では四話です、どうぞ。
棟谷蓮を保護することになってから一か月が経つ。当の本人は未だに目覚める気配すらない。霊夢によれば息はしているらしいので死んでいるわけではないだろうが…………
彼を保護した翌日、レミリアの予告通りキラが紅魔館に来た。何でもこの幻想郷に興味が沸いたらしく、知り合いを通じて暫くここに滞在することにしたという。
棟谷蓮を保護したことをレミリアがキラに伝えると、キラは『尚更ここにいないとダメになったね』と紅魔館に暫く泊まることにしたらしい。ちなみに弟のレグルスは何をしているのか咲夜が聞いたところ、『例の集団について会議を開いている』と答えていた。
話を戻そう。
一か月たってもなお意識が戻らない彼を見て、咲夜は少し心配になっていた。
咲「…………………」
ふと、咲夜はレミリアの言葉を思い出した。
ーー『人間を愛しすぎた堕天使よ』ーー
人間を愛しすぎた堕天使…………その言葉を聞いた時、咲夜は初めて他人である彼のことが気になった。性格上他人のことをほとんど気にしない彼女にとって、それは大きな変化ともいえた。彼女自身、なぜそう思ったのかは全く分かっていない。ただ、無性に彼に会ってみたいという思いが少しながらもあった、としか言いようがなかった。
咲夜は掛布団の上に置かれた彼の手を見た。とても優しそうな手だ。その手に咲夜は無意識で触れた。
と同時に、咲夜に
咲「っ⁈」
一瞬のことすぎて何が起こったのか全く分からなかった。一体何だったのだろうかと咲夜が疑問に思ったその時、
蓮「……………っ」
蓮が目を覚ました。咲夜は慌てて手を引っ込め、何事もなかったかのように装った。
咲「あら、やっとお目覚めかしら」
蓮「ここ………は?」
咲「紅魔館よ。あなた、重傷のまま酒屋で倒れたのよ」
蓮「紅魔館…………」
ゆっくりと体を起こし、彼は辺りを見渡した。その目はまるで、見た物すべてが未知の物と思って見ているようだった。そして包帯だらけの自分を確認した後、咲夜に目を向けた。
蓮「あなたは…………?」
咲「私は十六夜咲夜、ここ紅魔館でメイド長をしてるわ。あなたは?」
蓮「僕は棟谷蓮です。助けてくださり、ありがとうございます咲夜さん」
咲「礼ならお嬢様に言って。後、私に敬語は使わなくていいわ。普通に咲夜って呼んで」
蓮「…………わかった」
お互い軽く自己紹介を済ませ、咲夜は蓮の包帯を取った。一か月前まではボロボロだった体も完全に回復しており、腹部を貫いていた槍の穴も今ではどこに刺さっていたのかわからないほどにまで再生していた。ベッドから降りると、彼は羽が飛び散らない程度に背中の翼をめいいっぱい広げ、背筋をぐーんと伸ばした。
蓮「んー………ふぅ、久々に羽を広げた気がするよ」
咲「そう。その状態なら大丈夫そうね。起きてさっそく悪いのだけど、今から私についてきて。あなたが目覚めたら部屋に連れてきてって言われてるの」
蓮「わかった、行こう」
体が大丈夫そうなのを確認すると、咲夜は彼を連れてレミリアの部屋に向かった。
ーーーーーーーーーーー
咲夜が連れてきたのは、真っ赤に染まった大きな扉のある部屋だった。個人の部屋としては大きすぎないか、というのが蓮の第一印象だった。
咲「お嬢様、咲夜です。棟谷蓮が目覚めましたので、連れてまいりました」
レ「わかってる。入って」
咲「失礼します」
ノックして扉を開ける。その先には一人の少女と一人の青年が、ティーセットが置かれたテーブルを挟んで座っていた。二人とも背中から蝙蝠の羽が生えているのを見た蓮は、彼女達が吸血鬼だと直ぐに理解した。
蓮「………吸血鬼、ですか」
レ「えぇ、そうよ。でも安心しなさい、別にとって食おうなんて思ってないから」
蓮「それを聞いて安心しました。えっと………」
レ「レミリア・スカーレットよ。レミリアでいいわ。そしてこちらにいるのが」
キ「キラ・グランドレッド。以後よろしく」
蓮「棟谷蓮と言います。助けてくださり、ありがとうございました」
レ「どういたしまして、といっても殆ど咲夜がやったんだけどね。あと、そんなに堅くならなくていいわ」
蓮「わかりました、じゃなくて、わかった」
キ「素直でよろしい、と。とりあえず空いている席に座って。色々聞きたいことがあるし。咲夜ちゃんも座りなよ」
お互い軽く自己紹介をした後、蓮と咲夜は空いている席に座った。すると早速、レミリアが質問を始めた。
レ「早速だけど質問よ。まず、あなたが眠ったときかなりの極限状態だったの、覚えてる?」
蓮「うん、少なくとも意識がかなり薄れていたことぐらいは」
キ「じゃあさ、その間の記憶ってまだ覚えてる?」
蓮「その間の記憶……………ごめん、覚えてない」
キ「そう、まぁ仕方ないか。あの状態が三週間も続いてたらしいし、覚えていたほうがおかしいか。後その様子だと、なんであの状態になったのかも覚えてなさそうだね」
蓮「うん、本当にごめん」
キ「気にすんなって。それじゃこの質問は終わり。次の質問だけど、蓮君はなんで狙われているんだい?」
蓮「それは多分、これが原因だと思う」
蓮は自分の翼に指をさした。光沢のある真っ黒の大きな翼だ。この翼には特殊な能力があると蓮は言う。
蓮「僕の翼の羽には特殊な力があってね、一枚一枚にとても高い治癒能力があるんだ」
レ「治癒能力?それって、どのぐらいなの?」
蓮「一枚で四肢全部再生できるぐらいかな」
予想以上の能力の高さに、三人は驚いた。
レミリアは最初、腕一本ぐらい再生するだろうと思っていた。しかし、彼は一枚だけで四肢、つまり両手両足を完全に再生できると言った。これには驚かざるを得ないだろう。
しかしここで、咲夜はある矛盾に気付いた。初めて会った時、彼は極限状態だった。だが咲夜は、その時彼の翼には
咲「ねぇ、あなた倒れる寸前もまだ羽があったわよね。なんで使わなかったの?あれを使えば、傷だって治せたはず………」
蓮「あぁ……………あれは使わないんじゃない。
咲「そう………かなり不便な能力ね」
蓮「まぁ、都合の良すぎる能力はないってことだよ」
咲「確かにそうね。私は時間を止めることはできるけど………」
蓮「時間を止めれるの?」
咲「えぇ。でもいつまでも止めていられるわけじゃないし、止めるのにも結構体力を使うから」
蓮「そっか」
キ「はいはい、そこまで。会話が弾むのはいいけど、それは後で」
話が逸れかけていたのをキラが戻す。一回咳払いをした後、キラはまた質問を始めた。
キ「あー、それじゃあ次の質問。これは咲夜ちゃんから聞いた話なんだけど、蓮君は倒れる寸前、『博麗の巫女に伝えてくれ。もうすぐ戦争が起こる』って言ったそうだね。あれは、どういう意味なのかな?」
蓮「戦…………争…………?」
キ「もしかして、覚えてない?」
蓮「…………はい」
キ「そっか……………じゃあさ、君を狙っている集団のことについて、何か覚えてる?」
蓮「集団……………クレイドルのことか」
蓮の口から出た単語に、キラは興味深そうに彼を見た。
キ「クレイドル…………揺りかご、か。それがあの集団の名前だね」
蓮「そう。何を目的に動いているのかはわからない。ただ、序列上位者を集団で襲撃するとか、やってることはめちゃくちゃだよ」
キ「ふーん。ちなみになんでそれを知っているんだい?」
蓮「それは……………あれ、なんでだろう?」
自分の言葉に疑問を持ち始めた蓮。レミリアは、『極限状態が続いたせいでいくつか記憶がなくなっているのだろう』と結論付けた。
蓮「本当にごめん、役に立てなくて」
キ「いやいや、そんなことはない。こちらとしては何の情報もなくて困っていたところだからね。集団の名前がわかっただけでも十分だよ。さて…………とりあえず俺からの質問はここまで。レミリアからは何かある?」
レ「そうですね…………じゃあ最後に。蓮、あなたはこれからどうするの?」
蓮「これから、か。何にも考えてない」
レ「そんなことだろうと思ったわ。まず、あなたのことは私達が保護することになっているの。本来保護すべき上層部が今混乱状態らしくてね」
そこで、とレミリアは紅茶の入ったカップを手に、笑みを浮かべながら提案した。
レ「あなた、いっそのことここに住まない?こんな大きな屋敷、一人増えたところで問題はないわ。それに、私自身あなたのこともっと知りたいしね」
蓮「そう。でもいいのか?僕を狙って誰かがここを襲う可能性だってないわけじゃないし」
レ「そんな奴ら、全員返り討ちにしてやるわ。それに、誰もタダで住ませるなんて言ってないし」
蓮「……………あぁ、なるほど。それで、僕は何をしたらいい?」
レ「あなたには執事になってもらうわ。主な仕事は、咲夜の手伝い。一応妖精メイドはたくさんいるのだけど、全員をまとめるのは咲夜一人じゃ大変なのよ。あともう一人頼れる子はいるのだけど、おっちょこちょいでね。咲夜はどうかしら?」
咲「私は特に大変だとは思ってはいませんが………しかし、手伝ってくれる方が増えるのは嬉しいですね」
レ「だ、そうよ。どうかしら?」
蓮「もちろん、そうさせてもらうよ。いや、執事だから、そのようにさせていただきます、かな?」
レ「無理に敬語を使わなくていいわよ。わかったわ。キラさんもいいですよね?」
キ「俺はいいよ。上層部にもそう伝えとく」
レ「と、いうわけだから、これからよろしくね」
蓮「うん、よろしくね」
こうして蓮は紅魔館の執事となり、レミリアのもと保護されつつ紅魔館に住むことになった。
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~???~
真っ黒な空間
見渡す限り何もない空間
その空間に一人、目をつむったまま剣を振るう男がいた。
?「………………………」
青色の髪に青のジャケット、黒のズボンに黒のローファーの目の蒼い青年だ。
青年が無言で振るうその剣術には、一切の無駄がなかった。
ふと、ピタリと動きが止まる。ゆっくりと瞼を開きながら、青年は背後から感じる
?「………………邪魔をするな」
?「あはは、やっぱ気づいちゃった?」
言葉とともに、一人の少女が現れる。
背中を覆うほどに伸びた白い髪に、露出の多いシャツに黒スカートの不敵な笑みを浮かべる少女だ。その少女から放たれる殺気は、尋常ではない。
?「それで、何の用だ」
?「相変わらずぶっきらぼうね」
?「鍛錬を再開したいんだ。さっさと要件を言え」
?「はいはい。話ってのは、ターゲットの居場所が分かったんだよ」
?「ターゲット………あぁ、あの堕天使か」
?「そうそう。確か………ゲンソーキョー?ってところにいるみたい」
?「ゲンソーキョー……………幻想郷、か」
?「あら、知ってるの?」
?「あぁ、俺は一度あそこの
?「へぇ。なら話は早いわ。
?「承知した。全ては
青年はその場を去る。その姿を見た彼女は、あの不気味なマークの入った舌を出して、再び不敵に笑った。
?「覚悟なさい、棟谷蓮。あなたの命日は………すぐそこよ」
To be continued...
はい、蓮君が執事になった四話でした。
ちなみに本作の敵キャラはまだしばらく出ません。
次回は弾幕ごっこ編になると思います。
以上、ではまた