読みにくいところなどありましたらコメントしてください。
……起きろ。起きろ。
「起きろと言っているだろう、セイバー!」
「あと……5分は寝かせてくださいマスター……」
「お前はそう言って既に30分は寝ている!いいから起きろ!」
狭いマンションの一室の床に転がるセイバーを蹴りながらフェイルフェルドは2人前の紅茶を淹れている。彼がセイバーを召喚してからまだ1日と経過していない。
セイバーの長髪はセイバーの顔にまでかかっており、辛うじて鼻で呼吸できるかどうかといったところだ。最優と謳われるクラスでも寝起きが悪いという欠点を抱えているのだ。
「そういえばこの国にはパラチンタとかいうジャムをクレープで包んだ美味しい料理があるらしいな」
「行きましょう、マスター」
餌で釣るとセイバーが起きると確認したフェイルフェルドは、セイバーの頭から冷や水をかけて髪を梳かし始めた。
元々フェイルフェルドは聖杯に対して望むことはこれといって無かった。しかしどこからのバックアップも受けられないフリーの魔術師であることは今後の生活に何らかの支障を来たす可能性があったため、魔力回路の増築を目的に聖杯戦争へ参加した。だが、彼はこの聖杯戦争が
一方のセイバーは自分がなぜ召喚されたのか、自分でも疑問に思っていた。
「セイバー、召喚に応じ参上しました。あなたが私のマスターですか?」
「そうだ。早速聞くが、お前の真名はオジェ・ル・ダノワか?」
「いいえ、違います」
召喚された直後に目当ての英霊ではないと落胆されれば、どんな英霊であれ快くは思わないだろう。セイバーも当然困惑し、とりあえずフェイルフェルドの住むマンションへ来て一夜を明かしたのだ。
「マスターが用意した触媒は何だったのですか?」
「ああ、俺が用意したのはこいつだよ。見覚えがあるだろう?」
そう言ってフェイルフェルドが机の上に置いたのは、切っ先が折れた刀である。
セイバーはそれを手に取り観察した結果、これなら私が召喚されてもおかしくない、とフェイルフェルドに言い放った。セイバー曰く、恐らくその英霊は私の刀が流れ着いた先でこの刀を振るったのでしょう、ということだ。
フェイルフェルドは熱い紅茶を喉に流し込みながら、心の中ですすり泣いた。
「あれがセイバーか?随分と悠長に紅茶を飲んでるじゃねえか」
「まだサーヴァントが出揃っていないだけだ。少なくともあと2騎は足りていないからな」
「だがこんな市街地で銃なんて撃っちまっていいのかよ」
「殺れ」
カン!と音が鳴り、セイバーの剣がフェイルフェルドへの狙撃を防いだ。
「紅茶が美味しくて気付きませんでしたが、どうやら尾行されていたようですね。近くに魔力反応があります」
「俺を守ってくれよセイバー」
腰が抜けたフェイルフェルドを部屋の奥へ追いやりながら、セイバーは部屋を出る。寝すぎていて昼ごろになっていたことに気付く間もなく、マンションの屋上で狙撃ポイントの方へ目を向ける。
「貴方はアーチャーのサーヴァントですか?神秘の隠匿を何だと思ってるんですか」
銃をセイバーへと向けていたのは、一騎のサーヴァント。十字架を携えた白髭の壮年の男だ。
「いいや、俺はアーチャーじゃねえ。俺はライダー。あと2騎ほど召喚されてねえが、開戦の狼煙でも上げようかと思ってな」
カッカッカッと笑いながらセイバーの元へと歩み寄ってくる。が、一閃、セイバーがライダーの眉間を捉える。
「その折れた剣じゃ俺は斬れねえぜ?お前さん本当にセイバーかよ?」
ライダーはサーベルで反撃するが、セイバーはそれを難なくかわし、ライダーと斬り結ぶ。お互いに一進一退の攻防をしているように見えるが、当然どちらも本気など出していない。
『セイバー、俺のところへ戻ってきてくれ。そいつのマスターらしき人物に追われている』
ライダーと斬り結ぶ中でフェイルフェルドから念話で声をかけられた。
「貴方がたの目的は私ではなくマスターでしたか」
「セイバーに単独行動はねえからな。マスターさえ殺っちまえばこっちのものさ」
「生憎私はまだ脱落するわけにはいかないので。失礼させてもらい……ますッ!」
ライダーのサーベルを押し返し、セイバーはマンションの屋上から地上へ飛んだ。しかし途中でフェイルフェルドの部屋のある階の通用口に捕まり、そのままマンションの中へと入っていく。
『逃げられちまったぜ』
『こちらもだ。まあいい。今回は挨拶みたいなものだ。また戦えるのを楽しみに待って今は退こうじゃないか』
『おうよ』
屋上のライダーは霊体化し、マンションの入り口からライダーのマスターも去っていく。
「お怪我はありませんか、マスター」
「怪我は無いけど酷い目に遭ったぜ。なんなんだよあれ」
「ライダーとそのマスターのようです。こちらの拠点が特定されてしまった以上、場所を移すべきでしょうね」
部屋の風呂場で頭を抱えていたフェイルフェルドを慰め、セイバーは残っていた紅茶を飲み干した。
「さあ、出発しますよマスター」
「新しい拠点を決める前にパラチンタを食べに行かないか。腹が減った」
「ええ、行きましょう!」
その時魔術師は初めて使い魔の瞳の色を見た。