「私、もう風先輩のこと信じられません!」
そう言って東郷先輩は車椅子の車輪を回して部室から出て行った。慌てた様子の友奈さんもそれを追いかけて部室から出ていく。
後に残されたのはやっちまったという顔の姉と固まった私だけだった。
私号泣事件から6時間後、部室にはみんなが集合していた。
そこでお姉ちゃんからバーテックスのこと、勇者部が大赦の意向で集められた集団であり、発起人の姉はその手下だった事が語られた。
姉妹である私も初耳だったが秘密にされていた事自体に東郷先輩はショックだったらしく、このような事態に陥っていた。
「いや、ホントにゴメン! ……これは少し軽すぎかしら?」
当の本人はスマホから出した精霊である犬神相手に東郷先輩への謝罪を模索していた。
いやそれは普通に怒らせるだけでしょ。
漫才を始めた姉を横目にカバンからタロットカードを取り出してどうにかお姉ちゃんと東郷先輩が仲直りできるか占ってみた。
死神! 死神! 死神!
グッバイ東郷先輩。三週間ほどの付き合いでしたがあなたはいい先輩でした。友奈さんと末永く。
「……ううう、樹―。占いなんかいいの出た?」
犬神との二者面談は上手くいかなかったのかお姉ちゃんが泣きついてきた。何も答えない犬神に聞いてもダメでしょうと思いつつ、占いの結果を見せる。
「死神のスリーカード。これならジョーカーにも勝てそうだね……」
我ながらくだらないジョークに失笑。
「うがー! もうだめじゃあ!」
ついに万策尽きたのかに転がる我が姉。床掃除なんて殊勝な心がけだと感心。洗濯するのあなたですよ?
「もう、お姉ちゃん。東郷先輩と友奈さん連れてくるから謝り方考えててよ」
変に考えるより直接合わせた方がいいと結論づけて私は二人を探して部室を出る。
東郷先輩が車椅子であることを加味するとそれほど遠くには行っていないだろうと結論づけて階段を降りていく。
二階の踊り場の窓から外を眺めてみるとちょうど校舎同士の通路にいる二人を見つける。
二人を追いかけて階段を降りて通路に入ったところで影になったいたところに思わぬ人がいた。
少し離れた場所にワニー先輩がギターケースを背負って立っていた。
「あっ! ワニー先……輩?」
話しかけようと近寄り、先輩の顔を見て足を止めてしまう。ワニー先輩は東郷先輩と友奈さんの方を見ていた。
その表情を見て心臓が止まったような気がした。
その表情はとても優しくて、愛しいものを見る表情で、切ない表情で、私には向けられたことのない表情だった。
その表情を見ていると胸がチクチクと痛む。
端的に言って嫉妬だった。
視線の先をたどって見るとそこには東郷先輩がいた。
落ち込む東郷先輩を慰めようとしてスベった友奈さんを東郷先輩が逆に慰め、そんな様子を遠くから、隠れるようにワニー先輩は眺めていた。
どうしてそんな切ない表情をするんですか?
質問を心の中で呟いても答えは帰ってこない。
一歩前進み、ワニー先輩を問いただそうとした時、スマホが鳴り出す。
「え? これって、また今日もなの?」
慌てて取り出して画面を見て見ると『樹海化警報』の表示が出ていた。
画面から目を離し、もう一度周囲を見渡すとヒラヒラと落ちるはずだった木の葉がカメラを止めたみたいに空中を静止していた。
周囲から光が満ち溢れ、昨日のようにあの神樹様の世界が広がろうとしていた。
眩しくて思わず腕で視界を守る。
腕で占められた視界の端、驚いた表情のワニー先輩と目があった気がした。
時間が止まっているはずだから目が合うはずないのに、私を見て欲しいと願ったからだろうか?
そんな考えの中、光が収まる。
周りを見渡すとそこは昨日ぶりの光景だった。
現実では見ることの出来ないような太さの根が大地を覆い、最奥には巨大な樹木である神樹様が厳かにその姿を現していた。
変身して根の上を飛び超えてお姉ちゃんと友奈さんの方へ合流する。
「昨日ぶりになる、宮司だ」
二人と合流を果たすと待っていたように感情のこもらない宮司さんの声が聞こえた。
「今回もよろしくお願いしまーす!」
「今回の敵だが三体、それも連携を組んでくるタイプだ」
友奈さんの挨拶を無視して宮司さんは話を始める。無視された友奈さんは若干凹んでいた。
そんなことは構うまいと宮司さんの話は続く。
「手前に来ているうち、尾の長い方が蠍座、板のようなものを付随させているのが蟹座だ。奥にいるのが射手座。射手座が遠くから射撃し、それを蟹座が反射させて追い込み、蠍座が各個撃破、それが奴らのやり口だ。まずは要になる射手座から始末しろ」
「分かりました! 結城友奈行きます!」
先程まで凹んでいたのは気にしないことにしたのか、友奈さんは宮司さんの指示に従って遠くにいた射手座の方へ飛んでいく。
「じゃあ、私と樹は手前の方二体やっちゃいますか!」
「油断するな。その蠍座は特に攻撃に優れてる。慎重にあくまで複数人であたることを意識しろ」
「了解しました!」
手前の二体のバーテックスに向かって私とお姉ちゃんは跳ぶ。近づいてくる私たちを蠍座がその長い尾を伸ばして迎撃する。
伸びた尾をお姉ちゃんが大剣を盾にして防御する。それでも勢いは殺しきれず、コマのようにお姉ちゃんは吹き飛ばされていく。
「お姉ちゃん! キャー!」
思わず、驚いてそちらを向き、叫んでしまい、それがいけなかった。
後ろを振り向いてしまったことで正面からしなって、薙ぎ払われる蠍座の尻尾に気がつかず、思いっきり私も吹き飛ばされる。
衝撃の瞬間、現れた私の精霊の木霊がバリアを張って守ってくれる。
もし木霊がいなかったらと思うと冷や汗が背筋を流れる。
空襲でワイヤーを伸ばて手近な根に巻きつかせ、クモのように空中を移動する。
幸い、射手座の方は友奈さんが足止めしてくれるおかげで、飛んでくるらしい矢は今のところ飛んでこない。
「こんにゃろー!」
復帰してきたお姉ちゃんが大剣を振り回して蠍座に肉薄する。
しかしお姉ちゃんと蠍座の間に蟹座が割り込む。割り込んだ蟹座に大剣があたるが傷がついたような感じはしない。むしろ攻撃したお姉ちゃんの方が反動でよろめいてそこを蠍座の尾が襲う。
お姉ちゃんを守ろうと蠍座の尾に向けてワイヤーを伸ばし、動きを止めようとしたが力負けし、私ごと尻尾がお姉ちゃんに振るわれる。
「言ったはずだ、一人でどうにかしようとするなと!」
宮司さんの怒った声が聞こえた。
飛んできた数発のミサイルが蠍座に当たり、蠍座の動きを少し留める。
その間に私とお姉ちゃんは少し距離を開けるために後ろに飛ぶ。
その時、悲鳴でドップラー効果を起こしながら友奈さんがこちらに飛んできた。
見ればとんでもなく巨大な矢が友奈さんに当たり、そのまま吹き飛ばされていた。
それを蠍座が追いかけ、追撃しようとしていた。
友奈さんを助けようと私とお姉ちゃんが立ち上がった時、空からいくつもの矢が降ってきた。
お姉ちゃんの大剣を傘がわりにして身を守るが飛んでくる矢は正確に私たち二人を補足していた。
蟹座の反射板を経由して射手座の矢がこちらに飛んできていた。
降り注ぐ矢に身動きが取れず、蠍座の尾を叩きつけられる友奈さんを見ているしか出来ない。
宮司さんの支援でいくつか足場用の壁をせり出して道を作るが蟹座はそれを一つづつ丁寧に矢で潰していく。
「これでもダメか。しかしこのままだと結城がまずい。精霊のバリアにも限度がある」
切羽詰まった宮司さんの声が聞こえる。
「お姉ちゃん、このまま動ける?」
「重くて動けないわ」
お姉ちゃんに大剣を傘にしながら動けるか打診してみるが降り続ける矢はそれだけで重量となり動きを邪魔する。
その間にも友奈さんは蠍座の尾に叩きつけら、抵抗できないでいた。
「このままだとジリ貧か……。仕方ない君達との同調率をあげる。具合が悪くなったら言ってくれ」
次の瞬間、感覚が二重になって元に戻って不思議な感じだった。
考えなくてもどうするべきか思考が走る。それを客観的に見る私がいる。二重に思考が起こる。
「僕の考えていることが分かるな? 今君達が感じているのが僕の思考だ」
自然とやるべきことが分かる。自分の体が自分のものではないような感覚。しかし、確かに自分で動かしている。おかしな感覚の中、私とお姉ちゃんは動き出す。
お姉ちゃんを掴み、ワイヤーを遠くに向かって伸ばす。根に刺さったワイヤーを使って自分を引っ張り、移動する。
「行って、お姉ちゃん!」
「おっしゃあ!」
飛びながら別のワイヤーを伸ばし、テコの原理でお姉ちゃんを投げる。
投げられたお姉ちゃんは同調した思考で合図なく対応し、回転しながら大剣を巨大化させて思いっきり叩きつける。
思考の同調は私とお姉ちゃんの思考を無意識に混ぜ合わせ、合図なしの連携を可能にした。
精霊の力を加えた大剣に回転が加わり、蟹座に大剣が叩きつけられて蟹座を大きく破損させる。
「ゆうなちゃんをいじめるな!」
頭に東郷先輩の声が聞こえた。繋がった宮司さんを通じて状況を理解する。
蠍座に痛めつけられた友奈さんを見ていて東郷先輩は怒ったのだ。その怒りのまま勇者に変身して蠍座を一方的に銃でやっつけていた。
そのまま友奈さんは蠍座を傷ついて動かない蟹座に投げて上に乗せる。そのまま二人はこちらにやって来た。
「風先輩、部室では言い過ぎました」
申し訳なさそうに東郷先輩はお姉ちゃんに言う。
東郷先輩の謝罪にお姉ちゃんはホッとしたよう表情を柔らかくした。そして少し不安そうな顔をする。
「一緒に戦ってくれる、東郷?」
「はい。お国のために東郷美森、頑張らせていただきます」
「心強いわ、東郷」
東郷先輩の狙撃銃が火を吹き、砲撃のような狙撃が射手座を襲う。
「ホント、スイマセン……」
勇者部で怒らせてはいけない人一位が決まった瞬間だった。
やっぱりこうなるのか。
ん? 今のは誰の思考? 同調した思考から誰かの考えが伝わる。東郷先輩が戦うことに不快感を覚えた?
気にはなったが今はそれよりも目の前のバーテックスを倒すことが重要だとさらに思考が混ざり、そちらに意識が強いられる。
「私が射手座を抑えているうちに封印をお願いします宮司さん!」
「了解した。手近な蠍座から行う」
地面から花が舞い、蠍座の動きを止める。乙女座の時と同じように蠍座も体が開いて中からピラミッド型の御霊が出てくる。
出てきた御霊を破壊しようと友奈さんが駆け寄り拳を振るう。出現した御霊はそれをヒラリと交わすが問題はなかった。
一体化した思考の中、友奈さんの動きに合わせるようにお姉ちゃんが動き、動き終わったところで大剣をすくい上げるように切り上げ、御霊は上に飛ぶ。落ちてきたところを精霊の力を纏った拳を振るい御霊を破壊した。
一糸乱れぬ連携だった。それだけ思考が一体化が連携を後押ししていた。
次は私の番だった。
蟹座の足元にも封印の儀が始まり、御霊が出現する。
出てきた御霊は分裂して数を増やした。
「援護する」
「まとめて押し潰します!」
短く宮司さんが言うと地面からいくつもの槍が伸び、数を増やし続ける御霊を囲って外に出ないようにする。
私はワイヤーを伸ばして、生えた槍ごと増えた御霊をワイヤーで包み込み、そのままワイヤーを引いて圧迫して御霊をまとめて押し潰す。
二つの御霊が破壊され、二体のバーテックスが砂に還る。
そして残るのは最後の一体、射手座のバーテックスだった。
それを自然と担当していたのは東郷先輩だった。
射手座の放つ矢を東郷先輩が正確に撃ち落とす。
繋がった精神から東郷先輩の思考が流れてくる。
「変身したら落ち着いた。これは変身したから?」
「そうだ。勇者システムには変身者の精神をシステム的に冷静にさせる機構が組み込まれている。それのせいだろう」
東郷先輩の疑問に宮司さんが答える。
勇者システムにはそんな機能まであったのか。
「恐ろしく感じるのなら無理に戦う必要はない。君が戦わなくても代わりはいる」
「いいんです。私友奈ちゃんや勇者部のみんな、ひいてはこの国を守りたいんです」
少し心配そうな宮司さんの声に東郷先輩が答える。
どういうわけか宮司さんは東郷先輩を戦わせることに忌避感があるらしい。
そもそもこの会話も私しか聞こえていないのだろうか。友奈さんもお姉ちゃんも黙って東郷先輩を見ていた。
「そうか。君がそう思うならそうすればいい。邪魔した」
宮司さんの言葉を最後に射手座の足元に封印の儀が始まり、御霊を吐き出させる。
動き出そうとした御霊を地面から伸びた一本の槍が刺し貫き、動きを気を止める。動きのない御霊はたやすく精霊の力を込められた弾丸に撃ち抜かれ崩壊した。
「今度は犠牲なしに倒せた。よかった本当に」
樹海化が溶ける直前そんな泣きそうな言葉が聞こえた。
『今度は?』今度とは前回があった?
疑問を抱いたまま、学校の屋上に私たちはいた。
「本当に助かったよ東郷。これからも国防のため、頑張りましょう」
「国防のため……。はい、精一杯頑張らせていただきます!」
雨降って地固まるとはこのことだろうか。
亀裂の入ったお姉ちゃんと東郷先輩は同じ目的を持ったことで仲直りに成功した。
それは嬉しいことだったが、私の中ではそれどころではなかった。
どうしてだろうか、何か重要なことをいくつか見落としている気がする。
そんな漠然とした不安感がなくなることはなかった。
今日あの子を見かけた。
友人と楽しそうに談笑していた。楽しそうにしていて、学生生活を満喫しているらしい。
よかった。あの何も残らなかった二年間がこれに繋がるなら、せめて意味くらいはあったのだと自分を納得させられる。
でもあの子の笑顔を見ていて思ってしまう。あの子は誰?
考えてはいけない。深入りしてはいけない。胸が張り裂けそうになる。
宮司御記
そろそろ一人称にも限界を感じてきました。
小説の書き方の研究の側面があるので読みにくい、読みやすいの意見が欲しいです。
もちろん感想、誤字報告も大歓迎です。それではまた次回。(テンプレ)