない。しかし、君が負けたという事実は変わらない」
「……分かっているわ」
カティアは槙島グループの社長である槙島優次郎のことは初めてスポンサーとして会ったときから気に入らなかった。
スポンサーとは言え、自分たちのことを明確に態度には出さないがどこか見下されているような気がしてならないからだ。
父親から昔同じフォースに属していたことを父から聞かされており、その時には少し変わっていると言っていた。
もっとも父親は自分たちを捨てて出て行った母のことも、自分に問題があったのだと一切責めることも恨み言も言わず他人を悪くは言わないため、あてにはならない。
相手がスポンサーである以上は大人しく言うことを聞いているが、そうでなければ絶対に関わり合いにはなりたくない相手だ。
カティアはガンプラを受け取るとチームのブリーフィングルームに向かう。
「ガンプラの調整は終わったのか?」
「ええ。万全よ」
「そうか。俺たちは決勝トーナメントに進出が決まっているが、日本は厄介な相手だ。ここで確実に仕留めろ」
「分かっているわ」
オルゲルトも日本代表は脅威となりえると認識している。
先ほどのバトルでアメリカとイギリスも一筋縄ではいかない相手だと再認識した。
ほかにもドイツやギリシャといった実力のあるチームがいる中でこれ以上面倒な相手を決勝トーナメントには残したくはなかった。
カティアはすぐにGBNにログインする。
開始時間となり日本対ロシアのバトルが開始される。
バトルフィールドは市街地で、カティアはすぐに相手のガンプラを補足した。
「あのガンプラ……」
ロシアも日本の命運をかけた一戦で龍牙を出して来ることは想定外だったため、その点は麗子の思惑通りになった。
補足したバーニングドラゴンデスティニーは一度は敵として戦い、2度目は味方として戦った。
そのダイバーともカティアは大会中に何度も言葉を交わしている。
敵チームでありながら気にすることなく接してきた龍牙のことが頭をよぎるがすぐにかき消す。
今はバトル中で敵として対峙したらやることは一つしかない。
「近接戦闘タイプのマークⅡ。カティアか」
龍牙の方でもマークⅡメーチェを補足した。
「はぁ!」
先に仕掛けたのはカティアの方だった。
一気に加速してビームソードを振るう。
バーニングドラゴンデスティニーは回避するとバルカンで弾幕を張り、接近してビームナックルで殴り掛かる。
「予選最後のバトルでカティアと戦うことになるとはな」
「だから何だというの!」
マークⅡメーチェはバーニングドラゴンデスティニーの攻撃をかわすとビームソードで反撃する。
その攻撃をバーニングドラゴンデスティニーはギリギリのところで回避して蹴りを繰り出す。
バーニングドラゴンデスティニーの蹴りを腕で防ぎビームソードを振り下ろし、バーニングドラゴンデスティニーは後方に飛び退いて避ける。
「最初のバトルでもカティアと戦い、同じチームでも戦い、こうしてチームの命運をかけたバトルでも戦う。つくづく縁があると思っただけだ」
マークⅡメーチェが追撃してビームソードを振るい、バーニングドラゴンデスティニーは大勢を低くしてかわして、ビームナックルを突き上げる。
マークⅡメーチェは飛び上がって回避して一度距離を取る。
「だから何? 縁があるから勝ちを譲ってくれとでも?」
「まさか。こうして全力でぶつかり合えて楽しいなってことだ!」
バーニングドラゴンデスティニーのビームナックルの連続攻撃をマークⅡメーチェは最低限の動きで回避しながらチャンスをうかがいビームソードを振るう。
バーニングドラゴンデスティニーもギリギリのところで回避して、マークⅡメーチェの胴体に蹴りを一撃入れる。
「くっ! 前よりも強くなってる!」
「俺だって他の仲間が戦っている間に何もしてこなかったわけじゃないんでね」
龍牙は第一、第二試合と出た後から第六試合まで一度もバトルには出ていなかった。
その間に龍牙は仲間たちの戦いをただ見ていたわけではない。
空いた時間にログインしては練習を続けた。
「それにどんな理由があっても勝ちを譲ってくれなんてファイターとしては絶対に言ってはいけないことだ」
「甘いのね。どんなやり方でもルールにさえ違反しなければ勝利は勝利よ」
マークⅡメーチェはビームソードを振るい、バーニングドラゴンデスティニーは確実にかわしてビームナックルを突き出す。
一歩踏み込みかけたところを踏み込まずにビームナックルをかわす。
「違う! お互いに全力を出して戦い勝つからその勝利には価値がある!」
「全力を出したところで負けは負け。負けたら意味はないのよ。私たちがいるのはそういう世界なの」
ビームソードをかわしたところに蹴りを入れるが、バーニングドラゴンデスティニーは腕でガードする。
「勝たなければ意味がないのよ!」
カティアにとっては勝ち続けなければならない。
そうしなければ自分の評価が下がり、評価が下がればスポンサーからもらえる金額も減る。
多少ならともかく、場合によっては死活問題にもなりかねないことだ。
「そうだな。カティアはそういう世界でバトルしてきたんだよな。俺には正直、ガンプラバトルで生計を立てるってどういうことなのか分からないし、俺と同い年でそれをやってるカティアのことはスゲーと思う。でも、それでも俺はカティアに勝ちたい! 勝って未来を切り開く、チームのためにも俺自身のためにも!」
バーニングドラゴンデスティニーの渾身のストレートがマークⅡメェーチに入り吹き飛ばされる。
ギリギリのところで腕でガードしたが、ダメージはまのがれない。
「っ……」
まだ十分に戦えるダメージだがこれまでの戦いでカティアも実感している。
最初に戦った時は自分の方が強かった。
2度目の共闘の時にもその差は縮まっていた。
そして、今回のバトルで戦って肌で感じた。
すでにその差が埋まり、下手をすればすでに龍牙は自分より強くなっているのではないかということに。
それをカティアは振り払う。
そんなことはあり得ない。
自分の方が強いのだと思い込もうとする。
勝たなければならない。
勝ち続けなければ生活が危なくなる。
そうなれば父と兄とも一緒にはいられないかもしれない。
ここで龍牙に負けるということを考えないようにする。
すると、モニターに異変が起こる。
「……何? ブレイクシステム? どういうこと? こんなの私は知らない」
モニターにはブレイクシステムと表示されている。
マークⅡメェーチはカティアが自分で作ったガンプラだ。
当然、どんな能力を持つのかも熟知している。
ブレイクシステムなる物は当然搭載などしてはいない。
「まさか!」
カティアはある結論に思い至る。
自分の知らないシステムが搭載されたとすればバトルの前にワークスチームにガンプラを預けたとき以外には考えられない。
その時に優次郎がカティアには一言も言わずにブレイクシステムを搭載したのだろう。
そして、一定以上のダメージを受けることで自動的に発動するように仕組まれているのだろう。
ブレイクシステムが発動した事で、マークⅡメェーチはカティアの操縦を一切受け付けなくなった。
「私のガンプラに! こんなこと!」
「なんだ? 様子が……」
マークⅡメェーチの様子がおかしいことに龍牙も気が付いていた。
だが、何が起こったことを理解する前にマークⅡメェーチがバーニングドラゴンデスティニーに襲い掛かる。
「この動き……自動操縦なのか?」
マークⅡメェーチの動きは先ほどまでとはまるで変り、正確無比でそこには人の意思は感じられない。
GBNでもファンネルなどをダイバーが自分で操作することなく自動制御にすることは珍しくはない。
ミッションによってはダイバーがNPDを使うことも多い。
しかし、どんなにガンプラの操縦が苦手なダイバーでもある程度は操縦補佐に自動操縦を使ってもバトルでは自分でガンプラを操縦しないということはない。
龍牙は操縦桿を強く握り締める。
「なんだよ……そこまでして勝ちないのかよ!」
「ちがっ! こんなの私は!」
バーニングドラゴンデスティニーはマークⅡメェーチの連続攻撃を回避する。
自動操縦で動きは正確無比だが、動きには一定のパターンがあり龍牙は完全に把握はしていないが、何となく直感で回避している。
「こんなのは私のやり方じゃない! スポンサーが勝手にやったことよ! こんな勝利じゃ!」
「なんだかよくわかんないけど、分かった。俺が止める!」
龍牙は攻撃を回避しながらタイミングを見計らう。
マークⅡメェーチがビームソードを振り下ろす。
それをバーニングドラゴンデスティニーはビームシールドで受け止めた。
「受け止めた!」
「自動操縦ならそう来ると思ってた!」
マークⅡメェーチに動きには人の意思すら感じられないほどに無駄がなかった。
だからこそ、龍牙は一つの賭けに出た。
マークⅡメェーチのビームソードは相手のガードごと切り裂けるように高出力となっている。
だが、自動操縦に切り替わった時点で、ビームソードの出力は過剰だと判断されて見た目こそは変わらないが、出力を落とされていると龍牙は考えた。
いつもの出力ならバーニングドラゴンデスティニーのビームシールドでは防ぎきれなかったビームソードだが、今のマークⅡメェーチのビームソードは最大出力なら何とか受け止めることができた。
「一撃で仕留める!」
攻撃を受け止めたバーニングドラゴンデスティニーは4枚の炎の翼を展開する。
「ドラゴンファング!」
炎の龍はマークⅡメェーチを飲み込みバーニングドラゴンデスティニーの拳がマークⅡメェーチをぶち抜く。
マークⅡメェーチは吹き飛ばされて戦闘不能となり日本代表チームの勝利が告げられる。
「あのガンプラとアイツの娘ではこの程度か……」
ロシア代表のブリーフィングルームとではなく、船内の自分の部屋のモニターで優次郎は龍牙とカティアのバトルを見ていた。。
元々、カティアには期待をしていなかったため、この結果でも気にした様子はない。
「まぁいい。モルモットはまだいる。今回のデータも役には立つ。いずれ世界を変える究極のガンプラ、ビルドナラティブは完成する。そして、世界はあるべき本当の姿となるだろう。そのためには忌々しい藤代の血を引くあのガキはここで叩き潰す」
優次郎はモニターの電源を消すと持ち込んだ自分のPCの電源を入れると今回のバトルの情報を確認する。
「よくやったわ」
カティアとのバトルに勝利した龍牙はログアウトする。
ログアウトするとチームの仲間に迎え入れられるが、龍牙はあまりうれしそうではない。
バトルに勝利して首の皮一枚つながったが、カティアとのバトルの決着は納得しかねない形で終わった。
あとはカティア達ロシア代表の問題で、龍牙もこれ以上深くは突っ込めない。
「後はほかのバトルの結果次第ね」
龍牙が勝利したことでポイントは獲得できた。
あとは上位8チームのうち、確定していない3枠に日本代表が入れるかどうかだ。
そればかりは全てのバトルが終わらなければなんとも言えない。
第六試合全てのバトルが終わり、予選の全てのバトルが終わり、各チームの最終獲得ポイントにより順位が確定する。
代表メンバーは緊張した面持ちで結果が出るのを待つ。
そして、ついに予選の順位が公表されていく、上位5チームの順位が出て緊張が高まる。
6位、7位と発表されるもどちらも日本ではない。
皆が祈るように最後の1チームが公表された。
それを見た瞬間に皆の力が抜けて一息つく。
そこには確かに8位日本と表示されている。
日本はギリギリだが、予選を第8位で何とか決勝トーナメントに進むことができたのだった。