Infinite Breakers   作:吉良/飛鳥

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目出度く100話達成だBy夏姫      プロローグを入れると101話だけれどね?By刀奈     プロローグは第0話だからナンバリング外って事でBy一夏


Break100『Love&Purge~囚われの白雪姫~』

Side:夏姫

 

 

電脳ダイブ訓練の最中に起きたトラブルを解決する為に、アタシも電脳ダイブしたんだが……目の前の光景は此れは一体如何言う事なんだ?アタシの目の前には幾何学的な模様が浮かぶ空間に並んだ六つの扉が。

水色、青、オレンジ、緑、そして黄色が二つか……此れは一体何なんだ?

 

 

 

「ふっふ~~ん、其れはねぇ、その扉の先が幻想空間に捕らわれた皆の世界に繋がってるのさ。」

 

「うわ、束さん?如何して此処に……貴女も電脳ダイブをしたんですか?」

 

「いやいやそうじゃないよなっちゃん。

 私は本物の私がこの世界に構築したプログラム人格の篠ノ之束……言うなれば、ナビゲーターってやつ?箒ちゃんに呼ばれてからIS学園に着くまでに作り上げた存在って訳さ。」

 

「……僅か三十秒足らずの間に何を作って電脳世界にインストールしてるんですか……相変わらずやる事がぶっ飛んでいると言うか何と言うか。」

 

「ホント、自画自賛かも知れないけど、本物の束さんって凄いよね~~。」

 

 

 

まぁ、其れは今更ですけどね。

それで、貴女はナビゲーターとしてアタシに何を言いに来たんです?……ナビゲーターと言う事は、ゲームクリアのヒントでもくれるんですか?

 

 

 

「其れもあるけど、如何やら今回の幻想空間って、前とは違うみたいなんだよね?

 前は対象者の願望や、言い方は悪いけど妄想なんかをダイレクトに反映してたみたいなんだけど、如何やら今回はおとぎ話の世界なんだ。

 シンデレラとか竹取物語とか、そう言う物語の世界が作られてて、対象者は、記憶を奪われてその世界の登場人物になっちゃってる。――夢の中で与えられた役割を演じている訳だね……だから戻って来られなくなってるんだよ。」

 

「そして、取り戻すためにはゲームをクリアしないといけないという訳か――其れも、今自分がいる世界が現実ではないと認識させた上で……此れは、中々難易度の高いミッションになりそうだ。」

 

「ん~~……そうかも知れないけど、なっちゃんはたっちゃんを攻略対象に決めてるから大丈夫じゃない?――夢に捕らわれたお姫様を目覚めさせるのは王子様のキスだからね~~♪

 其れに、たっちゃんの世界は白雪姫みたいだから、王子様のキスは鉄板だよね!」

 

 

 

……若干意味が分かりません。其れと楯無が白雪姫とかミスキャストにも程がある気がするのはアタシだけか?アイツならば城から追放されても普通にサバイバルして生き延びそうだし、毒リンゴを食べさせようとした所で逆に毒のある方を相手に齧らせそうだからなぁ……少なくとも毒リンゴを齧って仮死状態になる事だけは絶対に無いだろうな。

 

 

 

「まぁねぇ、たっちゃんだと其れが微妙に否定できないかな……でもまぁ、今はどんな状態であれ白雪姫な訳だから、ちゃんと助けて来てね王子様♪

 あと最後に注意点。

 一応幻想空間でもISは展開出来るけど、ISRI製の機体はセーブモードでしか展開出来ないから、其れを忘れないでね?それから、外部とは通信できないけど、ゲームの様子は現実世界でモニタリングで来てるからその心算で!」

 

「ん、了解したよ束さん。」

 

扉の色が捕らわれた人物の特徴を現しているのだとしたら、刀奈の世界に繋がってるのは、この水色の扉だな?……どんな白雪姫の世界か分からないが、待っていろ刀奈。今行くからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Infinite Breakers Break100

『Love&Purge~囚われの白雪姫~』

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を潜って辿り着いたのは、明らかに日本ではない世界……此れが刀奈が捕らわれている世界か――目の前に行き成り城と言う事態といい、正におとぎ話の世界だな。

だが、だからこそ言いたい……何でアタシの服はIS学園の制服のままなのか?こう言う世界では、その世界観に合わせてアタシの服も変わるモノなんじゃないのか?

白雪姫の世界でIS学園の制服……違和感あるどころの騒ぎじゃないだろ、バグじゃないのか此れは?或いは、外部からゲーム内に無理矢理アクセスした弊害なのか、其れは分からないけれど。

……取り敢えずこの格好だと、この『白雪姫』の世界におけるアタシの役割と言うモノが良く分からないな?束さんの言う通りならば、白雪姫を目覚めさせる王子様なんだろうけど、アレは物語の最終盤にしか出て来ない訳だから、ギャルゲーの主人公としては考え辛いか。

 

それにしても目の前のこの城、テーマパークにあるようなモノとは違って、華やかさみたいなものは一切感じない――それどころか、感じるのは背筋が寒くなるような圧迫感だ。

白雪姫の世界で城と言えば、当然白雪姫とその母親が暮らしていた場所になる訳なんだが、其処からこれ程の圧迫感を感じるとは……もしや此の圧迫感の正体は、女王の白雪姫に対する嫉妬だったりするのだろうか?……だとしたら怖すぎる。

と言うかそもそもにして、自分の娘の美しさに嫉妬すると言うのは母親としてどうなんだ?ドレだけ自分に自信があったのかは知らないが、娘の方が美しいと言われたからって嫉妬して殺そうとするか普通?

いや、其れ以前にあの鏡が『白雪姫』と答えなければ何も問題は起きなかった訳で……違うな、『貴女だけでない事だけは確かです』とか言おうモノなら、被害はさらに拡大していた事だろう。

あとアレだな、よくよく考えると王子様も大分問題ありじゃないか?毒リンゴ喰らって仮死状態になってる白雪姫に行き成りキスするとか、普通にあり得ない事だ……セクハラで訴えられたら間違いなく負けるぞ。

一番の謎はあの毒リンゴだな?一口齧っただけで即倒れると言う即効性もそうだが、王子様にキスされたら生き返りましたとか謎過ぎる……あのキスには蘇生&状態異常回復の追加効果でもあったと言うのか。

 

……こうして考えてみると、突っ込み所が満載だな白雪姫。其れは、おとぎ話全般に言える事かもしれないけれど。

兎に角先ずは状況確認だな……此処が白雪姫の世界なら、刀奈は間違い無く白雪姫にキャスティングされてる筈――だとしたら、今一体何処に居るのかを確かめないとな。

まだ城に居るのか、其れとも城から追放された後なのか……此ればかりは城に潜入して調べるしかないか――白雪姫に繋がるには、女王を避けて通る事は出来ないからね。

さて、如何潜入するか……正面には衛兵が居るが、気を逸らす事が出来れば城に入るのは難しくないかな?

幸い幻想空間であっても、サムライエッジとアーマーシュナイダーは装備してるみたいだから、此れ等を使えば衛兵の気を逸らす事は可能な筈だ。

取り敢えず衛兵に見つからないように隠れてから……

 

 

 

――ガァァァァァァァァァン!!

 

 

 

「「!!!」」

 

 

 

サムライエッジを空に向けて一発発射。

聞きなれない銃声に衛兵が慌てた所で、物陰から飛び出して正面門を突破だ……人は誰しも突然の事に驚いていると、目の前で起きてる事にすら気付かなくなるが、其れは幻想空間でも変わらないみたいだな。

拍子抜けするほどアッサリと潜入出来たが、あの程度で突破できる警備で大丈夫なのか?……ゲームの中とは言え心配になって来るわ。

或いは、其れだけ平和な国って事なのかな?……まぁ、其れは考えても仕方ないか。

白雪姫に会う事が出来れば最高なんだが、多分そう簡単には行かないだろうな……行き成り白雪姫と会う事が出来たら、ゲームとして何も面白みが無いからね――となると、先ずは女王だが、一体何処に居るんだ?

此れだけ広いと、一体何処から探して良いモノやら……

 

 

 

「あら?」

 

「!!」

 

しまった、見つかったか?……って、えぇ!?

 

 

 

「見ない顔ですが貴女は誰ですか?城の関係者ではありませんよね?」

 

「や、山田先生?」

 

「ヤマダ?誰ですか其れ?」

 

 

 

……あぁ、そうか。この人は本物の山田先生ではないんだな?……恐らくは、幻想空間に捕らわれた刀奈の記憶から作り出されて白雪姫の登場人物として設定されたNPCと言う所か。

そして、城に住み、明らかに衛兵なんかとは異なる衣服に身を包んで居るのを見る限り、山田先生に割り当てられた役は女王と言う所か……ハッキリ言ってミスキャストにも程が有るだろうに。

あの人畜無害でちょっとドジだけど実力のある山田先生が女王の役とか無理があるぞ?寧ろ女王役だったらスコールさんの方が合ってると思うんだけどなぁ?……まぁ、刀奈なら『こっちの方が面白そう』と言う理由でこのキャスティングをしそうではあるけど。

 

「失礼をしました女王陛下……その美しいお姿を間近で拝見したく思い、無礼であるとは知りながら城に侵入すると言う狼藉を働いてしまいました。

 一介の民に過ぎないアタシがこんな事をしてしまう程に、美しい御方なのですよ女王陛下は。マッタク、罪な御方だ。」

 

「あらあら、嬉しい事を言ってくれますねぇ?」

 

 

 

……女王は自分の容姿に絶対の自信を持っているからと思っておだててみたらなんだか気を良くしたみたいだ――チョロいとは此の事か、其れとも此れはゲームの仕様なのか。

そしてアタシの服装に対して突っ込みが無いのはどういう事なのか……明らかに世界観と合ってないと思うんだけどなぁ……

 

 

 

「ですが魔法の鏡は、白雪姫が最も美しい者だと言うのです……魔法の鏡は真実だけを語る。

 恐らく白雪姫には、私よりも少しだけ秀でた所があったのでしょう――ですが、其れももうお終いになった事なんですよ。」

 

 

 

何だ?何やら不穏な事を言い始めたぞ?…………お終いとは、如何言う事でしょうか女王陛下?

 

 

 

「私の美貌を間近で見ようと、城に侵入して来た貴女にだけは特別に教えてあげますね?其れは――猟師を使って白雪姫を暗殺してしまったから。

 実の娘であろうと関係ありません……うふふふ。」

 

「んな、暗殺?実の娘を、ですか?」

 

「あら、批判するのですか?」

 

 

 

いえ、女王陛下に暗殺などと言う物騒な言葉は似合わないと思っただけです……しかし、白雪姫は本当に死んでしまったのですか?

 

 

 

「其れは間違いありませんよ?

 白雪姫を暗殺した猟師が証拠の心臓を持ち帰って来ましたから……良かったら見てみますか?魔法の鏡が世界一美しいと言った娘の心臓を……」

 

「遠慮しておきます……」

 

暗殺だのなんだのと、山田先生の顔で恐ろしい事を言ってくれる……其れ以前に、コイツは本当に白雪姫の母親なのだろうか?……が、一連の流れで分かった事もあるな。

既に白雪姫は城から追放されて、近くの森に居る……そして、まだ生きている。

原作の通りであれば、女王から白雪姫の暗殺を言い渡された猟師は、実際には白雪姫を殺さずに見逃し、代わりにイノシシを殺し、その心臓を女王に『白雪姫の心臓』として差し出した筈だからね。

となれば、次の行き場所は決まったな。

 

「……女王陛下、謁見出来た事は至極の喜び……アタシは此れにてお暇させて頂きましょう。」

 

「あら、もう帰ってしまうんですか?もう少しゆっくりして行っても良いのに……とは言え、民を引き留めるのは気が引けますから仕方ありませんね。

 そうだ、最後に……先程聞いた白雪姫の事は、くれぐれも貴女の心の内に秘めておいてくださいね?……もしも口外にしたら、分かっていますね?」

 

「……はい。」

 

「なら良いです。気を付けて帰って下さいね♪」

 

 

 

……この女王、色々本気でヤバいな?見た目が山田先生と言うのが、更に内面の凶悪さを際立たせているような気がするし……まさかと思うが、ゲームクリアの為には、白雪姫と共に女王を倒す必要があるなんてのはないよな?

まぁ、其れなら其れで刀奈と一緒に女王を倒せば良いだけの事だから、其処まで難易度は高くない筈だからね。

 

 

さてと、そんな訳で刀奈扮する白雪姫が居るであろう森にやって来た訳なんだが……幾ら何でも広すぎないかこの森は?探索範囲が広すぎるマップと言うのはゲームでは嫌われるんだぞ?

RPGやアクションならば兎も角、こう言ったシミュレーションゲームでは特に……この広大な森マップの中から白雪姫を探し出すのは九牛の一毛なんてモノじゃないな?

せめて、白雪姫の手掛かりとなるようなモノがあると良いんだが……靴跡や、或いは木の枝に白雪姫の衣装の一部でも引っ掛かってくれてると、探すのも楽なんだが、そう簡単に見つける事は出来ないか。

此処は恐らくこの森の中心地点……此処から東西南北に道が通ってるのが見えるな?此れは、進む方向によって何かがあるのか?

 

 

 

→森の北側に行く

森の南側に行く

森の東側に行く

森の西側に行く

 

 

 

……と思った矢先に目の前に選択肢のウィンドウが。此れから先もこう言ったウィンドウは現れる可能性は充分にある訳だな……ギャルゲーなど、選択肢の塊みたいなものだしね。

 

さて、何処から行ってみるか……移動回数が四回と言う事は、全ての場所に行く事が出来る訳だが、此処は無難に上の選択肢から潰して行くか。

先ずは森の北側だな。

 

 

……選択したらその場所にショートカットとは、便利な機能がある物だが、此れもまたゲームだからだろうね。

飛ばされた森の北側だが、此れは行き成り当たりかもしれないな?……人が暮らしてるような形跡がある上に、まだ新しい――刀奈なのか?

 

 

 

「アレ、夏姫お姉ちゃん戻って来たんだ?」

 

「え、乱?」

 

そんな事を考えていたアタシの前に現れたのは乱……と言っても、この乱も幻想空間に再現されたモノなのだろうが、アタシの事を夏姫と呼ぶ辺り、女王とは違って、現実の成分が少し混じってると言った感じか。

だが、其れよりもこの乱の服装……カラフルでファンシーな服に、メルヘンな帽子――乱に与えられた役は七人の小人の一人か。……いや、少し待てよ?七人の小人の一人である乱が、アタシの事を特に怪しむ事もなく夏姫お姉ちゃんと呼んだと言う事は、アタシも七人の小人の一人と言う事か?

……身長が168cmのアタシが小人役とは解せんな。

 

 

 

「如何したの?たった数日離れてただけなのに、アタシの顔忘れちゃった?」

 

「いや、そうじゃなくてだな……アタシが小人と言うのは些か無理があるんじゃないかと、そんな事を考えていてね……アタシも七人の小人の一人なんだよな乱?」

 

「そうだよ?

 如何したの、街まで行商に行ったせいで疲れちゃった?……やっぱり一人じゃなくて、簪も一緒に行って貰った方が良かったんじゃないかな?」

 

「いや、大丈夫だ。」

 

ふむ、新たな情報ゲットだな。

アタシがあんな場所に居たのは行商で街に行っていたからで、更に七人の小人の中には簪も居るらしい……偶然なのか、其れともこの世界に囚われている刀奈が無意識に簪の存在を望んだのか、多分後者だな。

束さん程ではないが、刀奈も刀奈で結構な妹スキーだからね。

 

 

 

「そう言えば行商の結果はどうだった?今回は珍しい鉱石なんかもあったから、結構な実入りになったでしょ?」

 

「行商の結果か……」

 

確かに行商で街に行っていたと言うのなら、何かしら成果がないとオカシイよな?

財布の類は見当たらないから、直接ポケットに売り上げを入れている事になるか……我ながら不用心な事だ――って、なんでポケットから出て来たのが諭吉さん三枚なんだ?白雪姫の世界であるにも拘らず、通貨は『円』なのか?

このゲームを作った奴は一体何を考えているんだ本気で……この世界観で通貨が円とか違和感があるどころの騒ぎじゃないぞマッタク。

 

「……今日は此れ位だな。」

 

「ふぅん?……ま、こんなもんだよね。予想の範囲内だけど、充分だよ夏姫お姉ちゃん。

 取り敢えず先に家に戻ってて?アタシは未だ今日の仕事が終わってないから――ちゃんと自分の役割を熟さないと、アタシ達の生活は成り立たないしね♪」

 

 

 

七人の小人達は自給自足の生活をしてるんだから、確かに其の通りだな乱。

時に、非常に間抜けな事で聞き辛いのだが、アタシ達の住んでいる家は一体何処にあっただろうか?数日間街に行っていたら森の地理が分からなくなってしまってね。

 

 

 

「夏姫お姉ちゃん、其れは流石に如何かと思う。」

 

「あぁ、自分でも如何かと思う。」

 

まぁ、本当の所は最初から場所など知らないんだけれどね……と言うか、今更だが此れは確実にゲームの途中からだよな?

主人公が小人の一人ならば、少なくともゲーム開始は行商で街に行くところからの筈だ――そして、街でのイベントで白雪姫の事を知ると、城行きのイベントフラグが立つと言う感じだろう。

アタシは、行き成り城イベントからスタートしてしまった訳か。

 

因みにこの後、少し呆れ気味の乱からアタシ達が暮らしていると言う小屋の場所を教えてもらった所で、先程の選択肢が出た場所に強制転移。

選択肢からは森の北側が消えたな?なら次は、森の南側だな。

 

で、選択したら即目的地に転移か……ゲームとは言え、便利なのか何なのか。

こっちも特に目立ったモノは無さそうだが――ん?あそこに居るのは……おーい、マドカ。ラウラ。

 

 

 

「ナツ姉さん、やっと帰って来たのか。」

 

「戻ったか姉上、お疲れだった。」

 

 

 

さっきの乱と同じような格好と言う事は、マドカとラウラも七人の小人と言う事か……何だろう、普段クールなマドカとラウラがおとぎ話の衣装を着ていると言うギャップが凄いんだが、何故か似合ってるな。

本来ならばラウラの眼帯が違和感バリバリの筈なんだが……それほど違和感を感じないな。

 

 

 

「姉上、早速だが頼んでおいた物は何処にあるのだ?」

 

「頼んでおいた物……?」

 

此れは、もしかしなくても行商ついでに買って来るように頼まれていたパターンだよな?……果てさて、ゲームの途中から参加したから何を買って来るように言われたのか全く分からないが如何したモノか?

先程と違ってポケットに入るモノではないだろうし、そもそもポケットにはもう何も入ってないからね。

ん?そう言えば、此れがゲームの世界であるのなら、メニュー画面が開ける筈だよな?……と思ったらメニュー画面が開いたし――如何やらこの世界では私が思えば自由にメニュー画面を開くことが出来るらしいな。

さて、其のメニュー画面から、アイテムを選択して……項目はイベントアイテムだな多分……あったあった、此れだな『ツルハシの柄』。説明文に『ラウラから買って来てくれと頼まれた新しいツルハシの柄。頑丈な本樫作り』と書いてあるしね。

 

「えぇと、此れで良かったか?」

 

「おぉ!此れは何とも立派なツルハシの柄だ!しかも最高級の本樫仕立てと来た!だが姉上、此れでは私が渡した金額では足りなかったのでは?」

 

「いや、その心配はなさそうだぞラウラ?値札に50%OFFと張ってあるからな。」

 

 

 

諭吉さんの次は値札に50%OFFか……おとぎ話の世界観なのに、変な所で現実味があるなこのゲームは。

取り敢えず、此れで良かったみたいだな。又しても選択肢の場所に戻って来たからな――今度は、森の東側だな。

 

さて、今度は誰が出て来る?お、あそこに居るのは……鈴と簪か。

この二人も乱達と似たような格好だな。簪の事は乱から聞いていたけど、鈴も小人の一人で間違いないわね……と言うか、簪は此の世界でも頭のアレは装備したままなんだな?

その代わり、帽子は装備してないんだね。

 

 

 

「あ、漸く帰って来たわね夏姫?

 簪、時間はまだ大丈夫なの?」

 

「うん、ギリギリ……かな?」

 

「ん?如何かしたのか?」

 

「如何かしたかって、行商のついでに頼んでおいたこと、調べて来てくれたわよね?」

 

 

 

……あぁ、またこのパターンな訳か。

行商のついでで調べられる事となると、街の事になる訳だが、果たして何を調べるように言われていたのか……メニュー画面の『依頼』で確認だな。

……ふむふむ、『金の相場』か。依頼に『OK』マークが付いて、『相場:100g一万円』となっているから此れを伝えれば良いと言う事か。

 

「金の相場だったよね?市場では今は100g一万円で取引されているみたいだぞ?」

 

「グラム一万円……この間よりも価値が上がってる。此れは気合を入れて採掘するべきだと思う。」

 

「そうね、もっと気合い入れて稼いで、アタシ達の小屋をもっとグレードアップするのよ!

 今はログハウス風に丸木造りだけど、レンガ造りにして、ちゃんとセメントで隙間を埋めて隙間風が入らないようにして、其れから掃除用の最新ロボット掃除機が欲しいわね?」

 

「お風呂リフォームしたい。

 皆で一緒に入れるシャワー付きの大浴場が良い。」

 

 

 

……レンガ造りの家は兎も角、隙間風埋めるのに使うのがセメントで、掃除用のロボット掃除機が存在してて、更にはシャワー付きの大浴場とか、もう本気で世界観が乱れまくりだな?

斬新と言えば斬新だが、斬心過ぎると逆に受けないモノなんだが、その辺の事をこれを作った奴は理解してるのだろうか?……してないから、奇天烈極まりない世界になってるのだろうけどね。

 

さてと、残るは森の西側だけだな。

普通に考えれば小人の最後の一人が出て来るんだろうが、さて誰が小人に扮しているのか……

 

 

 

「あり?夏姫じゃねっすか。帰って来てたんすね。」

 

「あ、あぁ。ついさっきな。」

 

その答えの方から声を掛けて来てくれた――最後の小人役は、お前かフォルテ。……此れで、小人役はアタシを除いた全員が身長160cm未満が確定した訳か。

まぁ、其れでも小人と言うには大きいがな。

 

 

 

「街の様子は如何だったっすか?賑わってたんすかね?」

 

「まぁ、何時も通りだったんじゃないか?可もなく不可もなく、適当に賑わっていたよ。」

 

嘘は言ってない。

城周辺からは街の賑わいが聞こえて来たからね――寂れた街であったのならば、あんな風な威勢のいい賑わいが聞こえてくる筈がないからな。

時にフォルテ、お前は何をしてるんだ?

 

 

 

「晩御飯の食材探しっすよ。

 こうやってキノコや山菜を摘んでるんすけど、七人分となると結構な量になるっすからね……街から帰って来たばかりで悪いっすけど、出来たら手伝ってほしいっすよ。」

 

「其れ位ならばお安い御用だが、キノコや山菜はどんなのを摘めばいいんだ?」

 

「この籠に入ってるのを参考にするっすよ。」

 

 

 

……否、ちょっと待とうかフォルテ?

明らかに怪しいモノが混じってるぞ?この真っ赤なキノコとか、毒々しい葉っぱとか――其れだけなら、まだ間違いで済ます事が出来るかも知れないけど、此れは如何考えてもアウトだろ?

何処で拾ったんだ、この『目玉が付いてる毒々しいキノコ』は。

 

 

 

「其れはレアものっすよ夏姫?

 なかなか手に入れる事の出来ない、マツタケをも上回るキング・オブ・キノコっす!此れを食べた人は、余りの美味しさに天国を感じるとまで言われてるんすよ?」

 

「其れは其れで逆に危険な気がするんだがな?」

 

天国を感じる美味しさって、其れは一歩間違ったらマジックマッシュルームみたいなヤバい類いのモノではないのだろうか?……取り敢えず、後でメニューの『辞典』で調べてみるか。

 

 

さてと、此れで森の探索は終わったな。景色が森の入り口から森の中に変わったからね。

取り敢えず今の時点で分かってる事を整理すると、アタシは七人の小人の一人。白雪姫の命を狙う女王は山田先生の姿をしているが、性格は本物の山田先生とは似ても似つかないな。

笑顔で冷酷な事ばかり言ってたしな。

小人はアタシの外に乱、マドカ、ラウラ、鈴、簪、フォルテ――こっちに関しては見た目だけじゃなくて性格なんかも現実世界のままみたいだね。で、アタシはここ数日の間、街まで出かけて行った事になってる訳か。

 

それでだ、物語だと城を追放されて森に入った白雪姫は七人の小人達と暮らすようになる――其れがこの世界でも通用しているのならば皆に訊けば分かるかな?

アタシが居ないあいだに白雪姫と会ってるかも知れないからね――ともあれ先ずは皆の話を聞くか。

アタシ自身が、この世界でどんな生活をしてたのかも少し気になるからね。

 

 

 

其れは兎も角として、森でのイベントが終わったら、強制的に七人の小人が住んでいる家に移されてしまった――ふぅん、中々良いところじゃないか?

此れ位の家ならば態々建て直す事も無いだろうに……丁寧に作られた丸木小屋はレンガ造りにはない温かみがあるからね。

しかしまぁアレだな?全員がこうやって集まると、アタシの大きさが一層際立つな?鈴、乱、ラウラ、マドカは言うに及ばずだが、簪ですらアタシとの身長差が10cmもあるからな。

何と言うか、此れは童話の『三びきのやぎのがらがらどん』に出て来る三匹の中でも一際大きい大山羊的なポジションか?ラスボスをハリケーンミキサー張りの体当たりで粉砕しなければならんのかアタシは。

そして全員が揃うと、改めてアタシだけがIS学園の制服なのが違和感しか感じない……何で、この世界観に合った衣装にならなかったのか謎だ。

 

 

 

「ナツ姉さん、如何かしたか?」

 

「いや、少し考え事をしていただけだマドカ。」

 

「姉上が考え事とは珍しいな?何か気になる事でもあったのか?」

 

 

 

流石は鋭いなラウラは……少し考え事をしていただけで、アタシが何かを気にしてると気付くか。

さて如何答えたモノだろうね?アタシが考えていたのは割としょうもない事だから、其れを正直に言ったら盛大に突っ込まれかねん……鈴辺りからは、飛び蹴りが飛んで来そうな気がするしね。

ふ~む……だが、考えようによっては此れは良い機会だな?

折角ラウラが『気になる事でもあったか』と切り出してくれたんだ、城で女王に聞いた事をそれとなく混ぜながら、皆に白雪姫の事を聞いてみるか。

誰か一人でも会っていれば大当たり。会ってなくても、有力な情報を得る事が出来れば御の字だからね。

 

「あぁ、気になる事があったんだ。皆は白雪姫を知ってるか?」

 

「あぁ、確か女王様の娘がその様な名だったと記憶しているが、その白雪姫が如何かしたのか姉上?」

 

 

 

何と言えば良いのか、その白雪姫が女王様の機嫌を損ねてしまったらしいんだ――本当は、白雪姫の美しさに、女王が嫉妬に狂っているんだけどね。

で、怒った女王様は白雪姫を殺すように猟師に命令したらしいんだ。

 

 

 

「え?殺すって……白雪姫は女王様の実の娘なのに?……ちょっと信じられない。

 あ、でも何時かのパレードで見た女王様の笑顔は、何だか変だった……顔は確かに笑顔だったけど、目が笑ってなかった……あの目は心の奥底に何か暗い感情がなければ出来ないと思う。」

 

「簪、アンタ相変わらず鋭いわね?普通はそんなの気付かないわよ?

 でも、だとしたら白雪姫抹殺指令もあながち嘘とは言えないかも知れないわ……白雪姫は一体どうなっちゃったのかしら?もしかして、手遅れ!?」

 

「そうでない事を願いたいが……ちょっと待て、お前達は白雪姫を知らないのか?」

 

「名前くらいは知っているが、我々が王家の者に合う機会なんてそうない。――精々、パレードや式典で遠目に見る位だ。」

 

「なんだと?」

 

原作剥離も此処まで来るとある意味凄まじいな?……小人と暮らしてる筈の白雪姫が小人と出会ってすらいないって、物語の根幹部分がグラグラじゃないか。――いや、此れだけ色々とオカシナ事になってる世界だから、今更元ネタの話から外れてても、なんらオカシイ事でもないかも知れんが。

だとしたら、白雪姫は何処に?

……この森に逃げ込んだのは間違いないんだが。

 

 

 

「この森に?」

 

「だったらもしかして、アレじゃないのか鈴姉さん?」

 

「……心当たりがあるのか?」

 

「うん。

 夏姫が街に向かった後、森の奥の小屋で女の人が暮らし始めたっぽいのよ。」

 

「キノコとか山菜を乱獲されて、ちょっと困ってる。」

 

「其れが白雪姫かどうかは知らんが、私達の知る闖入者は奴位だな。」

 

 

 

森の奥の小屋で一人暮らしを始めた女性か……其処だけを聞けば白雪姫には結びつかないだろうが、この世界の白雪姫は刀奈だから、森の中でのサバイバル生活も余裕でこなす筈だ。

ふむ、此れは他にも情報があるかも知れないな?

其の小屋で一人暮らしを始めた女性以外に何か変わった事はなかったか?

 

 

 

「それ以外に?……そうだな、森の一角にイノシシが倒れていた。奇妙な事に心臓だけが抜き取られた状態でな……無駄な殺生は良くないと思ったので、その場で解体して肉だけを持って来て、後は土に埋めて来た。」

 

 

 

心臓だけがないイノシシの遺骸……恐らくは猟師が白雪姫の死を偽装する為に狩ったイノシシの残骸だろうな――そんなモノが、小人達の糧になっているとは夢にも思わないだろうけどね。

……取り敢えず、此れで白雪姫の生存は略確定だ。あとはどうやって接触するかだな。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

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ふぅ、夕食も終わってすっかり夜だな。

料理はローテーションで行ってるらしく、今日の担当は鈴だったんだが、現実の鈴と比べても引けを取らない美味しさだった――あの目玉付きキノコが如何料理されたのかが気になると言えば気になるけどね。

 

現在アタシは夜の森を探索中――月明りも届かないとは、この森がドレだけ深いか良く分かる。アイテム欄にあった『LEDライト』を使わなかったら何も見えなかっただろうね。

で、目指す山小屋はまだ先みたいだ……近いようで遠いな。

フリーダムを使えばあっと言う間なんだが、其れは流石に如何かと思うから地道に歩いて行かねばだね――だが、足場が良いとは言えん……矢張り夜の森は危険だったか?

 

 

 

「危険って言うか、馬鹿其の物だね。」

 

「誰だ?」

 

「…………」

 

 

 

返事はないか……だが、感じるぞ。

アタシをじっと見る冷たい視線……そして、獲物を見るかのような静かな殺気と闘気……隠れてないで出て来いよ、近くに――そうだな、アタシの背後の茂みに居るんだろう?

 

 

 

「あら、分かってたんだ?」

 

「此れだけの殺気を向けられれば、な。」

 

 

 

――ガキィィィィン!!

 

 

 

茂みから飛び出して来た相手がナイフで斬りかかって来たが、アタシは其れをアーマーシュナイダーで受け止めてやる……が、相手は其れでも怯まずにナイフで斬りかかって来るが、其れをアーマーシュナイダーでやり過ごす。

其処からしばらくナイフで打ち合った後に……

 

「隙ありだ。」

 

「え?きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

一瞬の隙を突いて相手の胸倉を掴み、其のままワンハンド背負い投げで地面に叩き付けてやった――手加減はしておいたから気絶はしてないだろうがダメージは大きかった筈、此れでターンエンドだ。

其れとも、まだやるか?

 

 

 

「~~……やるわね貴女?」

 

「此れ位は出来ないと、お前には敵わないだろう?」

 

「……どういう事?」

 

 

 

さて、如何言う事だろうね?其れはお前が一番知ってると思うが、何にしても随分と物騒で派手な挨拶をしてくれたじゃないか白雪姫……否、刀奈?

少しばかり物騒だったが、やっと会う事が出来たな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued… 

 

 

 

 

 

 


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