「む?」
「どうした、アーチャー」
アーチャーと呼ばれたスーツを纏う大柄の男は、目つきの鋭い長身の男の歩みを手で制止し、公園の草むらの奥へと視線をやる。
長身の男――アルバ・メンロパークは少し意識を集中させ、アーチャーの言葉の意味を理解した。
「魔術師の心臓は一時的なものではあるが魔力の供給源になるからな。まあ、俺は気にしないしどうでもいいが」
基本的に魔術師というものは根源を目指す者であり、その過程における多少の犠牲については特に悲観しないものである。メンロパークも当然、この聖杯戦争において誰が犠牲になろうと構わないというスタンスであり、またどのようなサーヴァントと相対しようともアーチャーが勝つという確信を得ている。正面から撃ち合うことは本来苦手とする分野だが、それでもなお勝利を得られるという尊大な自信はアーチャーに対して全幅の信頼を寄せていることの証拠でもある。
しかし、生前魔術師ではなかったアーチャーの意識は違う。
「マスター、どうやら魔術師はまだ応戦しているようだ。助力しに向かいたいのだが」
「駄目だ。仮にその魔術師がマスターだったとしたらどうする?俺らを呼び寄せるための罠だったら?確かに俺はアーチャーの勝利を確信している。だが、こんな公園内で戦闘をしたらどうなる?別に俺は周りに被害が出ようとも気にはしないが、それはお前が良くないだろう?」
メンロパークはアーチャーとの契約時に一般人への被害を出さないことを条件として提示され、これを飲んだ。だが、このまま襲われている正体不明の魔術師を見殺しにすることはアーチャーとの契約に相反することではないだろうか。アーチャーがこれについて改めて力説すると、様子を見るだけだぞ、と念押しした上で魔術師の下へ向かうことになった。
草むらの向こう側では、筋骨隆々とした男――武田幸信が、仮面を被った男の鋭い爪による猛攻をなんとかかわし続けていた。
「魔術師……しんぞ……ゥ……!」
「俺は魔術師でもなんでもねえぞ!他をあたりやがれ!」
反撃の構えを取ってはいるが、仮面の男は武田の拳の届く範囲へは近づかない。爪によるリーチの長さを利用して、格闘では対応されないようにしているように見える。
「あれは……アサシンか、もしくはバーサーカーか」
「手を出させないつもりなのだろう、マスター」
「当然だ。だが、あの男……」
「ああ……」
草むらから男たちの戦闘を観察している二人は同じことを思っていた。武田は魔術師ではないと自称しているが優秀な魔術回路を身に宿している。生まれ持った魔術師としての素養をここで絶やしていいのかと考えたメンロパークは草むらから飛び出し、ポケットに入っていたチョークを使って地面に陣を描き始めた。
「何をするつもりだ?」
「あの男にサーヴァントを召喚させる。俺はあの男が将来的に俺くらいの力量を持った魔術師として大成すればいいと思った。今を生き抜くために、将来の箔のために、あの男には戦ってもらわなければならない。誰でもいい。今はこの場を打開できるサーヴァントを召喚すればいい。最終的にはアーチャーが殺す。お前!何でもいいから何か寄越せ!」
声をかけられた武田は、ポケットから祖父の形見であるお守りをメンロパークに投げつけた。
「誰か知らねえが返せよ!」
触媒を使用し、青白い光があたりを包む。それを見た仮面の男は武田へ渾身の一撃を叩きつけた。
……かに見えたが、その直前、小柄な少女の短刀が凶刃を食い止めた。さらに右手の指先から闇の塊のようなものを地面につけると、暗黒の大蛇が地を這いながら仮面の男を襲う。仮面の男は後ろへ跳びながら避け、そのまま闇夜に消えていった。
「大丈夫でござるか、お館様」
「お館……様……?」
お館様と呼びかけられた武田は周囲を見渡す。しかし、先ほど祖父の形見のお守りを投げ渡したはずの長身の男はいない。早々にメンロパークとアーチャーは撤退したようだ。
「君は何者だ?」
「拙者でござるか?拙者はアサシン。新たなお館様に忠誠を」
「なぜあの男を聖杯戦争に巻き込んだ?」
「最終的にあいつは生き延びなければならないが、あの場を乗り切り、かつアーチャーの戦闘を見せないためにはあれしかなかった。俺単体ではバーサーカーを退けられるかわからないしな」
「それなのに聖杯戦争で勝利するのは自分だと豪語しているのか」
アーチャーの素朴な疑問に対し、魔力量だけはピカイチだからなと笑い飛ばす。
二人は後ろからの視線に気づかぬまま公園を後にする。
残るはキャスターのみ。戦いの幕は既に上がっている。