「ととと、とりあえず、ふ、風呂に入ろう、うん」
「ほら、これ、バスタオル、ま、前隠した方がいいよ」
女は差し出された緑色のバスタオルを受け取ると、
「隠す……その方がいいの?」
「あ、ああ」
そう言って、よく分かりませんが、って顔で前を覆った。
「風呂、沸くまでこっち入って待ってて」
優海の鼓動は止まらない。
そりゃそうだ。そりゃそうだよ。
よく見ると、美少女だったし、しっかりはっきり、姉以外の女の裸……の一部を見てしまったし。はっきり言って、免疫のかけらもない優海には刺激が強すぎる。
クローゼットから自分のTシャツとハーフパンツをとりだすと、リビングでキョロキョロしているその子に渡した。「風呂入ったら、これ着てね」。
「……昔……こうゆうところ、住んでた」
「え? 昔? アパートに住んでたことあるの?」
「……わからない。まだ小さかった」
「え……と……じゃあ、君の名前は?」
「名前……サチ」
「サチ? そっか、サチちゃんか。何歳なの?家族は……ごめん、一気に聞いちゃって。あ、コーヒー飲む?あったかい奴」
「こーひー?飲み物なの?」
「うん。インスタントだけどね。」
「嬉しい!お腹、空っぽ!」
あぁそうか、何も食べてないのか。そうだよな。どう見ても放浪してたみたいだし……。
「じゃあ風呂に入ってる間に、ご飯作っておくよ」
「ほんと!?嬉しい!嬉しい!!」
よほど腹が減ってたんだろう。ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。
ここまで喜ばれたら、作るかいがあるな―。
嬉しそうな顔のサチを見て、優海もなんだか嬉しくなった。
ピーピー
風呂が沸いた音がして、シャンプーやボディーソープ、使うものの説明を聞いてからサチは風呂に入った。
それにしても……記憶喪失なのだろうか。幼い頃の記憶は断片的なようだし、会話もちゃんとできるが片言だ。年齢は恐らく高校生くらいかちょっと上くらい。それにかなりの世間知らず。コーヒーも知らなければ、風呂用品の使い方もわからなかったし、バスタオルも巻けないくらいだ。やっぱり迷子なのかもしれない。なにか事件性があれば大変だ。朝になったら警察に届けなければ。
そんな事を思いながら、冷蔵庫の中からちょうど今日食べようと思っていた親子丼の材料、鶏肉と玉葱と卵を取り出した。めんつゆで煮れば完成だから、風呂に入ってる間にさっと作れる。
ぐつぐつ、それを煮ていると、
「美味しそうな匂い!!」
全裸のサチが風呂場から飛び出してきた。全身泡まみれのまま。
「ちょっ!! こ、こら!! 戻りなさい!!」
優海は全身の毛を逆立ててヤカンのように赤く沸騰してしまった。
「はいっ早くするっ」
サチはまたぴゅーんと戻っていった。
「……まったくっ……あ、あぶねっ」
親子煮のつゆがなくなりそうになって、慌てて火を止める。
あぁやだやだ、こんな自分は嫌だ。
優海は全身が心臓のように脈打つのを押さえながら、どんぶりを二つ出した。