「銀ったらいつも学校に遅れて来るんですよ」
放課後の某日、そんな須美の一言から鷲尾兄妹と園子を巻き込んだ休日が始まった。
「いつも遅れてくるの? それは少し心配だね。彼女にも何か事情があるんじゃないかな?」
「そうではなくて、だらしがないと私は言いたいんです!」
出来が悪いともっぱら評判の大赦職員の募集広告を紙飛行機に変えていた和仁は紙を折る手を止めずに視線だけを須美に向けた。
自分とはだいぶ違う感想を持った和仁に対し、同意が得られなかったことに須美はムッと唇を尖らせる。
兄ならきっと自分に同意してくれると思っていた須美には、和仁が銀の味方になって自分が放っておかれてしまった感じがした。いわゆる兄を取られた様な感覚を須美は味わっていた。
不満に少し頬を膨らませる須美が何故そうしているのか分からず、和仁は自分の妹は可愛いなーと呑気にしていた。
ムッとした顔で須美は文句を言う。
「お兄様は銀に優しいですね。そんなに銀が気に入ったのなら彼女も妹にしたらいいいじゃないですか」
「そんなことはない、銀ちゃんは優しい子だと僕は思ってる。だからそれに報いろうと思うだけだよ。それに僕の可愛い妹は須美だけだしね」
しかし思わぬ言葉の反撃に須美は顔を赤くした。赤くなった顔を見られまいと首をひねって明後日の方向を見る。
顔を赤くしたまま、須美は顔が赤いのを誤魔化すように大きな声を出す。
「も、もう! 調子のいいことばかり言ってもダメなんですからね。それよりも銀に事情があるのなら徹底的に調べましょう!」
「それってストーカーってやつなんじゃ……」
「勇者と宮司に不可能はありません!」
「犯罪だよ……」
和仁のつぶやき虚しく兄妹による初の共同作業がストーキングに決定した瞬間だった。
微妙に後ろ引かれる感じを覚えながら紙飛行機をゴミ箱めがけて飛ばす。
真っ二つに折り曲げられた大赦公式ゆるキャラ、大樹くんが不気味に伸びた眉毛らしき枝で笑顔を振りまきながら、なだらか弧を描いてゴミ箱に消えていった。
そして次の日、二人は銀の自宅近くに集合していた。そこにはもう一人の勇者、園子もいた。
「面白そうなこと、混ぜて貰えて嬉しいんよ〜」
「そのっちだけ仲間ハズレにするようなことはしないわ」
「まぁ、それはいいんだけど、この変装は必要だったのかな?」
そう言って和仁は服装を二人に見せるようにその場でクルリと回る。
普段通りの私服を着ている須美や園子とは違い、サングラスにマスク、ハンチング帽を被っていて、これぞ尾行する刑事という出で立ちだった。
見た目は暑苦しく、怪しさが服を着ているようであった。
実際、日差しも眩しい夏の昼盛りであるため、そんな格好は非常に暑い。
「ダメよ、お兄様。ただでさえ今のお兄様は目立つんだから」
「この格好の方が目立つと思うけどなぁ……、あっ」
かいた汗が気持ち悪くてうなじの汗をかいていると指先が帽子の縁に当たり、そのはずみで外れて中にしまわれていた髪が勢いよく帽子の中から飛び出た。
艶のいい肩まで伸びた黒髪が和仁のうなじを隠す。中性的な顔つきもあって、伸びた髪はそれだけで彼を女性に見せる。
近くにまで寄った園子が後ろ髪を弄りだした。
「ワニー先輩、髪伸びたよね〜、この間のお役目の直後くらい?」
「うん、傷ついた体を高速で修復するから一緒に髪とか爪とか伸びるんだよね。爪は戦いの最中で割れるから後で切って整えればいいけど、伸びた髪を切るのは呪術的にダメなんだよね」
古来、髪には霊力が宿りやすいと言われている。神職につく女性たちの多くが長い髪であるのはそういった事情によるものであり、古い時代の男性の髪が結い上げられているのも元来霊力が宿りやすい女性と比べてそれを補うためのアンテナのような役割をしていたためであった。
こと和仁の場合、その神稚児の体から生えるものは映える物、つまりは供物としては最上級にあたり、おいそれとは一度に切って捨てる訳にもいかない。
それ故に見た目の悪い部分だけを梳き、出来る限り長い状態を維持していた。
1日前まで短髪であった髪が急に伸び、下手に切る訳にもいかないので邪魔に思いつつも頭から生えた隣人と何とか付き合い始めていた。
出てしまった髪をもう一度帽子の中にしまいつつ、和仁は口を開いた。
「もうこの髪のことはいいけど、こんな人数で尾行してもすぐバレるとおもうけどなぁ……」
「そこはこの名探偵園子にお任せなんよ〜」
「全く、そのっちは目的は銀がどうして学校に遅刻してくるのかを暴くことなのよ? 」
何処からか取り出した虫眼鏡を二人に見せながら園子は楽しそうに笑い、須美は呆れて何も言えないと言いたげにしながら口はしょうがないなと言いたげに笑っていた。
「……お! 銀ちゃん出てきたよ!」
仲良く談笑していた二人を家の角に引き込み、姿を隠す。
自分が尾行されているなどとは知らない銀は鼻歌混じりに歩きながら買い物袋片手に歩き去っていく。
このままでは置いていかれると須美を先導に三人はこっそりと、しかし周囲から見ればバレバレの尾行を開始した。歩き始めてさらに暑さに和仁は気が滅入る。
「……後ろからついていくだけならやっぱりサングラスとマスクは要らなかったんじゃないかな。すごく暑い……」
「お兄様、古き良きこの国の刑事の尾行の服装なのですよ!」
「わっしー、それ多分ドラマの中だけじゃないかなーって園子さんは思うんよ。熱中症とか怖いから外した方がいいよ」
「……須美、ごめん」
サングラスとマスクはカバンの中に消えていった。
十分ほど歩いていると街中に入り、銀が立ち止まった。それに合わせて距離を取りながら三人も立ち止まる。急に立ち止まったことで須美は疑問を持つ。
「ここが目的地だったかしら?」
「確か毎週のこの時間は買い物に近くのスーパーに向かってるんじゃなかった?」
「さらっとミノさんの生活習慣を調べてるのストーカーよりもよっぽど犯罪臭がするんよ……。あー……、多分あの男の子を見て立ち止まったんじゃないかな?」
園子が指差す方へ視線を動かすと木に引っかかった風船を見上げる幼稚園くらいの男の子がいた。
しばらく様子を見ていると銀が男の子に話しかけ、あっという間に木に登り風船をとってあげていた。
しばらくしないうちに今度は大荷物を持って階段を上る老婆を銀が見つけ、それを助けていた。
間髪挟まず今度は壊れたダンボールから転がり落ちてきた果物を慌てて追いかけて拾い上げていた。
少し歩くだけで厄介ごとに巻き込まれる銀を助けようかと三人は動こうとしたがそれよりも早く銀は動き、あっという間に解決させてしまっていた。
手慣れた様子の銀を見て三人はしきりに関心の声をあげていた。
「ミノさん、みんな助けててカッコいい〜」
「というかちょっと歩くだけで厄介ごとに巻き込まれるなんて、生来の勇者体質なのかしら?」
「あっ、買い物終わったみたいだよ?」
「尾行続行だぜー!」
三人で話していると買い物をさっさと済ませた銀がスーパーから出て帰路につく。
帰りの道も尾行していると行きと同じように銀は何度も何かしらの出来事に巻き込まれ、その度にそれを助けていた。
銀に行動に黄色い声をあげる園子とそれをなだめる須美がワイワイと話している中、和仁は会話に参加せずただジッと銀を見ていた。
——みんなの期待に応えようとしても、それで兄さんがずっと辛そうにしてたら周りにいる奴ら、きっとみんな心配してる。そんなのは誰も嬉しくなんてないよ
——兄さんがいつも苦しそうにしてることが悲しいんだ。知ってるか兄さん、兄さんいつも笑う時、まるで枯れそうな花みたいに笑ってる
昨日、銀に言われた言葉が思い起こされる。
神稚児である和仁にとって人を助けることは義務だ。そういう風に望まれ、そうしてきた。そこに自分の意思などは介入しない。
しかし今見ている銀はどうだろうか。別に何かしらの出来事を見たところで彼女がそれに手を差し伸べる義務など存在しない。でも彼女は進んで困っている人を助けようとする。
どうして違うのだろう。和仁は思う。結果だけ見れば同じように人を助けようとする在り方。でも和仁には自分と銀が同じものだとは思えなかった。
誰かを助ける時に見せる、もう大丈夫だという銀の笑顔。それが自分と同じだとは和仁は言えなかった。
言葉による教科書的な理解ではなく、目で見て、言葉を受け取って、心で感じて、和仁はようやく理解する。
人を救わねばならないと人を助けたいと思うことは本質的に全く異なるのだ。
——その違いこそが自分にはなくて銀にはある部分なのだ。
そうでいなくちゃいけないと実行することと、そうしたいと思って実行することには隔たりがある。無感情に行われる義務と温かさを伴う優しさ。それはきっと違うものだ。
そうでなければきっと鷲尾和仁はこんなにも三ノ輪銀の笑顔に見惚れることなんてないだろう。
とても綺麗なものだと見惚れ、ただ黙って視線は銀だけを見る。
自然と脈は早鐘を打つ。沸き立つ感情の名前も知らず、ただうるさい心臓の音が気になって胸に手を当てる。
和仁にはこの感情を言葉にできない。
幼い時からこれを初めに無償で与えてくれる両親とは疎遠になり、周囲からは純粋なものではなく常に憐憫が混じり、この歳になって妹になった須美から不器用ながら少しずつ与えられるようになったもの。
人間が動物とは絶対に異なると言える唯一の差異にして、人が人になる絶対的な基準。
愛という暖かさ。
まだ人に至れない和仁が初めて他者へ持った灯火のような初々しい暖かさ、人はそれを初恋という。
だがそれはまだ恋などというものには至らない。自分を好きになれない人間が誰かを好きにはなれないのだから。まだこの感情に名はつかない。
少し時間が経ち、銀とそれを尾行する三人は銀の家にまで到着していた。
銀が家の中に入るのを見届けると須美はカバンの中から何やらゴツゴツとした道具を取り出す。
それは途中で何度か屈折した望遠鏡であった。まるで海中から潜水艦が水上の敵を探すように須美は望遠鏡を使って生垣の向こう側を覗き見ようと試みる。
しかし生垣は背が高く、微妙に視界が向こう側にまで行かない。
困った須美は閃いたという顔をする
「お兄様、肩車して下さい!」
「……え、ああ、うん。いいよ」
少しボーッとしていた和仁は不意打ち気味だった須美に驚きつつに支持されたように動いた。
成長期に入った和仁が土台になる事で須美は望遠鏡を使わずとも生垣の向こうを見ることができていた。
周囲を見渡し、ちょうど赤子をあやしていた銀とバッチリ目が合う。
「……あら、どうも?」
「……いやいや、何にしてんのさ須美」
この場合、どう見ても銀の疑問は当然なものであった。
休日に弟をあやしていたら生垣の上に同級生の首から上だけが見える状況。どう見たっておかしいのは須美の方であった。
二人の間に微妙な間が開く。その間が空いたせいであやされていた弟がぐずりだした。
庭先で赤子の泣き声が響く。
「わわ、きゃっ!」
急に赤子が泣き出した驚きと自分のせいで泣き出したこと思うことで動揺した須美はバランスを崩し、とっさに動いた和仁が下敷きになる。
最後に和仁が見たのは迫ってくる須美の尻と暗転した視界であった。
火花が視界に散った。
ぼんやりした暗闇から意識が戻り、そっと目を開く。目を開くが視界は薄暗く白い。目の上に何か重みが乗っている。
手を伸ばし、目の上に乗っているものを取り除く。視界を下におろして見てみるとそれは白い濡れタオルだった。視線を上に戻すとこちらを見下ろしている銀と目が合う。
「おっ、兄さん目が覚めた?」
「えっと……、ぎんちゃん? ……ってうわぁ!」
不意に距離が近いこと、頭に柔らかい感触があり膝枕されている事に驚いて飛び起きる。
頭の後ろに柔らかい太ももの感触がまだ残り、嬉しいような恥ずかしいような気持ちがして顔が熱を持つ。
「ええっと、ごめん。ていうかどういう状況?」
「あー、それなんだけどさ……」
言いにくそうにしている銀は顔を横に向け和仁も同じように顔をそちらに向けた。
申し訳なさそうに正座している須美とニヤニヤして笑っている園子がいた。気落ちした須美が口を開く。
「お兄様、本当に申し訳ありません」
「ワニー先輩、わっしーに下敷きにされて気絶してたんよ〜」
「あぁ、そういうこと」
どうやら自分がすみに下敷きにされ、気絶し銀の家に運び込まれ手当をされていたらしいことを和仁は理解する。
しばらくボーッとしているとトタトタと軽い足音を鳴らしながら見知らぬ少年がやってきて和仁の後頭部を指差しながら持ってきた氷嚢を差し出す。
「兄ちゃん、頭大丈夫か? さっきまで後ろのとこプクーって膨らんでたんだぜ?」
「え、……あぁ、ありがとう。昔から傷が早く治りやすい体質なんだ。大事に使わせて貰うよ」
そう言って和仁は差し出された氷嚢ですでに治っている後頭部を冷やす。薄いビニールの膜から直に伝わる氷の冷気が心地良い。
春の空気を感じながら頭を冷やす氷と涼やかな風が気持ちいい。
ふと意識を戻し、氷嚢を持ってきた少年に話しかける。
「これ、ありがとう。ところで君は銀ちゃんの弟君かな?」
「そうだぜ。鉄男っていうんだ! こっちは弟の金太郎」
和仁に氷嚢を持ってきたのは銀の弟の鉄男であった。そして鉄男は近くの座布団の上に寝かされた赤子を指し示して弟の金太郎を紹介する。
座布団の上の金太郎はスヤスヤと気持ち良さそうに寝ていた。
「そっか、君たちが銀ちゃんの弟か。兄弟がいっぱいいて楽しそうだね」
「いっぱい兄弟がいても、晩御飯とか奪い合いになるから楽しくないよ。姉ちゃんいっつも俺のことパシリに使うし」
「コラっ、鉄男。兄さんに変なこと吹き込むなよ!」
怒った銀が軽く拳を鉄男の頭に落とす。大げさに痛がった鉄男が最近テレビで見た芸人の真似をして転がりながら部屋から退散する。
会話がひと段落したと見た須美がオズオズと控えめに話しかけてくる。
「……えっと、お兄様。後頭部はもう大丈夫ですか? 先ほどまではかなり腫れていたので……」
「もう痛みは引いてるよ、そんなに気にしなくて大丈夫だよ」
二人の会話を障子を少しだけ開けて鉄男が覗き込んでいて怪訝そうな顔をしていた。
「なぁ、兄ちゃん」
「どうしたんだい鉄男君?」
「兄ちゃんと姉ちゃんは兄弟なんだよな?」
鉄男は和仁と須美を交互に見て怪訝そうな表情を続ける。
それに和仁はキョトンとした様子で首を傾げた。
「そうだよ? 僕と須美は兄妹だよ。それがどうかしたのかい?」
「えー! 絶対おかしいよ。お兄様とか兄弟なのに『けーご』で話すなんて絶対変なのー!」
「変なのかな?」
「そうだよ、そうだよ! 普通兄弟だったらもっと普通だよ。兄ちゃんたちはなんかよそよそしく見える」
兄妹一年目の和仁にとって兄弟歴七年の鉄男の言うことは無視できないものであった。真剣な様子で鉄男の言葉に耳を傾ける。
今まで普通の兄弟をやってきたつもりだったがどこかおかしいらしい。和仁も須美も一人っ子であったために実際の兄妹とはどのような物なのかが想像はできても確信はない。
だから二人なりに兄妹をやってきたのだが実際に銀というか姉を持つ鉄男からして変だとするならもうしかしたら自分たちは間違った兄妹をやってきてしまったのかもしれないと和仁は考えていた。
「そしたら、鉄男君。どうしたら普通の兄妹っぽいのかな?」
「ええー……、普通の兄弟とか聞かれても分かんないよ」
「そこはほら、兄弟の先輩ってことで何か助言はないのかな?」
年上である和仁から先輩と呼ばれ、鉄男はなんだか気分が良くなる。しょうがないなと言って少し考え込む。そして幼稚園の兄弟がいる友達のことを思い出す。
「……あ、そうだ! お兄様が変なんだから、普通にお兄ちゃんって呼べばいいんだよ!」
「そうなのかい? ならそうしてみようか」
初めて会った時からの呼び方を変えてみることに和仁は特に躊躇いはなかった。しかし視線のあった須美は恥ずかしそうにあたふたしていた。
「お、お兄様はお兄様です。それ以外の呼び方なんて……」
「須美は嫌かい?」
「い、嫌って訳じゃないですけど……」
「へいへい、わっしー。ここはお兄ちゃん呼びで妹力を高めるところなんだぜ〜! ほらほら、呼んでみよう。和仁お兄ちゃ〜ん!」
横から出てきた園子が須美を煽る。実に楽しそう煽る園子と煽られ眉をへの字に曲げる須美を見て銀はクツクツと笑う。
園子に煽られ、銀には笑われ、和仁は期待を込めた視線を送って来るものだから須美も引くに引けない状況に追い込まれてきて、背中を脂汗が流れる。むしろなんで自分は煽られているのかという気がしてくる。和仁の妹に立候補した園子に待ったをかける。
「そ、そのっちはお兄様の妹じゃないわ!」
「えー、じゃあ私も妹に立候補しちゃう!」
「妹は選挙制じゃないわ! もう、仕方がないわね。……えっと、その。お、お、お兄ちゃん……」
蚊が鳴くような声でひっそりと言った須美。銀はなんだかオットセイみたいだなとか思ったが間違いなく怒るのは火を見るよりも明らかだったので黙った。園子はお兄ちゃん呼びする須美が面白かったので次に書く小説のネタとして机の下でメモに記録していた。
そして和仁はニコニコと笑いながら須美の呼びかけに応えた。
「うん、どうしたのかな須美?」
「お、お兄ちゃんは恥ずかしくないんですか?」
「須美、須美。敬語抜けてないよ?」
「ムムム……。お、お兄ちゃんは恥ずかしくないの?」
「全然? むしろこれが兄妹っぽいのならずっと続けたいと思ってる。なんか可愛いよねお兄ちゃん呼びって」
実に楽しそうな雰囲気の和仁を見て須美はこの呼び方論争において自分が孤立無援なのを察する。
もうどうにでもなれとやけを起こし、普段ならば絶対にしないことを始める。
羞恥心が一周してもはや恥ずかしいなどという感情は遥か遠くへ飛んで行ってしまった。
畳の上を転がり、和仁の太ももに顔をうずくめ、口をもぞもぞと動かす。
「お兄ちゃん、園子と銀がいじめるー」
部妙に幼児退行を起こしていた。そんな須美を和仁は若干演技かかった様子で頭を撫でる。
「おー、よしよし。もう園子ちゃんも銀ちゃんも僕の可愛い妹をいじめないでね」
「はーい」
二人が仲良く返事する。
なんだか馬鹿にされているような、からかわれているような気持ちとこんな形で兄に甘えられる気持ちが交わり、何もかもがどうでも良くなって須美は顔を上げずにもう一度和仁の太ももに頭をうずくめて何もしないでいた。
なんだかよく分からない楽しさを感じながら四月の昼下がりは過ぎていく。
七月まで3ヶ月を切っていた。
お兄様もいいけどお兄ちゃん呼びはもっといいよねという回でした。
銀ちゃんのあり方に作者は未だに好きなキャラトップ10くらいにするくらいは好きだったりします。
次回は合宿回。
小説の書き方の研究の側面があるので読みにくい、読みやすいの意見を大募集。
もちろん感想、誤字報告も大歓迎です。それではまた次回。