世界大会も折り返しの7日目はバトルは予定されていない。
この時点で36チーム中、上位の8チーム以外の世界大会が終わりを迎えている。
すでに敗退したチームは残った8チームのどのチームが優勝するかに関心が向き、自分たちはバトルには参加しないこともあり、船内の空気は当初に比べるとだいぶ軽くはなっている。
7日目の夜には次の日から始まる決勝トーナメントの組み合わせの抽選会が行われる以外に大会の予定はないため、各々は束の間の休息となっていた。
明日には決勝トーナメント1回戦の第一試合と第二試合が行われ、9日目には第三試合と第四試合、10日目には2回戦の第一試合、11日目に第二試合が行われ、12日目に決勝戦が行われる予定となっている。
13日目はバトルが想定外の事態で、予定通りに行われなかったときの予備日でもあり、予定通りに進んで決勝が終わっていればまる一日初日にもあった各代表同士の交流も兼ねた閉会式と懇親会が行われ、14日目には日本の港に戻り、それぞれがそれぞれの国に帰っていく。
日本代表も辛くも上位8チームになったことで明日からの決勝トーナメントに駒を進めることができた。
だが、龍牙にとっては目下のところ、それどころではなかった。
「流石に勝手に入るのも不味いよな……それに他所のチームの事情に深入りするってのも……」
龍牙はロシア代表の専用区画の近くを行ったり来たりを繰り返していた。
各国に与えられた専用区画には有事の際を除き、原則として他のチームの立ち入りは禁止されている。
最後のバトルの時の出来事が気になり、カティアに話をしようと来てみたものの、龍牙には接触の手段がなかった。
カティアのリアルでの連絡先も知らず、GBNにログインして待とうにもカティアがいつログインするかも分からない。
直接、ここまで来たものの龍牙がロシア代表チームの専用区画に勝ってに入ることはできず、何とかして入れたとしても、場合によっては日本代表チームに迷惑をかけることになる。
そもそも、カティアのガンプラに何かを仕掛けたのはロシアのスポンサーで、問題はロシア代表チーム内部の問題で部外者の龍牙が関わっていいものかどうかも怪しい。
「何やっているの? こんなところで?」
「うぉ!」
後ろから声をかけられてビクリとする。
龍牙は恐る恐る声の主を確認するとそこにはカティアがいた。
見知った相手で龍牙は安堵する。
「いや……あんなことがあったんだ。気になるじゃん」
「そう……とにかくここじゃ目立つから」
カティアは龍牙の腕をつかむと近くの物陰に連れ込む。
流石にロシア代表専用区画の前で敵同士と面と向かって話すことはできない。
「……バカなの?」
「いきなりだな」
「当然でしょ。日本も何とか残ってるんだし、敵の本拠地の前でうろつくとか、通りかかったのが私じゃなければ運営に抗議されても文句は言えないわよ」
大会の規定では他のチームの情報収集は度を過ぎず常識的な範囲でなら許可はされている。
当然、専用区画に無断で立ち入ることは禁止されており、未遂だろうと立ち入ろうとしていたとみなされれば少なからず運営からペナルティを与えれる可能性もある。
「悪い。心配かけた」
「……心配なんてしてないわよ」
カティアの言葉を龍牙は自分を心配してのことだと捉えた。
そういわれてカティアも初めて見つけたのが自分でよかったと少なからず思っていたことに気づかされる。
本来ならば、声をかけて追い払うか運営に言えばいいだけのことだが、わざわざ人目につかないところに連れてきている。
「だよな。それで」
「別に問題はないわよ。どのみち、あのバトルで勝とうと負けようとロシア代表には影響はないんだから。まぁチームの空気はあまりよくないけれど、結束は強まったわ」
元々、ロシア代表は第五試合に勝利した段階で決勝トーナメント出場を決めていた。
事前に優次郎から言われてたようにあのバトルの敗北はカティアの評価には影響はない。
だが、スポンサーとは言え、ダイバーに説明もなくガンプラに手を加えたということはロシア代表チームのスポンサーへの不信感を強めてしまっていた。
同時にスポンサーへの不信感は同じチームの仲間同士の結束を強めることにつながっている。
龍牙はカティアにお咎めなしだったことで安心していたが、気づいてはいない。
カティアが話したことはチームの内情にかかわることで、この情報をうまく使えば戦うときに有利に事を運ぶカードになりえるということに。
カティア自身、口を滑らしたわけではなく、これまでのことで龍牙に内情を漏らしたとしても、それを悪用してロシア代表チームを陥れるような真似はしないと思っている。
「……あんな形で勝ったところで私はその勝利を誇ることはできなかったと思うわ……だから、ありがとう」
カティアはそっぽを向きながらそう言う。
面と向かってお礼を言うことが恥ずかしいのか最後の方は声が小さく少し顔を赤らめている。
「ん? おう」
龍牙は最後の辺りは聞き取れなかったが、少なくとも文句や恨み言ではないので追及はしない。
「けど! トーナメントで戦うときには勝つのは私たちだから! 私たちの実力はあんなものじゃないんだからね!」
カティアは恥ずかしさを誤魔化すように強くそういう。
第六試合で望まぬやり方を強要されてそれを止めた龍牙に対する恩返しは、自分たちの全力を持って日本代表を倒すことしかない。
それを龍牙は真っ向から受け止める。
「おう。カティア達の全力を俺たちも全力でぶつかるぜ。俺たちのチームには俺よりも凄い人ばかりだからな!」
龍牙もはっきりと返す。
お互いに譲ることはできない。
あとは実際にバトルすることになり、そこで決着をつけるだけだ。
それ以上は何も語らず、二人は別れた。
「後、3つか……」
「最悪1つで終わるかもしれないけどね」
アメリカ代表専用区画の大我の部屋で備え付けの椅子に座るルークが大我にそう答える。
ルークは決勝トーナメントを前に大我が変なことをしないように見張りにきている。
流石に大我もむやみに動く気はないらしく、PCでこれまでの自身のバトルを見返しては問題点を洗い出している。
「終わらせない。俺がいるんだ。ビッグスターの最後の戦いまで後3つだ」
大我はバトルを見ながら言い切る。
世界大会でバトルする数は最大で3回。
3回勝利することで優勝となるが、一度でも負ければそこで終わりとなる。
だが、大我は後3回とも勝つ気でいる。
チームビッグスターは最年長のルークたちが18歳で来年からはジュニアクラスからオープンクラスに変わる。
GBNではジュニアクラスとオープンクラスでフォースを組むことは可能だが、公式バトルではジュニアクラス用のバトルにオープンクラスのダイバーは参加できない。
逆にオープンクラスのバトルにジュニアクラスは参加できるが、大我たちにとってはこの世界大会は最初で最後の大会と考えている。
「ねぇ大我。僕たちが初めて会ったときのことを覚えているかい?」
「ああ。ルークは対して強くもない癖に俺に挑んできたな」
「覚えていてくれたことは嬉しいが、黒歴史だよ。本当に」
ルークと大我は初めて会ったのは、アメリカのゲームセンターでのことだった。
ルークの実家は大手の玩具メーカーで、アメリカでのガンプラの流通に一役かっている。
当時のルークには父の会社の社員の息子などが取り巻きでいて、ガンプラバトルにハマっていた。
主にゲームセンターでのオフライン対戦ではルークは負け知らずだった。
そんなある日、行き付けのゲームセンターに自分よりも少し年下の日本人の少年、大我がこのゲームセンターで一番強いやつを出すように店長に命令していた。
偶然、その場に居合わせたルークは自分がここでは一番強いとして名乗りを上げた。
その時、店長は止めようとしたが、ルークは聞く耳を持たず、大我と対戦した。
結果は、大我に手も足も出せずに惨敗した。
大我はルークを雑魚呼ばわりして去っていった。
後から知ったことだが、今までルークが対戦してきた相手は皆、ルークの父親の息がかかっており、常にわざとルークに負けていたのだった。
父の息のかかっていない大我はルークを相手に一切の手加減も容赦もしないで叩き潰した。
ルークにとっては初めて、自分に父の会社とは関係なく接してくれた相手として大我ともう一度会って戦いたいと望むようになり大我を探した。
幸いにも日本人で態度が悪く交戦的な大我はすぐに見つかり、友達になろうとするが、大我はガンプラバトルの弱いルークのことなどまったく相手にしなかった。
それでもルークはあきらめずに友達になればガンプラをあげるなど、物で釣ろうとしたりしたものの相手にはされず、ならば大我とまともに戦えるだけの実力を身に着けるために、ルークはこれまでの人生の中で最も努力を行い、実力を身に着けては何度も大我に挑んだ。
始めは相手にならなかったルークだが次第に大我を相手に善戦できるようになり、結局大我には1度も勝つことはできなかったが、毎日、父親のコネを最大限に活用して大我の行く先々で待ち伏せしては挑み続けた結果、いつの間にか友達と呼べるだけの間柄になっていた。
「君と出会い。僕の世界は広まった。そして、僕たちはチームを作った」
友人となった大我とルークはGBNで名を上げるためにチームを作ろうと動きだした。
しかし、その際に二人に大きな壁にぶちあがることとなる。
それは大我はだれが相手でも挑発的な態度をとるが、ゆえに周りから嫌厭されがちで、ルークには取り巻きはしても友達は大我しかいなかった。
GBN内で仲間を見つけることは可能だったが、大我もルークも素性の分からない相手とは組みかがらず、現実世界で仲間探しを始めた。
仲間を探し始めて何人かは仲間を見つけることができたが、大抵、大我と揉めてチームを去っていくことになりチーム作りは難航していった。
だが、次第に仲間が増えていった。
親の仕事の都合でアメリカに引っ越してきたが、日本人ということで回りと馴染めなかったレオ、手先が器用だが、その巨体と短気から回りに恐れられてガンプラバトルを一緒にする相手のいなかったジェイク、理屈っぽく回りから面倒がられていたディラン、女ということで仲間に入れてもらえなかったクロエと、それぞれの理由でリアルでのガンプラ仲間のいなかった者たちを仲間にして、ルークの取り巻きだったジョー、ライアン、ウィリアムがなぜかルークよりも大我を信奉するようになり仲間となり、最後は大我の操縦技術に見合ったガンプラを用意できるリヴィエールが入り、チームビッグスターは誕生した。
「僕たちはそれぞれの理由でリアルでともにガンプラバトルをする仲間に恵まれなかった」
「俺以外の大半は自業自得だけどな」
大我も自業自得側に入るということをルークはあえて突っ込まない。
「だからこそ僕たちは世界の頂点を取ることに決めた」
「俺にとっては通過点に過ぎないけどな」
自業自得な部分があるとか言え、リアルでつま弾きにされてきた彼らはジュニアクラスの世界大会で優勝することで自分たちを仲間に入れようとはしなかった相手を見返すためにここまで来た。
大我にとっては所詮はジュニアクラスの世界大会でしかないため、GBNで一番強いファイターの通過点に過ぎないが、それでも仲間たちと目指す当面の目標となった。
「泣いても笑っても後3回か……ようやくここまで来た」
「そうだな。レオが抜けたり、俺が日本に戻ることになったりな」
チームを結成してからここまで決して楽な道のりではなかった。
大我に並ぶ、実力者のレオがチームを抜け、大我も日本の高校に入学するためにアメリカを離れなければならなくなった。
それでもビッグスターはここまで勝ち続けてきた。
「後3回勝って頂点を取る。俺がチームをそこまで連れていく。必ず」
「分かってる。バトルになれば君は確実に勝利する。そこに疑いはないよ。ただ、大我とリヴィエールは何をやりだすか分からないからね」
ルークはエースとして大我に絶対的な信頼を置き、バトルで負けるなど万が一にもあり得ないと思っている。
だが、一方で大我がルークが思っている以上のことをやりかねない。
実際、アルゴスにインタビューに乱入して宣戦布告を行っている。
リヴィエールもガンプラを作ること以外には一切の興味はなく、世界大会の結果にも興味はない。
今はオメガバルバトスを完成させた後に何やら思いついたらしく、部屋に籠っている。
大我の勝利に疑いはないが、第一試合のように余計なリスクは背負いたくはないというのがルークの本音だ。
「あっそ」
大我もルークが自分を見張ろうともどうでもよく、バトルを見返しながらぶつぶつと独り言をつぶやいている。
ルークの懸念は杞憂に終わり、大我は問題行動をとることもなく、日は落ちて決勝トーナメントの抽選会の時間となる。
会場には決勝トーナメントに残った8チームは最低でも代表1人が出なくてはならない。
敗退したチームが来るかは自由で、勝ち残ったチームのメンバーの大半はこの場に来ている。
「ルーク。俺たちの相手はギリシャかドイツだ。確実に両方とやれる組み合わせにしろよ」
「できればその2つは潰しあって欲しいんだけどね」
大我の無茶ぶりにルークは苦笑いで返す。
優勝候補の大本命のギリシャの他に優勝候補としてはドイツの名が挙がっている。
大我にとってはどちらも自分で潰しておきたい相手だが、ルークからしてみればできればその2チームで潰しあって欲しいところだ。
それから上位チームから抽選が始まる。
それぞれのチームの代表がルーレットを回して1から8までの数字で組み合わせが決まる。
上位のギリシャ、ドイツ、アメリカは同一であるため、過去の実績順でルーレットを回していく。
その結果、ギリシャは8、ドイツは4を引いた。
「7だ。7を出せよ。ルーク」
大我はあくまでもいきなり優勝候補の本命であるギリシャと戦える組み合わせを望むが、ルークが出した数字は1。
「ちっ……ギリシャとやれるのは最後か……まぁ2戦目でドイツともやれるから大丈夫か……」
ギリシャとアメリカが戦うのは決勝戦までお預けとなり大我は不満そうにしている。
アメリカの次にイギリスがルーレットを回して出た数字は5。
ここまではどのチームも対戦チームが決まらずにいる。
次からは出た数字で組み合わせが決まっていく。
イギリスの次はロシア代表チームで出た数字は2。
それにより一回戦第一試合の組み合わせはアメリカVSロシアで決まった。
「いきなりアメリカとロシアか……」
日本代表は8位であるため、ルーレットを回すことなく組み合わせが決まるが、龍牙も会場で組み合わせが決まるのを見ていた。
ようやく決まった組み合わせに龍牙は複雑だった。
龍牙にとってはアメリカ代表の大我と戦うために世界大会に出たといっても過言ではない。
アメリカの最初の対戦相手のロシアのカティアとは数時間前に全力で戦うことを約束している。
アメリカとロシアの対戦が決まったことで、龍牙はその両方と戦うことは叶わなくなった。
そんな龍牙の内心を他所に抽選は進む。
次のフィンランド代表チームは7を引いた。
その瞬間、フィンランド代表チームは明らかに落胆する。
フィンランド代表チームの相手はギリシャである以上は初戦敗退は決まったも同然だからだ。
残りは3と6となっている。
3を引けばドイツと6を引けばイギリスとの対戦となる。
フィンランドの次はインド代表チームで引いたのは6。
そして、残った3は自動的に日本代表となる。
それによって決勝トーナメントの組み合わせが確定した。
一回戦の第一試合はアメリカVSロシア、第二試合は日本VSドイツ、第三試合はイギリスVSインド、第四試合はフィンランドVSギリシャとなる。
「最初はドイツか……こりゃ借りを返さないとな」
「当然! あの時の借りは100億万倍にして返してやるわよ!」
アメリカとロシアの戦いを気にしていた龍牙だが、諒真や貴音の言葉で我に返る。
一回戦を勝てばアメリカとロシアの勝利チームと戦うことになるが、問題はその一回戦だ。
日本の初戦の相手は一度は第五試合で25対5の戦いで負けたドイツ代表だ。
今度は日本もフルメンバーで戦うが向こうもフルメンバーとなる。
ギリシャとアメリカと並びここまで上位をキープしてきた実力は確かだ。
ドイツに勝たなければ日本がアメリカかロシアと戦うことすらできずに世界大会はそこで終わる。
龍牙はまずは目先の1勝のために気持ちを切り替えて明日の決勝トーナメント一回戦に臨むのだった。