ガンダムビルドダイバーズ~最上の星~   作:ケンヤ

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皇女子高校

 熱砂の旅団と自由同盟の戦いの翌日、龍牙は授業後に明日香と共に部室に向かうとそこにはすでに静流が来ている。

 静流は部室に備え付けのPCを見ているようだ。

 

「神君。貴方、昨日部活が終わった後にGBNにログインしていたわよね」

「そうですけど」

 

 龍牙がそう言うと静流はPCのモニターを龍牙達に向ける。

 そこには掲示板サイトを見ていたようで、いつくかの書き込みが表示されている。

 

「何なんですか……コレ」

「……酷い」

 

 掲示板はGBNの運営が関わっていない非公式の物で、そこには昨日の熱砂の旅団と自由同盟との戦いに乱入したリトルタイガーの誹謗中傷がいくつも描きこまれている。

 

「色々書いてあるけど、ようやくするとリトルタイガーは荒らしに手を貸した悪質なダイバーって事ね」

「その戦い俺も偶然見てましたけど、藤城は確かに戦いに乱入してましたけど、別の旅団の方に肩入れしていた訳じゃなくて、両方を相手にしてましたよ」

 

 書き込みの内容は自由同盟を味方を装い騙し討ちで攻撃して来たや無抵抗のガンプラをいたぶるように弄った等、事実無根な書き込みが大半だ。

 

「でしょうね」

 

 静流も始めから信じてはいないようだった。

 少しでも大我の性格を知っていれば抵抗しない相手には興味は無く、大我の戦闘スタイルは強力な一撃で相手をガードごと粉砕すると言うもので弄るなどあり得ない。

 

「でもなんで……」

「まぁ……自由同盟がやられた腹いせで拡散したってところでしょうね。今のところ公式掲示板にはそこまで極端な書き込みはないようだから事実無根ならその内消えるでしょうね。それで当の藤城君は?」

「それが今日はアイツ休んでるんですよ。先生は体調不良だって言ってましたけど」

 

 今日、大我は学校を休んでいる。

 龍牙も連絡先を知らない為、休んでいる理由は教師の言う体調不良と言う事しか分からない。

 もしかすると昨日のバトルでダイモンに負けた事が理由なのかも知れないが、確かめる術は無い。

 

「そう……面倒な事をしでかしてくれないと良いのだけれど」

 

 書き込みが事実無根としても、ここまで誹謗中傷されれば大我も黙っていないかも知れない。

 下手をすると自由同盟と本格的に揉めると今後のGBNでの活動に影響が出かねない。

 

「皆、揃っては……いないな」

 

 そこに顧問の颯太と部長の史郎が入って来る。

 史郎は少し深刻そうな表情をしており、また厄介事なのかと静流は少し身構える。

 

「さっき学校の方に連絡があってね。皇女子高校からウチのガンプラ部を練習試合の招待したいって話しが来たんだよ」

「皇女子って……」

 

 龍牙は皇女子が去年の全国準優勝校である事だけではなく、昨日、クイーンことクレインと会っていた事もあり、クレインの事を思い出す。

 

「この時期にですか? それってウチの事完全に舐めてませんか?」

 

 静流は不機嫌だと言う事を隠そうともしない。

 向こうは強豪校でこちらは弱小校。

 本来ならば練習試合を組んですら貰えない。

 それなのに向こうから練習試合を申し込んで来ると言う事は大会前の調整と言う所で、同じ東京地区で組み合わせによっては当たる可能性もある星鳳高校には自分達の情報を少しでも見せても構わないと思っているのだろう。

 

「まだ正式な回答は保留しているから皆の意見を聞きたいと思ってる」

「僕は余りおすすめは出来ないな。相手は去年の準優勝校。調整とは言っても実力差があり過ぎる。今の僕達が戦っても自信を成すくだけかも知れない」

 

 皇女子との練習試合には史郎は乗り気ではないようだ。

 

「でも、それは分かっている事ですし、全国のトップレベルの相手と戦える機会は限られてきますから良い機会じゃないんですか?」

 

 対象的に龍牙は練習試合には乗り気だった。

 史郎の言うように実力差は明白だ。

 だが、自分達が皇女子に勝てると始めから思い上がっていなければ負けたところで自信を無くす事もない。

 それどころか、全国上位のチームと戦える事は全国の実力を知る機会でもある。

 

「そうね。舐められっぱなしでは引き下がる訳には行かないわね。でも、この事は藤城君には黙って置いた方がよさそうね。彼の事だから全国トップレベルのチームと戦えると知ったら何をしでかすか分からないから」

 

 静流は龍牙の意見に賛成のようだ。

 だが、この事は大我に伏せた方が良いと言うのが静流の考えだ。

 大我は全国トップレベルのチームと戦えるのであれば、確実に食いついてくるだろう。

 だが、食いつき過ぎて問題を起こしかねない。

 同時に大我の存在は星鳳高校の切り札でもある。

 ここで皇女子に大我の存在を見せつける事は地区予選で必要以上にマークされる危険性がある。

 

「分かった。神君や黒羽さんがそう言うなら僕も止めはしない。清水さんも良いよね」

「私は戦わないから龍牙や先輩達がそれでいいのなら」

 

 明日香の同意も得た事で星鳳高校としては皇女子高校との練習試合を正式に受ける旨を相手側に返し、練習試合が3日後の休みの日に決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから3日後龍牙達は颯太の引率の元、皇女子高校に向かっている。

 練習試合そのものはGBN内で行うが、招待されている以上は相手側の学校に行かないのは失礼になる。

 練習試合の申し込みから3日間、いかにして大我に知られないようにするか龍牙達は考えていたが、幸か不幸か、大我は3日間も体調不良を理由に学校を休んだ。

 流石にこれは大丈夫かと心配したが、龍牙達は大我の連絡先を知らない為、どうする事もない。

 

「あそこが皇女子だね」

 

 近くまではバスを使って移動をしてようやく皇女子高校が見えて来た。

 

「遅いぞ」

 

 星鳳高校ガンプラ部を待ち構えていたのは皇女子の生徒でも監督でも無く大我だった。

 大我は相変わらずの不機嫌そうな顔で一行を待っていたようだ。

 

「藤城! お前体調は大丈夫なのかよ? それに何でここに?」

「体調? 今日はここでバトルするんだろ? 3日かけてようやくバルバトスの調整も終わったんだ。今日のバトルは十分に戦える」

 

 大我は体調の事を心配されると少し怪訝な表情をするも、余り気にした様子はない。

 大我はこの3日間でガンダムバルバトス・アステールの全面的にメンテナンスを行っていた。

 GBN内のバトルで損傷したガンプラを修復する方法は大きく分けて2つある。

 一つはディメンジョン内にある工場やファクトリー等で仮想通貨を支払いNPDに修理を依頼する事だ。

 支払う金額に応じてガンプラの修理の期間が変わって来る。

 もう一つはログアウトして自分のガンプラをケアする事だ。

 そうする事で次回ログインした時にスキャンしたデータはケアの度合いにより修復される。

 大我は後者の方法で3日もかけて徹底してバルバトス・アステールのメンテナンスしていたようだ。

 同時に今まで誰も伝えてはいなかった皇女子高校との練習試合の事も知っているようだ。

 

「何してんだ。さっさと敵陣に乗り込むぞ」

 

 大我はすでにやる気十分でここで大我を返す理由も見つからない。

 一行は大我が問題行動を起こさない事を祈りながら皇女子高校へと向かう。

 学校に入る際に颯太が守衛に用件を伝えると中から一人の女生徒が出て来る。

 それを見た大我は少し視線を逸らすが、誰もその事に気が付いてはいない。

 女生徒は皇女子の制服を着ている事からもここの生徒である事は間違いないだろう。

 分厚い眼鏡に髪を後ろで束ねている。

 

「星鳳高校の方ですね。監督の方からみなさんを案内よるように言われました。如月千鶴です」

 

 そう言い千鶴は軽く会釈をしてちらりと大我の方に視線を向ける。

 それに気づいたのか大我は少し後ろの方で気まずそうにする。

 

「久しぶり。タイちゃ……藤城君」

「……そうだな」

 

 大我は普段の不機嫌だったり挑発するような態度ではなく、投げ槍に返事をする。

 そのやり取りから大我と千鶴は知り合いだと言う事は分かる。

 龍牙達は少なからず、視線で事情を説明して欲しいと言う事は大我には伝わった。

 

「……諒ちゃんの妹だよ」

 

 大我は完結に千鶴の事を説明した。

 確かに千鶴の苗字と諒真の苗字は同じ如月だ。

 そこまで珍しい苗字と言う程でも無い為、余り気にはしていなかったが兄妹と言う事らしい。

 そして、諒真と大我は親同士が仲が良い事から幼馴染である事は皆も知っている。

 つまりは、大我と千鶴もそうなのだろう。

 尤も千鶴と大我は諒真と大我のように仲が良いようには見えずどこかギクシャクしているようにも見える。

 

「そんな事よりも早く行くぞ」

 

 大我はこれ以上、この話しをしたくはないのか早々に切り上げさせようとする。

 

「……案内します」

 

 千鶴の案内で大我たちは校内を進む。

 皇女子高校は歴史が古いと言う訳でもなく、お嬢様学校と言う訳でもない。

 唯一誇れるところはガンプラバトルの強豪校と言う事くらいだ。

 

「アレが私達の部室です」

 

 千鶴の指さす方向には校舎から少し離れたところにある離れが見える。

 千鶴の口ぶりからすると、その離れの中にガンプラ部の部室がある訳ではなく、建物そのものそうなのだろう。

 

「相変わらずだな。あの爺さんも」

「そうね。流石に私もここまでとは思ってなかったわ」

 

 ガンプラ部の部室を見た大我が呆れたようにそう言う。

 それには千鶴も同意する。

 

「どういう事だ?」

「この学校は俺の爺さんの学校なんだよ。昔から女子高生とガンプラが大好きでな。ガンプラバトルの強い女子高ってのはまさに爺さんの理想郷って訳だ」

 

 大我の家族関係は誰も把握はしていない。

 皇女子高校が大我の祖父の学校だった事は誰も想像はしていなかった。

 

「藤城ってボンボンだったんだな」

「そうでもない」

 

 大我たちはガンプラ部の部室に到着すると、千鶴が中に案内する。

 入ってすぐにエントランスがあり、そこから更にいくつかの部屋に分かれている。

 

「ふっははははっはよく来たな! 星鳳高校ガンプラ部の諸君!」

 

 入ると否や何者かがそう言う。

 突然の不意打ちに龍牙達は戸惑う。

 声の主はエントランスに長机を置いてその上で腕を組んで踏ん反り返っている。

 千鶴と同じ制服だが胸のリボンの色が違う事から千鶴よりも上級生なのだろう。

 一方で大我と千鶴はため息を付いている。

 

「とう!」

 

 女子生徒そう言うと机から飛び降りて着地する。

 

「ここから先に行きたくは私を倒してか……」

 

 そこまで良いかけると恐らくは教師を思われるスーツ姿の女が女生徒の頭に拳骨を落とす。

 その後ろには大我と同じくらいの小柄の女生徒がボーっと立っている。

 

「余り我が校の品格を落とすような行動は止めるように言ったわよね」

「痛いよ。ママ! それって振りじゃん!」

 

 女生徒がそう言うと再度、拳骨が落ちる。

 

「学校では先生と言うように言っているでしょう。藤城さん」

 

 教師がそう言う。

 龍牙達は大我の方に視線を向ける。

 大我はあからさまに視線を逸らしている。

 

「なぁ……藤城」

「……言うな」

 

 大我の返答で何となく理解した。

 

「ちょっと大我! 何それ! 久しぶりに帰って来たと思ったらアンタ生意気よ! 昔はお姉ちゃんお姉ちゃんって私に懐いていたのに」

 

 龍牙達の予想通り目の前で騒いでいるのは大我の姉のようだ。

 そして、大我が姉に懐いている様子を思い浮かべ笑いを堪える。

 

「そんな過去は存在しない」

 

 後ろに控えていた女生徒がそれを否定する。

 

「大我は昔から私にぞっこんだから」

「そんな事実もない。珠ちゃんも姉ちゃんもいい加減にしとかないと死ぬよ」

 

 大我はそう忠告する。

 言い争っていた二人は心なしか青ざめている。

 

「……珠樹、貴音。貴女達、少し下がっていなさい」

「イッイエス! マム!」

 

 大我の姉である貴音は勢いよく敬礼して、もう一人の姉でもある珠樹と共にそそくさと下がる。

 

「失礼。うちの部員がお見苦しいところを。私が皇女子高校ガンプラ部監督の藤城麗子です」

 

 もはや龍牙達は驚く事は無い。

 ここまでの流れから察すれば彼女は大我の母親なのだろう。

 皇女子高校ガンプラ部にに2人の姉と母親が入れば、龍牙達がどんなに黙っていようと今日の練習試合の事は筒抜けなのはどうしようもない。

 

「星鳳高校ガンプラ部の顧問の桜庭です。今日はお招きありがとうございます」

 

 麗子も先ほどまでの事が無かったかのように挨拶を始め、颯太も極力気にしないように挨拶を返す。

 

「ちっ……何か仕掛けて来ると思っていたが、ここまでやるのかよ」

「何か?」

「……何でもない、です」

 

 麗子はあくまでも息子に対しての態度ではなく、練習試合に来た他校の生徒として大我に接する。

 

「では早速GBNの方にダイブしましょう。端末はウチの物を使って貰えば結構です」

 

 麗子と千鶴に案内されて大我たちは部室の中にあるダイブルームに通された。

 そこにはその名の通り、GBNにダイブする為の端末が設置されている部屋だ。

 強豪校ともなれば学校にGBNにダイブする為の端末を持っているところもある。

 ダイブルームにはダイブ用の端末が20人分程設置されており、壁には大型のモニターがあり、そこでGBNのバトルの様子等を見る事も出来る。

 

「うちとは大違いだな」

「当然だろ。ここはウチの爺さんが私財を使って作ってるんだ」

 

 同じガンプラ部でも星鳳高校は普通の部屋にPCが一台と後は模型誌等が置かれている本棚や簡単な作業台と部活で作ったガンプラが飾られているくらいだが、皇女子高校は部活としての規模がまるで違う。

 

「端末は好きな物を使って構いません」

「分かりました。それで練習試合の形式ですけど」

「そうですね……そちらのファイターの数は?」

「4人です」

 

 颯太がそう言うと麗子は少し考え込む。

 

「練習試合とはいえ勝敗があった方が生徒達のやる気も出ると思いますから、3戦行い内2勝した方が勝ちと言うもので先鋒と大将が1人、次鋒は2人で双方4人のファイターで行うと言うのはどうでしょう?」

「そうですね。こちらは構いませんよ」

 

 麗子の提案に颯太は二つ返事をする。

 星鳳高校からすれば元より実力は相手の方が上で今日は勝つよりも、皇女子高校の胸を借りる気で来ている。

 麗子の提案に対して大我は麗子を睨んでいるが、麗子は気にした様子はない。

 話しが纏まり、各自はGBNへとダイブする。

 

「さて……今日のバトルは昨日の打ち合わせ通りに行うわ」

 

 GBNにダイブした双方の学校はそれぞれ、最後の打ち合わせの為に離れた場所にいる。

 皇女子高校はレギュラーメンバーの10人がダイブして麗子から指示を受けている。

 

「私が先鋒で良いんだよね」

「ええ。分かっていると思うけど、貴女の役目は……」

「分かってるって」

 

 麗子に大我の姉の一人の貴音、ハンドルネーム「貴姉ぇ」が面倒臭そうに返事をする。

 皇女子高校は調整目的と思われているがそれとは別に思惑があった。

 その思惑において最も重要なのは先鋒を務める貴音だ。

 

「次鋒は如月さんと内山さんのお姉さんの方」

「了解です」

 

 クレインこと千鶴が返事を返す。

 次鋒戦以降はおまけでしかないが、場合によっては貴音の役目を引き継ぐ事もあり得る。

 

「大将は珠樹」

「分かった」

 

 珠樹ことハンドルネーム「タマちゃん」は相変わらずの無表情でコクリと頷く。

 部内ではマスコット的な扱いを受けている珠樹だが、ガンプラ部の部長で皇女子高校ガンプラ部、チームアリアンメイデンのエースである藤城姉妹の片割れだ。

 

「次鋒も大将も状況に応じて先鋒の仕事を引き継ぐ可能性はあるわ。バトルに出ない人達も大会で彼と戦う可能性がある以上は相手が弱小校だからと言って気を抜かないように」

「「「はい!」」」

 

 麗子がそう締める。

 客観的に見れば星鳳高校は全国を狙う事の出来ない弱小校で皇女子高校は全国優勝も狙える強豪校。

 その勝敗はどう見ても皇女子高校だろう。

 それでも彼女たちには一切の油断も慢心も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇女子高校が打ち合わせている頃、大我たちも軽い打ち合わせをしている。

 監督の麗子が中心となって作戦や方針を決めている皇女子とは対称的に星鳳高校は颯太は必要以上に口を出さずに生徒達が各々で思った事を口にして自分達でやりたいようにするスタンスを取っている。

 

「一発勝負じゃなければまだ私達にも勝ち目はありそうね」

 

 颯太から勝負の内容を聞かされて静流がそう言う。

 元々、勝ち目の少ない戦いだったが、バトルのルールが3戦中2勝すれば良いと言うものであれば勝ち目は出て来る。

 確かに皇女子は強いが、その最大の強さはチーム力だ。

 当然、ここの能力もレギュラーメンバーは皆他校なら余裕でエースを任されるレベルだ。

 しかし、個人の実力で言えば星鳳高校にも大我と静流がいる。

 大我と静流が出たバトルで勝てば2勝する事が出来る為、勝算としてじゃ十分だ。

 後はその2人が出るタイミングが重要だ。

 

「先鋒が俺が出る」

 

 大我が真っ先にそう言う。

 

「そうだね……藤城君と黒羽さんは個人で出た方が良いと思う。黒羽さんはどう?」

「妥当なところね」

 

 2勝する事を視野に入れると大我と静流を次鋒で組ませる事は出来ない。

 二人が組めばほぼ確実に次鋒は勝てるだろうが、史郎と龍牙ではどちらかが一人で勝つ事は難しい。

 かと言って、どちらかを次鋒のした場合、最悪の場合、皇女子のファイターと2対1で戦わなければならなくなる。

 そうなれば二人で2勝する事も難しい。

 そうなると確実に1対1で戦える先鋒か大将戦しかない。

 

「神君は僕と一緒に次鋒だけどいいかな?」

「はい。よろしくお願いします!」

 

 龍牙も史郎とのタッグで出る事には異存はないようだ。

 

「それじゃ話しもまとまったようだから行こうか」

「皆! 頑張って!」

 

 星鳳高校も話しが纏まり、フリーバトルで受け付けに申請を出してバトルが開始される。

 先鋒戦の大我と貴音は自分のガンプラでバトルフィールドに出撃し、他の生徒達は皆観客席にアバターが転送される。

 今回のバトルは皇女子高校側の要望でバトルの閲覧は関係者のみで設定されている。

 

「さて……どうでる? 母さん」

 

 バトルフィールドは宇宙で周囲には小惑星帯もなければデブリもないオーソドックスな宇宙フィールドがランダムで決まった。

 大我は周囲を警戒しながら先に進み、敵を探す。

 

「本当に先鋒で来た。流石はママ」

「……姉ちゃんか。俺としてはタマちゃんが良かったんだけどな」

「うわぁ……生意気。生意気な馬鹿弟には私で十分だってママは思ったのよ」

 

 貴音のガンプラはガンダムキマリス・ヴィダールのようだが、見た限りでは特別な改造はしていない。

 

「やっぱそう言う事か」

 

 大我は貴音の発言とガンプラが改造機ではない事から自分の想像が正しいと言う事を確信していた。

 今日の練習試合は皇女子高校の大会前の調整などではない。

 始めから地区予選において最も厄介な敵である大我の実力を把握する為だ。

 大我は10年近くの間、父親に付いて世界各地を回っていた。

 その間に連絡を取ったり、会ったりしていたが、ガンプラバトルの実力は完全に把握している訳ではない。

 そんな中、大我が日本の高校に入り、ガンプラ部に入部した事を知り、今年は地区予選に出る事も麗子は知ったのだ。

 更には先の熱砂の旅団と自由同盟との戦いに乱入した際の映像を千鶴から見せられて、元々実力がある事は知っていたが、実際にバトルの映像を見て無視できない相手だと認識した。

 そこで学校から正式に星鳳高校に練習試合の申し込みと入れたのだった。

 龍牙達が教えなかった練習試合の情報を教えたのも大我が確実に参加する為で、向こうは大我が先鋒戦に出る事も読んでいた。

 先に2勝すれば勝ちと言うルールでは3戦目は行うかは分からない。

 ここまでのやり取りで麗子は大我の性格的に星鳳高校のガンプラ部では馴染んでいない事を見抜いた。

 馴染んでいなければ大我は他の部員の事は一切、信用しない為、自分が確実に戦える先鋒か次鋒のどちらかに出る。

 そして、次鋒をタッグ戦にする事で大我は足手まといと共に戦う事を嫌い先鋒戦に出ると予測した。

 その上で、チーム戦や大会で使用する改造したガンプラを使わないのは自分達の情報を大我に見せない為だろう。

 練習試合を非公開にしたのも、このバトルを他校の偵察の目に触れさせたくはないのだろう。

 

「まぁ良い。誰が相手だろうとどんな思惑があろうと、俺はただ目の前の敵をぶっ潰すだけだ」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを構えて突撃する。

 キマリス・ヴィダールはドリルランスの200ミリ砲で迎撃する。

 シールドスラスターで防ぎながら距離を詰めてバーストメイスを振るう。

 それをキマリス・ヴィダールは持ち前の機動力でかわす事なく2枚のシールドで受け止めようとする。

 観客席の龍牙達はそれを見て、勝負は決まったと思った。

 これまで大我のバルバトス・アステールのバーストメイスの一撃は相手のガードごと相手を叩き潰して来た。

 まともに正面から受ける等、自殺行為でしかない。

 しかし、キマリス・ヴィダールはシールドのアームを使って衝撃を上手く殺してバルバトス・アステールの攻撃を防いだのだ。

 

「はい。残念でした!」

 

 キマリス・ヴィダールは200ミリ砲を撃つ。

 攻撃を防がれたバルバトス・アステールは再度接近するが、やはりバーストメイスの一撃はキマリス・ヴィダールに衝撃を殺されて防がれる。

 

「またまた残念! 無駄なのよね! 所詮、姉より優れた弟はいないってね!」

 

 キマリス・ヴィダールはドリルランスを突き出して突っ込む。

 改造こそされていないが、その分細部をしっかりと作り込んでいるキマリス・ヴィダールは元々の特徴である機動力はバルバトス・アステール以上だ。

 キマリス・ヴィダールの突撃をかわしたバルバトス・アステールはテイルブレイドを差し向ける。

 

「一々うるさいんだよ。姉ちゃんは」

 

 キマリス・ヴィダールは足を止めて、テイルブレイドをドリルランスで弾く。

 その間に距離を詰めていたバルバトス・アステールはバーストメイスを振るうが、これもキマリス・ヴィダールは正面から防ぐ。

 

「だから聞かないっての!」

「ちっ」

 

 キマリス・ヴィダールは一気に加速すると200ミリ砲で牽制しながら突撃する。

 

「不味いわね」

 

 観客席ではバルバトス・アステールの攻撃が通用しない事に誰もが驚きを隠せない。

 大我の姉である時点で、藤城姉妹はアリアンメイデンのエースとして有名である為、実力がある事は知っていたが、大我を相手にここまで優位に戦えるとは思っていなかった。

 

「藤城君は多分、意地になっているわ」

 

 静流はさっきから大我が執拗にバーストメイスの一撃を繰り返す事をそう判断する。

 

「意地ですか?」

「ええ。あの手の自分の実力に絶対の自信を持っているタイプのファイターが自分の戦い方が通用しない相手と戦った時に陥る事があるのよ。自分のやり方が通用しない事を認められずにね」

 

 大我の戦闘スタイルはバーストメイスによる一撃必殺。

 他にも色々な武器をガンプラの各部に装備されているが、メインはそれだろう。

 今まで一撃で敵を叩き潰して来た戦い方が貴音にはまるで通用しない。

 大我は今までそれで勝って来た事による意地で、戦い方を変えようとはしないのだろう。

 

「どうすればいいんですか?」

「そうね。認めるしかないわ。今の戦い方では勝てない。だからちっぽけなプライドを捨ててやり方を変えてないと……それでも彼の実力ならまだ勝ち目はある。早いところその事に気がつかないと負けるわ」

「……何やってんだよ。藤城……」

 

 観客席からは大我に言葉を伝える事は出来ない。

 龍牙は大我が気に入らなくても、このまま大我が何も出来ずに負ける姿等もう見たくはない。

 

「ほんと……頑固なところは変わってないんだから」

 

 キマリス・ヴィダールはシールドでバルバトス・アステールの一撃を無効化する。

 

「そろそろ諦めて欲しんだけどさ」

 

 防がれても尚、バルバトス・アステールはバーストメイスを振るい続ける。

 

「ママに言われたからやっているけど……メッチャ怖いんだからね!」

 

 貴音はすでに10回以上もバルバトス・アステールの攻撃をシールドで衝撃を殺して防いでいる。

 傍目からは簡単にやっているようだが、攻撃を受ける時のタイミングが少しでもづれると、防げずに一撃で負ける。

 本来ならば、機動力を活かして攻撃は全てかわしたいが、麗子からの指示でそれは出来ない。

 

「アンタもいい加減に意地にならないで諦めなさいっての!」

 

 キマリス・ヴィダールは200ミリ砲を撃つ。

 何度も何度も攻撃を防がれても尚、大我は戦い方を変えようとはしない。

 それは静流も言っているように意地だ。

 

「うるさいんだよ。俺達は誰であろうと道を遮る奴はぶっ潰して前に進むと決めた。だったら、ビッグスターのエースとして俺は! 何があろうとも意地張って意地を貫き通して目の前の敵は全てぶっ潰さないといけないんだよ!」

 

 バルバトス・アステールはバーストメイスを振いキマリス・ヴィダールはそれを防ぐ。

 

「だから……どけよ。俺の道から!」

 

 攻撃を防がれてもバルバトス・アステールはバーストメイスを振るおうとする。

 攻撃を受けようとした時、貴音はふとガンプラの状態が目に入る。

 損傷はないが、10回以上も攻撃を防ぎ続けて来た事は蓄積して来たダメージでシールドとシールドのアームが限界に近づいていた。

 

「……やってられるか!」

 

 バーストメイスの一撃をキマリス・ヴィダールは遂にシールドで防ぐのではなく回避した。

 これ以上は攻撃を正面から受け続ける事は出来ないと貴音は判断した。

 何度防がれても、意地で攻撃し続けて来た大我の意地が勝った瞬間だった。

 

「バーカ! バーカ! 意地になっちゃってさ! 勝負はここからだかんね」

 

 攻撃をかわして加速して距離を取ろうとするキマリス・ヴィダールだが、衝撃と共に機体の速度が落ちる。

 

「逃がすかよ」

 

 キマリス・ヴィダールが攻撃をかわした瞬間にバルバトス・アステールはテイルブレイドをキマリス・ヴィダールの足に巻き付けた。

 それによりテイルブレイドのワイヤー以上の距離を取れなくなっていた。

 

「ああもう! 無理やりどけさせておいて! 今度は!」

 

 キマリス・ヴィダールは反転すると、一気に加速してバルバトス・アステールに突撃する。

 十分に勢い乗った上でドリルランスを突き出して突っ込む。

 その一撃をバルバトス・アステールは肩のシールドスラスターで受け止めようとする。

 

「守ったってね!」

 

 バルバトス・アステールはシールドスタスターで真っ向から受けるのでなく、少し角度をつけて受け止める事で、キマリス・ヴィダールの突撃の逸らした。

 そのせいでシールドスラスターは破壊されたもののキマリス・ヴィダールの勢いを殺す事は出来た。

 それは完全に今まで自分がやって来た事に対する大我からの意趣返しなのだろう。

 

「捕まえた」

 

 バルバトス・アステールはドリルランスを掴む。

 すぐにドリスランスを回転させて掴んでいる手を弾こうとするが、バルバトス・アステールはガッツリと掴んでおりドリルランスの回転機構が機能しない。

 そして、バルバトス・アステールは膝のドリルニーでキマリス・ヴィダールの胴体を狙う。

 キマリス・ヴィダールはドリルランスを手放してドリルニーを回避する。

 

「本当にママの血を引いているだけだって性格悪いんだから!」

 

 自分がやられた事でやり返しただけでなく、ドリルニーは元々は自分の使っているキマリス・ヴィダールの装備を流用してている。

 キマリス・ヴィダールは一度距離を取り、腰の刀を抜いて動きを制限しているテイルブレイドのワイヤーを切断しようとする。

 しかし、バルバトス・アステールは持っていたドリルニーを投げてキマリス・ヴィダールの刀を弾き飛ばす。

 

「逃がさないって言ったろ?」

 

 刀とドリルランスを失ったキマリス・ヴィダールをテイルブレイドのワイヤーを巻き戻して一気に引き寄せる。

 

「久しぶりに姉弟でバトルをするんだもっと姉弟のスキンシップをしようぜ。姉ちゃん」

 

 バルバトス・アステールは両手でしっかりとバーストメイスを握る。

 

「馬鹿大我!」

「ぶっ潰す!」

 

 今まで鬱憤を晴らすかのようにバルバトス・アステールは全力でバーストメイスを振るう。

 キマリス・ヴィダールはせめてもの最期の抵抗で2枚のシールドで身を守るが、今までのようにタイミングを合わせて衝撃を殺す事など出来ず、バーストメイスは2枚のシールドごとキマリス・ヴィダールを粉砕した。

 

 

 

 


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