ガンダムビルドダイバーズ~最上の星~   作:ケンヤ

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邂逅

 

 

 

 

 

 タイガ団から依頼される形で採掘エリアの奪取作戦を開始し、奇襲の第一段階は成功するもののそううまくはいかないようだ。

 優人達の行く手を遮る2機のガンプラは紅蓮の牙が雇った傭兵のオクト・エイプとガラだ。

 オクト・エイプはビームライフルとバズーカを装備し、ガラはモーニングスターを2つ装備している。

 

「時間をかけるつもりはない。突破する」

 

 グレイズラグナが加速してべロウズアックスを振るう。

 

「遅せぇ!」

「何!」

 

 一気に加速しての攻撃だが、オクト・エイプはそれ以上の速度で回避するとビームライフルを連射する。

 グレイズラグナの対ビームコーティングで大ダメージは受けないが、このままビームを受け続ければ、いずれは大ダメージを受けてしまうだろう。

 ビルドナラティブがGNソードを展開して援護に向かうが、ガラが立ちはだかる。

 

「ユート!」

 

 ソラの声で優人は横に飛び跳ねると後方のエアブラスターがビームライフルとビームガンでガラに集中砲火を浴びせる。

 そして、ビルドナラティブがGNソードを振るう。

 

「はっ! その程度の攻撃が効くかよ!」

「なっ! 剣が通らない!」

 

 GNソードはガラの横っ腹に直撃するが、切り裂くどころか傷一つついていない。

 エアブラスターのビームもガラは一切のダメージを受けてはいなかった。

 ガラはモーニングスターを振るい、ビルドナラティブはGNシールドで受け止めるが、GNシールドに皹が入る。

 

「何なんだ。こいつ等」

「特化型のブレイクデカールか」

 

 戦闘には参加していなかった諒真が優人の疑問に答える。

 オクト・エイプもガラも禍々しいオーラを纏っている。

 

「特化型?」

「ブレイクデカールの強化には一部の能力のみを強化する特化型があるんだよ」

 

 以前に優人が戦ったペーネロペーのダイバーが使ったブレイクデカールは全性能を強化するタイプだったが、目の前の2機の使用したブレイクデカールは特化型と呼ばれているものだ。

 特化型はガンプラの性能の1つしか上がらない代わりに、全性能を上げるタイプよりも上がる性能が大きい。

 オクト・エイプは機動力、ガラは防御力を向上させるものを使ったのだろう。

 

「そういう事だ。俺たちの依頼主は太っ腹でな。報酬とは別にブレイクデカールもくれたんだよ」

「成程な。ザジ。下がれ」

 

 諒真はそういうと前に出る。

 

「リョーマさん?」

「あまり時間をかけたくないし、この後のことを考えればここで戦力を消耗させるのは避けたい」

 

 時間が経過すれば、向こうもこちらに戦力を差し向けて来るだろう。

 そうなれば採掘エリアを制圧することが難しくなる。

 また、紅蓮の牙のリーダーとの戦闘も考えるとここでの消耗は最低限に抑えたいところだ。

 

「だから、俺がやる」

 

 ガンダムクロノスXXは肩のビームキャノンを撃つ。

 オクト・エイプは高速でビームをかわすと、一瞬の内にガンダムクロノスXXの背後に回り込むとバズーカを手放しビームサーベルを抜く。

 

「動きの襲せぇ砲撃型は俺のカモなんだよ!」

 

 オクト・エイプはビームサーベルを振るおうとするが、クロノステイルからビームサーベルを出して受け止められてしまう。

 

「確かに動きは早い。けど、それだけだ。俺はフォースじゃ参謀として武闘派じゃないんだが、アンタら程度のダイバーがブレイクデカールを使ったくらいで遅れを取るほど弱くもないつもりだ」

 

 ガンダムクロノスXXはクロノスアックスでオクト・エイプを破壊する。

 

「ちっ!」

 

 オクト・エイプがやられたことでガラのダイバーは分が悪いと判断したのか後退を始める。

 

「俺たちを発見した時に本隊に連絡を入れて戦力を整えればよかったのにな。2機で仕留めようなんて色気を出すからだ」

 

 ガンダムクロノスXXはハイパークロノスキャノンを展開する。

 バーストモードはチャージに時間はかかるが、通常モードで相手を撃破するのに必要最低限の火力に抑えて撃てばチャージの時間はほとんどない。

 後退し、背を向けるガラにハイパークロノスキャノンを撃ち込む。

 ブレイクデカールで防御力を強化していたガラだが、ハイパークロノスキャノンの一撃で上半身が吹き飛ぶ。

 

「……強い」

「流石です」

 

 ブレイクデカールで強化されたガンプラを苦もなく倒した諒真に優人も少なからず驚く。

 だが、ある程度の実力がなければ癖の強いダイバーが揃っているタイガ団をまとめることなどできはしない。

 

「さて、無駄な時間を使った急ぐぞ」

 

 傭兵たちを片付けた優人達は先を急ぐ。

 防衛用に配置していたトーチカを破壊しながら優人達は先を急ぐ。

 やがて採掘エリアの中枢に到着した。

 

「ここが中枢か……ここに紅蓮の牙の拠点があるはずだ。そこを破壊する。くれぐれも余計な物までは破壊しないように。これは振りじゃないからな」

 

 優人達は周囲を警戒しながら捜索を始める。

 採掘エリアは現在は紅蓮の牙が所有していることになっている。

 その所有権が発生しているのはここに紅蓮の牙の拠点があるからだ。

 それを破壊してタイガ団の拠点を置けばここはタイガ団の物となる。

 周囲を捜索しているとビームがソラのエアブラスターを貫く。

 

「ヤガミ!」

 

 ビームはエアブラスターの右半身を吹き飛ばしてエアブラスターは倒れる。

 まだ撃墜判定にはならず、ガンダムクロノスXXがかばうように移動し、ザジと優人は臨戦態勢を取る。

 

「タイガ団ともあろう奴らがずいぶんとせこい方法で来るじゃないか」

 

 そこには真っ赤に塗装されたゴッグが待ち構えていた。

 

「アイツがリーダーか。気を付けろ」

「了解」

 

 グレイズラグナがランスシールドを掲げて突撃する。

 ランスシールドをゴッグが真向から受け止めた。

 

「あれを受け止めた!」

「なんてパワーだ!」

 

 グレイズラグナの渾身の一撃をゴッグは易々と受け止めた。

 

「無駄だ。俺のゴッグのパワーはブレイクデカールで強化されているからな!」

 

 ゴッグからはブレイクデカール特有のオーラを纏っている。

 それによりパワーが大幅に強化されているようだ。

 

「くたばれ! 雑魚が!」

 

 至近距離からグレイズラグナに腹部のメガ粒子砲を撃ち込む。

 

「ザジ!」

 

 グレイズラグナは吹き飛ばされるが、対ビームコーティングのお陰で撃墜はされずに済んだ。

 それでもランスシールドとべロウズアックスは吹き飛ばされた時に手放してしまい、無傷ともいえない。

 

「……大丈夫だ」

 

 グレイズラグナはバトルブレードを抜いて構える。

 ビルドナラティブはGNソードを構える。

 2機は同時にゴッグに向かい、挟み込む。

 だが、ゴッグはその体形からは想像もできない速度で攻撃を回避する。

 

「馬鹿な! その体でその機動性能は!」

「どうなって!」

 

 攻撃を回避したゴッグはビルドナラティブの背後に回り込むと両腕のアイアンネイルでビルドナラティブを挟み込むように攻撃する。

 その一撃はビルドナラティブの右腕をフレームごと引きちぎる。

 

「しまった!」

「この!」

 

 グレイズラグナは肩の機関砲を撃つが、ゴッグの装甲には傷一つつかない。

 

「無駄だ!」

 

 グレイズラグナのバトルブレードの攻撃をかわすとガンダムクロノスXXの背後に回り込む。

 

「リョーマさん!」

「足手まといをかばうなんてご苦労なこって!」

「そうでもないさ」

 

 ゴッグの攻撃をクロノスアックスで弾くと胴体を蹴り上げて出力を絞ったビームバスターを撃ち込むが、ビームは発射されない。

 

「何? ちぃ」

 

 ガンダムクロノスXXはクロノスアックスでゴッグを弾き飛ばす。

 だが、起き上がるゴッグは何ともないようだ。

 

「嘘だろ……」

「今のは……やはりそういう事か」

 

 ゴッグの力を目の当たりにするも、諒真は落ち着いている。

 

「どういう事です?」

「アンタ、ブレイクデカールを重ね掛けしてるな」

 

 諒真は確信をもって断言する。

 ビームが発射されなかったことも、ゴッグの戦闘能力もブレイクデカールによるものだということだ。

 ゴッグは3つのブレイクデカールを同時に使用することでパワーだけでなく機動力と装甲をも強化していたのだ。

 そして、4つ目のブレイクデカールの効果は使用中は周囲のガンプラの火器の使用を封じるという物だ。

 それによりガンダムクロノスXXのビームバスターが不発に終わった。

 

「そんなことが……」

「前例はないけどな」

「ネタが分かったところでお前たちにはどうすることもできないのさ! このブレイクデカールで極限まで強化された俺のパーフェクトゴッグの前ではな!」

 

 4つのブレイクデカールを同時に使用するゴッグの性能は桁違いだ。

 だが優人はあきらめてはいなかった。

 

「確かに貴方のガンプラは強いかも知れない。それでも俺は負けない!」

 

 優人はコンソールに表示された新たなアーマーを選択する。

 

「タイタス!」

 

 新しいアーマーを選択するとエクシアアーマーがパージされて前後にランナーが形成される。

 選択したアーマーのランナーの他に破壊された右腕のフレームのランナーも同時に形成される。

 新しい右腕が付けられ全身にアーマーが装着されていく。

 赤いアーマーが装着されると今までとは違うマッシブな体系となる。

 手持ちの武器はない新たなアーマーはガンダムAGE-1タイタスの力を持ったタイタスアーマー。

 装甲とパワーに特化したアーマーだ。

 

「凄い……力があふれて来る!」

 

 タイタスアーマーを装備したビルドナラティブはゴッグに向かって走り出す。

 

「くらえ!」

 

 ビルドナラティブは渾身の拳を繰り出すが、ゴッグには当たらない。

 

「はっ! ビビらせやがって。そんなスピードで何ができる!」

「後ろだ!」

 

 ゴッグが背後を取るよりも先に諒真が叫ぶ。

 

「もう遅いわ!」

 

 ゴッグはビルドナラティブ目掛けてアイアンクローで攻撃する。

 だが、タイタスアーマーの装甲はブレイクデカールで強化された攻撃でもダメージを与えることが出来ないほど強固だった。

 

「何ぃ!」

「ぶっ飛べ!」

 

 ビルドナラティブの拳がゴッグの胴体に直撃して吹き飛ばされる。

 地面に叩きつけられたゴッグの胴体はへこんでダメージを受けていた。

 

「ユートの奴! やりやがった!」

「戦闘中に装備や破損部分のパーツを形成したのか」

 

 ビルドナラティブの一撃を受けたゴッグはダメージが大きいのかすぐには動けそうにはない。

 

「これで終わりだ」

 

 ビルドナラティブの右腕にビームの輪が形成される。

 そして、ゴッグの方に走り出す。

 

「ビームラリアット!」

 

 ビルドナラティブの必殺のビームラリアットがゴッグに決まる。

 ゴッグは弧を描くように吹き飛ばされる。

 

「ふぅ」

「流石に今の一撃を受けてまともには動けないだろ」

「まぁブレイクデカールの性能に頼り切った典型的なダイバーだからこのくらいが限界か」

 

 ビルドナラティブの強力な一撃をまともに受けた以上は誰もがそう確信した。

 

「……まだだ。まだ終わりじゃない!」

 

 ビームラリアットを受けたゴッグだが、ゆらりと立ち上がる。

 すると見る見る内にビルドナラティブから受けた傷がふさがっていく。

 

「そんな!」

「……まさか5つ目のブレイクデカールか」

「そうとも! 切り札は最後まで取っておかないとな!」

 

 ゴッグには5つ目のブレイクデカールが残されていた。

 5つ目のブレイクデカールの能力はダメージを自動修復することが可能で、完全にゴッグのダメージを回復させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファントムレディが戦列に参加した事で囮の部隊は劣勢になってきていた。

 紅蓮の牙のガンプラの中で何機かはブレイクデカールを使用した事でグレイズアーミィのダメージも増えてきている。

 連携攻撃に長けたグレイズアーミィならばブレイクデカールを使われたくらいでは崩れたりはしないが、ダメージが無視できないレベルになりつつある。

 すでに愛衣は予備戦力として持ってきていたNPDのプルーマを全機投入している。

 

「ちょいさ!」

 

 ザクファントムソードがバスターソードを振るい、ズゴックEXは後退しながらビームガトリングを撃つ。

 

「ブレイクデカールも使わないで以外とやるわね」

「ウチのボスからは使うように渡されたんだけどね。そんな物を使わなくても私は強いしね!」

 

 ザクファントムソードは左腕のビーム突撃銃を連射する。

 ビームがズゴックEXの肩を掠めて装甲が焼け焦げる。

 

「すでに奇襲部隊の行動は始まっているはず……想定外の事態でも起きているの?」

 

 事前の打ち合わせではすでに諒真たちも作戦行動に入っている。

 首尾よく事が運んでいればすでに採掘エリアは制圧できているころ合いだ。

 いまだにそんな動きがないとなれば想定外の事態が起きているということだ。

 もしもそうならば、この場で敵をくぎ付けにしなければならない。

 ビームを回避しているとコンソールにメッセージが入った音がなる。

 

「何? こんな時に……」

 

 愛衣は攻撃を回避しながらメッセージを確認する。

 

「これは……」

 

 メッセージの内容から愛衣は現在の状況から次の策を考える。

 

「仕方がないわね。この際、多少の損失は覚悟するしかないわね」

 

 愛衣が片手でコンソールを操作してメッセージの返事を書く。

 

「よそ見でもしてんの!」

 

 返事に気を取られて操縦が疎かになり、バスターソードでズゴックEXの片腕が肩から切り落とされた。

 

「アイちゃんさん!」

 

 バズーカ装備のグレイズが援護射撃を入れるが、ザクファントムソードは後退してかわすとビーム突撃銃を撃つ。

 その間に愛衣はメッセージを送信する。

 

「貴女、傭兵よね」

「だったら?」

「悪い事は言わないから、ここから逃げた方が良いわよ。下手をすればここは地獄になるのだから」

 

 愛衣の確信めいた言葉にファントムレディは背筋が凍るような感覚を受けた。

 そして、一つの流星が採掘エリアに落ちて来るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5つ目のブレイクデカールによりゴッグのダメージは完全に回復した。

 ただでさえ火器が封じられている上にパワー、機動力、防御力が強化されている。

 一度追い詰められているため、向こうには一切の油断はない。

 

「……引くぞ」

 

 諒真の判断は早かった。

 タイタスアーマーのビームラリアットで仕留めきれなかったのであればこれ以上、戦闘を続けたところで勝算はあまりない。

 すでに5つのブレイクデカールの能力は把握しているため、この戦闘の収穫はあった。

 これ以上、こちらの被害が出る前に撤退することを諒真は選択した。

 

「逃がすと思うか?」

「逃げるのは得意でね。俺が殿をする。ユートはヤガミを頼む」

「……はい」

 

 優人としては不本意ながらも指揮官である諒真の指示には従うしかない。

 あとは撤退を始める隙を作るだけだったが、突如、上空を覆うビームシールドが粉砕されて何かが採掘エリアの中枢に落ちてきた。

 

「何だ!」

「何かが落ちてきたのか?」

「馬鹿な! あのシールドはメメントモリだろうと耐えれるはずだ!」

「……なんでここに来るんだよ。それも最高のタイミングで」

 

 突然の事態に諒真だけは状況を理解しているようだ。

 落ちてきた衝撃で舞った砂煙の中に何かの影が見える。

 巨大な翼に伸びた腕部、一般的なガンプラよりも一回り大きなシルエット。

 砂煙の中で頭部の巨大な一つ目が禍々しく輝く。

 次第に砂煙が晴れていく。

 

「あのガンプラは……まさか!」

 

 優人以外はそのガンプラを知っていた。

 かつて絶対的王者だった皇帝、アルゴス・アレキサンダーのGバジレイスを唯一倒したガンプラ、ガンダムオメガバルバトス・アステール。

 そのダイバーの名はリトルタイガー。

 タイガ団のリーダーにして絶対的エースだ。

 アバターそのものは以前から変わらないが、新たにアクセサリーアイテムであるオルガのシュマグを身に着け、鉄華団のジャケットの背にはデカデカと団長の二文字が入れられている。

 

「何か面白そうなことになってんじゃん」

「まぁな」

 

 先ほど愛衣に来たメッセージは大我が宇宙の拠点に戻ってきた時に火星の本部に連絡を入れると諒真たちが出撃した事を知って、状況を確認するための物だった。

 愛衣は想定外の事態が起きているのであれば最後の手段として大我を投入するために採掘エリアの位置情報を送り大我が直接ここまで乗り込んできた。

 上空に展開している対空用のビームシールドも大我の前では何の意味を成さなかったようだ。

 

「俺も混ぜてよ」

 

 乱入してきたオメガバルバトス・アステールはゴッグとビルドナラティブ、エアブラスターの3機をロックオンする。

 大我も愛衣からある程度の情報は得ているが、それが敵でどれが味方なのかの判別は分からないため、同じフォースである諒真と傘下のザジ以外は敵として他は全て倒すつもりだ。

 狙いをつけられた優人は大我に対してこれまで出会ってきたダイバーとは別次元の得体の知れない恐怖を感じる。

 大我は引き金を引くがシド丸のビームライフルからビームが発射されることはない。

 ゴッグのブレイクデカールの効果はまだ健在だからだ。

 

「あれ? どうなってんの」

「はっ! リトルタイガーだろうとブレイクデカールから逃れることは出来ないんだよ!」

 

 突然の乱入があったが、オメガバルバトス・アステールも自身のブレイクデカールの影響で火器が使えないことを知りゴッグのダイバーは大我に襲い掛かる。

 だが、彼は忘れていた例え、火器が使えなくても大我にとっては大した問題ではなく大我の代名詞を。

 

「お前を倒せれば火星の覇権は……」

 

 ゴッグは飛び掛かりアイアンネイルの一撃を食らわせようとする。

 ただ自身にまとわりつくハエを払うかのように振るわれたバーストメイスカスタムは一撃でゴッグを跡形もなく粉砕した。

 

「……一撃で」

 

 ブレイクデカールで防御力が強化されタイタスアーマーのビームラリアットでも完全には破壊できなかったゴッグをオメガバルバトス・アステールはいとも簡単に粉砕して見せた。

 別のブレイクデカールの再生能力も意味を成さないほどの圧倒的な一撃だ。

 

「次は……」

 

 その圧倒的な暴力が次は自分に向けられると本能的に身構えようとするが、優人は大我からの威圧感で身動きが取れなかった。

 

「そいつは敵じゃないぞ」

「……あっそ」

 

 諒真が大我を止めると先ほどまでの威圧感が消える。

 その一言で大我の中では優人とソラは敵ではないという認識に変わったのだろう。

 

「それで他の敵は?」

「そいつが大将だよ」

「マジで? つまんねぇ」

 

 大我にとっては軽く一振りするだけで終わったのだから仕方がない。

 

「とにかく、後はこっちでやるから先に戻ってな」

「じゃ任せた」

 

 大我はこれ以上、用はないのかガンプラを飛び上がらせるとバルバード形態に変形させると飛び去って行った。

 

「後は制圧すれば終わりだ。君らには後で報酬のダイバーポイントを振り込んでおくよ」

「……いえ、俺たちは何も……」

「だよなぁ」

 

 優人もソラも報酬をもらう事に気後れする。

 ここまで来たものの最後は大我が決めているため、自分たちが貰っても良いのかと思う。

 

「気にすることはないさ。貰えるものは貰っとけ」

「分かりました」

 

 諒真がそういう以上は貰わない訳にもいかない。

 その後、正面で交戦していた敵は撤退し、愛衣が率いるグレイズアーミィが採掘エリアの中枢に到着する。

 採掘エリアを制圧し、事後処理を愛衣に任せると諒真は一度ログアウトする。

 

「お疲れ」

「ああ」

 

 諒真がログインしていたのは諒真の職場からだ。

 諒真は高校卒業後は大学に進学することなくルークの父の会社であるアーウィントイカンパニーに就職し、ガンプラバトルのワークスチームの主任を任されている。

 ログアウトした諒真をリヴィエールが迎える。

 彼女もワークスチームのチームビルダーとして籍を置いている。

 

「で、どうだった?」

「思った以上だよ。確かにあそこまで行くと危惧していたこともあり得るかもな。報告書は後で作っとくよ」

 

 ログアウトした諒真は先ほどのバトルを報告書として纏める。

 後でGBNの運営に提出するものだ。

 アーウィントイカンパニーはGBNのスポンサー企業の一つで、現在運営からあることを頼まれていた。

 それはブレイクデカールの調査だ。

 以前、ブレイクデカールが不正ツールではないかという通報を受けて運営が調査した事がある。

 その時に運営としての公式見解はゲームシステムに乗っ取った物で不正ツールとは認められないという物だった。

 しかし、運営の中ではある疑念が出ていたブレイクデカールのソースコードは確かにゲームシステムに沿ったもので不正ツールとは言い難い。

 それはあまりにも精巧に作られており、まるで運営から正式に出されている公式ツールと何ら変わらない物だった。

 いくらブレイクデカールの制作者が凄腕のプログラマーでもそこまでの物を作れるかは疑問だ。

 それこそGBNのメインシステムの制作にかかわったプログラマーでもない限りはだ。

 そのため、運営はブレイクデカールの制作者は運営関係者の中にいるか、もしくはGBNのメインシステムにアクセスできるだけの技術力を持った人物と考えられた。

 不正ツールではない物のそれだけの物をばらまいている人物が分からないままにしておく訳もいかず運営は極秘裏にアーウィントイカンパニーのワークスチームに制作者の調査を依頼していた。

 同時に運営はあることも危惧していた。

 当初はただガンプラの性能を一時的に向上させるだけで向上させる性能もトランザム等の機体性能を向上させるシステムと比較してもリスクが少ない分、向上する性能も大したことはなかった。

 運営がブレイクデカールを問題なしと判断したのもそのためだ。

 だが、最近出回っているブレイクデカールは一切のリスク無しに強力な能力を引き出す物が多く出回っている。

 一部のブレイクデカールを愛用するダイバーの中にはいかに強力なブレイクデカールを手に入れて使うかに重きを置き、本来のガンプラバトルにおける重要な要素であるガンプラの制作技術や操縦技術を二の次にするダイバーも珍しくはない。

 このままブレイクデカールがGBNに広く浸透してしまえば、ダイバー達はガンプラをブレイクデカールを発動させるための器としか見ないで、ガンプラバトルは強力なブレイクデカールを手に入れて使うかになってしまいかねない。

 そうなればもはやそれはガンプラバトルではない。

 一度、正式に不正ツールではないと認めてしまった手前、余程の理由もなく規制することもできないため、制作者の調査と共にブレイクデカールに関するデータ収集が諒真たちに依頼していることだ。

 

「……あのナラティブ……マークしとく必要があるな」

 

 報告書を作成しながら諒真は優人のことを思い出す。

 諒真もいろんなガンプラを見てきたか、戦闘中に外装や破損したパーツを生成して装備するガンプラにお目にかかったことはない。

 ダイバーである優人の実力は現時点ではタイガ団にとっては脅威にはなりえないが、用心に越したことはない。

 今日は味方だったが、いつ敵になるのか分からない。

 少し話しただけでも、優人は大我との相性は悪く場合によっては敵対しかねない可能性が高い。

 

「まったく、休む暇もないな」

 

 諒真は愚痴りながらも報告書を作成する。


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