なお、本話は更識隊員の荒れっぷりがあるため見ていられない方は「シュワッチ!」と言って引き返しましょう
ZAT基地近くの川の堤防
「「「いち、に!いち、に!」」」
「「いち、に!いち、に!」」
まだ、太陽が昇り始めて間もない早朝。
一夏、箒含めるZATのメンバーは、千冬を先頭に早朝のランニングをしていた。
「はっ、はっ、・・・・・隊長!」
「ん?どうした?南原隊員。」
南原が息を荒くしながら千冬に声を掛ける。
「その・・・・はあ、はあ・・・・・こんな朝早くから町内10周というのはいくら何でも厳しいのでは・・・・・」
「何を言っている?ZAT隊員たるもの、いざという事件の時のための体力づくりは重要だ!ほら、お前の後ろにいる新人二人を見てみろ。まだまだいけるぞ?」
「はあ・・・はあ・・・・・・」
南原は後ろで走っている一夏と箒を見る。確かに二人とも息切れをしている様子はない。
「そんな・・・・・・」
「ハッハッハッ、ここは先輩としての意地を見せないといけないな南原隊員!」
荒垣は、笑いながら走る。
「副隊長まで・・・・・はあ・・・・・先輩って辛いもんだな・・・・」
「しかし、隊長。我々がこう体力づくりをするのはいいのですが更識隊員は何故参加させなかったのですか?」
荒垣は他のメンバーには聞こえない声で千冬に小声で聞く。
「あぁ・・・・・どうやら実家の当主の姉がどうしても戻って来てほしいと揉め事になっていてな・・・・・」
「そうでしたね・・・・・彼女が組織に入隊した時も自分から家族と縁を切るって・・・・・・」
ZATがこのように日々、トレーニング&パトロールに明け暮れている頃、宇宙からとんでもないものが落ちてこようとはまだ誰にもわからなかった。
ZAT基地
「はあ・・・・・・疲れた・・・・・」
南原は、ぐったりとした顔で司令室のテーブルに座る。町内10周というのは流石にきつい。他のZAT隊員も結構堪えた様だった。
「千冬ね・・・・・じゃなくて隊長。トレーニングもいいとは思いますけど流石に毎日やっていたらいざというときに動けなくなっちゃいますよ?」
「うん・・・・・・・・お前の言う事も尤もだな・・・・・・・後日以降は量を減らして室内での簡易的なストレッチを中心にした方がいいかもしれんな。」
一夏に指摘されて千冬は首を傾げながら言う。そんな隊員一同の元へ、更識隊員こと更識簪が冷えた飲み物を持ってきた。
「お疲れ様です。」
「あぁ・・・・・更識隊員、ありがとう。」
南原はぐったりしながらも簪に礼を言って受け取る。
「はい、北島さん。」
「ありがとう。」
「西田さんも。」
「ありがとうございます!」
「えっと・・・・・織斑・・・・」
「あっ、俺は一夏でいいよ。」
「う、うん。はい、一夏。」
「サンキュー!」
「し、篠ノ之隊員も・・・・・」
「私も気安く箒って呼んでくれればいいぞ?歳も同じなんだし。」
「わかった。じゃあ、私も簪でいいよ。」
一同が冷たい飲み物を飲んでいると遅れて荒垣が何かを持って部屋に入ってきた。
「おい、みんな。全員に手紙が来ているぞ!」
「おっ?」
荒垣の言葉に全員が反応する。
「じゃあ、最初は南原。」
「・・・・・・あっ、実家からだ。」
「北島!」
「はい。」
一人一人が手紙を受け取り、中身を確認していく。
「織斑、篠ノ之。これはお前たち二人に宛られた手紙だ。」
「俺たち二人ですか?」
一夏は手紙を受け取ると中身を見る。封筒はドイツ語で書かれているが中の手紙は二人が読めるよう少しぎこちない日本語で書かれていた。
「ラウラからだ!」
「アイツ、読むかわからないって言っていたのに自分から送ってくるとはな!」
2人が懐かしむように読んでいる隣で荒垣は簪に手紙を渡す。
「更識、実家からだ。どうするかはお前次第だが偶には読んでもいいんじゃないか?」
「・・・・・・」
荒垣から手紙を受け取って簪はひっそりと部屋を後にしていく。
「・・・・・・・更識。」
千冬は賑わっている司令室を抜けて簪の後を追う。
少し廊下を歩いて行くと簪は手紙をゴミ箱に捨てようとしていたところだった。
「更識。」
「あっ・・・・・隊長。」
千冬に言われて簪は慌てて手紙を後ろに隠す。
「・・・・・・」
「・・・・・少し、座って話をしないか?」
近くの自動販売機のすぐ傍の椅子で二人は座りながら話を始める。
「・・・・・・っで、どうして実家から来た手紙を読まずに捨てようと思ったんだ?」
千冬に聞かれて簪はどうするべきか少し困った顔をするがゆっくり口を開いて語り始めた。
「隊長は・・・・・織斑隊員・・・・・一夏と姉弟なんですよね?」
「あぁ。」
「私にも一つ年の離れた姉がいるんです。」
「更識家 現当主の更識楯無か。条約改正前はロシア代表候補生だったそうだな。」
「はい。でも・・・・・・」
「ん?」
「私・・・・・・・姉の傍にいることが嫌になって家を出たんです。姉と比べられたくないって。」
「・・・・・・姉妹の間のコンプレックスというわけか。」
簪の言葉で千冬は何となく納得する。
「姉は、臆病な私とは正反対で明瞭快活で文武両道、料理の腕も絶品、カリスマ性や体つきも・・・・・・・」
「どの面でも比べようがないという事だな。」
「はい・・・・・・でも、私だって努力はしていたんです。勉強も運動も・・・・・・中学だって学績は常にトップを保っていました・・・・・」
「・・・・・フン。優秀過ぎる姉を持つとその後ろにいる者はみんなダメな奴と言われてしまうという事か。まるで私と一夏と同じだな。」
「えっ?」
千冬の言葉に簪は顔を上げた。
「私は、その昔一夏を守ろうと必死だったのでな。学績も運動も誰にも負けんと一生懸命だったんだ。・・・・・それで常にトップをキープしていて周りはみんな私のことを『秀才』と思うようになったんだ。だが、これが仇になって一夏を苦しませるようになってしまった・・・・・・」
千冬は苦笑しながら話を続ける。
「別に一夏は周りに比べれば十分高い素質を持っていたんだ。だが、私が注目され過ぎたためにアイツは世間から私の恥さらしやら、劣等品やら、出来損ないと言われてしまったんだ・・・・・・幸い周りにいい仲間がいて立ち直れたが。」
「彼がですか?」
「あぁ・・・・・その当時私が必死だったこともあって慰めの一言も言ってやれなくてな。未だに後悔しているよ・・・・・でもな・・・・全く無関心だったというわけじゃなかったんだ。守りたいという気持ちが強いばかりに時に人は目の前が見えなくなってしまうという事もある。」
「守りたい気持ち?」
「自分の弟や妹を大事に思っているなら誰だってそうなるものだ。それはお前のお姉さんも同じじゃないかな?」
「・・・・・・・」
「数日、休暇を与える。その手紙を読んで実家に行って話し合ってこい。それでダメなら私もこれ以上何も言わない。」
「でも・・・・・・姉が私の話を聞いてくれるかどうか・・・・」
「同伴で一夏と篠ノ之を付ける。一人じゃ心細いだろうからな。それならどうだ?」
「・・・・・・わかりました。」
千冬の言葉に戸惑いの表情を浮かべながらも簪は返事をした。
数日後 更識家 屋敷
「・・・・・・・もう、戻ってこないって言ったのにな・・・・・」
簪は、私服姿で屋敷の前に立っていた。後ろでは一夏と箒が付いている。
「しかし、驚いたな。簪の実家がこんなお屋敷なんてな。」
「更識ってどこかで聞いたことがあると思ったがまさか対暗部用暗部の家だったとはな・・・・・。」
感心している二人を他所に簪は屋敷の中へと入って行く。中庭を歩いて行くと三人の目の前に何かが飛び出してくる。
「うおぉ!?な、なんだ!?」
「怪獣か!?」
一瞬、人とは思えない姿に警戒した一夏たちだったが簪はすぐに制する。
「大丈夫、あれは彼女の趣味だから。」
「「えっ?」」
「お帰り~かんちゃん~!」
よく見るとそれは怪獣の着ぐるみを来た少女だった。
「待ってたよ~!私もお姉ちゃんもお嬢様もみ~んな心配していたんだよ?」
「簪、彼女は?」
「布仏本音、私の幼馴染で専属のメイド・・・・・“元”だけどね。」
「メイドなのか・・・・・・ずいぶんと変わった趣味を持つメイドなんだな・・・・・」
箒は、本音を見ながら言う。本音の姿はZATのデータファイルにあった数十年前に突如とあるデパートのおもちゃ売り場で現れた怪獣に何となく似ていた。
「さあさあ、お姉ちゃんもお嬢様も待ってるよ~。」
本音はピョンピョンと撥ねながら案内する。
「・・・・・あの独特の歩き方・・・・・・なんとかならないのか?」
「無理だと思う。本音って昔からあぁだから。」
三人は屋敷の中に入ると出されたお茶を飲みながら座っていた。
「お姉ちゃんは?」
「お嬢様?お嬢様は、病院に行っているけどもうすぐ帰ってくると思うよ。」
「病院?なんかの病気か?」
「う、ううん!そういうわけじゃないんだ!」
気になるように聞いてきた一夏に本音は笑いながら誤魔化すように言う。それに対して簪の顔は暗いまま。
「よかった~毎日手紙送っているのにかんちゃん返事一言も返してくれなかったんだもん・・・・」
「私はZATに入隊したときからこの家とは縁を切ったの。何をしていようが私の勝手でしょ。」
「でも、お嬢様、なんかかんちゃん出て行った日からすごく元気がなくなっていたよ?今日も帰って来るという返事聞くまで死んだ魚のような眼をしていたし。」
「あの人と私は次元が違うの。私はあの人のようになれなければあの人も私のことを理解することもできない。」
「う~ん~、でも、やりすぎなんじゃないかな?携帯は何度も機種変更して連絡先を教えないし、ZAT基地は、暗部の人でも立ち入り禁止だし。」
「そのくらいのことでもなくちゃ逃げられないもん。」
二人はそんな会話をしていると、何か数人の足音が聞こえて来た。
「おっ?簪のお姉さんが帰って来たんじゃないか?」
「どうでもいい。あの人とはもう生きる世界が違うから。」
「いくら何でも言い過ぎじゃないか?俺や箒でも千冬姉や束さんにそこまで言ったことはないぜ?」
そして、足音は四人のいる部屋の前で止まる。そして障子がゆっくりと開いた。
「か、簪ちゃん・・・・・」
簪は聞きたくないとばかりに声の主を睨みつける。
「私に何の用?悪いけどもう顔すら・・・・・・・!?」
「「えっ!?」」
障子の先にいる人物を見て三人は思わず驚いた顔をする。
確かに髪の色と顔の雰囲気は簪によく似ていた。
ただ、体はやせ細り、顔色も芳しくなく隣にいる顔立ちが本音に似ている女性に支えられて立つのがやっとの状態だった。
「か、帰ってきて・・・・・・ハア、ハア・・・・・・・くれたのね・・・・・・うっ。」
「お嬢様、もう休まれた方が・・・・・・・」
倒れそうになった楯無を本音の姉 虚が慌てて押さえる。
「いいの・・・・・・・・呼び出したのは私なんだから・・・・・・ゲホッ!ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!」
「お嬢様!」
咳き込み始める楯無を虚は必死に背中を擦る。この状況に簪は混乱状態だった。
「・・・・・・・どういうこと?」
「え・・・・・えっとね・・・・・・・かんちゃん・・・・・」
「後遺症?」
落ち着いて眠っている楯無の部屋の隣で一夏たちは、虚から事情を聴いていた。
「はい、あれは妹様が家を飛び出してすぐのことです。現在廃校になったIS学園である一体の怪獣が学園を襲撃したのは知っていますよね?」
「あぁ・・・・・確かZATが組織される少し前の話で確か『ケムラー』って言う毒ガスを吐く怪獣だったな。倒したのはいいがその後怪獣の遺体から猛毒物質が発生して、消毒された現在も閉鎖されていると姉さんから聞いてはいるが・・・・・・」
「はい、ケムラーが学園を襲撃した当時、お嬢様は学園にいた上級生・専用機持ちの代表候補生たちと共に迎撃に向かったのです。しかし、ケムラーの毒ガスによる被害は予想以上にひどくそのガスは絶対防御で守られているとはいえ、徐々にお嬢様たちの体を蝕んで行きました。私は生徒の避難指示で現場にいなかったのが幸いでしたがケムラーを討伐して安全地帯にまで待機してきたお嬢様含める搭乗者たちは、当初軽い頭痛程度の症状ですぐに回復しました。ところが、それから数か月後に体調が急変、戦闘に参加していた半数が急死、残りの半数も今のお嬢様同様、ケムラーの猛毒に蝕まれて亡くなった人や候補生から降ろされて祖国に引き上げた方もいます。」
虚は、気難しそうな表情で話す。
要は、今の楯無は怪獣の毒ガスの影響が徐々に表れ、今の状態に至っているのだという。
「それで・・・・・・簪のお姉さんは、今どういう状態で・・・・・・」
「今も24時間体制で診ていますがいつ悪化してもおかしくない状況です。最悪な場合・・・・・・」
「・・・・・・それで簪を呼んだのは?」
「お嬢様自らの頼みです。どうしても、会いたいと・・・・・」
「嘘!」
虚が言いかけたとき、今まで黙っていた簪は叫んだ。
「妹様?」
「かんちゃん?」
「どうせ、もう当主が務まらないから代わりに私を当主にしようって算段なんでしょ!あの老いぼれたちが考えそうなことだわ!」
一方的に決めつける簪に虚と本音は動揺した。
「い、妹様!?お、お嬢様は決してそんなつもりじゃ・・・・・・」
「この家はいつもそう!今まで私をさんざん除け者扱いしておいて、いざ困ったとなると手のひら返すように頼ってくる!虚も本音も信用できない!」
「かんちゃん・・・・・・」
「もう、これでいいでしょ?私はもうこの家に戻る気もないし、あの人とこれ以上合わせるつもりもない!だから、もうこれ以上私に関わらないで!」
簪はそれだけ吐き捨てるように言うとさっさと部屋から去って行ってしまった。その姿に呆然としていた一夏と箒だったが落ち込んですすり泣いている本音を見て駆け寄る。
「かんちゃんがあんなこと言うなんて・・・・・うぅ・・・・・」
本音は泣きながら言う。
「か、簪だって本当にそう思って言っているわけじゃないと思う・・・・・・・私の考えだが・・・・・」
「な、何とか説得してまた会いに行かせるから!そのとき、またゆっくり話し合えば・・・・・・」
一夏がそう言った直後通信機がサイレンを鳴らす。
「はい、こちら織斑。」
『私だ。』
「千冬ね・・・・じゃなかった!隊長!」
『別にいい。更識はどうした?』
「怒って飛び出して行ってしまいました。」
『そうか・・・・・・・お前と篠ノ之はすぐに基地へ戻ってくれ。世界の各ZAT基地に緊急警戒態勢が敷かれた。』
「えっ?」
『ZATニューヨーク本部からの報告で宇宙から相当の破壊力を持った怪獣が猛スピードで地球へ向かっているらしい。』
「わかりました。すぐに戻ります。」
一夏は、通信を切ると本音と虚の方へと向き直る。
「緊急指令が発令されたので俺たちはこれで失礼します。」
「大丈夫です。簪は必ず説得してまた連れてきますので。」
「行くぞ、箒。」
「あぁ!」
二人は急いで屋敷を後にして行った。
心配そうに見守る本音たちであったが屋敷の奥の方で目を覚ました楯無が騒ぎ始めた。
「簪ちゃんは!?簪ちゃんはどこっ!?簪ちゃん!?」
簪を探そうと無理に動こうとする楯無を虚と本音は慌てて止める。
「お嬢様、落ち着いてください!」
「そうだよ~!かんちゃんはまた来てくれるから!」
「簪ちゃん!?簪ちゃぁああん!!」
ZAT基地
「束、怪獣は何の目的で地球に向かってきているんだ?」
ZAT基地では、オペレーターの簪に変わって束が地球に接近中の怪獣から発する音波を解析しているところだった。
「うん・・・・・・ちーちゃん、一週間ぐらい前に落ちて来た隕石のことを覚えている?」
「あの隕石か?だが、あれは結局発見できなかっただろう?」
千冬の答えに束は腕を組んで椅子から立ち上がる。
「もしかしてなんだけど・・・・・・・その隕石、実は怪獣じゃないかって思うんだよ。」
「怪獣だと!?」
「隕石が落ちた当時、発生した音波と怪獣が発している音波を比べてみたんだけどパターンがよく似ているんだ。」
「じゃあ、最悪な場合二体同時に進行して来るというのか!?」
「まだ、わからないよ。隕石の方はあれ以降何の反応もないし、宇宙から来る怪獣は最初にニューヨークエリアに到達すると思われるから二体同時って言うことはないけど、仲間なら呼び合っているという可能性も否定できないね。」
「・・・・・取り敢えず私たちは隕石の落下したポイントをくまなく調べた方がいいかもしれんな。」
千冬は通信機で司令室に待機している隊員たちに命令する。
「荒垣、すまないが前回隕石が落ちた現場をホエールとコンドルで調査してくれ。織斑、篠ノ之は戻ってき次第、私と一緒にラビットパンダで現場に向かう。」
『了解!直ちに出動準備にかかります!』
通信を切ると千冬も現場に向かう準備を行おうとする。
「束、お前は引き続き音波の解析を進めてくれ。」
「オーケー、オーケー、任してちゃぶ台。」
そう言うと千冬は部屋から出て行った。
タイトルからわかる人はいるだろうけど次回はあの怪獣(最近再登場できたアレ)が現れる予定。
ちなみにのほほんさんの来ていた怪獣・・・・何かわかるかな?