ドッキリ男の恋―君はたった一つの星―   作:@星きらり

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9話 さあ帰ろう、君と僕の家へ

 

 

 

 

 

 「すみません、こちらに、眞島サチという子が来ていませんか?18歳くらいの女性なんですけど、僕の妹でして……」

 

 「え……っと。はい、先ほど迷子の届出がありましたけど……って、あなた、どうしました?今日雨降ってないですよね?」

 

 全身ずぶ濡れで、顔になにか白いものがついていて、しかもつけていたちょび髭がずれて、ぶらぶらぶら下がっている。

 窓口にいた婦人警官が、唖然とした顔で優海を見ている。もちろん他の警察官達も。

 

 「ちょっと、とりあえずこちらに来てもらえますかー」

 

 「え?いや、これはちょっとその、途中で川に落ちて…」

 「川なんて近くにないですよ」

 「川~のような、水溜りに落ちて」

 「やっぱりこちらへどうぞ。怪しい人間に女性を引き渡すことはできません」

 

 優海は連行されそうになったので、

 

 「あーもう!僕です!僕、ドッキリ男です!」

 

 髭とサングラスを取って顔を見せた。

 

 「あ! あら!」

 「ね? 来る途中にドッキリにひっかかっちゃったんですよ!田舎から出てきたばかりの妹が迷子になってしまって、探してる時に!こちらに届けられてるんですよね!?会わせてもらえますか?」

 「ふふふ。あら~。ドッキリ男も大変ですねぇ。ほんとならばそんな格好で歩かせるわけにはいきませんが、特別許しましょう。さ、こちらです」

 

 僕をみて、クスクス笑う声があちこちから鳥のさえずりの様に聞こえる。

 (またドッキリにひっかかったんじゃない)(なにやられたんだろうな。オンエアされるかな)(こんなにひっかかってんのにまだひっかかるって、バカなんじゃないの)

 クスクスクス・・・。

 

 

 

 ―――控え室に入ると、二人は椅子に座って待っていた。

 

 「ウナ!」

 「サチ、大丈夫か」

 (げ!!なにお兄ちゃんの格好……)松子は心の中で驚いていたが平然を装った。

 

 

 「双方この方で間違いありませんか?」

 「はい」

 「あい!」

 「では、身分証明書はお持ちですか?」

 「身分証明書?」

 「保険証や免許証な-」

 「あー!急いでたから何にも持ってきてなかったな~~。まいったまいった。でもほら、確かに彼女は僕の妹ですよ、間違いない。青森の親戚ん家から昨日一人で東京に来ちゃったって。それで行方がわからなくなってしまってもう心臓が飛び出しそうなほど心配しましたよ。良かった。ほんっとうに良かった!! で?特に変わりはないですよね?」

 「変わり、と申しますと?」

 「いえ、ちょっと少し変わった子なもんですから。サチは。あはは」

 「特に怪我もなく、大丈夫ですよ。けれど本当に見つかって良かったですね。お気をつけてお帰り下さいね」

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 「というわけで、きちんと調べてもらったけど、該当者なし。同じくらいの歳の子の行方不明者はたくさんいたみたいだけど……どれも特徴が一致しなかったんだって」

 

 「そうか……」

 

 サチは少しうつむきながら、僕らに歩幅を合わせて歩いている。〝両親が見つからなかった〟ということがわかるのだろう。諦めてはいただろうが、もしかしたら少しは期待していたのかもしれない。

 

 「てかさ、お兄ちゃんなにその格好!?来るのめっちゃ遅いし!またドッキリ仕掛けられたのぉ?なんっで気づかないのよ、鈍感ね」

 「う……し、しょうがないだろう!お婆さんが目の前で困ってるんだぞ、知らないふりできるかよ」

 「でもちょっとは疑うわよふつう」

 「急いでたから疑う暇もなかったっつーの!」

 「とにかく恥ずかしいから早く帰りましょ」

 「ふんぬ……」

 

 「あ……! ママ!」

 

 松子と喧嘩をしている時、突然、サチがそう言って足を止めた。

 

 「ママ?!」

 

 驚いて振り向くと、サチはブラウン管の中に飾ってあった、『狼の絵』を見ていた。

 狼が、月に向かって遠吠えをしている幻想的な絵だった。

 

 「サチ……」

 

 僕と松子は言葉を失って、ガラスに張り付きその絵を見ているサチを見つめていた。

 それから、僕はこう言った。

 

 「買っていこう、この絵。リビングに飾るよ。君の、お母さん」

 「この絵……買ってくれるの?」

 「ああ」

 「あっち、この絵、ずっと見ていられるの?」

 「ああ、そうだよ」

 「ウナの家に、ずっと、居てもいいの……?」

 

 今にも泣き出しそうな、不安げな顔で、サチは僕を見上げている。

 

 

 「うん。一緒に暮らそう。今日からあそこが君のお家だよ」

 

 

 僕がそう言うと、サチの顔は花が咲いていくように笑顔になった。

 

 

 「嬉しい!!」

 

 

 そして、抱きついてきた。

 

 

 

 

 松子はそんな二人を見て小さな溜息をついてから、バックからスマホを取り出し、どこかへメールを送信した――。

 

 

 

 


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