大我の入部により部員が5人となった星鳳高校ガンプラ部は正式に部活として学校側から認められて活動が再開となった。
ガンプラ部の活動は大きく分けると現実世界でのガンプラの制作とGBN内でのバトルの練習の二つだ。
その為に必要な機材や道具類は部室に一通りは完備されている。
「今日から正式に部の活動が始まるから改めて自己紹介をさせて貰う。僕がガンプラ部の顧問をさせて貰っている。桜庭颯太。よろしく」
正式に部活として活動できる事となり、今日からは部活の顧問も合流する事になっている。
顧問の桜庭颯太は教師の中でも20代後半で比較的若い教師で、星鳳高校の卒業生でもある。
そんな颯太に対して、龍牙は目を輝かせており、大我は余り興味がないのか、座ったまま頬杖をついている。
「まずは一年生は自己紹介を頼む」
「はい! 神龍牙です! 10年前に先生が全国制覇をしたバトルを見てガンプラバトルを始めました!」
龍牙の勢いに颯太も少し圧倒されている。
颯太はかつて星鳳高校のガンプラ部に所属しており、10年前に星鳳高校が全国制覇した際に部長をしていた。
龍牙にとっては自分がガンプラバトルを始めるきっかけとなったヒーローが颯太なのだ。
「清水明日香です。私はガンプラを作った事もバトルをした事もないですけど、よろしくお願いします」
明日香が自己紹介を終えて、皆の視線は大我に向く。
「藤城大我」
大我はそれだけ言うと立ち上がり自分の荷物を持つ。
「もう帰るのかよ」
「今日は活動初日だから顔を出しただけだ。別に部に出る事は強制ではないんだろ? だったら必要以上にここに来る必要もない」
大我はそう言って帰る。
龍牙は大我の態度に不満そうだが、顧問の颯太がいる手前、自重する。
「話しには聞いていたけど、ずいぶんと我の強そうな新入部員だね」
颯太も事前に大我の性格の事は聞いていたらしく、動じた様子はない。
「良いんですか? そこまで協調性のない態度で」
「教師としては余り良くはないけどね。ただ、無理やり部活に参加させても楽しめないだろ?」
颯太も教師として見れば大我の協調性のない態度は改めさせなければならないとは思っている。
だが、顧問としては大我の言うように部員とはいえ、毎日や活動日に必ず部室に来て部活に参加しなければならないと言う規則はない。
ガンプラ部の方針としてはガンプラを楽しむと言う事がある為、その気のない相手を無理やり部室に連れて来たところで楽しめなければ部活に参加している意味はない。
「そうですけど……」
「とにかく、彼の事は今はそっとしておくとして、今日は今後の事に付いてミーティングをするよ」
龍牙も渋々だが、引き下がる。
「ウチの部としての方針だけど、8月の夏休み中に行われるGBNの運営が主催する高校生部門の大会。所謂全国大会に出場する事を一応の目標になってる。その為にまずは来月から始まる地区予選に参加する事になるけど、神君も清水さんも良いかな?」
「俺は星鳳高校で全国制覇する為にこの学校に入ったんですから望むところです!」
「それは頼もしいね。東京地区からは2校の出場が可能だから最低でも決勝戦まで勝ち上がれば全国には出られる」
大会は各県から1校と言う訳ではなく、県によっては複数の出場枠が用意されており、東京からは2校までが全国に出られる。
つまり、地区予選最後の決勝戦の勝敗自体は全国大会への出場には関係ない。
「大会はトーナメント方式だから組み合わせ次第では全国までの道のりの険しさが変わって来ますね」
「そうね。出来れば皇女子とは別ブロックになれれば良いわね」
「そこってアレですよね。去年の準優勝校」
大会は地区予選から全てのバトルがライブ配信される。
地区予選は強豪校以外のバトルは観戦者は少ないが本選ともなれば多くの観客がバトルを観戦する。
去年の全国大会の決勝戦は龍牙も配信を見ている。
去年は東京代表の皇女子高校、チーム「アリアンメイデン」と静岡代表の泉水高校、チーム「闘魂」となっている。
どちらもガンプラバトルの強豪校で勝敗は泉水高校が勝った物の勝負はギリギリで泉水高校が勝ったのは運が良かったと言うのもある。
「去年は2年を中心にしていたから、今年も去年のレギュラーの大半は残っているわ」
「それに今年はあのクレインが皇女子に入ってたって噂だしね」
龍牙はクレインと言うハンドルネームに聞き覚えがあった。
国内中高生部門のランキングにおいて3位のファイターのハンドルネームがそうだった。
詳細な個人情報は当然の事ながら明かされてはいないが、去年までは中学生部門の大会に出場している事から高校生ではないとされ、性別も女である事から中高生女子の中では最強としてクイーンとも呼ばれる事もある。
元々、皇女子は個人ではランキングの上位10人に入る程のファイターはいないが、レギュラーは皆100位以内の実力者で個人の実力以上にチームとしての総合力に長けたチームだ。
そんな皇女子に個人で3位の実力者が入ったとなれば今年の皇女子は去年以上の力があると見て間違いない。
「皇女子の事は当たる事になってから考えよう。どの道、今から対策を考える事も出来ないからね」
颯太が釘を刺す。
幾ら皇女子が東京地区の強豪とは言っても現状で対策を考える事は星鳳高校では不可能だ。
「今は目の前の一戦一戦を楽しみ、悔いのない大会にする事を目指すよ」
そう締めくくられて今日の部活は終了する事になった。
部活の終わった龍牙はそのままGBNにログインした。
GBNではフリーバトルや様々なルールでのバトルの他に各サーバーごとに巨大なフリーエリアが存在する。
地球圏や火星圏、木星圏と言った各ガンダム作品に登場する基地や都市を電子空間上に再現した超巨大なオープンワールドだ。
そこではダイバーたちが各々で自由に活動する事が許可されている。
龍牙はバーニングデスティニーと共にオープンワールドで自主練習を行う事にした。
ここなら通常のバトルとは違い一人でも操作の練習が行える。
龍牙は基本的に人の少ない火星の荒野でバーニングデスティニーの格闘動作を繰り替えす。
バーニングデスティニーはGガンダム系のガンプラではない為、操縦は通常の物と同じだ。
Gガンダム系は任意で操縦を通常のコックピットとモビルトレースシステムと同じようにファイターの動きをガンプラにリンクさせる事が出来る。
他のシリーズのガンプラでも課金すれば同じ仕様に出来るが、龍牙には格闘技の経験は無い為、モビルトレース仕様にするメリットは余りない。
ある程度、動作の確認が終わると、龍牙はハッチを開き少し身を乗り出す。
「やっぱ、仮想現実には見えないよな」
龍牙は火星の風を感じながら呟く。
GBN内での仮想現実は非常に良くできており、ここが仮想空間だと言う事は忘れそうになる。
「ん? 何だ」
龍牙は少しづつだが地響きが近づいて来る事を感じてコックピットに戻るとハッチを閉めてレーダーを確認する。
「おいおい……マジかよ。一体何があるってんだ?」
レーダーには100機近いガンプラの反応が出ている。
それらは隊列を組むかのように進行している。
「この辺でイベントがあって話しは無かったと思うんだがな……」
オープンワールド内では不定期に運営がイベントを開催する事がある。
その時は多くダイバーたちが集まる為、ガンプラが100機以上も集結する光景は珍しくはない。
しかし、公式HP等にはこの辺りでイベントがあると言う告知はされていない。
「この辺りにあるのはハーフメタルの採掘所くらいだけど……様子を見てみるか」
龍牙は周囲の地図を見ながらそう決める。
機体を飛び上がらせると、ガンプラの一団からある程度距離を保ち進行方向を確認する。
進行方向を見る限りではその先にあるのは、鉄血のオルフェンズに登場する火星のハーフメタル採掘場だ。
龍牙は空から回り込んで採掘場へと向かう。
「採掘場にも反応が……こっちもこっちで結構いるな」
陸路で進む一団よりも先に採掘場の近くまで接近すると採掘場にもガンプラの反応があった。
その数は接近している一団と勝るとも劣らない規模だ。
そして、龍牙は少し離れた高台にも1機のガンプラの反応があり、機体をそちらに向ける。
「なぁ、ここで何かあるのか?」
龍牙は高台に居たガンプラ、ガンダムグシオンリベイクフルシティに対して通信する。
向こうも龍牙の存在に気が付いたのか通信を返す。
「君は自由同盟でも、熱砂の旅団でもないようだな」
向こうのアバターは女のようでハンドルネームはクレインと表示されていた。
龍牙は先ほど部活で出て来たランキング3位のクイーンの事が頭を過るが、流石にこんなところで出会う訳がないと思う。
「ああ。俺はジンって言うけど、どっちのフォースにも入っていない」
フォースとはGBN内の機能の一人で複数のダイバーたちがチームを作った時にGBNの運営に登録する事が出来る機能の事だ。
そうする事でオープンワールド内で自分達のフォースの拠点を作る事や様々な特典を得られる事が出来る。
「そう。知らないようだけど、あのハーフメタル採掘所を熱砂の旅団が縄張りにしていて、自由同盟が仕掛けるところよ」
「成程……そう言う訳か」
龍牙もクレインの説明で納得する。
クレインの言う自由同盟も熱砂の旅団もGBN内では大規模なフォースとして知られている。
熱砂の旅団はその規模から地球上や火星上の拠点を転々としているフォースでオープンワールド内では荒くれ者として有名だ。
GBNの運営としてはフリーバトルの申請を行うエントランスやオープンワールド内での戦闘禁止区域や独占禁止区域等の一部の区域を除く場所でに戦闘行為は禁止していない。
多少暴れたところで余程悪質な行為でなければ、何も処罰をする事も無く放置する。
一方の自由同盟なそんな運営の方針に対して、運営が動かないのであれば自分達のオープンワールドの治安を維持しようと有志によって結成されたフォースだ。
運営が禁止していない行為だろうと、マナーの悪いダイバーを実力行使で排除する事も少なくはない。
その為、自由同盟も一般のダイバーからは自治厨として余り良い目では見られていない。
今回も、自由同盟が採掘場を最近の拠点としている熱砂の旅団を実力で排除して採掘場を解放しようと言う事なのだろう。
「それでクレインさんは何でここに?」
「私は偵察だ。非情にバカバカしい不毛な戦いではあるが、自由同盟には来月からの大会に参加するファイターも少なからずいてな。まぁ私も下っ端だから偵察に来させられたと言う訳だ」
来月からの大会と言うのは恐らくは龍牙も出場する大会である事は間違いないだろう。
そして、自由同盟は基本的に誰でも入る事は可能で、高校生も少なくはない。
クレインが自分と同じ高校1年生であるとすれば実力者と言えども偵察に行かされると言う事もあるのだろう。
そう考えると目の前のクレインはランキング3位のクイーンである可能性が高い。
「まだ始まってないようだな」
目の前のダイバーがクイーンかも知れないと思い始めていたところに新たなダイバーが話しに割り込んで来る。
そのガンプラを見た龍牙はクレインがクイーンかも知れないと言う事を忘れる程に驚く。
ガンプラはガンダムAGE-2(特務隊仕様)の改造機であるガンダムAGE-2マッハ。
去年の優勝校であるチーム「闘魂」のエースにして国内中高生部門のランキングトップのダイモンが駆るガンプラだった。
AGE-2 マッハは両肩の可変翼が大型化され実体剣としての機能が追加されている。
腕部には装甲が増加されシールドが無い変わりに装甲はガンダムAGE-3の物が使われている為、ビームサーベルが装備されている。
脚部はダブルバレットの物をベースにスラスターが増設されている。
バックパックも大型化されており、追加の火器でダブルバレットのツインドッズライフルが装備されている。
手持ちの火器としてメインウェポンにハイパードッズライフルをベースに銃身の下部にダークハウンドのドッズランサーの槍が付けられており、銃身が露出している通常時のライフルモードと銃身を槍に収納した状態のランスモードを切り分けて近接戦闘と遠距離戦闘を一つでこなす事が出来るハイパードッズランサーを持つ。
また、再度アーマーには予備の火器として小型のハンドガンが収納されており、リアアーマーにはベース機同様にビームサーベルが装備されている。
ベース機の可変機構を活かして高速白兵戦を得意としてその高い機動力から音速のキングの異名を持つ。
「キングがどうしてまた?」
「熱砂の旅団を自由同盟は大規模なフォースだからな。そのフォースが激突するんだ中々面白うじゃん」
クレインは偵察が目的でダイモンは面白そうだからここに来たらしい。
まさか、こんなところで高校ガンプラバトルを代表するキングとクイーンと遭遇する事等思っても見なかった龍牙の緊張を余所に熱砂の旅団と自由同盟が交戦を開始する。
「これだけの数のガンプラが戦う事は無いから大迫力だな」
100機近いガンプラ同士のバトルをダイモンは面白そうに観戦している。
一方のクレインはバトルの様子を隅から隅まで撮り逃しが無いようにバトルを録画している。
バトルは大規模な物だが陸戦を中心に行われている。
理由は熱砂の旅団の本陣には2機のザメルが配置されている為、下手に上空に飛べば狙い撃ちされる危険性があるからだ。
「どうやら旅団の方が優勢だな」
「そうね。旅団は同盟軍が攻めて来る事が分かっていたから守りを固めてるみたいね」
クレインとダイモンは観戦しながらも戦況を分析している。
二人の言うように自由同盟軍は攻めあぐねているようだ。
自由同盟軍は今回の攻撃策戦において、一般のダイバーからも協力者を呼びかけている。
そのせいで熱砂の旅団にも、今日の攻撃作戦が駄々漏れで熱砂の旅団も攻撃に備えて来ている。
熱砂の旅団はザメルの他にもザウードやティエレン長距離射撃型や対空型と言った長距離砲撃用のガンプラをそろえて来ている。
「それでもマサヨシさんは頑張っているみたいだけどな」
自由同盟の先陣を切っているのは自由同盟の中でも幹部の一人であるマサヨシのジャスティスガンダムだ。
ジャスティスガンダムは飛行能力があるが、相手の対空砲を警戒してか上空には飛ばすに地上すれすれを飛びながら熱砂の旅団のガンプラを薙ぎ払っている。
マサヨシは自由同盟の活動にも人一倍熱心で実力も同盟ないではトップクラスだ。
熱砂の旅団と言えどもそう易々とは止める事は出来ない。
「上空から降下して来る……」
「けど、単機って事は同盟軍の降下部隊って事もないな」
戦闘が始まり少しすると、上空から何かが落ちて来る反応が現れた。
数は1機である事や落ちて来ると思われる場所は戦場の真っただ中と言う事もあり、自由同盟軍が事前に用意していた降下部隊ではない。
大気圏から落ちて来たガンプラは戦場の真っただ中に落ちて戦場は大きな砂煙が舞い上がる。
「ありゃ……マサヨシさんのジャスティスの辺りじゃね?」
落ちて来たガンプラは丁度、マサヨシのジャスティスが交戦している辺りだった。
砂煙が収まるとガンプラのシルエットが見えて来る。
普通のガンプラよりも長い腕部に肩にはシールドのような物も見える。
そして、背部には尾のような物も見える。
「……まさかな」
龍牙は嫌な予感がしていた。
そのシルエットは龍牙も良く知っているガンプラに酷似していた。
だが、幾らなんでもそんな事は無いとその可能性を否定しようとするが、その可能性は無情にも当たっていた。
「あればバルバトスベースのガンプラか……どこのどいつだよ」
その乱入者は龍牙も良く知る大我のガンダムバルバトス・アステールだった。
バルバトス・アステールの持つバーストメイスの下には着陸時に下にいたのかマサヨシのジャスティスの残骸が転がっている。
突然の事で熱砂の旅団も自由同盟のガンプラも動きが止まる。
どちらもこんな事は予定にはない。
そうなるとこのバルバトス・アステールは敵側のガンプラだと身構える。
そして、バルバトス・アステールは狩りを開始する。
バルバトアス・アステールのテイルブレイドが近くの熱砂の旅団のドムの胴体を貫く。
熱砂の旅団のガンプラを撃破した事で自由同盟はマサヨシのジャスティスを破壊した物のバルバトス・アステールを味方と判断し、同時に熱砂の旅団は敵だと判断した。
見方だと判断した自由同盟のザクⅡがバルバトス・アステールの横を通過しようとした瞬間にバルバトス・アステールはバーストメイスを振るいザクⅡの上半身を跡形もなく吹き飛ばす。
一度は見方と判断したバルバトス・アステールが自分達のガンプラを破壊したとして自由同盟軍は混乱する。
それは熱砂の旅団も同様だ。
「おいおい……あのバルバトス。まさか」
「両軍を相手にしようと言うのか?」
高みの見物を決め込んでいたクレインとダイモンが驚く中、龍牙だけはこの大我の行動に納得していた。
バルバトス・アステールは熱砂の旅団も自由同盟も関係なく手当り次第にガンプラを破壊している。
それを見てクレインもダイモンも同じ結論に至った。
バトルに乱入して来たバルバトス・アステールは熱砂の旅団と自由同盟の両軍を相手にする気なのだと。
両軍は戦闘で消耗しているとは言っても100機を軽く超えている。
それを両方相手を単機で相手にするなど正気の沙汰とは思えない。
しかし、バルバトス・アステールのファイターである大我を知る龍牙にはその方が自然に思える。
大我の性格上、どちらかに加担するよりも両方を相手に大暴れをする方が似合っている。
クレインとダイモンは圧倒的な数の差に無謀だと思っているようだが、龍牙はそれを無謀だとは思っていない。
大我の実力なら一人でも十分に戦える。
この中で自分だけはその事を知っている。
「どこのどいつかは知らないが、面白い!」
「あのバルバトスは化物か」
ダイモンが声を上げて、クレインが戦慄する。
一見無謀にも思えたバルバトス・アステールの戦いだが、バルバトス・アステールは単機ながらも圧倒的な力を発揮して両軍のガンプラを全く寄せ付けずに粉砕しては新たな獲物を見つけては粉砕する。
その光景はまるで悪魔の如くの戦闘能力だ。
やがて指揮官機であるマサヨシのジャスティスを失った自由同盟軍は総崩れとなり戦意ある者は皆バルバトス・アステールの餌食となり、戦意を失った者は皆ログアウトをして逃げていく。
「自治厨の方はこんな物か」
バルバトス・アステールのコックピットで大我がつまらなそうにぼやく。
大我は学校から戻るとすぐにGBNにログインしてこの戦いが始まるのを待って乱入した。
一人一人は弱くてもここまで数が集まれば少しはマシに戦えると思っていたが、予想以上に大した事は無かった。
「まぁ、旅団の方は武闘派も多いらしいから少しは楽しませてくれよ」
自由同盟軍のファイターは戦意を喪失して逃げ出すファイターも多かったが、熱砂の旅団のガンプラは圧倒的な力を持つバルバトス・アステールを前にしても怯む事無く挑んで来る。
それをバルバトス・アステールはバーストメイスとテイルブレイドを駆使して薙ぎ払いながら、熱砂の旅団の本陣に目掛けて突撃して行く。
「何としてもここで止めろ! ボスのところには行かせるな!」
採掘場の出入り口はサーペント部隊が固めている。
サーペント部隊のリーダー機は左手にダブルガトリングを持ち右手にヒートソードを持ったタイプで、それ以外のサーペントは皆両手にダブルガトリングを装備している。
「邪魔」
バルバトス・アステールはバーストメイスを投擲するとヒートソードを持ったリーダー機を破壊すると、飛び上がりバーストメイスを回収しながら素早くテイルブレイドで近くにサーペントのコックピットを貫き、回収したバーストメイスで近くのサーペントを叩き潰しながら別のサーペントをテイルブレイドで貫く。
「化け物が!」
残った最後のサーペントがダブルガトリングで何とか応戦するが、バルバトス・アステールはホバー移動をしながら回避して接近するとバーストメイスを突き出して先端でサーペントの胴体を潰した。
「数が居てもこの程度か?」
サーペント部隊を壊滅させた大我は次に採掘場の高い位置から砲撃支援の為に配置された砲撃部隊の始末に入る。
元々、砲撃部隊のガンプラは長距離砲撃を主体に戦い近接戦闘は前衛の部隊に任せる事を前提に配置されている為、接近された時点でまともな抵抗の手段はない。
バルバトス・アステールにより砲撃部隊は瞬く間に壊滅させられる事となる。
「馬鹿な……単機で我々の部隊を壊滅させるか」
採掘場の熱砂の旅団の本陣では熱砂の旅団のフォースリーダーが自機であるイフリートの中で戦況の報告を随時受けている。
隊長機のイフリートは通常の装備の他に左腕にグフのシールドを装備している。
信じがたい事だが、敵は自由同盟軍もろとも単機で殲滅しているらしい。
「隊長! 来ます!」
出入り口を固めていたサーペント部隊と砲撃部隊がすでに壊滅させられており、敵が本陣まで到達するのも時間の問題とされていた頃、遂にその時が来たようだ。
砲撃部隊を壊滅させたバルバトス・アステールがバーストメイスを振り下ろしながらザメルの上に落ちて来る。
ザメルを砲身ごと破壊したバルバトス・アステールはすぐに破壊したザメルの影に入るとザメルの残骸を盾にする。
「集中砲火だ!」
隊長からの指示もあり、本陣の守りに配備されていたジンオーカーと陸戦型ジムがザメルごとバルバトス・アステールに集中砲火を浴びせる。
ザメルを盾にしていたバルバトス・アステールはザメルの残骸に左腕を突っ込むとそのままザメルの残骸を持ち上げると敵ガンプラの方に投げつける。
それにより敵ガンプラの大半を壊滅させると残ったガンプラは少なからずザメルの残骸を持ち上げた上で投げつけて来たと言うバルバトス・アステールの行動に驚き、その隙を大我は逃す事は無かった。
腕部の200ミリ砲で残った敵を確実に仕留めながら、もう1機のザメルに接近する。
ザメルも何とか応戦しようとするも、意味は無くバルバトス・アステールはバーストメイスを振るいザメルを採掘場の壁まで吹き飛ばす。
「後はアンタだけだ」
「この化け物め!」
イフリートがショットガンをバルバトス・アステールに向ける。
「遅いな」
イフリートがショットガンを撃つよりも早くバルバトス・アステールのテイルブレイドがイフリートのショットガンを破壊する。
同時にシールドスラスターの機関砲を撃ち、イフリートはシールドで身を守る。
それを見た大我は瞬時にバーストメイスを投擲する。
機関砲から身を守る事で背一杯だったイフリートはバーストメイスの投擲に気が付くのが遅れて気が付いた時にはシールドごとイフリートを破壊した。
「雑魚でも数が集まれば少しは楽しめるとも思ったんだがな……雑魚は数が居ても雑魚には変わりは無かったか。所詮、戦いは質と言う訳か」
最後の1機も難なく潰した大我はイフリートの残骸に突き刺さるバーストメイスを回収する。
今回は大規模なバトルになる為、双方と戦えば個々の力は低くても少しはマシな戦いになると思っていたようだが、大我の当ては外れたようだ。
「アレがレイヴンを倒したって噂のリトルタイガーね……中々、面白そうな奴が出て来た物だな」
大我が自由同盟と熱砂の旅団を一人で潰したのを見てダイモンは素直に賞賛する。
ダイモンの耳にもランキング7位であるレイヴンがサシのバトルで負けたと言う噂は入っていた。
このバトルを見る限りでは噂は本当だったと確信するに値する。
「面白そうと言うレベルではないな……戦い方を見る限りではアレはまるで野生の獣ではないか」
クレインの感想にファイターの大我を知る龍牙はあながち間違いではないと苦笑いをする。
「さて……予想以上に面白い物が見られたし、俺はそろそろ帰るとするか」
ダイモンがそう言うと採掘場の方から地響きと共に強力なビームが空に上がる。
「何だ? まだ何かあるのか?」
「EXミッション? まさかこのタイミングでか」
各ガンプラのコックピットから運営からのメッセージが入る。
そこにはEXミッションが開始されたと表示されている。
EXミッションとはオープンワールドないの特定のエリアで特定の条件を満たす事で自動的に開始されるイベントだ。
イベントの場所は開始条件は一般的には公開されてはおらず、一度始まった後には情報がネット上で拡散される為、暫くの間は開始されない。
開始条件はEXミッションにより異なるが、共通している事は場所と関わり合いの深いガンプラが関わって来ると言う事くらいだ。
今回のEXミッションの開始条件は火星のハーフメタル採掘場でエイハブリアクターを搭載した機体が一定時間以上の戦闘行為を行う事で、大我は知らず知らずにEXミッションの開始条件を満たしていた。
「ここで出て来るとなればアイツか」
EXミッションは様々な形式があるが多くの場合、超強力なNPDガンプラが出て来ると言う事だ。
そして、ダイモン達はここで出て来るとしたら何が出て来るかは予想が付いていた。
「……退屈していたところだ。丁度いい。俺がぶっ潰してやるよ」
大我は強力なビームと共に採掘場から現れた敵、MAハシュマルと対峙していた。
ダイモン達の予想通り、ハーフメタル採掘場から出て来たNPDガンプラはハシュマルだった。
設定上のサイズよりも倍近くの大きさを持つハシュマルは狙いをバルバトス・アステールに付けていた。
対する大我もやる気は十分でバルバトス・アステールはバーストメイスを構えるとハシュマル目掛けて突撃する。
「多分、採掘場にはハシュマルが出て来てると思うが、クイーンやジンはどうする?」
「EXミッションのNPDとなればフォース単位で戦わねば勝てない相手の筈だ」
クレインの言うようにEXミッションは個人ダイバー向けのイベントではなくフォースを対象にしたイベントとなっている。
その為、EXミッションに出て来るNPDのボスガンプラは単体ではまず勝てないように性能を調整している。
「俺は帰るのは止めて参戦するけど」
「ならば私も行こう。キングのバトルをまじかで見られる良い機会だ」
「……俺も行きます。アイツはこの状況でも逃げる事は無いでしょうし」
ダイモンは単に面白うだからという理由。
クレインはランキングトップであるダイモンのバトルを近くで見る事が出来れば今回の偵察の目的を元々の予定以上の成果を得られる。
龍牙はこの状況でも大我は逃げずに一人でハシュマルに挑むと言う事は確実で、大我が一人でも挑むのに自分はビビッて逃げれば負けた気になるから。
それぞれがそれぞれの理由でEXミッションに参加する事を決める。
「んじゃあのバルバトスのところまで行こうか」
3機のガンプラは高台から飛び降りるとハシュマルのいる採掘場を目指す。
「敵の増援か……まぁハシュマルがいるなら当然コイツらも出て来るよな」
採掘場を目指す3機の前に新たなガンプラの反応が出て来る。
反応は地面からで、地面からはハシュマルの子機であるプルーマが湧いてくる。
「力づくで突破する。遅れた奴は置いて行く」
先陣を切るガンダムAGE-2 マッハはハイパードッズランスの槍の両脇に内蔵されているドッズガンを連射してプルーマを掃討しながら突き進む。
それをクレインのガンダムグシオンリベイクフルシティが右手のロングバレルの110ミリライフルを撃ちながら続く。
「流石にこの装備でプルーマを相手にするのか厳しいな」
クレインは元々戦闘する気は無い為、装備も最低限の物しか持って来てはいない。
プルーマの素早い動きには問題なく対応して、一発で確実に当てて撃破出来る物の数が多い為、クレインは苦戦を強いられる。
グシオンの背後に回り込んで飛び掛かるプルーマを龍牙のバーニングデスティニーが殴り飛ばす。
「俺も援護しますよ」
「済まない。助かる」
ダイモンは2機を手助けする気は無いが、龍牙は苦戦するクレインを見捨てきれずに援護する。
バーニングデスティニーはバルカンでプルーマを撃破しながら近くのプルーマも空拳徒手で撃破するが、素手での戦闘では分が悪い。
だが、その間にクレインは先ほどまでの戦闘で破壊されたガンプラの武器を回収して、空いていた左手をバックパックのサブアームにも火器を持たせていた。
「ジン! 援護する」
4つの火器を同時に使いグシオンはプルーマを掃討して行く。
一見すると武器を乱射しているようにも見えるが、狙いは正確で無駄弾を撃つ事無く正確にプルーマを破壊して行っていると言う事は龍牙でも分かり、それこそがランキング3位のクイーンの実力なのだろう。
「キングを追いかけるぞ」
「了解」
龍牙はクレインの援護を受けながら先に進んでいるダイモンを追いかける。
一方その頃、採掘場ではバルバトス・アステールとハシュマルとの交戦が始まっていた。
ハシュマルは巨体でありながら、高い機動力を見せてバルバトス・アステールのバーストメイスをかわす。
「でかい癖に早いな」
バルバトス・アステールはテイルブレイドで追撃するが、ハシュマルのワイヤーブレードに弾かれる。
そのままワイヤーブレードはバルバトス・アステールに襲い掛かり、それをバーストメイスで弾く。
「元は同じなのにサイズが違うから威力も段違いって訳か」
200ミリ砲で牽制を入れながら接近戦を試みるも、ハシュマルはワイヤーブレードを巧みに使ってバルバトス・アステールを阻む。
「ちっ……そう簡単には懐に入らせてはくれないか」
バルバトス・アステールを寄せ付けないハシュマルの頭部ユニットが開閉されて、バルバトス・アステールの方に向ける。
大我はすぐさま、機体を射線上から退避させるとハシュマルはビームを放つ。
ビームは当たる事は無かったが、採掘場の壁を易々とぶち抜く。
「幾らビームコーティングをしていてもアレを何発も喰らえば不味いな……ならば」
バルバトス・アステールはワイヤーブレードを掻い潜り接近するとバーストメイスを突き出す。
だが、ハシュマルも負けじと腕部の運動エネルギー弾を撃ち込もうとする。
運動エネルギー弾とバーストメイスがぶつかり合う。
それによりハシュマルの腕の運動エネルギー弾の発射口は潰れるが、同時にバーストメイスの先端も潰れてパイルバンカーとダインスレイヴが使用不可となる。
「やってくれたな」
至近距離から200ミリ砲を撃ち込むがハシュマルの装甲には傷一つ付かない。
「ナノラミネート装甲を再現しているのか……厄介な」
バルバトス・アステールは一度距離を取ろうとするが、大我は機体の脚部に違和感があり、確認するとそこにはプルーマば取りついていた。
すぐに脚部のダガーでプルーマを破壊するが、一瞬視線を逸らした時にハシュマルはビームを撃ち込んで来る。
その一撃はかわす事が出来ず、バルバトス・アステールはとっさに両肩のシールドスラスターで身を守る。
ビームを正面から受け止めるが、踏ん張り切れずにバルバトス・アステールはビームに飲み込まれて採掘場の端の壁まで吹き飛ばされる。
この一撃でバルバトス・アステールを仕留めたと判断したハシュマルは接近する3機のガンプラに狙いを定めたのか、移動を始めようとする。
しかし、バーストメイスが飛んで来てハシュマルはワイヤーブレードで弾く。
「待てよ……まだ終わってねぇぞ」
ビームの直撃を受けたバルバトス・アステールは何とか立ち上がる。
表面をビームコーティング塗装をしていたお陰で致命傷を避ける事は出来た。
それでもビームコーティングの効果はもう残されていない。
「お前は俺がぶっ潰す! だから逃げんなよ」
バルバトス・アステールは200ミリ砲を撃ちながら投げたバーストメイスを回収してハシュマルに突っ込む。
ハシュマルはワイヤーブレードで迎撃するが、バルバトス・アステールはギリギリのところでかわし、バーストメイスで思い切りワイヤーブレードを弾いて戻るまでの時間を稼ぐ。
その間に一気に距離を詰める。
ハシュマルも今度は残っている腕の運動エネルギー弾を撃ち込むが、バルバトス・アステールは左腕で弾丸を受け止めて飛び上がる。
ハシュマルの頭部ユニットが開閉するとビーム砲で落ちて来るバルバトス・アステールを狙う。
「コイツでも食ってろ」
一気に加速しながらバルバトス・アステールはビーム砲にバーストメイスを突っ込むと、内部に残されているパイルバンカーの杭を全て爆発させる。
爆発の反動でバルバトス・アステールは吹き飛ばされて地面に叩き付けられる。
一方のハシュマルも致命傷にはならなかったが、ビーム砲は爆発で内部から破壊されたのか煙を上げている。
「俺のバルバトスがここまでやられるのも久しぶりだな」
バルバトス・アステールは何とか立ち上がる。
だが、右腕は爆発によりマニュピレーターが吹き飛び200ミリ砲も使い物にならなくなっている。
左手も運動エネルギー弾を直接掴んだせいでボロボロでまともに物を掴む事は出来ない。
「前は……そうだな。ルークの奴をガチで遣り合った時くらいか」
大我はバルバトス・アステールの状態を確認しながらチームメイトとのバトルを思い出す。
「まぁ……アイツに比べれば所詮はNPD。大した事はない」
大我はそう言うとバルバトス・アステールの腕部ユニットをパージする。
そこには通常のバルバトスの腕が出て来た。
元々、フレームから延長したバルバトスルプスレクスとは違いバルバトス・アステールはバルバトスの腕に外付けでバーストメイスを振るう為のパワーユニットとして腕部ユニットを追加している。
その為、パワーユニットをパージすればバーストメイスを本来の威力で扱う事は出来ないが、通常の腕が残される。
「けど……まぁ、褒めてやるよ。俺にコイツを抜かせられるのはそうはいないからな」
バルバトス・アステールはバックパックの太刀を抜いて構える。
「ここからは俺も本気を出させて貰う」
太刀を構えたバルバトス・アステールのツインアイが赤く禍々しく輝く。
それと同時にバルバトス・アステールがハシュマルの運動エネルギー弾が使えない方の腕を関節から切断する。
ハシュマルはワイヤーブレードで応戦するが、完全にバルバトス・アステールの動きについて行けない。
これこそが、大我のガンダムバルバトス・アステールの切り札であるリミッター解除モードだ。
普段はリミッターで力を抑えているが、リミッターを解除する事で一時的に本来の性能を最大限に発揮できる。
だが、この状態は機体へと負担も大きく、リミッター解除モードは3分程度しか使えない。
「遅いんだよ」
ハシュマルのワイヤーブレードのワイヤーをバルバトス・アステールは太刀で切断する。
ハシュマルが運動エネルギー弾を撃つがすでにそこにバルバトス・アステールはいない。
そして、太刀の一閃によりハシュマルの肩の装甲が切り裂かれる。
「逃がすかよ」
ハシュマルは体勢を立て直そうとするが、バルバトス・アステールは左腕を頭部ユニットの装甲の隙間に突っ込むと中からケーブルを引っこ抜き太刀を突き刺す。
それでも尚、ハシュマルは動きを止めず、運動エネルギー弾を強引に撃ち込もうとするが、その前にバックパックの滑空砲を前方に展開しながらバッパックからパージして運動エネルギー弾の発射口に滑空砲の砲身をねじ込んで塞ぐ。
発射口を塞がれたせいでウ運動エネルギー弾は暴発して腕部が破損する。
「お前は俺がぶっ潰すと言ったろ?」
もはや武器の残されていないハシュマルを大我はさらに畳み掛ける。
膝のドリルニーを胴体部に突き刺すと、そこを支点にしてハシュマルの背後に回り込もうとする。
その際に抜けなくなったドリルニーの刃はパージされた。
背後に回り込んだバルバトス・アステールは頭部ユニットと胴体部の隙間に太刀を突き刺す。
それでもも尚、ハシュマルは暴れ続ける。
「いい加減に潰されろよ」
バルバトス・アステールは振り落されないように太刀をしっかりと握り、太刀をグリグリと動かしてハシュマルの内部を破壊して行く。
やがて、遂にハシュマルは機能を停止する。
「終わったか」
モニターにはEXミッションの終了の告知が表示される。
「2分50秒……何とか終わったか」
後数秒もすればリミッター解除モードの負荷が限界となってそこから先は負荷で自壊しながら戦わなければいけなくなっただろう。
「驚いたな。プルーマの動きが止まったからもしかしてと思ったが……」
大我がハシュマルを撃破した後、ダイモンのガンダムAGE-2 マッハが採掘場に到着した。
道中プルーマを蹴散らしていたら急にプルーマの機能が停止した事からもしかしたらハシュマルが倒されているかも知れないと思ったが、ダイモンの思った通りハシュマルは倒されていた。
本来は単機で戦う事を想定されていなかったEXミッションのNPDボスガンプラを一人で仕留めた事は行幸と言うしかない。
「大したもんだな」
「アレは……今日は運が良い」
大我もダイモンのガンダムAGE-2 マッハの存在に気が付いた。
同時にダイモンがランキングトップのダイモンである事もだ。
「やるな」
ダイモンが大我とコンタクトを取ろうとするが、同時にバルバトス・アステールはガンダムAGE-2 マッハの方に向かう。
ダイモンもそれが自分と話す為に近くに来たのではないと言う事は直感的に気づいた。
バルバトス・アステールの太刀をガンダムAGE-2 マッハはハイパードッズランサーで受け止める。
「挨拶も無くいきなりだな」
「そんな物が必要か? ここで? 俺もお前もファイターだ。ならばファイター同士が出会えばやる事は一つしかないだろう」
「……確かにな!」
ガンダムAGE-2 マッハはバルバトス・アステールを蹴り飛ばして、左手でハンドガンを抜くと至近距離で撃ち込む。
本来ならば威力の低いビームはバルバトス・アステールには通用しないがハシュマルのビームですでに表面のビームコーティングは効果を失っている。
幸いにも威力が低い為、ビームコーティングが無くとも致命傷になる程のダメージはないが、それでも受け続ければいずれはここまでの戦闘で蓄積して来たダメージで装甲も限界になる。
バルバトス・アステールはシールドスラスターで身を守りながら突っ込む。
ハシュマルのビームの直撃を受けているとはいえ、ハンドガン程度の威力ならシールドスラスターでも十分に身を守る事は出来た。
「ぶっ潰す!」
「させないな!」
ガンダムAGE-2 マッハはハイパードッズランサーのランスモードを突出し、シールドスラスターを粉砕する。
ランスがバルバトス・アステールのシールドスラスターを破壊し、頭部を突き刺そうとするが、ギリギリのところでかわすが、ランスはバルバトス・アステールの頭部を掠めて半壊する。
それでもバルバトス・アステールはハイパードッズランサーを掴む。
ボロボロとはいえまだ十分なパワーを発揮するバルバトス・アステールはハイパードッズランサーの槍の部分を握り潰し、ガンダムAGE-2 マッハはランスを手放す。
「本当に大した奴だ。あれだけの軍勢を一人で殲滅し、EXミッションを一人でクリアする! 久しぶりに熱くなってきた! これこそが俺の求めたガンプラバトル! お前もそうだろ! リトルタイガー!」
「知るかよ。俺はただお前をぶっ潰すだけだ」
バルバトス・アステールは太刀を振り下ろし、ガンダムAGE-2 マッハは腕部の装甲からビームサーベルを出して受け止める。
ダイモンもいきなり襲いかかって来た大我とは大我のガンプラのダメージから本気で相手をする気は無かったが、ここまでのダメージを追っても尚、戦い勝つ気でいる大我に感化されたのか、熱くなり本気で大我と戦おうとしている。
「言ってくれる!」
ガンダムAGE-2 マッハはハンドガンを向けるが、横からテイルブレイドが飛んで来て腕部のビームサーベルで弾く。
それと同時に距離を詰めてビームサーベルを振り上げる。
バルバトス・アステールは後退してかわそうとするが、完全にはかわし切れずに胴体にビームサーベルの一撃を受けてしまう。
ビームサーベルの先の方だけが当たった為、致命傷とはならないが、胴体にビームサーベルの切り傷が残る。
何とか回避したがダイモンの攻撃は終わらない。
脚部のスラスターを使った蹴りがバルバトス・アステールの胴体に入り蹴り飛ばされる。
「機体の反応が遅い。リミッターを解除したせいか」
バルバトス・アステールは蹴り飛ばされて仰向けに倒れる。
「どういう状況なの? これは」
2機が戦う中、ようやく龍牙とクレインが到着する。
二人も道中でハシュマルが倒された可能性を考えていたが、到着して見ると大我とダイモンが戦っている事は流石に予想外だ。
クレインは状況は呑み込めないが、龍牙は何となく大我が仕掛けたと言う事は分かった。
「男同士のサシでの真剣勝負だ。君たちは手を出すな。出せば敵と見なして先に叩く」
ダイモンも戦闘モードに入っているのか先ほどまでとは雰囲気が違う。
「これがキングか……」
龍牙は大我の実力を知っているが故に大我がここまでボロボロにされている事に驚いている。
倒れているバルバトス・アステールだがゆっくりと起き上がる。
「まだ立つか。ここで沈んでも恥ではないぞ。お前はそれだけの戦いをした」
「黙ってろ……俺はこんなところで……お前程度の相手に負けてはいられないんだよ……俺はまだ世界で一番のファイターになってないんだからな」
大我は機体を立ち上がらせる。
すでに熱砂の旅団と自由同盟のガンプラを100機以上も撃破し、EXミッションのNPDボスガンプラのハシュマルを仕留めた時のダメージとリミッターを解除した負荷でガンプラは限界を超えている。
それでも尚、大我は立ち上がり戦い続ける。
ダイモンの言うようにここで負けたところで何も恥じる事は無い。
だが、大我は立ち上がる。
もはや大我を立ち上がらせているのは意地しかない。
目の前の敵を潰すと言う。
相手はキングとはいえ所詮は中高生部門のランキングのトップでしかない。
大我の目指す先は更に上にある。
かつて大我は約束した世界で一番のファイターになると。
その約束を果たす為に大我は意地でも立ち上がる。
「世界で……一番の……まさか、あのバルバトスのファイターは」
大我の言葉に3人の中でクレインだけが反応する。
その様子は誰も気づいてはいない。
「そうか……ならば、この一撃で引導を渡してやろう!」
ガンダムAGE-2 マッハはハンドガンをしまうと両腕のビームサーベルを抜く。
バルバトス・アステールは太刀を構えると、力の限り大地を蹴る。
それに合わせてガンダムAGE-2 マッハもスラスターを最大出力で使い迎え撃つ。
勝負は一瞬だった。
2機は交差し、見ていた龍牙は息を飲む。
龍牙には二人の最後の一撃を目で追う事すら出来なかった。
そして、勝負は付いた。
バルバトス・アステールの太刀が半分程残り折れていて、バルバトス・アステールは膝を付いて倒れた。
「藤城が……負けた」
龍牙は大我の事は気に入らないが、正直キングを相手でも負けないと心のどこかで思っていたらしく、大我の敗北に少なからずショックを受けた。
「良いデータが取れたわ。それに先生に確認する事も増えたから私は先にログアウトをさせて貰うわ」
クレインはそう言いログアウトした。
倒れていたバルバトス・アステールもすでにログアウトしたのか姿を消していた。
「俺もログアウトします」
ダイモンにそう言うと龍牙もログアウトする。
戦場にはダイモンのガンダムAGE-2 マッハだけが残され佇んでいる。
戦場には他には誰もいなくなったところで、ガンダムAGE-2 マッハの胴体にヒビが入りコックピットハッチが崩れる。
「……あの状態で最後まで勝ちに来たと言う訳か……これが万全の状態なら負けていたのは……」
ダイモンはそこから先は敢えて言わなかった。
互いの最後の一撃を制したのは間違いなくダイモンだ。
だが、大我の最後の一撃は正確にガンダムAGE-2 マッハのコックピットを狙っていた。
これがもし大我のバルバトス・アステールが万全の状態でバトルを始めていたのであれば、最後の一撃はコックピットを貫いていただろう。
「はっははは……リトルタイガーか……その名は覚えたぞ。次こそは俺が勝つ!」
ダイモンはリトルタイガーの名を胸に刻みログアウトする。
この採掘場での戦いは注目されていた為、リトルタイガーの名は戦いに乱入して大暴れをしたと言う悪名として更にGBN内に知れ割れたる事となった。