ドッキリ男の恋―君はたった一つの星―   作:@星きらり

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10話 その生活、前途多難

 「わー! ちょっと待って、ダメだよ、ここで脱いじゃ!」

 

 松子の貸した服がよっぽどサチには窮屈だったらしく、家に入るなり服を脱ごうとしたので必死に止める。

 

 「やだ、お兄ちゃん顔真っ赤にして~エッチ」

 「バカ!そんなんじゃねーよ」

 「二十歳になって無.経験だなんてぇダサすぎ~」

 「おまえなあ」

 

 「ダメ? 早く脱ぎたい。ウナの服がいい」

 「うん、じゃあ、寝てた部屋で着替えておいで。今シャツ持ってくるから」

 

 優海はそそくさとウォーキングクローゼットに向かった。

 ――煩悩が蚊のように頭の中を飛ぶ。はぁ、情けない。――頭を振ってそれを蹴散らした。

 

 

 

***

 

 

 「夕飯にしようか」

 「わーい! 今日なに!? おやこどん?」

 「親子丼じゃないよ。すき焼きにしよう。今日は3人だし。あ、松子も食べていくんだろ?」

 「うん、サチちゃんを一人にするの心配だしね。飢えた野獣の側にか弱いウサギちゃんを置いて帰れないよっ」

 「バカ!心配いらねーよ!」

 

 松子はにしし、と笑ってから、「嘘よ。明日学校あるしすき焼き食べたら帰るね」と言った。

 

 「すきやき、なんだろ?おいしそうだなぁっ」

 

 サチはうっとりした顔をしている。

 

 ―――僕は……間違っているのだろうか……この子を警察に引き渡して、本当の両親を……家族を、力ずくでも探してもらった方がいいのかもしれない……けど……―――

 

 ―――優海はそう思いながら、鼠色のエプロンを身につけた。

 

 

 

△▽△▽△

 

 

 「いっただっきまーすっ!!うっひゃあっっいい匂い~~~っっ!!」

 

 牛肉豆腐糸こんにゃく白菜きのこ……が、ぐつぐつ踊りながら煮えている。

 その甘くて食欲をそそる匂いを思いっきり吸い込みながら、サチは椅子をガタガタさせて子供のように喜んだ。

 

 「お兄ちゃんってなんにっも取り得がないけど、料理だけは上手いんだよね、昔っから」

 

 全く松子は一言多い。憎たらしい。憎たらしさあまって可愛さ百倍な僕もどうかと思うがな。

 

 「あちっ」

 「あ~あ~熱いから、冷ましてから食べないとっ。ほら、水飲んで」

 「こんなに熱いの、食べたことなかった」

 「あ、そうか。だよな。何食べてたんだ?今まで」

 「うんっとね…鹿、鮭、栗、木の実……」

 「お、おお、そうだよな。そんな感じだよな。えっとその、生でそのまま食ってたのか?」

 「うん。ママが捕ってきてくれるから」

 「そうか……っておい松子、病院連れて行かなくて大丈夫かな??」

 

 松子は箸の動きを止めて少し顔を歪ませている。普通の人間からしたらちょっと衝撃的だからな。

 

 「うん、一回、病院連れて行ってあげたほうがいいかもね……」

 「だよなぁ……明日、病院連れてくか」

 「じゃああたし学校行く前に洋服たくさん持ってきてあげるね」

 

 「ああおいしいなぁっ。すきやき、おいしい。ウナ、ありがとう!」

 

 

 

 

△▽△▽△

 

 

 

 

 「じゃあ帰るね。お兄ちゃん、サチちゃんになんかしたら、あたしお兄ちゃんを一生気持ち悪がって一生近づかないからね!」

 「わかってるよ!当たり前だろそんなの。こんな何にもわかってないような子になんかするほど終わってねーよ!じゃあな、気をつけて帰るんだぞ」

 「うん……だよね」

 

 ――? 一瞬、松子の表情が曇ったような……。

 

 「じゃあね!」

 

 「おう」

 

 松子は松子でなにか考える所があるのかもしれない。

 これは、異常な事態なんだから――。

 優海は神妙な顔でリビングに戻った。

 

 

 「っっ!!??」

 

 「ん?」

 

 「なななあああ!!」

 

 「ウナ? どうした-」

 「こらこらこらなんで脱いでるんだーっ!!」

 

 

 リビングに戻った、ら、なんとサチがまた服を脱いで、パンツ一枚の姿になっているではないか!

 優海は咄嗟に顔面を両手で覆い、後ろを向いた。

 ――バッチリ見てしまった……。

 

 「なんで、って、お風呂だよ?お風呂、サチ好き」

 「だから、あちこちでどこでも脱いじゃダメなの!」

 「う~ん? なんで~? らくちんだよ~?」

 「なんでって、一応僕は男なんだし…」

 「? 男じゃダメなの?」

 「いやだから、そうじゃなくて、いや、そうだよ、男の前じゃ簡単に脱いじゃダメなの!」

 「え~? なんでー?」

 「なんでって、狼になったら大変だろ!!」

 「え!? 裸になると、男は狼になるの!?」

 

 あーーーーーっっっ!!!

 しまったあああああ!!!

 ますます話がこんがらがってしまったあああああっっっ!!!

 

 体中の血液が頭のてっぺんに集まっているような状況で、優海は上手に説明をできない。

 というかパニックを起こしていた、

 

 その時、

 

 全身を、雷が打ちつけた。

 

 「おかしいなあ。狼に、なってないけどなあ」

 

 「わ……わわ……」

 

 ぱんぱん。

 

 なんということでしょう。

 

 **背後から僕に抱きついて、体をぱんぱんしています**

 

 「おぱ……おっぱ……」

 

 完全に沸騰したやかんと化した優海は、

 

 「きゃっ! ウナ!?」

 

 鼻から鼻血を噴出して、その場に倒れてしまいました。

 狼に育てられていた少女と生活するのは、どうやら前途多難なようです。(童貞君には特に)。

 

 

 

 

 

 

 


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