アメリカVSギリシャの決勝戦でアメリカがギリシャを破りジュニアクラスの絶対的王者をひきづり下してから一夜が明けた。
ジュニアクラスとは言えオープンクラスの上位者とも互角以上に戦えるアルゴスを1対1で破った大我のことはGBN中を駆け巡った。
同時に世界大会で優勝したその日にフォースを解散したビッグスターのことも話題となっている。
そして、会場となった木馬号では世界大会最終日の閉会式も兼ねた懇親会が行われている。
開会式の時はこれからバトルが行われることもあり、張り詰めた空気だったが、大会も終わり参加者たちは国の垣根を越えて互いに情報を交換し、親睦を深めている。
「なぁカティアはこれからどうするんだ?」
龍牙は隣にいたカティアにそう尋ねる。
始めこそは冷たい態度だったが、今では打ち解けていると龍牙も自負している。
「私も兄さんにもいろんなところから声をかけて貰っているわ」
決勝トーナメントの1回戦で敗れてロシア代表は槙島グループからの援助が打ち切られている。
カティアもオルゲルトもガンプラバトルで稼ぎ生活をしていたため、死活問題だったが幸いにもあのバトルの後からスポンサーになりたいと声をいくつかかけられていた。
今はオルゲルトと相談しているところだ。
「そっか」
「龍牙は?」
「俺は来年の全国と世界大会に向けてもっと強くなる」
今年の世界大会は終わったが、まだ来年も行われる。
世界大会に出場するためには全国大会で結果を残す必要もある。
全国大会ともなればともに日本代表として戦って来た仲間とも戦わなければならない。
「そう」
「今年は優勝できなかったけど来年こそは絶対に大我に勝って優勝する!」
「あれだけの戦いを見て良く言えるわね」
大我とアルゴスの一騎打ちはすでにGBN中に拡散し、GBNのバトル史に残るバトルの一つとされている。
そんなバトルを目の当たりにしても尚、大我の背を追い、いつかは追い越そうと思える龍牙には素直に関心させられる。
同時にそんな龍牙には負けたくないという対抗心も生まれている。
「でも……そうね。私たちはまだ終わりじゃない」
「当たり前だろ。GBNのサービスが終了するか俺たちが死ぬまで俺たちのガンプラバトルは終わらない。終わらせないさ」
「そうね。ところでなんだかスタッフが慌ただしくしているようだけど? 何かあったのかしら」
龍牙も言われてみると運営のスタッフたちが何やら慌ただしく動いているようだ。
この後の予定だと会場のステージで優勝チームへのインタビューが行われる予定だ。
例年通りだとチームのリーダーとエースがインタビューを受けている。
「……まさかな」
今年の優勝チームはアメリカだ。
そのエースは大我だ。
龍牙は大我がまた何かをやらかしたのではないかと思うが、まさか世界大会で優勝しても尚、問題を起こす訳がないとするが、そのまさかが的中しているなど、この時は思ってもみなかった。
会場でそんな事態になっていることなど大我はどうでも良かった。
すでにここに来た目的である優勝はしている以上は後のことは興味はない。
そして、今大我にとって世界大会で優勝するよりも重大なことが迫っている。
木馬号の船内の通路で大我は冷静を装いながらも行ったり来たりを繰り返している。
時折、時間を確認するが、それは懇親会でのインタビューの時間が迫っているからではない。
「タイちゃ……藤代君」
「おう」
大我は優勝を決めた後に諒真を通じて千鶴を呼び出していた。
その時に諒真が優勝を祝うよりもどこかニヤニヤとしていた事など気に留める余裕はなかった。
「優勝おめでとう」
「ああ。まぁ……」
大我は千鶴の言葉にどこか上の空だった。
千鶴も千鶴で少し緊張した面持ちだ。
「ジュニアクラスだし、リヴィエールのガンプラもあったからな」
「でも、あの皇帝を倒すなんて凄いよ」
「まぁ……な」
そこで会話は途切れて沈黙が続く。
大我はポケットから一枚の紙を取り出すと千鶴と視線を合わせることなく差し出す。
「ん」
「えっと……」
千鶴も事情は分からないが、とりあえず紙を受け取る。
紙の大きさはさほど大きくはなく、それぞれの個室に備え付けのメモ用紙のようだ。
千鶴は折りたたまれていた紙を広げるとそこにはいくつかの数字やローマ字の羅列が書かれていた。
「これって」
「……とりあえず世界大会は優勝したし、俺のメールアドレスと電話番号。後、GBNのID。後でフレンド登録しといて」
紙に書かれていたのは大我の携帯のメールアドレスと電話番号にGBNのフレンド登録用のIDだった。
千鶴も大我の連絡先はいまだに知らない。
その気になれば珠樹や貴音に聞けば教えては貰えるし、諒真に頼めば間に入って大我に聞くこともできた。
だが、いざ頼もうとすれば何となく気恥ずかしく結局聞くことはなかった。
「……ありがと。後で連絡する」
大我の連絡先の書かれた紙を千鶴も大事にしまう。
「用はそれだけ。如月。とりあえずジュニアクラスで頂点に立ったから次はオープンクラスで頂点を取る。そんで俺が最強であることを証明する」
「うん」
「だから……そん時は」
大我はそこまで言うもそれ以上は何も言わないでその場から立ち去る。
始めはゆっくりと歩いていたが、千鶴から見えなくなると少しつづ速足となり甲板に出ると甲板に備え付けのベンチに座ると大きく息を吐く。
「やっべ……滅茶苦茶緊張した」
「あれで?」
独り言に返事が返ってきて、大我は思わずベンチからずり落ちそうになるが何とかこらえる。
「……ルーク」
返事の相手はルークで落ちかけた恥ずかしさを隠しながら平静を装う。
「何でここにいるんだよ」
「諒真から連絡があってね。君が一世一代の行動に出るかも知れないって」
「何で通じてんだよ」
ルークと諒真は準決勝で戦ってから馬が合ったらしく互いの連絡先を交換していたようだ。
そして、大我が諒真経由で千鶴を呼び出したことはルークに筒抜けだった。
「それで様子を一部始終録画して欲しいと頼まれてね」
「趣味悪」
「まぁそれはさておき、大我にそんな事情があったのは初耳だよ」
ルークにも大我と千鶴との間にあったことは話してはいない。
そのことを諒真から聞いたのだろう。
「うるさい」
「けど、あれはないね」
事情を聴いたルークも諒真も大我は世界大会で優勝した事をきっかけに告白でもするのだろうと考えていたのだが、まさか大我から連絡先を渡すだけだったことは予想の斜め下を行っていた。
「どこまで諒ちゃんから聞いたかは知らないけど、所詮はジュニアクラスの世界大会で優勝したに過ぎないだろ。世界で一番のファイターってのはその名の通り最強のファイターだ。俺は最強だが、それを客観的に証明はしてない。だからまだ駄目だ」
「……なるほど。大我はたまに考えなしの馬鹿だとは思っていたけど、考えても馬鹿だったか」
ルークは呆れる。
幼少期の約束を果たすには今回の世界大会の優勝だけでも十分だが、大我はそれでは満足できないようだ。
「で、これから大我はどうするつもりなんだい?」
「ジュニアクラスでやることもないからオープンクラスに切り替える」
ジュニアクラスはあくまでも中高生が始めたばかりだとGBNを何年もプレイしている大人たちとの差が大きくなるための救済処置として作られている。
そのため、ダイバーによってはジュニアクラスではなくいきなりオープンクラスに登録することもできる。
もはや大我にとってはジュニアクラスでいるメリットはない。
「そんでもって、手当たり次第に強いダイバーをぶっ潰す。そうしていけばいずれは俺が最強という事が証明される」
「……呆れたね」
あまりにも計画性のなさに更に呆れる。
「大我。僕はこの大会でGBNでのダイバーとしての活動は抑えなければならない。父の会社をいずれ継ぐためにもね」
その話は以前にも聞いたことはある。
ルークの父親はアメリカの玩具メーカーの社長らしい。
いずれはルークも父親の後を継いで社長となることは決まっていていずれは一緒にGBNをできない。
「それで父はGBNに出資することが決まってね。それで社内にガンプラのワークスチームを設立することが決まったんだよ。僕は社会勉強の一環としてその辺の管理を任されることになったんだよ」
ルークの父親の会社がガンプラの流通にかかわっていることは何となく知っていた。
だが、ルークの父の会社のことなど大我には何の興味もなく、そんな動きがあったことなど知らなかったし、興味もない。
「僕もこの大会で知り合ったダイバーには何人か声をかけたんだが、チームの要となるダイバーがどうも見つからないんだろ。大我。どこかに心当たりはないかい?」
そこで大我もルークの意図を察した。
「いるよ。それもとびっきりのダイバーがね。そいつを加入すればそのワークスチームとやらは最強のチームになることは確実のとびっきりの最強のダイバーがね」
大我もそう返し二人は拳を合わせる。
それ以上は二人の間に言葉は必要ない。
懇親会の会場ではアメリカ代表チームのリーダーとエースが未だに不在でてんやわんやとなっているが、そんなことなど二人には知る由もない。
最初から最後までアメリカ代表に振り回された世界大会はアメリカ代表チーム『ビッグスター』の優勝で幕を下ろした。
だが、それは彼らにとっては終わりではなく、新たな始まりでもあった。
そして、GBNはいくつかの大型アップデートが公表され、新時代を迎えることとなる。