犬吠埼樹はワニー先輩のギターを弾く   作:加賀崎 美咲

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マエストーソな振る舞い

 校舎横の草取りから二週間が立ち、六月になった。

 日差しも高くなり、登校時にも汗をかくようになった頃、樹をはじめ、神樹に選ばれ本当の意味で勇者になった勇者部たちはまたも樹海の中にいた。

 都度、三度目。前回から1ヶ月を経ての敵襲だった。

 前回からは東郷美森も加わり、四人に人数を増やした勇者たち。

 三度目にもなり、少し見慣れてきた樹海化した神樹の結界の中、来たる敵を待ち構えていた。

「君たちに先に言っておく。今回からは大赦から派遣された勇者が戦力として加わる。彼女と協力するように心がけてくれ」

「分かったわ。それにしても今さら応援の勇者なんて随分と遅い参戦ね」

「大赦としても出来るだけ万全を期した結果の遅刻だ。1ヶ月も敵が来なかったからこそ準備に時間をかけた結果の遅刻だ、戦力としての彼女にそれだけの期待しよう」

「その口ぶりだと宮司さんも会ったことがないんですか?」

 宮司と風のやりとりに疑問を持った友奈が宮司に質問する。

「君たちのバイタルや必要な情報かこちらでも管理しているが実際に会うことはない。宮司システム搭乗者はそういう決まりになっている」

 あいも変わらず宮司は無感情で抑揚の薄い平坦な返事を返した。いい加減三度目になり、彼の人と、なりを理解しつつあった友奈は何かいうこともなかった。

 結果的に分かったことは宮司を含め、全員が会ったことのない五人目の勇者が今回から参戦するという事実だった。

 そんな話をして時間を消費していると今回の敵が地図上に表示されている事に宮司が気ついた。

 地図の表示には牡牛座の文字。

 今回やって来た敵を表している。

 三度目、三体目の敵がやって来た。

「ようし、あんたたち。今回も行くわ……よっ⁉︎」

 やって来た敵を視認し、いざ行こうと風が呼びかけた時、突然降ってきたものに驚き、声が遮られる。

 飛んできたのは複数の日本刀。飛来したそれらは牡牛座のバーテックス囲むように刺さると日本刀自体を軸に封印の儀を開始した。

「ちょろい!」

 封印の儀を行われ、動けなくなった牡牛座に赤い影が一つ、掛け声を放ちながら迫る。

 その人物は赤い勇者の衣装に身を包み、先ほど飛来したものと同デザインの日本刀を両手にそれぞれ構えていた。

「おい、突出を許可した覚えはないぞ!」

「封印開始!」

 突然の赤い勇者の行動に宮司は驚いて声を荒げ、勇者たちはこの出来事を固まって見守っていた。怒った宮司の声を無視して赤い衣装の勇者は封印の儀を始める。

 本来であれば宮司を介して行うバーテックスの御霊を現出させる封印の儀ではあるが、非常時においては勇者も同様の手順を行える。そのため、勇者独自で行動して封印の儀を行うことは可能であった。

 仕方なしと宮司は最低限の神樹の力の供給を行い、封印の儀における勇者の負担を肩代わりする。

 赤い勇者の勝手な先行はなおも続く。封印の儀が始まり、牡牛座を囲うように花びらが舞いはじめる。舞う花びらは拘束の力を発揮し、牡牛座の体から核たる御霊を引きずり出す。

 引きずり出された御霊はせめてもの抵抗として暗い色をしたガスを吐き出す。吐き出されたガスは周囲へと広がり、その毒性をもって勇者たちを害そうとする。

 しかし勇者たちに与えられた精霊のバリアが彼女らを守る。しかし精霊のバリアはあくまで守るためのものであり、その働きは守りしかない。そのため周囲一帯に広がりつつある色ついたガスで視界が完全に遮断される。

 宮司は爆風を利用してガスを取り除こうと数発のミサイルを打ち込もうと宮司システム内のコンソールを操作しようとした。

「そんな目くらまし、気配で見えてるのよ!」

 だが赤い勇者はそれよりも早く動き、迷いなく浮かぶ御霊に向かって刃を振るう。

 目隠しに等しい視界の中、振るわれた二振りの日本刀は正確に御霊を切り裂き、破壊する。

 赤い衣装の勇者は小さく「殲滅完了」と己に確認するようにつぶやき、同時に御霊を破壊された牡牛座はその体を砂に変えて崩壊する。

 急な五人目の勇者の登場とあっという間にバーテックスが殲滅されたことに勇者部は喜ぶよりも先に呆気にとられていた。

 バーテックスを一人で倒し、少し得意げな顔で赤い勇者は振り返る。そして先遣であるの勇者部の顔を一人一人、みてその面構えを見て大仰に鼻で笑う。

「ふん、どいつもこいつも惚けた顔しちゃって。これが神樹様に選ばれた勇者なの?」

「ちょっと、あんた。いきなり来てなんなのよ。ていうかあんた誰よ?」

 初対面での赤い勇者の態度に風は眉をひそめる。少なくとも初対面での正しい物言いではないことは間違いなかった。

 いきなり険悪な雰囲気に入りつつある姉と赤い勇者をみて樹はどうして良いかわからず、オロオロしながら成り行きを見守る。

 赤い勇者は口を開く。

「私の名前は三好夏凜。大赦から派遣された本物の勇者」

「本物の勇者?」

 三好夏凜に告げた言葉に友奈は首をかしげる。神樹に選ばれることでなる勇者に本物、偽物があるのかと疑問を浮かべる。少なくとも目の前の新顔はその違いがあると認めている。

「そう、私は大赦から派遣された本物、先遣であるあんた達はもうお払い箱ってワケ。おつかれさまでしたー」

 一方的な物言いで夏凜は特に惜しくもなさそうに手をヒラヒラとふり、暗に樹たちに勇者を辞めるように身振り手振りで言う。

 そんな夏凜の態度にムッと眉をひそめた風が何か言おうとした時、先に口を開いたのは宮司であった。

「三好夏凜。少しいいか?」

「何よ、サポートの宮司が勇者に何の用よ」

 三好夏凜にとって宮司という役職はあくまで勇者の支援、別にいなくても良い役目であり、重要なのは勇者である自分一人であるという認識だった。

 そういう認識であったために無意識に、悪気はないながらも宮司を軽んじる態度になっていた。

 そんな夏凜の態度に宮司は声色一つ変えず、淡々と言葉を続ける。

「今の君の戦い方。君はあれが正しいものだと、良い方法だと判断して戦っていたのか?」

 宮司の問いはいたってシンプルなもの、一連の行動についての自己認識について。それに対して夏凜は自信満々に答える。

「当然でしょ。あんな敵、私一人で十分。あいつらがいなくても私一人で殲滅できたし、実際にそうしたわ」

 自分の行動と選択に間違いはない。そうした思いが夏凜の答える声に含まれていた。

「なら君は今日で勇者解任だ。お疲れ様でした。その後については大赦の方から正式な辞令が下るだろうから待っていてくれ」

「そう、解任なのね。って解任⁉︎ どうしてよ。私、ちゃんと敵を倒したじゃない!」

 突如、宮司から下された解任の言葉に夏凜は慌てふためく。まさか敵を倒してその直後に勇者のお役目を降ろされるとは露も考えていなかった。

 慌てふためく夏凜とは対照的に宮司は淡々と言葉を述べていく。

「君の行動は独断専行が過ぎる。我々は一度でも失敗することが許されない以上、少しでも不安要素は取り除きたい。君も分かっているだろうが君の代わりはいくらでもいる、ならそちらを起用するほうが良いと僕は判断した」

 淡々と述べられる宮司の言葉は夏凜に裁判における判決文のように聞こえ、勇者であることを辞させることに足元が崩れるような錯覚がした。

 元々、夏凜は複数いる勇者候補の中から厳しい訓練を経て大赦から選ばれた勇者である。そのため、当然ながら彼女に負け、勇者になれなかった者は確かに大勢いる。彼女たちのことを思い出し、夏凜は顔から血の気が引いていくのを感じた。

「で、でも私、勇者に選ばれたのよ、それなのにこんな簡単に辞めなくちゃいけないの?」

 自身のアイデンティティが崩壊させられそうになり、夏凜の声が震える。両の手を固く握り締め、震わせる。そんな夏凜の様子を先ほどまで口論しそうな雰囲気だった風たちも突然の解任騒ぎにどうなってしまうのかと不安になっていた。

 そんな夏凜の声や風たちの様子に何も感じないのか、それでもあくまで平坦な声で淡々と宮司は続ける。

「そうだとも、宮司である僕には君たち勇者に関する人事権がある程度、認められている。人格や行動に問題ある勇者を出来るだけ取り除き、人類を守るというこの儀式を遂行させる義務が僕にはある」

−−もう、誰かを一人で戦わせるものか。犠牲なぞ無い方が当然いいに決まってる。その端末を使わせる以上、あの子の様にはさせない。させたくない。

 宮司の声にもう一つ、別の宮司の声が重なって二重になった声が樹には聞こえた。厳しい物言いの宮司の言葉に重なるように聞こえたそれは彼女を心配した声だった。

 何故、宮司の声がもう一つ聞こえたのかは分からない。しかし、それを聞いて樹は言葉の真意を理解する。宮司の厳しい言葉はその実、独断専行を行うことに際してそれを行なった本人、ひいては周囲の勇者が傷ついたりする事が無いようにしたいという宮司の思いを察する。

 気がつけば樹自分自身でも意外なことに声をあげていた。

「宮司さん!」

「どうした犬吠埼樹。今、君が意見する必要はないと思うが? どうかしたのか?」

 樹の内向的で気弱な性格を理解していた宮司はここで何故、彼女が声をあげたのか分からなかった。夏凜もまさか樹が、他の誰かが何かをこの状況で話すとは思っていなかったため、思わず樹を凝視する。

 宮司に聞き返され、夏凜に見つめられて言葉に詰まりながらも樹は発言を続ける。

「あ、あのですね宮司さん。三好さん?……も初めての戦いで良いところを見せようと必死だったと思うんです。だから一人で良いところを見せようと頑張って、結果的にあんな風になっちゃったと思うんです。だからむしろ頑張ってる三好さんを手伝わずに見てるだけだった私たちにも多少は不備があったと思うんです」

 樹の言葉は夏凜を擁護する内容であった。独断専行を行なった夏凜にも問題はあるが、それを見ていただけの自分にも非はあると彼女は言う。

 そんな樹の言葉に宮司は疑問を返す。

「つまり事前に三好夏凜の行動を把握していなかった僕や見ていただけの君たちにも不備はあったと。君はそう言いたいと?」

「えっと、誰かが悪いとかじゃなくて、頑張ってた夏凜さんを一人責めるのは嫌と言うか……」

 うまく想いを言葉に変換できず、樹は言葉に詰まる。想いは確かにあるのに言葉にして伝えられず、樹は思わず涙目になる。

 そんな樹の様子に毒気を抜かれたのか、それとも呆れたのか宮司は少し語調を柔らかくした。

「三好夏凜。彼女のいう言葉に間違いはあるか?」

「えっ、はい、……はい、間違いはないです」

 何故、急に樹が自身を庇ってくれたのか夏凜は分からず、少し呆けながらも夏凜宮司の質問に答える。

「三好夏凜、君が勇者として功績を上げることに執着しているのは勇者システムを介してこちらも理解している。だが功を急ぐあまり、一人突出しその結果周囲を危険に晒す真似は宮司として看過することはできない。先ほどの御霊のガス攻撃を見ればわかるが敵の行動は未知数な部分も多い。より慎重を期す必要があることを考えれば、君たち勇者の連携は最重要課題に当たる。以後の戦いで君にそれが出来るか?」

「やります、やらせてください」

 姿勢を正し、夏凜は答える。宮司の言う連携の重要さは勇者というお役目が失敗した場合、人類の終焉を意味することを考えれば重要であることは間違いなかった。

 自身の心の内を知らぬ間に見られていたことに思うところがないと言えば嘘になるが、その上で宮司が言わんとすることは夏凜も重々承知していた。

「今回はこちらも十分な支援ができたとは言い難い。その点については謝罪する。すまなかった。君の人事についてだが今後の行動で判断することにする。ぜひ、言葉ではなく、行動と結果で君の有用性を示してくれ」

「了解しました。三好夏凜、勇者のお役目果たさせていただきます!」

 話は決着し、双方足らない部分があったということで話は手打ちとなった。

 結果的に夏凜の処分は保留となり、改めて勇者のお役目に対しての決意を固めた。

 話が終わると宮司は最後に樹の方へ意識を向けた。

「犬吠埼樹。これで君は満足か?」

「はい、これでよかったって思います」

「そうか」

 何故、宮司が樹の言葉に耳を貸し、このように話を手打ちにしたのか樹自身にも分からなかった。それでも樹には宮司自身はこの結果に満足しているような気がした。

 問われた満足したかという問いにはどこか自問の色があるのを樹は薄々とではあるが見抜いていた。

 だからこそ、自身と宮司の両方に向けてよかったと感想を言葉にした。

 その問いかけを最後に樹海化の結界が解かれ、凍り付いていた時間がまばゆい光に溶かされて動き始めた。

 その後、あの様な場面でも自分の意思をはっきりと言葉にすることができる様になった樹の成長に感動した風が樹をお祝いにうどん屋に連れていく珍事もあったのだがそれは樹自身が恥ずかしがったため割愛。

 数日後、勇者部の部室には新しいメンバーが追加されていた。

「というわけで、勇者のお役目を果たすため、私も足並みを合わせるわ! 私が来たからには完全勝利よ!」

 真新しい讃州中学の制服に袖を通した夏凜は部室に備え付けられた黒板の前で意気揚々とそう宣言した。

 −−友奈さんによれば成績優秀で編入して来て、スポーツもすごいらしい。

 優秀な人物の登場に樹は若干、自身と比べてまた自身の非才さを感じる。そんな考えをしてしまう自分に自己嫌悪しつつ、ため息をこぼす。

−−考えてみたら友奈さんも、東郷先輩も、お姉ちゃんも、ワニー先輩もみんな得意なことがあってすごい。でも私の得意なことって何だろう。

 そんなことを考えて鬱々としていると話題は来週末の児童館での折り紙教室に移っていた。

 風に進行を振られ、樹は慌ててカバンから用意していたプリントを取り出す。

 多めに刷っていたプリントを夏凜にも渡し、樹はプリントにも書いてある通りの内容を再度、皆に伝える。

 当然のように自身も参加することになっていることに夏凜が困惑して驚く。

「何で当然のように私も参加することになってるのよ」

「あれ? 夏凜ちゃんも来てくれないの?」

「私はあんた達の監視のために今日来たのよ。別に日曜日も来るなんて言ってないわよ!」

 当然、夏凜も参加する者だと思っていた友奈が夏凜に参加の是非を聞く。それに対して夏凜はそんなことはないと否定する。

 勇者のお役目に殉ずる夏凜にとって横道に逸れるような真似は極力避けたかった。

「でもきっと、楽しいよ夏凜ちゃん」

「いきなり下の名前呼び⁉︎」

「嫌だった?」

「嫌ってわけじゃないけど……」

 初対面でかつ、先日のやりとりを経ても友奈という少女は変わらず、友好的に夏凜に接する。初対面でもわかる友奈の人の良さに人付き合いが薄い夏凜はその好意に対してどう接していいか分からず、言葉を濁す。

 助けを求めて夏凜が周囲を見るとちょうど、樹と目が合う。

 少しばつが悪そうに頭をかきながら夏凜は樹と目を合わせ、ポツポツと話し始めた。

「えっと、犬吠埼さん?」

「お姉ちゃんと同じなので樹でいいですよ」

「じゃあ、樹。この間の時はありがとう。貴方のお陰で勇者をクビにならずに済んだわ。本当にありがとうございました」

 そう言って夏凜は深々と頭を下げた。夏凜に頭を下げられ樹は驚く。

−−別に夏凜さんを助けようと思って何かを言ったわけじゃないのに

 そんなことを思っていた樹は夏凜に頭を下げさせていることになんだか申し訳なくなった。結果的には彼女を助けることになったが動機はそれとは全く違うこともあり、的外れなことをさせてしまっている罪悪感が樹を満たす。

「かっ、夏凜さん。頭を上げてください。私そんなに感謝されるようなことしてないですよ」

「でも、お礼を言わないと私も気が済まないし……」

 樹と夏凜は互いにどうして良いか分からず、二人揃ってオロオロと行動を決めかねる。

「なら、夏凜、あんたも勇者部に入りなさいよ」

 二人を見ていた風が入部届けを夏凜に差し出しながら言う。

 差し出された入部届けを受け取り、夏凜は風を見る。

「入部? でもどうして?」

「宮司も言ってたじゃない。言葉じゃなくて行動で示せって。なら夏凜も勇者部に入って行動でお礼をすればいいんじゃない?」

「……! ええそうね!」

 言われ、夏凜はその言葉を言われたときを思い出す。言葉ではなく行動で示す。活発な夏凜にはその方が分かりやすく、直接的に樹へのお礼にできると思った。

 夏凜はその場で入部届けの空欄を埋めて風へと渡すと樹へ向き直った。

「樹、これからよろしくお願いするわ」

「はい、これからよろしくお願いします、夏凜さん」

 夏凜の言葉に樹は元気よく返事を返した。

 一件落着となり、釣られて勇者部のみんなも笑う。

 きっとこれから良いこと、楽しいことが沢山あると無邪気に信じていた。

 そして次の日、樹は音楽の授業のテストで頭を悩ませるなど露にも思っていなかった。

 




次回は今作の本編と言っても過言ではない
小説の書き方の研究の側面があるので読みにくい、読みやすいの意見が欲しいです。
もちろん感想、誤字報告も大歓迎です。それではまた次回。(テンプレ)
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