ガンダムビルドダイバーズ~最上の星~   作:ケンヤ

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ファイターとビルダー

 地区予選3回戦が終わり、4回戦の巨陣高校とのバトルまでは少しの間だが、猶予が残されている。

 そんな中、大我は事業後に諒真に呼び出されて生徒会室にまで足を運んでいた。

 

「それで何? 俺、諒ちゃんを構っている暇はないんだけど」

 

 大我は心底面倒そうにそう言う。

 大我にとって諒真に付き合うと大抵は面倒な事になると思っている。

 現に今もガンプラ部に入らされている。

 

「そう邪険にすんなよ。寂しいじゃん」

 

 諒真がそう言うと大我は無言で生徒会室を出て行こうとするが、それを諒真は慌てて止める。

 

「まぁ待てよ。兄弟。大会の方は順調に勝っているようだな」

「相手が弱すぎるんだよ。日本のガンプラバトルの質も大した事ないよ」

「お前からすれはな。今日は勝ち進んでいる大我に良いものをやろう」

 

 諒真はそう言ってチケットを取りだす。

 大我はそれを受け取り何のチケットかを確認する。

 

「ガンプラコンテストね……」

「そう。大我は日本に居なったけど、大規模なガンプラのコンテストがあってな。コイツは賞を取ったガンプラの展示会のペアチケットだ。結構人気で取るのは苦労したんだぞ」

「ああそう。けど、俺はバトルにしか興味ないからな。別の奴を誘ってよ」

 

 ガンプラはGBNでのバトルだけが全てではない。

 GBNが出来る前はガンプラは制作技術を高めて競い合う事の方が主流だった。

 その為、今でもガンプラ制作のコンテストはいくつも開かれている。

 諒真の出したチケットはそのコンテストの一つの入賞作品等を展示している展示会のチケットのようだ。

 だが、大我はガンプラバトルの方にしか興味は無く、ガンプラ制作やガンプラの完成度はあくまでもGBNでのガンプラの性能を向上させる要素でしかないと思っている。

 

「別に一緒に行こうって誘っている訳じゃなくて、俺はいけなくなったからお前にやるって話し」

「いらない」

 

 大我は迷う事無く断る。

 だが、諒真も引かない。

 

「そんな事言うなって……この展示会は今度の土曜まででさ、その日は丁度生徒会でどうしても外せない用事が出来て行けなくなったんだよ。でもせっかく手に入れたチケットを無駄にするのも勿体ないしさ。お前には俺の勝手で色々な迷惑とか無茶を聞いてもらってるからと思って譲ろうと思うんだよ」

「別に良いからいらない」

 

 諒真は少し俯きながらそう言う。

 それでも大我は断る。

 

「せっかくのペアチケットだ。大我も年頃の男子だからな親しい女子でも誘って入って来ればいい。ガンプラバトル漬けの青春なんてつまらないだろ」

「だから……」

「く・れ・ぐ・れ・も! 女子を誘うんだ。何が寂しくて男同士で行こうとは思うなよ。必ず! 女子を誘うんだ。分かったな?」

「俺は……」

 

 大我の言葉を遮りながら諒真は半ば強引にチケットを大我に押し付ける。

 チケットを押し付けると、大我に付き返させないように大我を生徒会から追い出す。

 用事を済ませて満足げな諒真を一連の茶番を冷ややかに愛依が見ている。

 

「会長。その日に外せない用事は無かったと思いますが……」

「まぁな」

 

 諒真はあっさりと先程の茶番の嘘を認める。

 

「お膳立てはしてやったぞ。大我。後は我が愛しの妹の千鶴を誘うだけだ。健闘を祈る」

 

 諒真の思惑は大我にガンプラコンテストの展示会のペアチケットを上げて、妹の千鶴を誘わせる為だった。

 諒真は大我を追い出した生徒会室のドアを見ながら、大我の健闘を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室から追い出された大我は押し付けられたチケットを持ち渋々帰ろうと歩いていた。

 完全に強引に押し付けられたが、このまま捨てると言うのも諒真に悪い気がして捨てる事も出来ない。

 

「女子を誘えって……」

 

 大我の頭の中に諒真の言葉が浮かぶ。

 諒真は女子を誘えと言っていた。

 チケット自体はペアチケットだが、一人で行く事も出来る。

 だが、諒真の事だから後で根掘り葉掘りこの事を聞いて来るだろう。

 そうなった場合、一人や男同士で行った事が知れると面倒になる。

 

「珠ちゃんは……駄目だ。珠ちゃんを誘うと姉ちゃんもついて来る」

 

 真っ先に誘う相手として思い浮かんだのは姉の珠樹だが、珠樹を誘った場合高確率でもう一人の姉である貴音もついて来ると言い出すだろう。

 かと言って貴音を誘うとそれはそれで面倒になる。

 

「母さんは……あり得ない。もう女子って年でもないしな。となると……クロエを日本に呼ぶか?」

 

 誘う相手が見つからず、最後の手段であるチームメイトのクロエをアメリカから呼ぼうとすら考える。

 旅費に関してはチームメイトのルークに頼めば何とかなる。

 後はわざわざこの事の為に日本にクロエを来させる為に説得が必要となる。

 

「藤城君。珍しいわね。貴方が部室まで来るのは?」

 

 どうすべきか考えていると大我はいつの間にかガンプラ部の部室の前まで来ていたようでばったり静流と出くわした。

 その時、大我はある名案を思い付いた。

 

「……静流。今度の土曜だが空いているか?」

「空いているけど……」

 

 突然の事で静流は少し動揺している。

 

「俺はお前に借りがある」

「まぁそうね」

 

 大我は予選が始まるまで静流の特訓に付き合っている。

 大我自身、静流を相手にバトルする事は退屈はしないから引き受けたが、この際、それは借りだとしておく。

 

「なら今度の土曜日、少し俺に付き合ってくれ」

 

 この瞬間、諒真の思惑は儚くも崩れ去った事はこの時の諒真は知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じころ、皇女子高校でも事が起きていた。

 大会期間中はレギュラーは調子を崩さないように練習は必要最低限で切り上げている。

 その日のノルマをこなそうとしていたところを貴音に捕まった。

 

「ちーちゃん。今度の土曜日空いてるよね」

「空いてますけど」

 

 千鶴は少し警戒して答える。

 貴音とは長い付き合いだから分かる。

 やけににやにやとして近づいて来る貴音は兄の諒真同様に面倒ごとを持って来る時だ。

 

「実はさ……お爺ちゃんからこんな物を貰ったんだよね」

 

 貴音は千鶴にガンプラコンテストの展示会のペアチケットを見せる。

 

「これって少し前にやっていた奴ですよね。良く手に入りましたね」

 

 千鶴もコンテストの事は知っている。

 千鶴も作品を応募しようとも思ったが、皇女子の練習やらなんやらで作品制作の時間は余り取れない事もあって今回は止めておいた。

 ネット上ではすでに賞をとった作品の画像は見る事が出来るが、展示会では作品を生で見る事が出来る為、千鶴も多少は興味があった。

 

「まぁね。このコンテストにはお爺ちゃんも審査員として参加してるからね」

 

 皇女子高校の理事長はガンプラ好きで有名であり、このコンテストの審査員もしている。

 このチケットはその伝手で手に入れた物だろう。

 

「でさ……私この日補習があって行けなくなったんだよね」

 

 貴音の成績はお世辞にも良いとは言えない。

 公式戦に出るレギュラーとはいえ、成績が酷ければ強制的にレギュラーから外される。

 それを防ぐ為に定期的に貴音は補習を受けているが、その日が展示会の日に被っていたらしい。

 流石に補習をサボるわけにもいかない。

 仮病を使おうにも身内が学校側にいる為、使えず理事長の孫として教師たちも貴音の行動には文句を言えないが、教師には理事長の娘がいる。

 結局、貴音は真面目に補習を受けて公式戦に出させて貰うしかない。

 

「だからちーちゃんに上げる」

「良いんですか? 私が貰っても」

「良いよ。良いよ。ちーちゃんも大会頑張ってるしね。先輩としてこのくらいはしないとね」

 

 貴音はそう言うが千鶴はバトル中には何もしていない。

 それで貰う事は気が引けたが、コンテストで賞を取る程のガンプラを生で見れる機会はそう多くはない。

 

「分かりました。折角なので」

「ありがとう。助かるよ……でもね。ちーちゃん。このチケットはペアチケットなのよ。この理由は分かる?」

「そうですね。副部長でも誘ってきます」

 

 千鶴は貴音の意図を微妙に間違えて受け取っているらしく、貴音はため息をつく。

 

「ちーちゃんは花の女子高生なんだよ。ちーちゃんの青春がガンプラバトルに明け暮れるだけなんて良いの? いや良くない!」

 

 貴音は声高に力説を始めて、千鶴は理由までは分からないが、貴音の面倒な地雷を踏んだと軽く後悔する。

 

「ウチは女子高だからただでさえ出会いが少ないんだよ! だからこれはチャンスなの! ちーちゃんにだって身近な男の子はいるでしょう? いる筈よ! ならその子を誘って言って来なさいな! これは先輩命令だからね! 破ったら理事長の孫権限で退部だからね! 退部!」

「はぁ……」

 

 貴音は言うだけ言ってGBNの端末の方に向かって行く。

 大声を出した事もあり、周囲からは同情的な視線が千鶴に向けられている。

 貴音は1年生からは面倒見は良いが面倒な先輩として見られており、千鶴が幼馴染でお気に入りだと言う事も1年の間には知れ渡っている。

 1年生や上級生からはお気に入りが故に貴音の面倒な部分は一手に引き受けていると言うのが千鶴の部内で確立しつつあるポジションだった。

 

「……取り合えず今日のノルマをこなそう」

 

 何か面倒な事になったと思いながらも余計な事を考えなくても良いようにGBNにダイブする。

 

(そもそも男子を誘うと言っても誰を誘えと……)

 

 GBNにダイブしても千鶴の頭の中は余計な事で一杯だった。

 

(タイちゃんは……駄目よ。そもそも私はタイちゃんの連絡先を知らない)

 

 最初に出て来たのは大我だったが、千鶴は大我の連絡先を知らない。

 大我の身内である貴音や珠樹に聞くのは今更恥ずかしく、母親の麗子に聞く度胸は無い。

 兄の諒真なら連絡先を知ってそうで、知らなくても同じ学校である為、大我に連絡先を聞いて貰う事も出来るだろう。

 だが、諒真に頼めば、知りたい理由も話さなければいけなくなり、話すと面倒な事になるから諒真には聞きたくはない。

 

(兄さんは……嫌よ)

 

 大我を諦めるとしても他の候補は諒真くらいだが、諒真と一緒に出掛けると言う事自体、千鶴は拒否感が強い。

 

(後は……いない事もないけど、誘う程親しくもないし)

 

 去年までは共学の中学に通っていた為、異性の知り合いはいない事もない。

 だが、中学を卒業してから高校に入り新しい生活が始まって1月が経過している。

 別の高校に進学した知り合いをわざわざ誘う程仲の良い同級生もいない。

 最終手段として一人で行くか、部の先輩を誘うと言う手もあったが、あれだけ異性と行く事を強調している以上はそれも出来そうには無い。

 

「アレ? クレインじゃん」

 

 どうするか考えていると千鶴はGBNにログインしていた龍牙と鉢合わせする。

 地区予選が始まってからは流石に今までのように練習相手として誘う訳にもいかず必要最低限しか連絡を取り合ってはいない。

 

「ジン君。丁度いいところに……今度の土曜は空いているか?」

 

 千鶴はそう切り出す。

 身近な異性と言う意味では共に練習をした龍牙も親しいと言えば親しい。

 少なくとも龍牙ならば貴音に文句を言われる筋合いはない。

 

「土曜……その日は俺達もバトルが無し、部活も休みだから良いけど」

「ガンプラコンテストの展示会に興味はないか? 貴音先輩に渡されたんだが、一人で行くと言うのもな……もし良かったら行かないか?」

「マジで! 行く行く!」

 

 自分でも異性を誘うとなると緊張するかと思っていたが、以外とすんなり誘う事が出来た。

 龍牙もあっさりと誘いに乗り細かい時間は後でメールで連絡するとその日は自分のノルマをこなしてGBNをログアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日が経ち、千鶴は龍牙は待ち合わせていた。

 千鶴は休みの日と言えども遊びではなく勉強する為と私服ではなく制服で待ち合わせ場所に来ている。

 一方の龍牙は私服だ。

 合流した二人は話しながら目的の展示会の会場に向かう所を少し離れたところで貴音は見ていた。

 もうすぐ夏だと言うのにわざわざこの日の為にトレンチコートとサングラスを用意して身にまとっている。

 物陰に隠れるようにしているが、通行人からは少し避けられているが、当の本人は気づいてはいない。

 

「誰なのよ! あの男は!」

 

 貴音は人目を気にせずに大声を上げる。

 貴音は大我がこっそりと今日の展示会の事を調べている事を知っていた。

 それを見て確信した。

 千鶴は自分の思惑通りに大我を誘ったのだと。

 そうして、面白半分だと言う事を弟と未来の妹を見守ると言う義務感で隠して変装して後を付けようとしていたが、千鶴の待ち合わせの場所に来たのは見ず知らずの男だった。

 尤も、貴音も龍牙とは練習試合や地区予選の会場で見ているのだが、常に大我以外は眼中になく、龍牙の事は全く覚えてはいない。

 

「まさか……あのちーちゃんがもしもの為に見るからにチェリーボーイをキープしていたなんて……」

 

 貴音は愕然として膝をつく。

 

「だよな……俺もまさかあんな年増に大我が籠絡されているなんて気づきもしなかったぜ」

 

 愕然とする貴音の隣に同じようにトレンチコートをサングラスを身に纏う諒真が座り込む。

 諒真もまた大我の待ち合わせ相手が千鶴ではなく静流である事に愕然としてここまでトボトボと歩いていたようだ。

 

「上手く行くと思ったんだよな。アイツの異性の知り合いは千鶴くらいだって……」

「私もだよ。今までちーちゃんが男といるところなんて見た事もないはずなのに……」

「なのに展示会に誘ったのが黒羽だったなんて……」

「けしかけたのは私なのに何であんなチェリー君を……」

 

 互いに思惑が外れて落ち込む二人だが、ある事に気が付いた。

 貴音も諒真も手を組んでいた訳ではない。

 もしも、手を組んでいたなら、双方がチケットを用意して相手を誘わせるように仕向けずにやりようは幾らでもあった。

 

「ねえ……諒ちゃん」

「なぁ貴音……」

 

 二人や冷や汗をかきながら嫌な予感がした。

 そこで二人は情報を交換すると嫌な予感は的中した。

 大我と千鶴はそれぞれ別の相手と共に展示会に行っている。

 更に間の悪い事に、下手をすれば会場で鉢合わせする可能性もあり得ると言う事。

 大我と千鶴は付き合っている訳ではないが、幼い頃交わした約束がある。

 展示会に異性と来ていれば否応なくデートだと思われても仕方が無い。

 場合によっては幼い日の約束そのものが破談しかねない状況に陥ってしまった事を今更ながら二人は思い知る事となる。

 

「大丈夫」

 

 絶望しかけたその時、珠樹が顔を出す。

 

「珠ちゃぁぁぁぁぁん!」

 

 珠樹に貴音が半泣きですがりつく。

 そんな貴音を珠樹が頭を撫でて落ち着かせる。

 

「それで何が大丈夫なんだ。珠ちゃん」

「信じる。愛は偉大。大我と千鶴はどんな誘惑にも負けない」

 

 珠樹はそう言い切る。

 根拠も何もないが、ここまで堂々と言い切られるとなぜか安心する。

 

「……だから私達は見守れば良い」

 

 珠樹はそう言う。

 今まで動揺して気づかなかったが、珠樹も二人と同じようにトレンチコートとサングラスをしている。

 奇妙な一団を周囲は誰も見ないようにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事になっている事はいざ知らず大我は静流と共に展示会の会場に向かっている。

 静流も誘われた当初は展示されているガンプラに興味があった為、二つ返事で行くと答えたが、良く考えれば異性と二人で出かけると言うのは初めての事だった。

 かといって一度了承している為、理由もなく断る事も出来ず、展示されいるガンプラ見たさに断る事はしなかった。

 それでも前日は当日来ていく服等で悶々としたが、最終手段として公的な場と言う事で制服を着て来たと言う事にして乗り切ろうと画策した。

 デートまではいかずとも異性の後輩と二人で出かけると言う事で少なからず緊張していた静流だが、普段通りの大我を見て自分が変に意識し過ぎていた事を知りそれが恥ずかしくなったが、今は落ち着いた。

 

「そう言えば、GBNでのアレって大丈夫なの?」

「まぁアイツ等も懲りないからな。毎回のように湧いてくるから毎回ぶっ潰してる」

 

 大我とGBNで特訓するようになってからGBNにログインする度、毎回のように自由同盟のダイバーに大我は挑まれる。

 大我も逃げるなりすればいいが、毎回相手をして完膚なきまでに叩きのめしている。

 

「いい加減逃げるなり手を考えた方が良いわね。あの手の輩は何度負けても挑んで来るでしょうから」

「嫌だね。逃げるのは。毎回来るなら毎回ぶっ潰せば良い」

 

 だが、大我は逃げる気も隠れる気もないらしい。

 そんな大我を見て静流は前々からの疑問をぶつける事にした。

 

「藤城君はどうしてそこまで敵を作るような言動をする訳?」

 

 自分と初めてあった時も大我は挑発的だった。

 あの時は自分とバトルする為にわざと挑発的な態度を取っていたと思っていたが、大我は基本的に誰にでも噛みつく。

 

「別に敵を作る気は無いんだがな。だが、俺はチームのエースとして舐められる訳にはいかないらな。俺が舐められると言う事は即ち、チームが舐められると言う事だ。だから誰も舐めた態度はさせない。する奴は皆ぶっ潰す。それがチームのエースである俺の役目だ」

 

 大我はチームビッグスターのエースだ。

 エースはチームの顔としての役目があり、大我はエースとしてチームを背負っている。

 だからこそ、大我は誰が相手でも自分の弱みを見せず、常に挑発的で強者でなければならない。

 

「強いのね」

 

 静流は素直にそう思った。

 静流も去年は1年ながらチームのエースとされていた。

 だが、静流はそこまでチームの為に強くあろうとはしなかった。

 だからこそ去年は3回戦どまりだったのだろう。

 同じチームのエースとしての差が実力の差となって今の大我と静流の差なのだろう。

 エースとしての重圧を小さい背で背負う大我の事を静流は素直に強いと思えた。

 

「……そうでもないさ」

 

 大我は静流には聞こえないくらいの声でポツリとつぶやく。

 話している内に展示会の会場に到着する。

 そして、貴音たちが恐れていた事態が起きてしまった。

 何者かの見えざる力が働いたかのように大我と静流、龍牙と千鶴が会場の入り口でばったりと出会ってしまったのだ。

 

(なんか気まずいわね。この子皇女子の会長の妹さんよね)

(この人ってタイちゃんの学校の人だよね。何で二人でここに……)

 

 会場入り口であった大我たちは龍牙の提案で一緒に回る事になった。

 静流も千鶴も別に二人きりで回りたい訳があった訳でも無い為、提案を断る事が出来ず、大我もどうでも良かった。

 

「すっげぇな!」

「コレ絶対可動域殺してるだろ」

 

 千鶴と静流は少なからず気まずかった。

 だが、男連中はそんな空気を全く気付かずに展示されているガンプラを見ている。

 龍牙は素直に賞を取るだけあって作り込まれて完成度の高いガンプラを見てはしゃぎ、大我はバトルで使う事や戦う事を前提に見ている。

 

「へぇ……これが大賞を取ったガンプラか……製作者は川澄岳。凄いな俺達を一つしか違わないのにな」

「そうか? この手の賞を取る為のガンプラは大抵見た目のみを気にしてバトルじゃ碌に使えもしない見てくれだけで中身のないガンプラだからな。それに一般レベルじゃ大賞と言ってもこんな物だろう」

 

 大我は相変わらず辛口のコメントだ。

 

「それは聞き捨てならないな」

 

 大我のコメントに誰から意を唱えた。

 

「アンタ誰?」

「このガンプラの作者の川澄岳。私のクラスメイトでもあるわ」

 

 大我は自分に明らかな敵意を向ける相手を睨み返し、静流が相手が誰なのかを教える。

 細身の長身に神経質そうな男こそが、今回のコンテストで大賞を取った川澄岳本人だった。

 そして、岳は星鳳高校の2年生で静流のクラスメイトでもある。

 

「やぁ黒羽さん。ガンプラ部の活躍は聞いているよ」

「そう」

「それはさておき、君は噂のガンプラ部の大型ルーキーだね」

「だったら?」

 

 大我と岳はすでに一発触発の状態で静流は内心ため息をついていた。

 

「君のような戦う事しか頭にない野蛮な人間には細部まで拘って作り上げたこの芸術は理解出来ないだろうね」

「知ってるか? 見てくれに気を使う奴ってのは大抵は見た目で誤魔化さないといけないように中身が汚いんだよ」

 

 大我の挑発的な態度に岳は完全に頭に血が上っている。

 

「なら証明しようじゃないか。僕の芸術作品が君のガンプラを蹂躙する様をね」

「上等だ。俺がお前の見た目だけのガンプラをぶっ潰してやるよ」

 

 話しは口論からバトルする流れとなった。

 展示会は賞を取ったガンプラの展示のみならず、隣のブースではガンプラの販売と制作コーナーもあり、更にはGBNへのダイブする為の機材も一式用意されている。

 そこで大我と岳はGBNにログインして龍牙達はモニターの方でバトルを見る事になった。

 

「藤城! そんな奴に負けんなよ!」

 

 龍牙は大我の挑発があったにせよファイターを馬鹿にするような発言をした岳よりも大我を応援するようだ。

 

「あの……良いんですか? 大会中に喧嘩騒ぎなんて起こして?」

「……もう慣れたわ」

 

 千鶴も止める事は出来なかったが、これは明らかに喧嘩だ。

 騒ぎが大きくなれば問題を起こしたとして大会に影響が出かねない。

 だが。静流はすでに大我が起こす問題に慣れてしまっている。

 その為、後はなるようにしかならなう為、事の顛末を見届けるしかない。

 

「アイツのガンプラは……」

 

 バトルフィールドはソロモン宙域。

 大我は進みながら敵を探す。

 

「見つけた。ジムか。見た目は普通だが性能の方はどうだ」

 

 モニターに映るジムは独自の改造がされていない普通のジムのようだ。

 大我は試しに腕部の200ミリ砲で様子を見る。

 バルバトス・アステールの射撃をジムは見た目からは想像できない機動力でかわす。

 

「僕のジムを甘く見て貰っては困るな」

「成程な」

 

 岳のジムは派手な改造はされていないが、細かいところから徹底的に作り込んでいる為、見た目は普通でも性能は普通のジムとは比べものにならないハイスペックカスタム、ジムHSCだ。

 

「少しはマシなバトルにはなりそうだな」

 

 バルバトス・アステールは加速する。

 確かに機動力は見た目以上だが、それでもバルバトス・アステールなら十分に対応できる速さでしかない。

 距離を詰めてバルバトス・アステールはバーストメイスを振るいジムHSCはシールドで受け止める。

 バルバトス・アステールの一撃を受けてジムHSCはシールドを破損しながらも吹き飛ばされて体勢を整える。

 

「なんてパワーだ」

「固いな……嫌。まさかな」

 

 ジムHSCはシールドの強度やパワーも並のガンプラよりも高いと自負している。

 それが一撃でシールドを破損させて弾き飛ばされたバルバトス・アステールの攻撃力に岳も驚いている。

 だが、大我は自信の攻撃でシールドを完全に破壊出来ていない事で相手のガンプラの性能よりも別の違和感を感じていた。

 体勢を整えたジムHSCはビースプレーガンを連射する。

 その威力も一般的なビームスプレーガンとは段違いだが、射撃の精度はそれ程高くは無く、大我にはかわすのは余裕ではあった。

 

「反応もいつもよりも鈍いな」

 

 攻撃をかわす際の操作が普段よりも鈍く感じていた。

 バルバトス・アステールは攻撃をかわしてシールドスラスターの機関砲を撃ち込む。

 それをジムHSCはシールドで身を守る。

 

「無茶をさせ過ぎたか」

 

 大我にはバルバトス・アステールの不調に思い当たる節が多すぎる。

 熱砂の旅団と自由同盟との戦いに乱入してからEXミッションのボスをリミッターを解除して倒し、ダイモンのガンダムAGE-2 マッハとの戦い。

 貴音との戦いでも強引に攻めている。

 それからも静流との練習で毎回のように自由同盟のダイバーとの連戦。

 大我も現実世界でバルバトス・アステールの調整を行って来たが、無理をさせ過ぎたせいでそれも追いつかず、バルバトス・アステールのパラメーターが万全の状態の時よりも下方修正されて、普段通りの感覚で操作する大我には普段よりも鈍く感じるのだろう。

 

「だが、それが分かっていればどうでもなるか」

 

 バルバトス・アステールはテイルブレイドを射出する。

 ガンプラが普段の性能を出せないのは痛いが、分かっていれば対応する事は出来る。

 幸いにも対戦相手の岳はガンプラの完成度は高いが、操縦技術に関してはそれ程高いとは言えない。

 完成度から来るジムHSCの性能も大我にとっては丁度良いレベルで脅威となる程ではない。

 

「想定外のやる事も出来た。ゆっくりと遊ぶ気はない」

 

 テイルブレイドをビームスプレーガンで対応しながら、バルバトス・アステールのバーストメイスをジムHSCはかわす。

 

「どうした? その程度か」

 

 ジムHSCは攻撃をかわしているが、次第にソロモン要塞の近くまで追い詰められていく。

 遂にはテイルブレイドがビームスプレーガンを破壊し、ジムHCSはビームサーベルを抜く。

 ジムHSCはバルバトス・アステールにビームサーベルで切りかかるが、バルバトス・アステールは簡単にかわすと背後に回りエッジを展開してジムHSCのバックパックを蹴り飛ばす。

 バックパックがエッジで損傷してまともに姿勢制御が出来ずにジムHSCはソロモンの外壁に叩き付けられる。

 

「終わりだ」

 

 バルバトス・アステールはテイルブレイドでジムHSCの左腕からシールドを叩き落とす。

 シールドが無ければ不調のバルバトス・アステールでも一撃で相手を破壊する事は出来るだろう。

 バーストメイスを両手でしっかりと握るとジムHSCに接近してバーストメイスを振り上げる。

 

「これは……美しい」

 

 岳は止めを刺される瞬間に出た事がそれだった。

 バトル中はバルバトス・アステールはただ敵を破壊する事しか考えていない野蛮な改造をしたガンプラ程度にしか見ていなかった。

 しかし、止めを刺す瞬間のバルバトス・アステールは岳には美しく思えた。

 バトルが終了して二人はログアウトをする。

 

「先ほどまでの非礼を詫びよう。君のガンプラは実に素晴らしい」

 

 バトルが終わってログアウトをした岳の態度は先ほどまでとは一変していた。

 最後の瞬間のバルバトス・アステールに岳はすっかり魅了されたらしい。

 

「そのガンプラにはビルダーとして非常に興味がある。少し見せて貰えないだろうか?」

「嫌だね。アンタのガンプラもまぁ少しは楽しめたんだけど、アンタも少しは制作技術だけじゃなくて操縦技術も磨いた方が良いぞ。折角のガンプラが無駄になる」

 

 岳は大我のバルバトス・アステールに興味を持っているようだが、大我は自分のガンプラを見せる気はない。

 

「用事が出来た。俺は帰らせて貰う」

 

 大我はそう言うと帰ろうとする。

 龍牙達も見たい物は十分に見れた為、今日のところは帰る事になった。

 会場を出ると会場の外では怪しいトレンチコートの3人組みが会場の警備員に止められていた。

 

「……何やってんの」

「先輩達に……兄さん」

 

 トレンチコートの3人組み……諒真たちはあれから大我たちの居場所は分かっている為、展示会の会場まで来たが、重要な事を忘れていた。

 会場に入る為のチケットを持ってはおらず、トレンチコートとサングラスで中を窺うような見るからに怪しい3人組を警備員が見逃す筈もなかった。

 

「げ……」

「やばっ」

 

 警備員に止められている間に大我たちに見つかり諒真と貴音は視線を泳がせ、珠樹はいつの間にかトレンチコートをサングラスを脱いでおり、顔を伏せている。

 

「私は止めた。でも貴音と諒ちゃんが……」

「珠ちゃん!」

 

 珠樹は速攻で裏切り、自分がまきこまれた被害者だと主張する。

 

「まぁ……大方俺達の後でもつけてようとしてたんだろ? 姉ちゃんもここ数日何か企んでいるようだったしな」

 

 あっさりと大我に見抜かれて諒真も貴音は反論は出来ない。

 警備員も一応は怪しい連中ではないと思ったのかすでに持ち場に戻っている。

 

「兄さん。貴音ちゃん。どういう事か説明して」

「いや……ほらな。兄ちゃんとしては千鶴の事が心配でな……」

「そうなんだよ。面白そうだとか、後で部の皆に報告しようとか全然思ってないんだから!」

 

 明らかに怒っている千鶴に諒真と貴音は必死に弁解する。

 

「後は任せた。そっちでやってくれ」

 

 その様子を見ていた大我は後の事を千鶴に任せる。

 事情を分かっていない龍牙と静流はただ事が終わるのを待つしかない。

 皆と別れた大我はスマホを出すと登録してある番号を出すと電話を掛ける。

 何回かコールしても電話には出ないが、大我のかけた相手はすぐに電話に出るタイプではない為、辛抱強く出るまで待つ。

 

「ああ。俺だ。悪いが早急に頼みたい事がある」

 

 大我は電話の相手に頼みの内容を伝えると電話を切る。

 

「手配はルークに任せるとして来週のバトルに間に合うかが問題だが、なるようにしかならないか」

 

 大我はそう言い千鶴に怒られている二人の事など忘れて一人帰って行く。

 

 

 

 

 

 

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