ドッキリ男の恋―君はたった一つの星―   作:@星きらり

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第二章★君は僕が守る
8話 走れウナ


 

 

 

 「いーい?お兄ちゃんは、ここで待ってるのよ?!」

 

 松子は仁王立ちしながら優海に指をさして、そう言った。

 

 こんなにおかっぱヘアと白いもふもふな服の似合う18歳がいるだろうか。流石!僕の妹だ!可愛い。なでなでしてあげたいが怒られるのでできないのが悔しい。

 

 さらに隣にいるサチ。

 松子が貸した、大人っぽいミリタリーコートと白いブラウスにベージュのプリーツスカートを着て、腰まで長い髪がそれにぺったり張り付いている。それに松子がお化粧してあげたのだろう。今まで見たどんなお姫様よりも美しく見えた(僕には)。

 

 「まかせとけ!例え何があろうとラインが届いた瞬間に迎えにいくよ!!」

 

 張り切って拳を握りそう言うと、サチが寂しそうに言った。

 

 「ウナ、一緒にいかないの?」

 「う、うん。松子と行っておいで。僕もすぐに行くから」

 「そっか……寂しいな。でも、わかった」

 

 「じゃ、お兄ちゃん、ヨロシクねー」

 

 カメラ屋とカツどん屋の間の路地裏に隠れ、サングラスと帽子で変装していた優海は去り行く二人を影ながら見送った。足元で、「にゃあ」と猫が鳴いた。

 

 

***

 

 

 携帯電話を握り締めながら、一時間が経過した。

 通り過ぎる人にチラチラ見られることにも慣れた。ちらちら見られても大丈夫。何故ならば今日はサングラス、帽子に加え、携帯してきた髭もつけたからだ!気づけば何故か足元に猫が増えて4匹になった。

 

 そろそろ連絡が来てもいい頃だな……と思って携帯を見た瞬間に、

 

 (来た!)

 

 「「OKv」」

 

 よし!! 今行くぜ!!

 

 優海は風のように飛び出して走り出した。

 腕時計を見る。 走って警察署まで3分。

 気になる……気になるんだ。

 

 もしも、親が見つかったら……?

 本当は山で迷子になってた子で、両親や兄がずっと探してて、だとしたら、

 

 サチは―――サチは、行ってしまうんだろうか。

 

 たった一日だけど、あの閑散(かんさん)とした部屋に、初めて明かりが灯ったようだった。

 荒野に咲いた花のように、あの子の笑顔が、笑い声が、ぬくもりが―――くそっ!

 だめだそんなこと考えちゃ。 あの子が幸せになるのが一番なんだよ!

 

 優海は走った。

 

 警察署まであと二百メートル!

 

 ってその時、

 

 「お、お婆さん!大丈夫!?」

 

 買い物袋が破けて、中身が道路に散乱し必死に拾おうとしているお婆さんの姿があった。

 

 「あらあらもうどうしようかね、困ったねぇ」

 

 ああ、そこにもう見えてるのに!!

 しっ、しょうがないっっ。

 

 「お婆さん、とりあえず警察署まで行って、袋を貰いましょう。家遠いんですか?」

 「おやおやそうかい、これもってってくれるのかい。あんた親切だねぇ。家までタクシーで行くところだったんだよ。じゃあそうしてもらいますかね。いやあ助かる助かる」

 

 ああああっっもうっっ!!

 なんでまたこんなタイミングで袋破けるんだよ~~~!!

 

 「いやあ助かるねぇ。ありがとうねぇ」

 「いいんですよ」

 「や~~~助かる、ほんっとうにありがたいねぇ」

 「いいんですよ、ほんとにっ」

 

 あああああああっっっ。 言葉にならぬイライラで僕の中の僕がくねくね体を捻る。トイレを究極に我慢している人みたいに。

 

 「ありがたやありがたや、あ~り~が~た~やっ!!」

 「えっ!!??」

 

 ボス!!

 

 「&%#$△◆○&%×!!??」

 

 頭の中、真っ白。

 

 ちょっと待て、何が起きた。

 

 さっきまで腰の曲がっていたはずの老婆が、急にすくっと立って、手に「「パイ」」をもってて――???

 

 えええええ!!?? パイ!!??

 苦しい。 顔苦しい。 息できない。

 

 優海は老婆にパイを投げられ、顔面パイまみれになった。

 

 ぶるぶる頭を振って、そのパイを落とす。

 

 そこで、お決まりのあの音楽。

 

 

 テッテテー♪

 

 

 こ……

 

 こ……

 

 こ……

 

 コノヤロ~~~~~~~!!!

 

 「なにしてくれとんじゃ~~~!!!」

 

 「ほっほっほっ」

 

 お婆さんは特殊メイクをされた人だった。ドッキリ大成功!の看板の横で飛び跳ねて喜んでいる。

 そしてどこから出てきたのか、間宮がカメラを持って立っている。

 

 「今急いでたんだよ!なんだよもう~!! カメラ止めて!!」

 

 「あはははは、今のガチ感よかったわぁ。はい、カット。じゃあロケバスすぐそこに止めてあるから、顔洗って行って」

 「ほんとに今急いでるから、まじでやめてくれよ急いでそうな時は」

 「あら、しょうがないじゃない。準備にも時間がかかるんだから。こっちだって計画立てて仕掛けてるのよ」

 

 本気で頭にきていた優海は間宮の差し出したタオルを引きちぎるように受け取ると、黒いロケバスに乗り、急いで顔を洗い始めた。

 

 その時、なんと車の後部座席が急に倒れて、後ろに滑り落ち、

 

 バシャン!!

 

 簡易プールの中へ背中から落ちていった。

 

 全身、水浸し。

 

 「……っ!!!」

 

 もはや言葉もでないとはこのこと。

 

 

 テッテテー♪

 

 

 「あはははは」

 

 カメラマン間宮とスタッフ数人の笑い声が響いた。

 

 「……いますぐ……」

 

 「あはははは」

 

 「いますぐっ」

 

 「あはははは」

 

 

 「いますぐ帰れーーーーーっっっ!!!」

 

 優海はドッキリ人生の中で産まれて初めて本気の声で、大声で怒鳴ってしまった。

 周りは瞬時に静まり返った。

 

 「……ど、どうしたの?ウナちゃん。あなた、なんかあったの?いったいなんでそんなに急いでるのよ」

 

 間宮がその優海の真剣さを感じ取り、少し心配そうに、少し怒ったようにそう言った。

 

 「すみません……僕の事ではないので詳しくは言えません……けど、僕にとっては大切な用事なんです。とにかく、とにかく今日のところは帰って下さい。お願いします」

 

 優海は真剣な顔でそう言って、頭を下げた。

 

 「……ふぅん……。そ。 じゃ、帰るわよ。みなさん。お疲れ様~。今日のは使えないわね」

 

 全身ずぶ濡れで顔のパイも残ったまま、帰っていくロケバスを見送る。

 

 それからまた、警察署まで走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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