ちょっと休んで書き溜めてみます。
徽章盗難の犯人探しはそれほど苦労することはなかった。
犯人の目立つ格好に特徴は路地裏で知らないものは少なく、よく出入りしている場所の存在も聞き込みで知ることができた。
3人と一匹はその場所である盗品蔵に向かった。
道中でサテラが青年のバイクとバイクに置かれた銀のアタッシュケースを指差す。
「そういえばあなた、不思議な大荷物を抱えてるのね。 その銀色の箱みたいなものだったり、鉄の……子牛?みたいなそれとか。何に使うの?」
青年はどのように答えるか少し思案すると。
「……コレはバイクだ。馬とか、そんな感じの解釈でいい」
ズッコケるスバル。
「えぇ…ちょっと説明が雑すぎやしませんかね…?」
「いいんだよ説明するのもめんどくさい」
青年は冷たく言うとまた重いバイクを押し歩いた。
思案顔になり、突然「閃いた!」と言い指を鳴らすと、青年にある提案をした。
「あのさ、論より証拠っていうことわざがあるように口でいうより体験させてやった方がわかりやすいんじゃないか? 俺をほんのちょっと後ろに乗せて走らせるだけで…」
「だめだ」
青年はその提案を一蹴する。
「あぁガソリンが無いのか。なら仕方な…ってメーターが80%ほどあるのですが」
「燃料がもったいないだろ。 なんでそんなことしなきゃなんねぇんだよ」
そう言いこの話は終わりというように速く歩き始める。
「アレは走るものなのかしら? ますます不思議ね。荷車にしては小さすぎるしそれを引くのが人って… 非効率ね」
「さっきガソリン? という単語が聞こえてきたんだけどそれはあの荷車と何か関係してるのかい?」
サテラは呆れ興味を失い、パックは物珍しい単語に興味を示した。
「ガソリンってのは燃料……あっ、あの鉄の荷車のご飯みたいなもんでー… ええーと」
「へぇ、というとあの荷車は生き物ってことかい? とてもそうには見えないけど」
「いや、今のは比喩的表現っつーか… あーッ! 日常的にあるものだったのにいざ説明するとなると何も出来ねー!!」
嘆くスバルだったがパックはどうやら理解した上での意地の悪い質問だったようだ。
少しニヤついている。
「スバルぅ〜、燃料くらい僕らにもわかるよ〜。そのガソリンとやらを燃やしてその熱であの鉄の荷車は動くんだね〜」
「引く動物も無しに動くの? ちょっと見てみたいかも」
サテラはまた興味を示し出す。
「圧倒的理解力に脱帽っ! ちっくしょぉ〜わかってやってやがったなぁ?」
「僕らを甘く見るから悪いんだよ〜?」
「そんな悪い子猫ちゃんにはこうだ! もふもふ攻撃!」
そういってスバルは子猫を優しく素早く掴むとモふりだす。しかし通常の猫の毛並みでは味わえない感触に驚嘆する。
「うおぉ〜… モフリストと呼ばれしこの俺を唸らせるほどの素ン晴らしい毛並み… 参りました」
「勝手に攻撃して勝手に自滅してくれるなんて、楽でいいや〜。今度の戦闘の時には敵にモフらせるってのはどーお?」
「やめてください。その攻撃は俺に効く」
「多分それはスバルにしか通用しないわね。それ以外にやったら途端にこの世とバイナラよ」
「バイナラってきょうび聞かねえなぁ…」
「もう、冗談はよしこちゃんよ」
「それもきょうび聞かねえなぁ…」
会ったばかりにしてはだんだんと打ち解けていくスバルたちを尻目に青年はバイクを押し歩いていく。今日一日ずっと歩き回ったのでまぁまぁ疲労しており、この借りを返したらさっさとコイツらがいない所に行こうと考える。
しばらく話し込み、日が落ちあたりが更に暗くなるころ、思い出したようにサテラがアタッシュケースを見つめる。
「この箱は一体何が入ってるの?」
ケースについてはスバルも知らず興味深々に頷く。
青年はバイクを止め、ケースを忌々しげに見やるとただ一言。
「…大したもんじゃない」
その目はどこか哀愁を帯びている。
吹けば飛びそうな眼差しは消失し、重い荷物を再び押し歩く。
「そう…」
サテラは何かを察したように会話を切り、少し気まずそうにする。それをみて青年は表情が僅かながらに緩む。
「ちょっといいかしら…?」
サテラが恥ずかしそうに話しかける。
「なんだ」
「あの、もしよければそのばいくって荷車に乗せてもらいたいな…なんて」
サテラは玉のように白い肌を少々火照らしながら頼み込んだ。そのお願いに青年は渋々ながらも、
「気が向いたらな」
と顔も合わせずそう言った。
スバルは俺の時と対応が違うことに唖然としたが、サテラはこの青年がそれほど悪い性格ではないと知り、
可愛らしく微笑んだ。
やがて3人は盗品蔵の前へと到着する。
「もうすっかり日も落ちちゃったな」
「ええ、ここからが正念場よ気を引き締めなくちゃ」
辺りはすでに暗くなっており、昼間の喧騒が嘘のように静かであった。
周りは虫の鳴き声が小さく響き、劣化した建物が見る人を不気味に感じさせる。
「そういやあの猫みたいなのが見当たらないが」
青年はふと疑問に思う。
「パックは夜になると寝ちゃって朝まで出てこないのよ」
「んだよそりゃ… 期待外れにもほどがあんだろ」
一番の戦力であろう精霊がこの調子では先行きが不安になる。
青年はバイクを安全なところへ停めに行くから先へ中に入るよう促した。
「じゃ、中入ってるから。 途中で逃げたりするのはメッだからな!」
スバルは指でバツマークを作る。
「当たり前だ、誰が逃げるかよ」
青年はピシャリと言い放ち、スバル達と離れる。
「さーて、いよいよってとこだな! 噂によれば盗品をまとめてる蔵主が居ると思うけど、どんなシチュエーションで参ろうか?」
「正直に行くわよ。盗まれたものがあるから返してって」
「うん確実に追い出されるなこりゃ…」
道中で何度も話したはずだがサテラは自分の主張を曲げることはなかった。
スバルはこじれる可能性もあるので自分から申し出た。
「あー、わかった。じゃあここは俺に任せてくれ」
「…大丈夫? 私も一緒に行った方がいいんじゃ…」
「いーやこういうことには意外と慣れてるんだ俺。 中の主人とある程度話し込んだら君を呼ぶよ」
「…わかった。スバルを信じてみる」
スバルは破顔すると所持品をいくつか持って入口へと向かう。この異世界では珍しいものばかりなので良い交渉材料にはなるだろう。
木造の扉をノックし、呼びかける。
「あのーすいませーん、どなたかご在宅でしょうかー?」
中からのリアクションは帰ってこない。取手に手をかけると音を立てて開いた。
中は完全な暗闇で何も見えず、淀んだ空気と臭いがさらなる恐怖を呼ぶ。
意を決して中に踏み入れる。
ケータイの光を頼りに進んで行くと小さなカウンター、割れた木箱、価値のありそうな盗品が棚に並べられているのが視認できる。
人気は全く感じない。
「もしかすると店主は用があっていないのかも? 一旦出直すか」
そう考えて開かれたままのドアに向かおうとする。
ピチャリーーと不意に粘着質な音が聞こえ、足の裏に違和感を感じる。
「え?」
足を持ち上げ靴裏を指先でなでるとべっとりとした液体が付着していた。
本能的な不快感が込み上げてくる。
ふと顔を上げれば、淡い光源が
ーー無残な老人の死体を照らした。
「っ」
息が止まる。
口から空気が漏れていた。
「ーーああ、見つけてしまったのね。それじゃ仕方ない。ええ、仕方ないのよ」
次の瞬間、ドス黒い熱を吐き出していた。
バイクを誰にも見つからないような場所に停めると、必要ないと感じたのかアタッシュケースを置いたまま盗品蔵へ向かう。
すっかり辺りは暗くなり虫の鳴き声が耳に入ってくる。
少しばかり遅れてしまった。
なるべく近くに停めようとしたが通行人が珍しがって近寄ってくるのでそれを避けては避け、ついには数分もかかってしまった。
なるべく急ぎ足で歩いて行くとやがて盗品蔵が見えてきた。
すでに2人の姿は無く、中に入ったのだろうと考え自分も中に入ろうとする。
しかし、扉の前でひどく嫌な気分が襲ってくる。中に入ってはいけないような、みてはいけないものの前に立っているような。
悪寒が肌をなでる。
扉の向こうに聴覚を集中させると、なんと中からスバルの呻き声が聞こえてきた。
迷わず扉を乱雑に開ける。
月明かりに照らされたサテラの手が目に入る。
すでに冷たくなっていた。
間に合わなかった。
スバルも同様に倒れこむ姿が見える。
駆け寄り呼びかけた。
「おいッ! 大丈夫か!? 何があった!!」
「や、ばい… し…ろ…」
スバルの虚ろな目は青年の後ろを示す。
後方で空気が歪む気配を感じ取る。
意図を理解した青年は背後から振るわれるナイフを回避、襲撃者に怒りの蹴りを食らわす。
襲撃者は思わぬ反撃に怯んだのか後方に跳躍し距離をとる。
青年は素早く臨戦態勢に入り敵を視認する。
僅かなスバルのケータイの明かりからその姿が照らしだされる。
人間の女のようだった。
しかしあの跳躍力と残忍な行動から人間の形をした化け物という印象だった。
女は妖艶に微笑む。
「ーーうふふ… 素敵な人」
その笑みから捉えようもない多大な緊張がのしかかってくる。
青年はその緊迫感に怯むことなく、
「おまえが、やったんだな」
確認ともとれる問いを投げた。
女はさらに口角を上げると、
「仕方が…なかったのよ?」
微笑みながらそう言った。
青年に激情が走る。
身体中のなにかが細胞を駆け巡ってゆく。
自分が自分では無くなっていくようだ。
本能が変わりゆく身体に命令を下す。
この女は危険だ。
早く、
早く殺さないと。
薄れゆく意識の中でスバルは冷たくなった少女に手を伸ばす。
「俺が… 必ず、 お前を救ってみせ…」
誓うように心に刻みつけ、手を握る。
最後に瞳に映った景色は、
灰色の異形が忌まわしき襲撃者と激戦を広げていた。