至高の命題を求めて   作:きりしら

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彼女の話をしよう。


ユーリア・ルフェ・ヴァレンシュタイン


人理保障機関カルデアのマスター候補の1人


平均的な身長、凹凸の少ないスレンダーな体型、髪は青く、白いメッシュが混ざっている。


常に目を細め、人を観察するように見るその青眼。


不敵な笑みを浮かべるその口元。


41人いるマスター候補の中でも優秀なマスター適正を持ち、初代所長より最優の評価を付けられながらも、最良のAチームからは外された異例の魔術師。


詳細な出身は不明。


魔術の系譜は不明。


魔術師として表だった功績も無い。


カルデアに登録されるデータベースを見ても、基本情報と簡素な出自以外に、彼女の経歴は存在していない。


今となっては知る由も無いが、彼女の事を唯一知るであろう初代所長 マリスビリー・アニムスフィアは、その一人娘にただ一言こう話したと言う。




『種の研鑽を蹂躙する個』と






第10話

 

「サーヴァント、清姫……こう見えてバーサーカーですのよ。どうかよろしくお願いしますね、マスター様」

 

 

 

流れるような水色の長髪

 

 

金の装飾に彩られた扇子で口元を隠し、穏やかに頬笑むサーヴァント。

 

 

それは完成された美であり、私の目を奪う。

 

 

触れれば手折れそうな体躯や佇まい。

 

 

大和撫子と呼ぶに相応しい彼女を見てしまっては仕方ない、褒めるしかないだろう。私も可愛いが、彼女もまた可愛いのだから。

 

 

 

しかし、

 

 

 

「良い…」

 

 

 

 

私の口を突いて出たのは語彙の死んだワンフレーズ。

語彙を使いきったのね、悲しいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんにちは皆さん、私よ。

 

今日は初めての召喚をしてみたわ。

 

エドワードも私の召喚したサーヴァントになるのでしょうけど、私自身記憶に無いからノーカウントよ。

 

 

この英霊召喚。

私も分からないから複雑な説明を省くけれど、要は必要な魔力を流し、自身の目的に添う協力者を召喚できる。

 

今回の場合は、人理を救うという大義に賛同するサーヴァントが召喚されるとエドワードから聞いたわ。

 

 

ここに来るまでにエドワードと話をしていたのだけれども

 

 

 

『拙者思うに、下手に優等生なサーヴァントを召喚していざという時に意見の食い違いが発生するリスクを負うよりも、比較的命令に忠実なバーサーカーを選ぶと良いかもしれないでござるナー』

 

 

『それは妙案ね、エドワード。力はパワーということかしら』

 

 

などという会話があったことも影響して召喚に挑んだけれど、とっても可愛い大和撫子が召喚できたのよ。

 

 

「まぁ、そうね。良いんじゃないかしら」

 

 

清姫をじっと見つめながら私は考える。

 

 

私自身も指揮の経験が浅く、テクニカルな命令を出すよりも、進め戦えとシンプルな指示で戦ってくれるであろうバーサーカーは、私にとって良いパートナーになると思った結果なのだし。

 

 

「という訳だから、エドワード。貴方にはこれからも前線で頑張ってもらうしか無いわね、頼りにしてるわ」

 

 

後ろで戦々恐々としているエドワードに向き直る。

 

 

「んひぃ!そんなぁ!拙者後衛で楽が出来ると思ったのにィ!」

 

 

頭を抱え、演技臭いポーズをとるエドワード。

 

 

「エドワードが前に出ないと、こんなに可愛いお姫様が無理をしなくてはならないのよ、そんな理不尽があってはいけないわ」

 

 

そんな嘆くエドワードにぴしゃりと言った。

 

 

男性だから女性を守れなんていうことは言わないけれど、今頼れるのはエドワードだけなのよ。

 

 

「まあ、マスター様。可愛いお姫様だなんて…」

 

 

そんな私の気遣いを他所に、私に褒められた清姫が頬笑む。うん、とっても可愛いわ。

 

 

 

 

 

 

閑話休題(可愛いは正義よ)

 

 

 

 

 

場所は変わらず召喚室内

 

 

「…………」

 

 

レオナルドがじっとこちらを見ている。

 

そのモナリザ顔は恐いから少しは加減をしてくれるとありがたいのだけれど。

 

 

「…召喚も終わったのだし、行きましょうか。ずっと此処に留まっていたら気が休まらないわ」

 

 

レオナルドも私が召喚を終えたのに、ずっと留まっているものだから訝しげに見つめてきているのでしょう。

 

私たちがここに留まると彼女の気が休まらないし、迷惑になるでしょうから早く部屋に戻らないとかしらね。

 

 

「失礼し」

 

 

「うん、うん。いやなに問題ないさ、たしかにこんな薄暗い場所で私と一緒じゃ気が休まらないだろうね。私としても残念だが仕方ない、折角の食事を戻してしまう前に早く部屋に戻るのも1つの手かもしれないね。あのレーションは極地の魔術師用に作られた特製でね、食べても不味いが吐くともっと酷いことになるんだ」

 

「あの」

 

「いいとも、では今回はここまでとしようか。まさか初めからバーサーカーを選ぶとは思っても、いや、思ってはいたかな。言うなればサーヴァントは君の手足だ。マスターからすれば、自分の思い通りに動いてくれることが何よりも大事なのかもしれないね。何にせよ、召喚おめでとう。立香ちゃんと君、人類最後のマスターは二人だけなのだし、今後ともよろしくね?」

「違」

「ああ、そうだ。あまり戦闘向きとは言えないかもしれないけれど、サーヴァントはサーヴァント。それもバーサーカーともなれば彼女なりの戦闘スタイルも見つかるさ、きっとね。特異点もフル稼働で捜索中だからじきに見つかるし、経験豊富な君には是非とも頑張ってほしいかな、本当だよ?じゃあね、今世紀の天才ちゃん」

 

 

話にならない、本当に会話すらしてくれない。

 

これじゃあ意思疎通も儘ならないじゃない。

 

私は別にレオナルドと一緒に居たくないとは言っていないのだけれど、ぐぬぬ、会話をしてほしいところね。

 

()の時の私が一体何をしたらこんなに嫌われるのかしら。

 

いえ、むしろ私が所長殺しをしたせいかしら、殺人鬼と一緒の部屋にいられるか、みたいな感じかしら。そうなのね?

 

 

「お話にならないわね。行きましょうかエドワード、清姫」

 

 

「へいへーい」

 

 

「そうですね…押しますよ?マスター様」

 

 

残念だけど出直すしかないようね、私はクールに去るわ。

 

ため息を一つついた後、エドワードと清姫に声をかける。

 

清姫が私の座る椅子を押してくれると言うので、好意を受け取り部屋を出た。

 

部屋の扉が閉まる前にちらと振り返ってみると、レオナルドは変わらない笑顔でこちらを見ており、ただ恐かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お話にならないわね。行きましょうかエドワード、清姫」

 

 

彼女がサーヴァント二人を連れて部屋を出ていく。

 

 

扉が閉じ、その姿が完全に見えなくなってから、私は深く息を吐いた。

 

 

「恐ろしい娘だよ全く…」

 

 

あの人を射殺すかのような蒼い瞳。

 

 

恐らくだが、私は観察されていた(評価されていた)のだろう。

 

人の奥底、心の中を覗き込むかのようなあの瞳

 

人の神経を逆撫でし、反応を観察する態度

 

その声を聴くだけで霊基が悲鳴をあげる感覚

 

以前よりは(・・・・・)ましになったこの感覚も、依然として慣れることはない。

 

 

記憶喪失を自称し、口調を変え思想を変えたとしても、彼女の本質は何も変わっていない。

 

虚偽、欺瞞、虚言、人を騙し、己が目的の為だけに他人を犠牲にする行動。

 

彼女を構成する全てが嘘に塗れている。

 

 

 

「そうは思わないかい、ロマニ」

 

 

 

人類最後の二人となったマスター

 

それを邪険にするのは、私としてもどうかしていると思うさ

 

 

でも私の霊基()が告げるんだ。

 

 

 

 

彼女の本質は、紛うことなき悪であると

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

広い廊下を歩く3人。

 

 

黒ひげの調子が外れた鼻歌と、車輪が回る音が聞こえる。

 

 

「マスター様?」

 

 

左の掌を閉じたり開いたりして暇潰しをしていると、後ろから清姫が話しかけてきた。

 

 

左手の甲に出ている令呪と呼ばれるモノ。

 

幾重にも円を重ねたようなそれは、形が歪んでいて私の趣味ではないけれど重要なものらしい。

 

 

それはそれとして清姫だ、余計なことを考えたせいで反応が遅れてしまった。

 

 

「そんな堅苦しい呼び方じゃなくて、好きに呼んでくれて構わないのよ?」

 

 

マスター様だなんて仰々しい呼び方はあまり好きじゃない。

 

 

「あぁ、ではますたぁ(旦那様)

 

 

「はいはい」

 

 

ひらがな呼び、ひらがな呼びよ。

 

マスター様ではなくますたぁ。

 

可愛い呼び方してくれるじゃない、素晴らしいわ

 

 

「」

 

 

 

「どうかしたのかしら、エドワード」

 

 

聞き取れないほど変な声をあげたエドワードを見る。

 

形容しがたいほど奇妙な顔でこちらを見ているので少し頬が緩んだ、その顔はずるいわよ。

 

 

「聞こえてない…だと…?今お互いの距離感が尋常ならざる速度で詰まったと思うのですけれど?マスターとサーヴァントから旦那と嫁、ないし妻と嫁になっていたと思うのですが!?」

 

 

「ふふ、おかしな事を言うのねエドワード、可愛いから良いじゃない」

 

 

妻と嫁だなんて照れるわ、私にそういう気があったら本気にするじゃない。

 

ますたぁ呼びくらいでそこまで距離が詰まるはずもないでしょうに。

 

 

「本当に聞こえていないのでござるな…」

 

 

清姫に車椅子を押してもらい、エドワードとも談笑をする。

 

今だけは死の危険を感じなくて済むからとても居心地が良いわ。

 

 

 

「エドワードは冗談が上手いのね、私も見習いたいわ」

 

 

 

くつくつと笑っていると、不意に歩みが止まった。

 

清姫が押してくれているので、私は今自分で車椅子を操作していない。

 

つまり清姫も同時に歩みを止めたということだ。

清姫は無言で何も言ってはくれないし、何かあったのかしら

 

 

「きよひ「ますたぁ(旦那様)?」熱っ…」

 

 

振り向こうとした矢先

 

清姫のひんやりした細指が、私の首、喉にかかる。

 

同時に感じる左手の焼けるような痛み。

 

令呪の一部分が光り、突如として失われた。

 

 

「わたくし、言い忘れていたことがあります」

 

 

「何、かしら」

 

 

耳元で囁くように清姫が話す

 

 

「わたくし、嘘や冗談が大嫌いですの。最悪の言葉。わたくしが心底疎ましく思う言葉です」

 

 

「きよっ…ぎぃ…」

 

 

ぎちり、と指が喉に食い込み完全に呼吸が止まった。

 

なんなのよ、これは。さっきまでの清姫とはまるで別人じゃない。

左手を動かし、喉に食い込む指を外そうともがいた。

 

だが、幼く戦闘向きではないとはいえサーヴァントはサーヴァント。ましてや今の私の腕力ではとても振り払うことができない。

 

 

「ですから、ますたぁ(旦那様)?」

 

 

嘘に対する憎悪。

 

冷ややかでいて決して消えない怨嗟の炎が、私を燃やすかのように感じられる。

 

 

「冗談を見習いたいだなんて、言わないでくださいまし」

 

 

コクコクと頭を縦に振って意思を伝える。

 

分かったから、これ以上は止めてほしい。これ以上は――――

 

 

 

「うーん。あと少しでも力をいれると、マスターの首が折れるより先に、拙者がきよひーの頭を撃ち抜いてやりますぞー?」

 

 

 

視界の外で清姫の頭に銃が突きつけられる

 

これ以上やられるとエドワードが爆発するのよ―――

 

 

「ふぅ…わたくしはますたぁ(旦那様)に分かっていただきたかっただけでして、殺す気などそんなにありませんでしたのに」

 

 

呆れたように一つ息を吐くと、清姫の手が離れ、ようやく息が吸えるようになる

 

的確に頸動脈と呼吸器を潰す絞め方、このサーヴァント、プロね。死ぬかと思った、死ぬかと思った。

 

 

「んぎゅ、けほっ…けほっ…死ぬかと思ったわ…」

 

「少しはあったんじゃねぇですかーやだー!せっかく美少女が召喚されたのに、癖が強すぎて拙者ブルーですぞ…」

 

 

荒く咳を繰り返し、激しい動悸と動揺を静める。

 

 

「うぐぐ…同感ね、私もよ」

 

 

私の場合、あなた(エドワード)彼女(清姫)の二重苦になるわ。

 

 

「さあ、行きましょうか、ますたぁ(旦那様)?」

 

 

清姫は、まるで先程の炎など無かったかのように笑顔で話しかけてくる。

 

なんてこと、可愛い。ギャップというのかしら。

 

 

彼女は私のサーヴァント。逆鱗に触れてしまったのであれば、その咎を受けるべきは私自身なのだと理解できた。今知れて良かった。もし緊急時に触れていたらと思うと、心臓が止まりそうになる。

 

 

「けほっ…そうね、ごめんなさい清姫、エドワードも行きましょう」

 

 

「なんで加害者と被害者が何事もなかったかのように話してるんですかねぇ…」

 

 

なんだか、取り扱い注意の爆弾をいくつも抱えてる気がするわ、既に爆発したのもあるけれど。

 

フジマルの所とは大違いね。

 

 

「まあ、それも嫌いじゃないわ」

 

 

フジマル達みたいに仲良しこよしなのも良いけれど、エドワードも清姫も、なんだか自分らしく生きてぶつかっている感じがして好きなのも事実だ。

 

羨ましいし、見習いたい。

 

こんな状況でも、最期まで楽しんだ者勝ちということなのかもしれないわね。

 

 

「えっ、マスターもしかして、そっちの気が…?」

 

 

「そうなのですか!?」

 

 

無視だ。無視しましょう。

 

せっかく良い雰囲気で今日を終えられるように現実逃避してたのに

 

空気をブレイクされ、少ししょんぼりする。

 

 

 

「不束者ですが、これから末永くよろしくお願い致します。ますたぁ(旦那様)

 

 

 

前途多難な旅になりそうね。本当に。

 

 

 

 

 




サーヴァントマテリアル

真名 エドワード・ティーチ

クラス ライダー

恐らく世界でもっとも有名な大海賊であり、海賊としてのイメージを決定付けた大悪党。
カリブ海を支配下に置き、酒と女と暴力に溺れ、莫大な財宝を手に入れた。


身長/体重:210cm・114kg
出典:史実
地域:カリブ海
性別:男性

パラメーター
筋力 A 耐久 A+
敏捷 C 魔力 C
幸運 E 宝具 A++

「泣く子も黙るスーパーサーヴァント、エドワード・ティーチとは拙者のことですぞゥ!」

「何が起きたら歴史に名を残す大海賊が全包囲オタクになるのかしらね、私気になるわ」
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