1話 生い立ち
20年前、東京に雪が降って交通機関が混乱している最中に、僕の母は陣痛を起こした。
その陣痛を『大』の方の腹痛と勘違いした母はトイレに駆け込み踏ん張って、頭の先っちょが出てきてしまっていたらしい。
僕は産まれてすぐに、便器の中にダイブするという絶体絶命を味わう事となったのだがきっとそれだけは嫌で、僕は僕でめちゃくちゃ踏ん張ったのだろう。
何とか持ちこたえて、結局タクシーすら呼べずお茶の間で産まれてしまって、家族全員外出中だったから、「自分でお湯とかタオルとか用意したのよ」って未だに母は僕に自慢している。もう100回は絶対聞いた。「その時テレビでずっこけ音頭が流れてて~もう笑っちゃって~」これも同じくらい聞いた。てかずっこけ音頭って何?聞いたことないんですけど。
そんなこんなで必死に産まれた僕は、「「
うな、って。『ウナ』ってっ!猫の鳴き声か夏の虫刺されれに効くやつじゃねーか!せめてうみがよかった。
……今思えば、僕は産まれた時から運が良いほうではなかったらしい。
ほら、よく言うだろ、〝そういう星の下に産まれたのよ〟って。まさにそれな。
そんな僕は二つ年上の姉と、二つ下の妹に挟まれてすくすく育った。
羨ましいと思うだろ? でもね、夢と現実は違う。
「ウナ! おいウナ! てめーだろ、わしのピノコアイス食ったのは! ふざけんなよーおめーよー買って来いよ今すぐ! バカ!!」
「ちょっとウナぁ? 先にお風呂入らないでよね。もう入れないじゃん~」
妹の
そんな平和で普っ通の日々をそつなくこなしていた全てにおいて平凡だった僕は中学二年のある日、友人と街を歩いていた。
あの日、最初に誘ってきたアイツを怨んでももう遅い。僕の人生は間違いなくあの夏の日、忘れもしない7月31日の昼下がりに、ジョーカーを引く事となったのだ。
目的は新作ゲーム。アイツの大好きな恋愛ゲーム『きみはだれとキスをする2』だった。
TITAYAまで到着するまであとはあの曲がり角を曲がるだけ―。
その時、
「ガオオオォォォ!!」
「ひ、ひぎゃーーーっっっ!!」
クマ(のぬいぐるみ)が突然目の前に飛び出してきて、僕は驚いて尻餅をつくどころか後転してしまったのだ。
まさに、〝ひっくりかえった〟僕の側に、カメラを持った男とマイクを持った男がやって来た。
そして、
テッテテー!
マイクを持った男が背中に隠した看板を出し、それにはこう書かれていた。
「「街角ドッキリ 大成功」」
その時の僕のリアクションと鳩が豆鉄砲をくらった顔が大爆笑を誘ったらしく、プロデューサーの目がその時キラリと
それから、僕の地獄のドッキリ祭りが始まったのだ。
週に三回~五回、月に換算して十五~二十回、予告なしにそれは執行される。
校門を出ると黒服の男に拉致されるとか、喫茶店でメロンジュースを頼んだらコーヒーが出てくるとか、小さいものから大きなものまで奴らはあらゆる手を使って仕掛けてくる。落とし穴なんてどれだけ落ちたかわからないし、一度テストの点数が全部0点だったこともある。
おいおい、学校まで協力してんじゃねーよ!って最初のうちはキレることもあったよそりゃ。あまりにもしつこい。しっつこいんですもの。何がドッキリで何が本当なのか、常に確かめたりしてドキドキしてなきゃいけない。
そんな様子が週に一回、一時間番組として放送されるようになり、
『爆笑! ドッキリ
なんてダサい名前つけられて、同級生には顔を見るだけで笑われる始末。それどころか〝求められる〟。
いやいや、好きでやってんじゃねーのよ。大人の事情に流された哀れな子羊なんだよ。こっちはよぅ!なんて思いながらも、毎度しっかりリアクションしてしまう自分に涙が出ます。
それよりも何よりも一番の不幸が起きたのは、その後のこと―。
爆笑!ドッキリ男の視聴率が良すぎて、急に金持ちになった家族は誰一人として働かなくなってしまったのだ。
それどころかしょっちゅうハワイだグアムだ南国だやれイタリアンだ中華だうまい酒だって浮かれて盛り上がってる。能天気すぎるのだ。バカを通り過ぎて神になったのだ(バカの)。
おまえら全員ぎっとぎとのパスタの海で溺れてしまえ!!そう何度呪い殺したかわからん。脳内で。
二十歳になる今日この日まで、
通算 4523回 ドッキリにひっかかったらしい。
この間特番で司会者がウケながらそう言ってた。
そんな僕にはもう、何が真で何が嘘なのか、本当にわかりません。
―――そんな事を思いながら、夜空でも見ようかと窓を開けたけど、寒いから一瞬で閉めた。