宇宙海賊クロスボーン・ハウンドの襲撃を辛くも退けて移送ミッションはクリアとなった。
移送ミッションに参加したダイバー達は護衛してきた輸送艦である程度は任意の場所までは送り届けてくれる事になっている。
そのため、輸送艦が運んできた物資を王武のダイバーに引き渡すまでは待機することになった。
輸送艦からコンテナを王武のNPD用のガンプラNPDアストレイが自分たちのシャトルに積み込んでいる。
NPDアストレイはM1アストレイをベースに王武でカスタムされたガンプラだ。
M1アストレイの装甲を強化し、バックパックをエールストライカーに変更されている。
腰には9.1メートル対艦刀が装備され、ビームライフルも高出力の物に変更されている。
その様子を眺めつつ優人はキャプテンネロと戦った時の事を皆に話す。
同じ部屋で待機していたユウリは興味はなさそうだが、耳だけは傾けている。
「あのインパルスのダイバーがウィルだったとはな」
「ヤガミ、知ってるのか?」
「いや、俺もあんまり詳しくはないんだけど、キャプテンネロと同じレギオンの四天王の一人ってくらいしか知らないかな。ライトはどうなんだ?」
ソラの知る情報ではその程度だが、タイガ団の傘下であるグレイズアーミィにいたライトなら自分よりも知っているのではないかと振るも、ライトは首を横に振る。
「僕も会った事はないから良くは……」
「まぁレギオン四天王と言えば他のメンツが目立ってるからねぇ」
有益な情報を持っていなかったライトをフォローするかのようにファントムレディが答える。
実際、レギオン四天王と言われても、その中でウィルの存在感は薄い。
圧倒的な戦闘能力でGBN最強候補の一人で常にどこかと揉めているタイガ団のリーダーであるリトルタイガーこと大我。
火星圏の宇宙で一大勢力を築いている宇宙海賊クロスボーン・ハウンドの頭であるキャプテンネロ。
四天王の紅一点で唯一レギオンに所属し、リーダーのリュウオウの信奉者として有名なシンディ。
そんな中、ウィルは四天王に名を連ねながらも表立って動く事はなく、四天王の一人である以上は実力者なのだろうとは言われているが、実際の実力は未知数だ。
「ウィルの事は今はおいておくとしてどうするつもり?」
「王武へ行けって奴か」
現段階ではウィルの真意については情報が少なすぎる。
ウィルの言うようなビルドナラティブに関する事も今は何も分からないが、強くなるために必要な物が王武にあるとも言っていた。
「あそこは他のフォースのダイバーもフォースネストへの出入りを積極的に受け入れて鍛錬をしているから頼めば連れて行ってもらえると思うわよ」
王武はアナザーワールド内での勢力争いには関与することもない珍しいフォースだ。
フォースネストがあるのは火星だが、フォースネストへの出入りは望めば受け入れている。
「俺たちはまだここで戦っていけるほどの実力はない。だから、少しでも強くなるために次は王武に行こうと思うんだが、良いか?」
「俺は別に構わないぞ」
「僕もです」
「私も異論はないわ」
優人の意見にトライダイバーズの皆も快く頷く。
「はいはーい! 私も面白そうだから行く! ユウリは?」
「興味ないわ」
ユウリはあっさりとファントムレディの誘いを断る。
「分かった。それじゃ頼んでみるか」
優人はフォースを代表して輸送艦の格納庫に向かう。
格納庫ではNPDアストレイがコンテナを運ぶのを王武のダイバーである金髪でヤンキー風のアバターのレンジが指示を出していた。
「すみません!」
「あ? 何だ?」
レンジはやや機嫌が悪そうにするが、優人を邪険にする様子はない。
「王武のダイバーの方ですよね」
「ああ。一応はナンバー2って事になってるレンジだ。お前は?」
「トライダイバーズのリーダーを務めているユートと言います」
優人が名乗ると先ほどまでの不機嫌さがなくなる。
「お前か! あのキャプテンネロとやり合ったのは!」
どうやら先の戦闘で王武の方にもキャプテンネロが出てきた事は伝わっており、同時に優人が戦い結果として積み荷を奪われる事も無かったという事も伝わっていたようだ。
「完敗でしたけどね」
「何ってんだ。積み荷を守り切った時点でお前の勝ちだ」
ウィルが割って入らなければ完全にやられていたが、それでもミッションは積み荷の護衛で積み荷は守り切っている以上はレンジは優人の勝ちだというが、優人としては余り喜べない。
「まぁ良いか。それで俺に何のようだ?」
「海賊のフォースとの戦いで俺の力不足を痛感しました。王武では他のフォースを受け入れて鍛錬をしていると聞きました」
「まぁな。なるほど、お前の言いたい事は分かった。良いぜ」
レンジは優人の意図をくみ取りニカリと笑う。
「もうすぐ積み込み作業も終わるからお前らのガンプラも積み込むから早いとこ用意しな」
「はい。ありがとうございます!」
優人はレンジに頭を下げると、仲間たちの元に戻りすぐにシャトルに自分たちのガンプラを積み込む。
シャトルにガンプラを載せるとシャトルは火星へと向かう。
「もうすぐ見えて来るぞ。俺たちのフォースネストが」
火星に降下を始めて少しするとシャトルの窓から王武のフォースネストが見えて来る。
「噂には聞いてたけど、実物は圧巻だな」
「ああ。凄い」
優人は王武のフォースネストにただ驚くしかなかった。
王武のフォースネストは火星上のフォースネストでは最大級を誇り周囲十数キロを湖に囲まれた要塞だ。
要塞そのものも以前に見たタイガ団のフォースネストの100倍以上はある。
周囲には巨大な城壁で囲まれ中央部に至るまでいくつもの壁で守られている。
シャトルは要塞内に着陸する。
「到着だ。ウチのリーダーにも紹介したいし、ガンプラに……ってまだ動ける状態でもないか」
宇宙海賊クロスボーン・ハウンドとの戦闘で千鶴とファントムレディのガンプラ以外はダメージが大きくシャトルに積み込んで持ってきたものの移動できる状態ではない。
「しゃーないか。動ける奴は自分のガンプラを使って動けない奴は俺のガンプラに乗せてやるよ」
優人達がレンジの言葉の意味をすぐ知る事となる。
要塞はガンプラで移動することを前提に作られており、ダイバーがそのまま徒歩で移動するのは余りにも時間がかかりすぎる。
これは王武の方針として常にガンプラを動かす事でガンプラの操縦訓練も兼ねているという事だ。
「それじゃ乗りな」
レンジは自身のガンプラの手を差し出すと優人達を載せる。
レンジのガンプラは百錬をベースにしたガンプラ、武錬だ。
下半身とバックパックを漏洩の物をベースに内臓型のスラスターを増やして瞬発力を強化している。
両手にはナックルガードが常時装備した状態で、素手での格闘戦を主体に戦う事を想定したガンプラとなっている。
「そんじゃ振り落とされるなよ」
レンジを先頭に千鶴とファントムレディもそれに続く。
要塞内を移動して中枢部に入るとレンジは足を止める。
「ここだ。ここからはガンプラから降りてくれ」
そこにはダイバーサイズの扉があり、そこから先はガンプラではなく直接行くのだろう。
「おう、レンジ戻ったか」
「うす。ジードさん」
扉の先は要塞の指令室になっていた。
そこにはライオンの頭部のアバターが待っていた。
「うぉ。本物だ」
「凄い人?」
優人はソラに耳打ちする。
「凄いも何も現在の個人ランキング5位のジードさんだよ」
「5位……じゃぁあのリトルタイガーよりも?」
「ああ」
優人にとってGBNの最強クラスのダイバーとして真っ先に思い浮かべるのは実際に戦いを見たこともある大我だが、大我の個人ランキングは37564位であり、そこまで高くなかったという事を最近知った。
千鶴曰く、個人ランキングは効率のいいポイントの稼ぎ方さえ覚えてしまえば1万位を切る事は容易でランキング自体が実力に比例するわけではないとどこか大我を擁護するような事を言っていたが、100以内であればポイントを効率良く稼ぐだけでは到底できない。
その中で1桁となれば本人の実力はこれまで優人が出会って来たダイバーの中でも最高クラスと言っても過言ではない。
「そいつらは?」
「物資を護衛してきたフォースであのキャプテンネロから物資を守ってくれたんすよ」
「ほう」
ジードはそう言いながら優人達を見る。
実力を見定められているかのように思えて無意識のうちに背筋が伸びる。
「……なるほど。また未熟だがなかなか面白そうな奴らじゃねぇか」
「でしょ。しばらくウチで鍛錬をしたいみたいなんですよ」
「構わん。俺たちのフォースは己を高めたいダイバーは歓迎してるからな」
どうやら優人はジードの眼鏡にはかなったようでホッと一息つく。
「よろしくお願いします!」
「今日のところはまだガンプラが使えないから内部を軽く案内するから俺について来い」
ジードに挨拶を済ませると再びレンジのガンプラで要塞内の案内となった。
要塞内にはガンプラの戦闘が行えるだけの空間がいくつも用意されており、ある程度は戦場を作る事も出来るようになっていた。
その日は案内だけで優人達はログアウトして、本格的な鍛錬は後日となった。
王武に身を寄せてから数日が経った。
優人達はそれぞれの都合のいい時間に王武で鍛錬に励む。
鍛錬の内容も様々で他のダイバーと戦う事もあればNPDアストレイと戦う事もある。
優人の場合は主にレンジを相手に戦う事が多いが、レンジからもいろんなダイバーと戦うようにともいわれている。
ここには様々な戦闘スタイルのダイバーがいるため、いろんなダイバーと戦う事は優人にとってもいい経験になるからだ。
要塞には王武のダイバー以外にも他のフォースのダイバーも鍛錬し、ここではフォースに関係なく自らの実力を高め合い熱気に包まれている。
「ライトの奴。もう来てたのか」
優人はライトのグレイズアステルが戦闘している様子を眺める。
ライトの相手はムラサメをベースにしたガンプラのようだ。
「ありゃショウゲンの奴だな」
観戦用のベンチに座る優人の横にレンジが座る。
相手のガンプラのダイバーはジードやレンジに次ぐ王武のナンバー3であるダイバー、ショウゲンの村雨だ。
ムラサメをベースに変形機構を残しながらもMS形態での格闘戦に主眼を置いた改造がされている。
グレイズアステルのレンチメイスの攻撃をかわすと腰のビームサーベルを抜く。
村雨のビームサーベルは通常の物とは違い刀の刃のような形状のビーム刃を形成し、高い切れ味を持つ。
一気にグレイズアステルの懐に飛び込むと体勢を崩してビームサーベルを突きつける。
「凄い」
体勢を崩すところからビームサーベルを突きつけるまでの一連の動作には一切の無駄がなく、それだけの操縦技術を会得するのにどれだけの訓練を積んだのか優人には分からない。
「ユートさん!」
戦いが終わり、ライトが優人に気が付いてガンプラから降りて駆け寄ってくる。
村雨からも侍風のダイバーが降りて来る。
「相変わらずキレッキレだな」
「当然だ」
ショウゲンは短く答えるとライトの方を向く。
「ライトと言ったな。今の戦いで思った事だが、あのレンチメイスは動きは大振り過ぎるし、扱うにはガンプラのパワーも足りない」
ショウゲンはバトルで思った事をライトに告げる。
ライトはビクリとする。
「格闘戦の武器にメイス系を使う事に拘るなら、ソードメイスかツインメイスを使う事をお勧めする。そっちなら威力は劣る物の軽いから扱い易い」
「だよな。メイス系の武器って威力はあるが、重てぇから扱いにくいんだよな」
ショウゲンの意見にレンジも同調する。
優人もそれは身をもって体感している。
ビルドナラティブのバルバトスアーマーのメイスは威力は大きいものの重たいため、上手く使わなければメイスの重量に振り回されてしまう。
実際、グレイズアステルはレンジメイスを振り回すだけのパワーもなく、良く接近戦を仕掛けようとして返り討ちにあっている。
メイスを使う事に拘るならソードメイスやツインメイスの方が威力は劣る物の扱いやすいメイスでもあるため、装備を変えるのも一つの手だ。
「……でも、それじゃ駄目なんです」
ライトは目を伏せながらもどこか縋るように声を震わせている。
「そうか」
「すみません」
「構う事はねぇよ」
あくまでも参考程度の意見であるため、本人にその気がなければ無理強いするつもりもない。
「それよりもなんか今日、空気がピリピリしてませんか?」
ショウゲンやレンジの意見を拒否した事でライトも気まずそうになり、優人は話題を変える。
今日は普段から活気はあるが、どこか空気がピリピリしているのを優人は感じていた。
それを問われてレンジとショウゲンは目配せをして、レンジは少しバツが悪そうにする。
「……あんまり部外者に話すのもアレ何だが、最近ウチがレギオンと揉めてるってのは知ってるだろ?」
「はい。ここで鍛錬をするようになってからも何度も耳にしてます」
元々、優人達が受けたミッションもそれに備えての事だったが、レギオンは王武に対して自分たちの傘下に入るように誘いをかけている。
「俺らからすれば他の連中のようにここでの戦争ごっこには興味ねぇんだよ。だが、レギオンの連中は俺らに参加に入れってしつこくてな」
王武はアナザーワールドでの勢力争いには興味はない。
アナザーワールドにフォースネストを構えているのもここならば要塞内だけでなくいろんなところで戦う相手には困らないからだ。
王武はリーダーのジードを含め100名以上の大型フォースで、個々の実力も高い。
レギオンとしては王武の戦力を自軍に取り込みたいのだろう。
だが、王武としてはレギオンの傘下に入り良いように使われる気はない。
その事で近々武力衝突があるのではないかというのはGBN内では噂になっている。
「まぁ武力行使をするってんなら俺たちは逃げも隠れもしねぇよ。ここにはジードさんや俺たちがいる。レギオンが総力で攻めてきても負ける気はしないからな。安心してお前らは自分の実力を磨けばいいさ」
レンジはそう言い切り、ショウゲンも無言で頷く。
この数日でレンジや他の王武のダイバーの実力の高さは知っている。
リーダーのジードの実力は見てはいないが、レンジ達の上に立ち個人ランキング5位の実力者もいる。
レギオンが大軍で攻めてきたとしても王武の戦力ならばそう易々とは負けはしないだろう。
それでも優人は一抹の不安をぬぐい切れなかった。