でもあります。なんで?
どうか上手い言い訳を考えます。
すみません
腰まで届く銀色の髪を一つにまとめ、理知的な印象を漂わす少女は、その美しい外見から放たれるとは思えないほどの鋭い瞳で二人の青年を映す。
銀鈴の様な声色が長髪の青年に向けられる。
「それ以上の狼藉は見過ごせないわ。 観念なさい」
「いきなり出てきてなんだよ」
長髪の青年は面倒に巻き込まれたくなさそうに睨みつける。
しかしその睨みに少女は一切の動揺もせずただ見つめ返すだけであった。
(うぉおッ! ついに異世界の美少女とご対面キターッ!! 上手いこと妙な空気も消えてったし、ここは俺がビシッと決めてだな…)
スバルはいつもの調子を取り戻し、長髪の青年を諌めるように前に出た。
「まあまあ落ち着いてお二方! ここは一旦怒りを抑えて抑えて… 」
「おまえは黙ってろ」
「アッハイ、黙ります」
スバルの渾身の仲裁は青年の一声で無駄となった。
青年の態度の悪さから少女はいっそう目が鋭く尖っていく。
「ねぇ、潔く私から盗ったものを返してくれないかしら。ーーー今なら、命まで取ろうとは思わないから」
「だからなんのこったよ、俺は関係ねぇよ巻き込むな」
少女の脅しともとれる要求に青年は身に覚えがなく無罪無関係を主張する。
それはスバルとて同じであった。
(なーんか妙な食い違いが出てるなぁ… よしここは俺がスパッと白黒つけてだな…)
「あーそこなお嬢さん! 多分アンタが言ってるその物盗り? この人じゃないと思うぜ? 何しろこの方は俺を窮地のピンチから救ってくれためちゃカッケェナイスガイなんだからな! そんなセコイことするわけがねぇしまずアンタみたいな超絶美麗!正に湖の白鳥!シティーハンターでいう槇村香!タッチでいう浅倉南! セーラームーンでいうええと」
「ごめんなさい、ちょっと静かにしててくれる?」
「アッハイ、静かにします」
またもやスバルの発言は少女の一声で無に帰してしまった。倒れ込み落ち込むスバルを尻目に少女は再び青年に問う。
「で、さっきの子の話によるとどうやらあなたはあの犯人ではないということね?」
「当たり前だろ。 盗んだ奴がここで堂々ともたついてる場合かよ」
青年はやっと解放されたか、という感じに溜息をつく。スバルも誤解が解けてホッとしたようだ。少女も納得がいったように頷き、続けて質問する。
「それもそうね… じゃああなたは私から徽章を盗んだ犯人に心当たりがあるかしら?」
「………なんだ徽章って」
「大切なものなの、竜を象ったバッジなんだけど」
「知らないね、他を当たってくれ」
青年はハンドルを握り立ち去ろうとする。 時間の無駄だとわかり先を急ごうとする少女。しかしスバルは先程から倒れ込んでいたのが嘘のように飛び上がり叫ぶ。
「ちょおっと待ってくれ! どうやら俺のちっぽけな脳内にその盗っ人の手がかりがあるような気がするぞぉ!」
「え! ホントに!? ……こほん」
その僅かながらに見せた一瞬の瞳にスバルはドキっとした。頰に一瞬熱が差すのを感じる。それを隠すように頰をポリポリとかく。
「あー…えーと多分盗んだ奴の特徴ならわかります。 八重歯が目立つ金髪少女で身長も年齢も君より二つ三つ下だと思うんだけど」
「そう、情報感謝するわ」
少女は冷たげにそう言うと、金髪の少女が向かっていく先に歩んでいった。その先は賑わってる通りとは違い、危険な空気を孕んでいた。
「お、おい! 1人じゃ危ないって! 俺らもその徽章探すからさ! 三人なら見つかる確率も高いし、三人で徽章捜索隊と行こうじゃない!!」
スバルの唐突な提案に少女は疑念の表情を浮かべる。青年はその捜索隊の中に自分も入隊させられてることに顔をしかめた。
「なんで? もうあなた達と私は無関係の他人です。 ほんの一瞬人生が交わっただけの赤の他人」
「そんな心にくるようなこと言わないでくれよ!? 俺らはまだ全然まるっきし終わったなんて思ってない! そうだろ相棒!」
「いいやそいつの言う通り赤の他人だ。もちろんお前ともな」
「俺は異世界でもボッチなのかよぉぉぉッ!!」
最近倒れ込んで泣くことが多いなとスバルは頭の中で考えながら倒れこむ。少女は心配気味にスバルを一瞥すると路地裏の奥に向かう。
「じゃあ、私もう行くから」
「ま、待ってく…」
このまま少女とのイベントは終了するかに思えた。
「そういえば、まだ情報の対価をまだ支払って無かったわね」
そういうと少女は振り向きざまに掌を向ける。その掌から拳大程度の大きさの飛礫がスバルと青年に放たれていた。
「え…」
と声をあげる暇も無く、飛礫はこちらに向かっていた。
しかし飛礫は彼らに当たりも掠りもなく通り抜け、いつのまにか復帰しており背後から攻撃しようとしていた三人組に直撃する。
振り返れば、そこには激痛で苦鳴を上げて吹き飛んでいくのが男たちがみえた。彼らの脳天に命中し、傍らに音を立てて落ちた飛礫。 スバルはそれを拾い上げまじまじと眺める。
「冷てぇ…」
それは季節感や法則を無視した氷の塊であった。役目を終えたかのように大気に溶けるように霧散した。
「ーー魔法」
とっさに口からこぼれたのは、今の現象を説明するのに最も適した単語だった。青年もこの常軌を逸する現象に戸惑いを隠せないでいるようだ。
「これで対価は支払われたわね。それじゃ、今度こそさよなら」
少女は満足げに頷くと再び奥に向かう。するとスバルは勢いよく立ち上がり駆ける。
ここでまたチャンスを逃してたまるかとばかりにスバルはホコリかぶった脳みそをフル回転させ、少女の前に躍りでた。
「何? まだ何か用?」
「あぁーッいやぁ助けてくれてどうもありがとう感謝感激雨あられ! お礼といってはなんだけども徽章を一緒にお探ししましょう!」
スバルはオーバーなアクションで少女に跪く。少女は戸惑いながらもこれを拒否する。
「気にしないで。アレは情報への対価だから、等価交換ってわけ。だからこの話はもうおしまい」
「いやいや! このだだっ広ぉい街の中! 薄暗ぁい路地裏で! その大切な徽章を君1人で探すのは困難極まれり! ならば事情を知ってる三人で探した方が絶対いいに決まってる!」
「おい、なんで俺が入ってんだよ」
青年は巻きこまれるのはゴメンだとばかりに反発する。
「何より年端もいかない困ってる女の子を見捨てるなんて男が廃るってもんです! ねぇ!相棒!」
「相棒じゃねぇ馴れ馴れしくすんな」
その初対面とは思えぬ奇怪なやり取りに少しばかり微笑むと。
「変な人たち。でも大丈夫よ、1人で探すわけじゃないし」
「その通りぃ〜!」
少女の声を引き継ぐようにして、中性的な高音が跡地を震わせる。一体どこから発せられたものかスバルは視線を彷徨わせる。入り口にも奥にもそのような人物らしき影は見当たらない。
見せつけるようにして左手を差し出す少女。
差し出された掌には、手乗りサイズの小さな直立する灰色の猫だった。その尻尾は特別長く普通とは違うというのを明らかにさせていた。
スバルとはまじまじとその子猫を見つめる。
「精霊ってやつか? まさか」
「そーだよー。あんましじろじろ見られるのもアレだね。照れるね」
そういって子猫は前足で顔を洗う仕草をする。
「私にはパックがついてるから、実質2人。だからそんなに心配することはないわ。困った時も2人で乗り越えてきたし」
「なるほどなぁ…そうきたかぁ」
スバルは思案でひねるに捻って理由を探した。彼女のどこかお人好しな性格やたびたび見せる少女の一面に惹かれて、どうか彼女の助けになりたいと思い、発言してきた。
スバルもまたお人好しな性格であった。そんな彼の一途なる思いに神が祝福したのか。
お人好し魔人は天から授けられし光の一手とも呼べる理由を考えついた。
「そうだッ! 君さっき等価交換って言ってたよな! 実はそれについてお話があります!」
「手短にお願い。本当に急いでるの」
「なぁに簡単かつ分かりやすいおはなしですよ… ふっふっふ」
スバルは意味深な笑顔を浮かべて青年をちらりと見る。青年はその妙な笑顔に眉間のシワを深めた。
スバルは語り出した。
「君と俺は情報と敵の排除ってことで交換が成立したわけだ。ここまでオーケー?」
「おーけー…? えぇわかってるわ」
突然青年が気がついたかのように目を開く。
「おいお前「しかし! そこなロン毛の男は君に対してなんの得も与えてない! これでは君の方が損してるじゃないか!」
スバルは勝ち誇ったようにニンマリと笑う。青年はスバルをこれでもかと言うくらい睨みつけていた。少女は少しばかり思案し、応えた。
「でも、情報を持ってないって情報を手に入れたんだし… それで私はいいんだけど」
「でも彼の言い分も頷けるよ。なんてたってリアはあの青年のピンチも救ったんだもんね」
子猫はおおっぴらに同意し、青年は勢いよく反発する。
「バカ言え! あんなの俺1人でも対処できたぜ。お前の余計なお世話なんだよ」
と青年は突き放す。
しかし子猫は更に食い下がる。
「でも助けてもらったことは事実だしぃ〜? せめてお礼ぐらいは言わないと恥ずかしいよねぇ〜」
子猫が意地の悪い笑みを浮かべる。
スバルは突然の味方の出現に驚き喜び半分だった。
もしかしたらうまくいくのかも…と。
「あれっ、言えないのぉ〜?」
「…あんな借り、すぐに返すさ」
「それはつまり、同行を認めるといってもいいのかな?」
「……あぁわかったよ。 見つけりゃあいいんだろ」
その一言にスバルは体全体で喜びを表す。
「いよっしゃぇぇぇぇえええいッ!! アンタがいてくれりゃあ百人力だ!! よろしく頼むぜ!」
「ま、精々足手纏いになんないようにな」
「俺を舐めてもらっちゃ困るね!」
と元気よく腕を振り回すスバル。
少女は戸惑いながらも2人に尋ねる。
「本当にいいの? 私、なんのお礼もできないのよ?」
「大丈夫! 俺はただ君を助けたいが為に助ける! そこになんの損得勘定も無いんだよ! そっちのアンタも」
「あぁ、 受けた借りは必ず返す。それでいいだろ」
「というわけだ!」
言い切った後に友好の印として手を差し伸べるスバル。少女は思案を巡らせ、子猫に意見を求める。
「邪気は感じないし、素直に受け入れた方がいいと思うよ? 2人で探すと言ってもやっぱり広大だからね。人数は多い方がいいよ」
子猫の意見を受けて少女は数秒悩むと、ようやくその手を掴んだのだった。
「俺の名前は菜月スバル! 絶体絶命の一文無し! よろしく!」
「………サテラとでも呼ぶといいわ」
「ーー趣味が悪いよ。 うん、そして僕はパック。よろしく」
それぞれの自己紹介が済んだ後、長髪の青年に視線が集まる。
「………なんで俺まで名前を言わなきゃいけないんだよ」
「いや、今この流れは言うべきでしょ… もしかしてアンタ俺以上のコミュ症…?」
「余計なお世話だ」
「パック。なんであの人たちを仲間にしたの?特にあの長い髪の男の人。随分積極的みたいだったけど」
「まぁ彼にちょっと個人的な興味があってね。見た感じ邪念は見られなかったよ。性格に難ありだけど」
ーーー彼のマナ
少しばかり不思議なんだ
まるで人じゃないみたいにね
新しく作られたことにしよう(震え声)