戦場のヴァルキュリアThe after  Attack of true valkyria   作:ピロッチ

2 / 7
 新たなる戦に備え、着々と召集されつつあるかつての英雄達。
しかし、かつての戦友との再開を懐かしんでいる暇はない。



第2話 再度の召集

 翌日 ガリア南部メルフェア市 市立第2小学校

 

「全く、帝国は何を考えてるんだろうな…」

 

 ここはメルフェア市立第2小学校、ウェルキンの現在の職場である。

で、今日も例によっていつも通りに出勤したウェルキン。

 

「「「「「先生、おはようございまーす!」」」」」

 

「やあお早う!今日は少し寒いけど皆は大丈夫かな?」

 

「「「「「大丈夫でーす!!」」」」」

 

 登校する児童達に挨拶しながら職員室へ向かう。

その胸中は昨日の最後通牒の件で一杯だった。

 

「(戦争になったらこの子達はおろか、この子達の親兄弟も犠牲になる。

そうまでして、帝国はどうしてまた戦争なんて馬鹿な真似をするんだ…!

ダルクス人がそれ以外と共存するのが、そんなに気に入らないのか?)」

 

 心の中で帝国に愚痴りながら、いつも通り職員室に入ろうとすると…

 

「おお、ギュンター先生、ちょうど良い所に来てくれた!」

 

 教員が一人尋常ならざる様子でウェルキンに声を掛ける。

彼はこの学校の校長であった。

 

「ああ校長、おはようございます…何かありましたか?」

 

「実は君にお客さんが来てるんだ、ついて来てくれ!!」

 

「お客さん?はい、解りました…」

 

 

 

 

 

「それで校長先生、そのお客さんと言うのは…?」

 

「それがな…陸軍の軍人さんなんだ。」

 

「軍人…ですか?」

 

「そうだ、義勇兵監部(義勇軍の召集・管理を担当する部署)の

ピエローニ軍曹と名乗っててな、先生本人に直接渡したいものがあるらしい。」

 

「(ピエローニ…?)まさか…!」

 

「とにかく、ここで待たせてあるから入りたまえ。」

 

 校長に勧められて応接室のドアを開けると…。

 

「失礼します、って君は…ホーマー?!」

 

「お久しぶりです、隊ちょ…いえウェルキンさん!」

 

 そこにいたのは第二次ガリア戦役時代のウェルキンの部下にして、

第7小隊きってのマゾヒスト。

「戦場を駆ける白鳥」ことホーマー・ピエローニだった。

 

「ギュンター先生、知り合いなのかね?」

 

「ええ、彼は5年前の戦いの時に僕が率いていた小隊の隊員でした。」

 

「ああ、そうだった!確か先生は帝国戦の時…」

 

 どうやら校長はウェルキンの功績を忘れていたようだ。だが、

戦時にあってそれくらい平和なのが中立国の本来在るべき姿なのかもしれない。

 

「その節はお世話になりました。

それで早速なんですが、今回は義勇兵監部の者として、

これをお届けに上がりました。」

 

 そう言うとウェルキンに封筒を手渡す。

 

「これは?」

 

「召集令状です。28日にアマトリアン駐屯地より迎えが来ますから、

その際はこれを持って来てください。」

 

「召集…令状?」

 

 その言葉にウェルキンが固まる。

欧州で徴兵と言ったら町中に募兵の広告を貼って呼びかけるのが常識であり、

徴兵対象者に令状を手渡すという方式は聞いたこともない。

 

「実はですね、旧第七小隊の主要メンバーには

どうしても従軍してほしいという上層部の判断で、

今回、敢えてこのような形式を採らさせて頂いた…という次第です。」

 

「成程ね…(目頭を押さえる)。」

 

 なまじ大功を挙げたばかりに、

またしても戦場行きが決まってしまったウェルキン。

 

「解った、そういう事なら文句はないよ。所で気になるんだけど…」

 

「何です?」

 

「君は今『集合場所はアマトリアン』と言ったけど、

なぜガッセナール城じゃないんだい?」

 

 どういう事かと言うと、今ウェルキン達がいるメルフェア市は

ガッセナール城を本拠地とする南部方面軍の請け負う地域であり、

首都ランドグリーズの郊外にあって中部方面軍が請け負う

アマトリアン駐屯地へ集合させるのは筋違いではないのかと言う事だ。

 

「はあ…その事なんですが、

上から『旧第7小隊に所属していた者は全員アマトリアン基地へ召集せよ』

とだけ言われてまして、僕も上官に理由を聞きましたが、

軍機らしくて上官も『知らない』との事でした。

すいません…はっきりしなくて。」

 

「そうか…と言う事は、今頃アリシアも…。」

 

「はい。アリシアさんにも令状が届いてる頃かと…」

 

「そうか、そうなるよね…」

 

「本当に御免なさい。久々の再会で、

こんな辛いことを伝えなきゃいけないなんて…」

 

 申し訳なさそうに頭を下げるホーマー。

 

「気にしないでくれ、君は悪くない。悪いのは帝国なんだ。」

 

「ありがとうございます、では、僕はこれで失礼します。」

 

「ご苦労様です。御帰りはあちらからどうぞ。」「では。」

 

 校長とウェルキンに一礼し、ホーマーは応接室から退室した。

その後ろ姿を見て校長がこう告げる。

 

「ギュンター先生、その、何だ…出発の準備やらで色々忙しくなるだろうから、

今日の所はもう帰ってくれて結構だ、

他の教員と児童達には私から説明しておこう。」

 

「解りました。では、今日は失礼いたします。」

 

 そう言って立ち去ろうとするウェルキンに更に一言。

 

「ああ、待ってくれ。もう一つ忘れてたよ。」

 

「何でしょう?」

 

「…くれぐれも、生きて帰ってきてくれ。……頼む。」

 

「……………はい!」

 

 

 

 

 国境の町 ブルール市

 

「そう…ウェルキンの所にも…うん、解った。

じゃ、28日にアマトリアンで…ええ…それじゃ。」

 

 電話をしていたアリシアは受話器を置くとため息をついた。

 

「はぁ~…」

 

「あら奥様、どうかされましたか?」

 

 いつもらしくないアリシアの様子に

使用人のマーサ・リッポネンが声を掛ける。

 

「ああ、ついさっきウェルキンから電話があってね。

『こっちにも召集令状が来た』って連絡があったのよ。」

 

「んまぁ~!夫婦揃ってですって?!

私の家は上の息子二人だけですんだのに…あんまりじゃないですか!」

 

「う~ん…やっぱり旧第7小隊絡みなのかな。

マーサさん、それまで…イサラをお願いします。」

 

「勿論ですとも!イサラお嬢様の事は私にお任せください!ですが…」

 

「ですが?」

 

「お嬢様の為にも、ち ゃ ん と 二人揃って生きて帰ってきて下さいね。」

 

「はい…。」

 

 

 

 

 

 一方…ガリア北部の鉱山都市「ファウゼン」でも、

もう一人の英雄が今一度の戦場へと赴かんとしていた。

 

 

 

 

 

「お~いアバン、お前さんにお客さんが来てるぞ!!」

 

「あ、は~い!!」

 

 工員から名を呼ばれたのは作業着姿の赤毛の青年。

その正体はガリア人なら誰でも知っているあの男だった。

その名はアバン・ハーデンス。

 

 1937年、ガリア唯一の士官学校「ランシール士官学校」で

落ちこぼれと酷評されたG組を級長として引っ張り、

遂には反乱軍の総大将バルドレン・ガッセナールを討ち取った

内戦最大の英雄である。

 

 ランシールを卒業後のアバンは正規軍には入らず、

ガリア各地を巡って復興の為に働いていたが、その彼は今、

ファウゼンのラグナイト精製工場で一工員として働く日々を送る傍ら、

政府公認の自警団の隊長を務めていた。

 

 なおアバンには内戦での功績により、

対戦車戦のエースだった亡兄レオン・ハーデンスの二つ名

「赤獅子」の継承が国から公式に許されている。

 

「ダルクス人の眼鏡の兄ちゃんでな、

しかも軍人さんと来てるが、お前さん心当たりあるか?」

 

「ダルクス人?眼鏡の兄ちゃん?軍人?…ああ、ひょっとして!」

 

「んん?心当たりでもあるのか?」

 

「おう、一人知ってるヤツがいるんだ。それじゃ、ちょっと合って来るよ!」

 

「気を付けてな!」

 

 早速工場の玄関まで足を運ぶと、そこにはかつての同級生の姿があった。

 

「やっぱりな…ようゼリ、お前だったか!」

 

「久しぶりだなアバン、もう3年になるが…変わっていなくて安心したよ。」

 

 彼の名はゼリ。アバンと同時期に入学し、

内戦時にはG組の副長格として共に戦った戦友の一人である。

その後彼は正規軍に入隊し、被差別民族ダルクス人の出でありながら

内戦での功績と持ち前の才覚で頭角を現しているという。

 

「ああ、おかげさまでな。って、おまっ…その階級章は…」

 

 そんな彼の右肩には大尉の階級章が。因みに、彼は今年20歳である。

 

「ああ、これか?革命軍の残党狩りで功績を挙げていたら2月前にな。

ついにダルクス人の俺も中隊長になったって訳だ。」

 

「良かったじゃないか!…でそんなことより、今日は何しに来たんだ?」

 

「ああ、お前に渡すものがあって来たんだ。…こいつだ。」

 

 ゼリがそう言って渡したのは、

ウェルキン達に渡されたものと同じ召集令状だった。

 

「特別召集令状だ。28日に迎えが来るからそいつを持って来てくれ。」

 

「うええ、名指しかよ…。最近はこういう方法で兵隊集めるのか?」

 

「さあな、お前にはどうしても来てほしいっていう

上層部の熱意だと思って受け取ってくれ。」

 

「チェッ…ってか折角平和になったのに、

帝国の奴等、ガリアの何が気に入らねえっていうんだよ!」

 

「俺が知る訳ないだろう。文句は帝国の皇帝に直接言ってくれ。

とにかく28日に集合だ。俺は他の連中にも渡さなきゃならないんで、

今日の所は失礼する。」

 

「お、おう…」

 

 用件だけ告げると、余程急いでいるのかゼリは大急ぎで去っていった。

それを見送るアバンの肩を何者かがポンと叩く。

 

「よっ、二代目『赤獅子』。大変なことになっちまったな!」

 

「こ、工場長のおっちゃん…」

 

「そんなしけた顔すんな、死んだ兄貴が泣くぞ!

ほれ、今日はもう帰っていいから、出征の準備に行って来い!」

 

「へ、へい…。じゃ、オレはお先に。」

 

 帰宅の準備を始めるアバンに工場長が更に一言。

 

「おいアバン!」

 

「んん、どうしたおっちゃん?」

 

「お前ぇ、死ぬんじゃねえぞ!(サムズアップ」

 

「ああ、解ってるって、おっちゃんこそ無事でいてくれよ!」

 

 

 そして、約束の日はやって来た。

 

 

 ランドグリーズ郊外 ガリア軍アマトリアン駐屯地付近

 

 アマトリアン駐屯地へ向かう軍用バスが一台、その車内には…

 

「ねえラルゴ…」「何だよ?」

 

 ポッテル夫妻である。

25日にギュンター夫妻に会ったばかりの二人もまた召集を受け、

今こうして迎えのバスでアマトリアン駐屯地に向かっていた。

 

「こういう召集、普通は町中に動員令布告の広告を貼って呼びかける物よね…」

 

「そう…だよな…」

 

「なんで私達はわざわざ名指しで呼び出すのかしら?

ご丁寧に女公様直筆のサイン入りの召集令状まで出して。」

 

「俺が知る訳ないだろ。」←野菜抜きにされたせいで機嫌が悪い。

 

「私達、何をしたって言うのよ…あ~気が重い。」

 

 何が何だかわからないまま、バスはアマトリアン駐屯地へ向かっていく…

 

 

 

「うわぁ…凄い人だかり…」

 

 一次大戦後、ガリア軍を再建した際に

創建を指導した将軍の名から付けられたこの駐屯地は今、

無数の義勇兵でごった返していた。

 

「今度の動員は史上最大規模になるわよ。

聞けば大公様は第一次、第二次をすっ飛ばして、

いきなり最終動員令を発令したそうよ。」

 

「それ本当ですか?!最終動員令っていったら…」

 

どう言う事かと言うと、ガリア軍には三段階の動員令があり、

対象者はそれぞれ以下のようになっている。

 

 第一次動員令…志願者を除く20~29歳の男女と30~39歳の男性。

 

 第二次動員令…志願者を除く18~29歳の男女と30~45歳の男性。

 

 最終動員令 …志願の有無を問わず15~29歳までの男女と30~45歳の全男子。

 

 このうち、最終動員令は国家インフラの維持を考慮していないため、

長期間続ければ国家が破綻しかねない文字通りの捨て身の動員である。

で、これで集まった予備役は総勢80万人近くに達し、

その内の20数万人が正規軍10万と共に実際に前線に配備される事となる。

 

「そう長くは保たないわ。

軍需物資の備蓄を考えると、長くても1年といった所ね。」

 

 などと会話していると…

 

「よう隊長さん!!5年ぶりじゃないか、待ってたよ!!(敬礼)」

 

 軍曹の肩章をつけた女下士官に呼び止められる。

年の頃は30代前半だろうか、顔色が悪く、随分と性格のきつそうな女である。

 

「(うわぁ、恐そう…)え、えーと、どちら様でしたっけ?」

 

「ちょっ、隊長さん!アタシを忘れたのかい?!

ほら、ブルールで花屋やってた…」

 

「ブルール…?ああ!思い出した!」

 

 ブルールとはウェルキンの故郷の街、その単語でウェルキンは思い出した。

 

「きみは ぼくのしょうたいで とつげきへいだった ジェーンじゃないか!」

 

 彼女の名はジェーン・ターナー。

第7小隊では突撃班に所属していた義勇兵の一人である。

 

「(なんで片言なんだ?)やっと思い出してくれたかい?

あれから親っさんの下で修行を積んでな、今じゃこの基地の先任軍曹さ。」

 

「親っさん?」

 

「ほら、あの左目の無い…」

 

「「「「(ああ、あの軍曹か…)」」」」

 

 そんな彼女は戦後も軍に残り、親っさんこと隻眼の鬼教官、

カレルヴォ・ロドリゲス軍曹の下で教官となるため鍛えられ、

37年にロドリゲスがランシール士官学校へ実技指導教官として異動した際、

後任の教官を任されたのだ。

 

「おっと、こんな話してる場合じゃなかった。えーと確か…

ギーゼン将軍とかいうお偉いさんから

『ウェルキン・ギュンターとエレノア・ポッテルの二人が来たら連れてこい』

って命令を貰っててだな…」

 

「「ギーゼン将軍…?」」

 

 顔を見合わせるウェルキンとエレノア、

召集させられて早々いきなりそんな人物から呼び出しを受ける覚えはないが…

 

「陸軍の新しい総司令官様だとさ。詳しい話は向こうで

将軍様御本人から直々に説明して下さるって話だから、

2人はアタシについて来て欲しい、イイネ?」

 

「「アッハイ…」」

 

「ああそれと、残りの2人は別室で話があるらしいから…

おい伍長、この2人を案内してやりな!」

 

「うっす!(敬礼)では、自分に付いて来て下さい!」

 

「お、おう…」「解ったわ。」

 

 何が何やらさっぱりわからないまま、4人は駐屯地庁舎に通された。

 




 ガリアの予備役80万はやけに多いかもしれませんが、wikipedia先生曰く
現代フィンランドが人口530万人で予備役総数が100万名弱との事。
一方ガリアの人口はと言うと、公式設定資料集に曰く
1935年時点で人口432万人なので、フィンランドのおよそ8割です。
つまり、予備役80万人は理論上在り得ない数値では無い筈です。

次回「第3話 蘇る父の遺産」

 将軍の下に連れて来られたウェルキンとエレノア。
そこで言い渡された配属先と、戦場を駆る新たな相棒が明かされる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。