「んきゃーっ!おいしぃ~!!」
箸が使えないようだったので、スプーンを渡すと、サチは上手に使って口いっぱいに親子丼を頬張っては、宇宙一幸せそうな顔をした。
泥を落として腰まである長い髪をとかした彼女は、見違えるほど綺麗になった。
まるで磨いた宝石のように。
「良かった。口にあって。大した料理じゃないんだけどね」
「おいしいなぁ~」
本当に美味しそうに食べるので、見ていてこちらも幸せな気持ちになる。しかも自分のシャツを着ているから、なんだかきゅんとしてしまった。それをごまかすように、時計を見る。
「四時か、もうすぐ夜が明けるね。……そうそう、さっきも聞いたけど、両親のこと……は、覚えてるの?それと年齢は?」
そう言うと、勢いよくもぐもぐしていた動きが止まって、少し暗い顔になった。
「年、数えてた。けど、ちゃんとした歳かわからない。たぶん、18。桜、10回見た……。お母さんとお父さんは、いなくなった。8歳の時……次のお母さんは、おととい死んだ……喧嘩して……」
「喧嘩!?一体誰と-」
「おおかみさん」
「え?」
「お お か みさん」
「え!?ええ……っと、お母さん、狼と喧嘩したの!?なんで!?山菜取りに出かけて、とか……?」
狼と喧嘩して死んだ!?
本当ならば大事件じゃないか!
優海は背中がざわざわした。想像すると怖過ぎる。
「ううん、狼さん同士の、喧嘩……負けちゃった……」
そう言うと、リスのようにご飯で口を膨らませたまま、ぽろぽろと大粒の涙を流し出した。
「うわああん」
そして、大声で泣き出し、涙は川のように顔中を流れ出した。
「ああの、ちょっと、ごめん、ごめんっていうか、ちょっとまって、僕も整理が……」
優海はパニくった。
ええっと、8歳で両親がいなくなって、次のお母さんが狼同士の喧嘩で、死んだ、って、言ったよね?今確かにそう言ったよね? もの凄く号泣してるし、嘘ではないみたいだし……これって、これってもしかして……。
「「狼に育てられた少女」」ってこと!!??
え?うそ、うそでしょ、そんなのテレビでしか見たことないし、しかも外国のお話だし、ちょーっと待ってよ、あるかな?こんな事ってあるかな?こんな事って現実に起こりうるんですかね!?酔っ払って道路で寝てたら狼少女に起こされるなんて、こんな奇想天外なことって、……!ドッキリか?これももしかして、ドッキリだっていうのか?間宮の仕掛けた大掛かりな罠なのかー!!??
落ち着け、とりあえず落ち着け、ウナ。 びっくりする事には慣れているはずではないか。
「うあーん」
「ご、ごめん!ご飯の時にするお話しじゃなかったね!ごめんね!」
あまりにも泣きじゃくるので、本当に申し訳無い事をした気持ちでいっぱいになってしまった。
「うわあああん、だっこおぉ」
「!!??」
「だっこおおぉぉぉ!!」
だっこ……だっこ……だっこって、あれ? もしかして抱きしめるやつですかね?
そうか、この話しが本当だとしたら……どこか8歳の少女のままなのかもしれない。
「わわ、わかった!」
優海は慌てて立ち上がり、泣きじゃくる彼女を抱きしめようと思った、
その時、
ガタガタガタン!! バタン!!
椅子に足が引っかかり、その場に思いっきり転んでしまった。
うつ伏せで-。
サチはピタリと泣き止み、そんな優海を凝視していた。けっこう驚いたのだろう。
「大丈夫……?」
「う……うん……」
正直かなり痛い。
「……ふふ」
「ふふふっ」
ゆっくり起き上がった時の歪んだ顔がおもしろかったのだろう。サチは涙で濡れた顔のまま、思わず笑い出した。
「ははは……」
彼女の笑顔は、まるで可憐な花のようだった。
僕はその時産まれて初めて、僕のドジで誰かが笑うことを、心から嬉しいと思った。