戦場のヴァルキュリアThe after Attack of true valkyria 作:ピロッチ
まずは開戦6時間前、帝国軍の作戦会議の模様をご覧下さい。
10月30日午後18時 東欧帝国‐ガリア国境付近 ガリア討伐軍総司令部野営地
この日、ガリア討伐軍本部は物々しい警戒態勢が敷かれていた。
何が起きているのかと言えば、
本部の置かれた大型テントの内部で討伐軍総司令官シュレジエン公をはじめ、
軍団長、師団長、旅団長といった幹部や彼等の参謀を務める高級士官が集結し、
6時間後の作戦開始に備え作戦の最終確認を始めた所なのである。
「では、改めて作戦を確認する。グレゴール中佐、再度作戦を説明せよ。」
「ははっ!」
説明を命じられたこの士官の苗字にピンと来たらその予想は大体正しい。
彼の名はエルンスト・グレゴール。
かつてガリア戦役でガリア北部侵攻を指揮し、戦死した第205軍団長、
故ベルホルト・グレゴール大将(戦死により特進、生前は中将)の甥であり、
35年のガリア戦役当時には対連邦戦に大尉として従軍。功績を挙げて昇進し、
現在は中佐としてシュレジエン公の参謀の一人を務める将校である。
「まずは現状の確認に入ります。我々の現在位置はガリア領内を流れる
ヴァーゼル川流域の(ガリア地図の一点を指し)ここになります。
事前の打ち合わせ通り、わが軍の布陣は北から順に
ヴィスコンティ中将の第16軍団、ユスティジア中将の第42軍団、
シュレジエン公直率の第34軍団、アールパードハージ中将の第23軍団。
以上総勢40万が国境線に展開し、帝都から命令あり次第
いつでも行動開始できます。…ここまではよろしいですな?」
「「「「(黙って頷く)」」」」
グレゴール中佐の説明通り、
今回ガリア討伐作戦に派遣されたシュレジエン公配下の軍勢は、
戦線最北を担当するその名の通り子爵の爵位を持つ貴族軍人
セバスチャン・ヴィスコンティ中将率いる第16軍団。
そのすぐ南方を担当するのは、宰相を何度も輩出した帝国屈指の大貴族
ユスティジア家の長女にして、酷薄非情な戦い方で功績を挙げた
若き女将軍アウグスタ・ユスティジア中将率いる第42軍団。
更に南方は総司令官シュレジエン公が直接率いる第34軍団。
最南部の担当は、皇室とも姻戚関係にある辺境伯家の当主、
ベラ・アールパードハージ中将率いる第23軍団。
どの軍団も対連邦戦に参加し、緒戦の優勢に功績が有った歴戦の軍勢である。
1個軍団には4個師団に軍団長直属の砲兵連隊、戦車連隊が付き、
更にシュレジエン公が束ねる軍司令部には万一の穴埋めとして
予備の歩兵師団が2個置かれている。'35年の開戦初頭、この様な軍が8個と
総勢10万人の各種独立部隊が投入され、連邦軍相手に快進撃を見せた。
そして今、その恐るべき軍勢40万人が現在ガリア国境に犇めいている。
「我々は午前0時を迎えた時点で即時行動を開始。この地図で示された通り
(地図にはガリア軍の手薄な箇所が赤丸で示されている。)
事前に発見したガリア軍の脆弱点に兵力を集中させ、
作戦開始と同時に砲兵により脆弱点と周囲に一点集中攻撃を仕掛け、
防衛線に突破口を形成します。
形成完了次第、各師団は戦車連隊と自動車化歩兵連隊各1個ずつを抽出し、
機動旅団を編成し、それらを集合させて『機動集団』として
各戦線の突破口から突入させます。機動集団は突入後、
状況に応じて敵後方の重要地点に急行、
あるいは残された通常歩兵部隊との挟撃にて敵軍勢を撃滅し、
指揮系統を混乱させます。
しかる後、残りの軍勢にて遊兵化した敵を撃滅し、
ガリア軍の残存兵力を粉砕して決着とする。
…以上が、今回のガリア討伐作戦『正義の雷』の概要となります。」
「うむ。…ここまでで何か質問のある者は?」
シュレジエン公の問いに、早速ヴィスコンティ将軍が挙手した。
「では、私から。先程グレゴール中佐は
『戦車と自動車化歩兵を以て構成される機動集団を以て後方に突破を図る』
と説明されたが、機動集団ばかりが突出すれば、
たちまち支援砲撃の射程外に飛び出してしまいしょう。
敵もわざわざこちらの砲兵の射程内に重要拠点を置いたりはしますまい。
突破後の火力支援はどうする御積りで?」
「うむ、それに関しては高機動旅団を構成する戦車連隊と
自動車化歩兵連隊には全て自走砲による砲兵大隊を配備させてある。
具体的には…中佐、説明を。」
「はっ、各自動車化歩兵連隊には122mm自走砲Pzh-122を、
戦車連隊には152mm自走砲Pzh-152をそれぞれ12門ずつ配備済みです。」
その回答に他の将軍他高級幹部達が口々にダメを出す。
「それでは足りませんぞ!」
「そうだ!我が方の榴弾砲はガリア軍の物より射程が短い!」
「せめてカノン砲を回して頂きたい!」
文句を言うのも仕方ない。帝国軍の榴弾砲は
口径122mmの「M-222-122」と、口径152mmの「M-222-152」が現行機種だが、
2種類共に最大射程距離は12,000mしかない。
一方、ガリア軍が配備している榴弾砲は105mmと150mmの2種類だが、
旧型の105mm砲「leFH18M」と150mm砲「sFH18」ですら
最大射程距離はおよそ13,500mと大きな差をつけている。
そして、現在配備中の現行機種「leFH37」と「sFH36」は最大射程距離15,000m。
このまま戦いを始めれば、帝国軍は砲兵戦でアウトレンジされて大いに不利だ。
だが、グレゴールは慌てず騒がずこう返した。
「心配は無用です。助っ人を用意しました。」
「「「「助っ人…?」」」」
そこに、テント外からシュレジエン公に呼び声が。
「伝令!!総司令官閣下に報告!!」
「何事か?!」
「申し上げます。メクレンブルク将軍率いる第1航空艦隊、
ただ今仮設補給所に到着致しました!!」
「おお、やっと来たか!!」
その報告に他の幹部達はざわついた。
「こ、航空艦隊?!」「いつの間にそんな物を…」
「参謀、そんな話は聞いていたか?」「いいえ、全く聞いておりません。」
ざわつく幹部達をシュレジエン公が手拍子で鎮め、このように呼びかけた。
「諸君、静粛に!聞いた通りだ。機動集団への火力支援は航空艦隊が補完する。
この艦隊だけで最大2,000tもの爆弾をガリア軍の頭上に降らせられるだろう。
どうだ、これなら火力不足の不安はあるまい。」
「何と、2,000t!!」
「確かに…それだけあれば支援としては充分だな…。」
「考えたら飛行船は戦車よりも高速で移動できる…
機動集団にも簡単に追随できよう。」
「都市攻撃用の航空艦隊で前線の火力支援を行うのか、この発想は無かった!」
他の将軍達も航空艦隊の支援を受けられると聞いた事で納得した様だ。
「これで異論は無いな。都合の良い事に向こうは4個分艦隊で構成される。
こちらも4個軍団なので、各軍団につき1個分艦隊を支援の為に追随させよう。」
「更に言えば、各飛行船は対戦車砲、カノン砲、重機関砲で武装しているので、
それらの重火器で対拠点、対戦車攻撃も可能です。
トーチカや戦車は上に攻撃できず、しかも上側の装甲は薄い。
一方的に攻撃、撃破可能です。」
「何と!勝利が手招きをしているような物ですな!」
「これなら我等の勝ちは揺らぐまい!」
「この戦、年内にはけりが尽きましょう!わっはっは!」
「浮かれるのは早い!」
幹部達にも楽観の色が見えだしたが、シュレジエン公が一喝して場を制した。
「戦いはまだ始まってもいないのだ。
勝利を噛みしめるのはかの劣等なる者共の都ランドグリーズを陥とし、
諸悪の根源、コーデリアめを討ってからである、それを忘れるな。」
「「「「「………………。」」」」」
「では、続けよう。他に質問のある者は?」
「なら、今度は私から。」
今度はアウグスタ将軍から質問が。
「中佐、この戦車に覚えはある?」
アウグスタが提示したのは、先代エーデルワイス号の写真だ。
「これは例のガリア新型戦車ですね。確かエーデルワイス号だったかと…」
「前回の戦いで、我が軍の戦車はこのガリア新型戦車たった1輌相手に
大きな被害を被ったとの事。この車両自体は破壊されたとの事ですが、
修復された、もしくは後継車両が出てくる可能性が有ります。
総司令官はもしこの新型、あるいはその後継が出てきた場合、
どうするべきとお考えでしょうか?」
「うむ。私としては、特に対策の必要は無いと考えている。」
「その理由は?」
「こんな事も有ろうかと、受領した戦車は砲塔を換装し、
主砲には『N-555』を搭載させておいたからだ。」
「N-555…確か夏から生産開始した最新型85mm砲ですか。」
「駆逐戦車の主砲『D-5T』の35口径から砲身を20口径分延長した最新型か…」
「貫通力は旧来の対戦車砲N-444の3割増というらしい。」
「それなら安心だな…」
「万一N-555が通じなかった場合は、『ドレッドノート隊』に
相手をさせれば事足りるだろう。それでも駄目なら、
我が切り札『ポポジュヌィ』で相手をするまでの事。
兵器は性能では無く使い方が肝心なのだ。
不信心なガリア人は碌な使い方を知らぬ。どの道、大した脅威ではあるまい。」
「成程…3段構えの対策を取っているから安心と…。
なら、問題は有りませんわね。」
「分かればよろしい。他に質問のある者は?」
「……」
「では、各軍団の侵攻ルート確認を行う。中佐、説明を。」
「はっ、各軍団の大まかな侵攻ルートですが、
まず前回のガリア戦からの変更点として、北方の回廊は
再建された新ギルランダイオ要塞、中部のヴァーゼル川流域は
新設されたアルビゴグ要塞で固められております。
脆弱点を衝くという今回の作戦上、ここを相手にしている暇はありません。
従って、まずヴィスコンティ将軍の軍団はガリア最北端の隘路を通り、
マルベリー海岸を経由してナジアル平原へ南下して頂く事になります。」
「承知した。」
「ユスティジア将軍の軍団は、
総司令官直率軍団と共にバリアス砂漠を通って頂きます。」
「幸い、あの地には奴等が神を貶める戯言の根拠とする『例の遺跡』が有る。
ヴァルキュリアの民が築いた遺跡だが、
彼奴等の冒涜的所業の拠り所となった以上、
一思いに破壊してしまうのが一番だろうと考える。どうか?」
「それは素晴らしい!是非そのルートで参りましょう。」
「そして、最南方担当のアールパードハージ将軍の軍団には
ガリア南端、クローデン森林地帯を通って頂きます。」
「クローデンかぁ…了解した。しかし戦車で通れるか?」
「ご安心を。前回の戦いで50t超級の重戦車でも
あの辺りの走行は可能だった事が証明されております。」
「成程、なら問題ない。」
「分かりました。では作戦と侵攻ルートの最終確認はこれで終了とします。
宜しいですね?」
グレゴール中佐の言葉に幹部達が一斉に頷いた。
「では最後に総司令官から訓示があります。皆様、御起立願います。」
合図で幹部達が一斉に起立し、踵を揃える。
「聞け、諸君!!ダルクス人ごときが我等と平等に共存する事等、
神は決してお許しにはなられない。
まして、太古の罪をヴァルキュリア人に押し付けんとするなど言語道断。
今やガリアはヨーロッパその物を乱さんとする悪の巣窟と言えよう!!
我等が為すべき事は一つ!
帝国の正義の下、今度こそガリアを滅ぼす事である!
欧州に正義を布くのは、我等帝国にのみ許された特権。
神の子ヴァルキュリアの加護の下、
ダルクス人の妄言に踊らされるガリアの蒙昧に奴隷の鉄鎖を!!」
「「「「「おおおおおお!!」」」」」
「以上だ!それでは解散し、各々の持ち場に戻り作戦開始の合図を待て!」
「「「「「ははっ!」」」」」
シュレジエン公の言葉は差別的ながら、
今の帝国人民の多数意見を見事に言い表していた。
もしガリアの主張を信じるなら、全欧州が2000年にわたって神と信じていた
ヴァルキュリア人が嘘をついていた事になる。
それではヨーロッパの歴史そのものが根底から覆ってしまうのだ。
そして今のガリアはそれを真実として欧州全土に広めようとしている。
それこそ古代の惨劇『ダルクスの災厄』の再来ではないか。
欧州の歴史を覆し、ヴァルキュリアを神から引き摺り下ろす事で、
人の世が依って立つ法理法則を原則から否定する空前の暴挙ではないか。
だとしたら我等帝国がそれを食い止めねばならない。
誰もがそう信じて疑わなかった。
2000年にわたる根強いダルクス人への偏見と悪意が彼らにそう信じさせていた。
だからこそ彼等は悲劇に見舞われたのだ。一体誰が気付いただろう?
彼等が想像するダルクスの災厄などとは比較にならない、
真の災いがすぐそこに迫っていた事に…
早く実際の戦闘まで時間を進めたいけど、
果たしてうまく表現できるかな…?
次回、開戦前夜編最終回「第7話 今一度の戦場へ」
今度は同時刻のガリア側の様子と、
宣戦布告までのカウントダウンです。