戦場のヴァルキュリアThe after Attack of true valkyria 作:ピロッチ
神の名の下に再度侵攻を図る彼等だが、
どうも上層部の思惑が一致していない様な…?
英雄大隊集結から話は少し遡って…
東欧帝国首都「シュヴァルツグラード」皇宮
「では、彼の
ここは帝国こと東欧帝国連合帝都、シュヴァルツグラード市の皇宮である。
その謁見の間の玉座に一人の老人が鎮座していた。
その名をフェルディナンド・フォン・レギンレイヴ。
彼こそがフォン・レギンレイヴ家第39代当主にして、
東欧帝国連合の第8代皇帝である。
「はい。つい今しがた駐ガリア大使を通じて外務尚書より
『コーデリア女公は動員令を発動。今月中に動員が完了する』
との報告がありました、事ここに至っては一刻の猶予もありません。
大使には速やかに帰国命令を下します。」
彼の前に跪く報告者は金髪白衣に月桂冠を被った壮年の男。
名はフランツ=ヨーゼフ・フォン・レギンレイヴ。
帝国の皇太子である彼は、老帝に代わって全軍の指揮を代行する立場にあった。
尚、ガリア侵攻軍の総大将を務めた
故マクシミリアン=ガイウス・フォン・レギンレイヴ準皇太子は
彼の異母弟である。
「フン、どうあっても歴史の捏造と歪曲に感けるか。
過去すら直視できぬとは、ダルクス人らしい劣等な振る舞い、
嘆かわしい限りじゃて。」
「仰せの通りでございます。」
連邦との戦いで危うく帝都陥落一歩手前まで追い詰められた帝国だが、
済んでの所で停戦に合意し、何とか帝都消滅の危機を免れた。
大西洋を挟んだ西の超大国「ビンランド合衆国」の仲介で講和条約も締結し、
漸く平和を取り戻し、復興も一段落ついた。それが帝国の現状だった。
そんな帝国の唯一の憂いが1935年のコーデリアの告白である。
彼女が「ダルクスの災厄の真犯人はヴァルキュリア人である」と宣言した事で
欧州に何が起きたのか。
まず、ヴァルキュリア人を神と崇める欧州最大の宗教組織
「ユグド教」の信徒達が大混乱に陥った。そもそも従来の欧州では、
「邪悪な術で欧州を苦しめるダルクス人からヴァルキュリア人が欧州を救った」
と言うのが歴史の通説で、ユグド教もそれを前提に成り立つ教団である。
だが、コーデリアの告白によれば
「ヴァルキュリア人はただの侵略者で、欧州を破壊した『ダルクスの災厄』は
ヴァルキュリア人がやった事をダルクス人に押し付けた」と言う事である。
もしもこれを認めた場合どうなるか。
まずユグド教の教義は全くのデタラメであるため、
存在意義がなくなった教団は即刻解散の憂き目にあうだろう。
そうなると、帝国の皇帝位は帝権神授説に基づき
神=ヴァルキュリアより授かった物とされている手前、
ヴァルキュリアの代弁者であるユグド教団が消滅すれば
帝国における皇帝位の根拠が無くなり、理論上誰でも皇帝になれてしまう。
更に、宗教は元々人間社会の基本的な倫理道徳の根源である。
これが消滅すれば既存の倫理道徳、社会秩序、常識、法律etcは根拠を失い、
人が人らしく生きる上で依って立つ物が無くなってしまう。
さあ大変だ。人々が欲望のままに生きる世紀末ヒャッハーランドの誕生である。
もっと短く纏めると、
「コーデリアの告白を認める=帝国が滅び、欧州が無法地帯と化す」
という事になりかねないので、
教団も帝国もこの主張を絶対に認める訳にはいかないのである。
帝国の反応は明白だった。早速コーデリアの告白を
「ガリア女公は『ヴァルキュリア人は自分達の所業を
ダルクス人に押し付けた卑怯者である』と公言し、
教団の存在意義を否定した」と非難し、教団を通じて撤回を要求した。
しかし、ガリアは断固拒否。'37年の内戦で女公本人が捕縛されようが、
頑として要求を撥ね付け、気づけばあれから早5年。
最早帝国国民の我慢は限界に達していた。
そんな訳で、フランツ=ヨーゼフ皇太子は
連邦戦が終結して復員に一段落ついた40年夏、
軍最高会議で再度のガリア侵攻を提案した。ここでガリアを滅ぼし、
あの忌々しいダルクス女を葬りさえすれば、
「歴史を捏造し、欧州の秩序を拒否し中傷したダルクス人に
ヴァルキュリアの加護を受けし帝国が正義の裁きを下した」で全て片付く。
「して、軍勢の配備は如何に?」
「抜かりは在りません。既に1個軍を国境線に揃えました。
今度は5年前のような失態は起きないでしょう。」
「確かにな、あの時は奴めがヘマをやらかしたせいで
我等はとんだ大恥をかいた。所詮は身分卑しい妾の子、
我がレギンレイヴの血統には不要な存在だったのだ。」
フェルディナンド帝も嫌そうに吐き捨てる。
「ご尤もでございます。彼奴の最大の失敗、
それは戦車師団のみを以てガリアを落とそうとした事…。
やはり歩兵と砲兵があってこそ戦車も役に立つ物なれば、
ガリア相手にはそれらも含めた大軍で正攻法をかけるのが一番でしょう。」
35年のガリア戦役で帝国は数多の新兵器を繰り出しながら、
ガリア義勇軍(特に第7小隊)と懲罰部隊こと第422部隊「ネームレス」の
活躍のせいでボロ負けしている。この敗北の影響は大きく、
帝国軍は兵器こそ進化したが、戦術は寧ろ退化した感があった。
なぜなら戦車の集中運用を訴えたマクシミリアンがガリアで敗死した事で、
「戦車の集中運用は誤り」という風潮が欧州の主流を占めたからである。
そのため帝国でも創設された戦車師団は
「強力な火力と防御力を活用する為」連隊ごとに分散され、
歩兵と組み合わせて配置するという旧態依然とした用兵術が主流だった。
(史実で言うなら「WW2でドイツがポーランドに返り討ちに会って降伏した」
レベルの大敗であり、こんな判断が下るのも仕方ない。)
何たって人口430万強の小国が圧倒的軍事大国の侵攻を撥ね退けるという
軍事史上の奇跡を起こしたのだ。
当時のガリア軍上層部の無能ぶりも相まってその衝撃は余りにも大きく、
戦略単位で戦車を集中運用するという考えは誤りとする風潮が出来るのは
ごく当然の事だった。
だがこの戦訓が後に帝国、否、欧州全土に極大の災いを齎す事になる。
「後は彼が来るのを待つばかりです、間もなく到着の知らせが来る頃かと…」
と、ちょうど良いタイミングで伝令が駆けつける。
「申し上げます!!シュレジエン公爵、御到着でございます!!」
「うむ。通してやれ。」
「ははっ!!」
その言葉に大貴族達がざわめく。
「何と、では、いよいよ…。」「ガリア討伐の時が来たと…!」
程なくして…
「シュレジエン公爵、御入来でございます。」
帝国の黒い軍衣に多数の勲章をぶら下げた軍人が謁見の間に姿を現し、
皇帝の前にひざまずく。彼こそハインリヒ・フォン・シュレジエンJr。
敬虔公の異名をとる東ヨーロッパ帝国連合の軍人貴族であり、
陸軍大将であると同時に公爵の爵位を持つ大貴族でもある。
若い頃から亡父ハインリヒ1世に代わり公爵領の経営を取り仕切り、
父の生前から既に事実上の当主として高名な人物であった。
「皇帝陛下、ハインリヒ、只今罷り越しました。」
「うむ。この度その方を呼んだ理由…分かっておるな?」
「はっ、あの忌まわしき悪女めを討伐せよと仰せられるのですな。
神聖なるヴァルキュリアを汚し、我等ヴァルキュリアの信徒を
ダルクスと同じ地に貶めんとする妄言、断じて許せませぬ。
このハインリヒめが必ずやあの悪女めを葬って御覧に入れましょう。」
何せ敬虔公などと呼ばれる程のユグド信徒である。コーデリアの告白も
「『ヴァルキュリア人は自分達のやった事をダルクス人に押し付けた嘘つき』
と貶め、ダルクス人である自分の公位を正当化しようとしている」
と前々から嫌悪感を示していた。
「それは頼もしい!公爵の責任は重大であるぞ。」
ここでシュレジエン公の言葉に合いの手を入れる者が。
白一色の法衣に、首から螺旋の紋章を下げたこの人物こそ、
何を隠そうユグド教団の長、教皇ペロン1世その人である。
「この戦は神の威光の下、欧州に秩序を取り戻す聖戦である。
来たるべき決戦に備え、後顧の憂いを完全に断ち切らねばならぬ。
年内には必ずやガリアを地上から消し去るのじゃ。」
「年内…と仰せられますか。」
「左様、今や帝国軍は神の御加護を受けし聖軍。
神の加護に護られし聖軍の快進撃の前に
邪悪なガリア軍は一蹴され、以て正義が行われるのじゃ。
敬虔公と名高きそなたなれば、どれ程でガリアを落とせる?」
「凡そ、この程度かと…。(6を示す)」
「流石は公爵!ガリア如きなど6週間で落とせるといった所ですかな?」
「これは頼もしい限り!」
「来年には余計な国境線が無くなると仰せられるか、何よりですな。」
ガリアは6週間で落とせると思った貴族達は公爵の自信を称賛する。
しかし、公爵は首を振る。
「何か勘違いをしておられる。6といえば6か月でございます。
年内にガリアを落とすなど、無謀も無謀。」
「「「「「えっ…」」」」」
公爵の発言にその場の一同が絶句した。長い、長過ぎる。
予想以上に戦闘が長引くと予想した公爵の言葉に
その場の空気がにわかに怪しくなる。
「聖軍の快進撃の前にガリア軍は一蹴され、ガリアは年内に落ちる?
バカバカしいと言う他ありませんな。」
「こ、公爵?!教皇聖下の御前で…」
だが、シュレジエン公は窓を指差した。
「では、外をご覧下され。」
「外…?」
一同が窓に目を向けると…
「ああ!雪が…!!」
窓の外には雪がチラホラ。実はこの時期、
帝都近辺はそろそろ雪が降り始めるのである。
「左様でございます。兵士達には越冬の準備が必要です。
ましてや山がちなガリア東部の積雪量はこことは桁違いです。
前回の様に春に攻めるなら、6週間もあれば大勢は決します。
ですが今からとなれば雪で進軍が遅れ、それ相応の長期戦となりましょう。
皇帝陛下におかれましては、何卒わが軍に充分な冬季戦の備えを賜りたい。
それさえきちんとしていれば我が方の勝ちは揺るぎませんので。」
「「「「「………………!(し、しまったぁ~。)」」」」」
痛い所を衝かれた。皇帝としては
あの忌まわしい小娘の即位記念日である10月末日に宣戦を布告し、
過去を捏造せしめる反逆者への死刑宣告替わりにしてやろうかと思ったが、
かつて連邦の大反攻作戦を阻んだ降雪は自分達にも牙を剥く事を
すっかり忘れていた。しかし、納得していない者が凡そ1名。
「こ、公爵!ヴァルキュリアの代理人たる余自ら祝福を授けし聖軍が、
あのような小国如きを滅ぼすのに、ろ、ろ、6か月もかかると言うのか?!」
「かかりますとも。神のご加護の下、華々しく快進撃して大勝した…
聞こえは宜しいですな。しかし、私の戦いには全く必要ありません。」
「こ、こ、こ、このペロン直々に授けしヴァルキュリアの祝福が、
信用ならんと言うのか?!」
「戦場は神の加護、祝福の類の質、量を競う場所ではありません。
勝って初めて神が勝者にそれらをお授け下さる所と心得ております。
ましてや、ひとたび聖戦を掲げた以上、万が一負ければ取り返しが付きません。
教皇聖下におかれましては、『聖戦だから勝つ』のではなく、
『勝ったから聖戦なのだ』とお考え頂きたい。」
「帝国一の名将ともあろう者が、そんな臆病でどうするのだ?!」
「私は衆目を喜ばせる面白い策は求めません。小が大を破る奇策も使いません。
制覇は当然の如く成すべし。それが帝国の戦いというものです。
短期決戦を焦って高転びし、5年前の恥の上塗りをするくらいなら、
多少時間がかかろうが、確実に勝てる手を選びます。
勝ち方に拘って戦う様な真似は致しかねます。」
「そんな無様で消極的な戦で、臣民共に何と申し開く積りなのだ?!」
「臣民にはただ『ガリアに勝った』の一言が伝わればそれでよろしい。」
「仮にも敬虔公と呼ばれし者が、ヴァルキュリアの加護を頼みとせんとは
情けないとは思わんのか、信仰心を疑わざるを得んぞ!」
「信仰と勝ち負けは別です。まずは勝つ事が優先します。
我等軍人が信仰を証明する手段に勝利以上の物がありましょうか?
それとも、連邦との緒戦であれだけの勝利を挙げても、まだ不足とでも?」
教皇相手に面と向かって切り返すシュレジエン公。
彼は戦場では堅実かつ冷静な将軍だった。
と、ここで黙っていたフェルディナンド帝が一言。
「シュレジエン公…。」
「はっ。」
「その方、冬越えの準備さえあればガリア攻めに問題無いと申すのだな。」
「左様です。予定通りに侵攻を開始せよと仰せならば、
何卒、大至急冬季戦装備を手配して頂きたく存じます。」
「……………良かろう。フランツ、あらゆる手段を以て
冬の備えを出来るだけ速やかにガリア討伐軍全軍に届く様手配せよ。」
「……御意。」
「皇帝陛下?!」
「教皇聖下、申し訳ないがこれは殊軍部にて特に実力と実績ある者故、
余は公爵の論に賛成する所存である。…異論は有りますまいな?」
フランツ=ヨーゼフも黙って頷く。
「…………くっ、そこまで言うのなら、そう言う事にしておこう。
但し、そこまで見栄を切ったからには、必ず半年でガリアを討伐するのじゃぞ!
では、余はヴァチカニウムに帰らせて貰おう。吉報を待っておるぞ。」
結局、折れたのはペロン教皇だった。御付の神官達を連れて、
憤懣やる方ないと言った様子で謁見の間を去って行った。
「やれやれ、困った御仁だ。」
「聞けば彼の者、実家ボルジア家の金の力で
5年前に暗殺された親族の後任の地位を掠め取り、
先代の教皇が病死されて急遽後任に選ばれてからは
親類縁者で側近を固めておるらしいな。」
「教皇聖下の縁故主義にも困った物です。」
皇帝と皇太子の言う通り、
このペロン教皇、聖職者としてはかなり問題のある人物であった。
彼は帝国屈指の大貴族ボルジア公爵家の一門であり、
'35年に暗殺されたユグド教枢機卿、
故ジェンナーロ・ボルジアは彼の従兄弟であった。
元はうだつの上がらない辺境の司教だったが、ジェンナーロが暗殺された際、
教団への影響力を維持したい実家の意向を汲み、
金の力でジェンナーロの派閥を味方につけまんまと後継者の地位を確保。
僅か2年で自分を大司教を経て枢機卿に昇進させ、
更に翌年に前教皇が病死すると、またも実家の金の力で他の枢機卿を丸め込み、
自分を後任の教皇に選ばせたと言う。
就任後はビンランド合衆国を訪問して首脳陣を説得し、
停戦講和の仲介役を務めさせた事で平和の仲介者としての名声を上げると、
この名声を利用して戦後復興を大義名分に民衆から御布施をまき上げ、
皇帝が言った通り親族を枢機卿に取り立てて親類縁者で権力を独占し、
さらには皇帝に取り入って帝国の国政に口出ししようとするなど
その自己中心的な言動から、貴族達から陰口を叩かれている。
「まあ良いわ…では公爵、改めて勅命を下す。」
「はっ。」
「ガリアへの侵攻は予定通り決行せよ。年内とは言わぬ故、
出来るだけ早くガリアを攻め滅ぼして見せよ。」
「お任せを。」
かくて帝国は5年前の雪辱を果たすべく、再度ガリアへの侵攻に取り掛かる。
それが帝国、いや全欧州に途轍もない災いを齎す事など誰が予測できただろう。
その萌芽はもう始まっていた。
まあ、素人の宗教家が口出しすればこうなるでしょうね。
次回「第6話 雷鳴の時」。
月の終わりが平和の終わり。第3次ガリア戦役、開戦の時は来た。