凪いだ海が静かに燦々とした初夏の日差しに照らされる。
迫っては引いていく波打ち際が砂をさらっては運んでくる。
爽やかな潮騒の波打ち際にて和仁はダラダラと汗を流し、それが無限に続くような気がしていた。
そしてその視点の先では緩やかな波の音をかき消すように激しい音がいくつも生まれていた。
いくつも並んだバレーボール発射装置がランダムなタイミングでボールを放ち、飛来するボール群をかき分けて前に出た銀が潜り抜けようと進む。横に追随する園子が手に持った槍の穂先を傘状に展開して自信と銀を守りながら前に進む。最後列に立った須美が弓をつがえ、二人が進むのに邪魔になる飛来物を可能な限り撃ち落としていく。
「ようし! 今度こそ、このまま一気に進んで終わりだ!」
「あっ! ミノさん、そんなに前に出たら、またさっきみたいに……」
「銀! そんなに進んだら援護が間に合わせられない!」
勢いづいたのを良いことに銀が威勢の良い勝鬨をあげながら突出する。それに園子が追いつけず銀が前に一人出る。
少しでも突出してしまえばもうそれは後の祭り。ボールを迎撃する須美の狙撃が間に合わず、園子の防御は後方、やってくるボールの対処は間に合わず、大ぶりな斧では処理しきれず数という質量に押し負けてまず先頭の銀がボールに当たって転び、面食らった園子が隙を突かれてボールが頭に当たり倒れこみ、後方で見ていた須美は気が抜けて顔にボールが当たってそのままゆっくりと後ろの砂に倒れこむ。
もう何度目かの光景に宮司システムを省エネモードで駆動させていた和仁も面倒になって波打ち際に大の字になって倒れこむ。
打ち寄せる海水がひんやりとして気持ちいい。海水の冷たさが背中に張り付いた汗を掴んで持っていき、代わりに涼やかさと砂を残していく。
伸びた髪を海水に浸しながら和仁は砂浜を照らす青空と中央に陣取る太陽を見上げる。
六月の暑くなってきた頃、バーテックスの襲来もかれこれ二ヶ月ほどなく、訓練と学業に勤しんでいた所、急にこの様な一夏の訓練が始まっていた。
——そう、あれは今朝のことだった。
三日分の着替えを用意して三連休の初日の朝に集合。
その様な指示が安芸からメールで送られ、和仁といつもの三人は特に疑うこともなく準備を整え、各自の家の前に安芸が自動車で迎えにきた時はてっきり旅行にでもいくのかと思っていた。
しかし到着した砂浜に設置された大掛かりな装置の数々を見て察した。
今年の夏の三連休が訓練に消えた瞬間であった。
浮き輪とビニールのイルカとバレーボールとスイカとパラソルを旅館の部屋に叩き込み、四人は砂浜近くに設置された建物に集合した。
麦わら帽子を被り、夏服を着た安芸は真剣な顔つきで四人を見て、確認するようにうなづいてから切り出した。
「これからあなた達には連携強化のための訓練をしていただきます」
「連携の強化ですか?」
安芸の言葉に和仁は疑問の声をあげ、三人も同様によく分からないといった様子で首をかしげる。
「連携だったら宮司システムを使えば十分に取れていると思うのですが?」
須美が代表して四人の疑問を質問に換える。他の三人もそうだという様子で同時に頷いて須美の言葉に同意を示す。それを見て安芸はやはりなと言いたげな様子で言葉を続ける。
「あなた達がシステムを通じて精神を同調させているのはこちらも承知しています。この訓練はお互いが何をできて何ができないかを知るための訓練です。お互いが何をできるのかを知らなければ、いくら同調しても戦略を組むことは出来ません」
「あ〜、そういうことか〜」
察しのいい園子が言葉の意図を理解する。思えば全開の戦いにおいて銀は先行して歩調が合わず、敵のカウンターに見事に嵌り、一人で十分なものを二人で綱を引き、戦略も行き当たりばったり。少なくとも全員で生きて帰るという基本理念からは外れた闘いであると言うしかない。
それ故の連携強化の訓練であった。
互いが互いの出来る範囲を知り、それでいて最大限に互いの力を引き出す。1+1+1を3にするのではなく、最大限に引き出して十にも百にもすることこそが自分達を生き残らせるのに必要なものなのだ。
そしてそれを俯瞰してみることで、その状況において最適な戦略を組む和仁の役目はその三人の勇者の数式を確固たる定理に変えることであった。
「よし! さっさと終わらせて海で泳ぐぞー!」
「三ノ輪さん! 遊び呆けてる時間はありません」
「ええー、いいじゃん先生。せっかく海にまで着たんだからさ。泳がなきゃ損だって!」
「お役目のために来ているんです。遊んでいる時間があるのなら……」
「まあまあ、先生。訓練が早く終わったのなら必要以上に疲れることもないと思います。……それにホラ、アレ」
手の平を見せながら和仁が二人をなだめる。そしてここからでも見える旅館に一室を指し示して笑う。指先が指し示す先にはたためられ、萎んでしまった虹色のパラソルが窓から顔を覗かせていた。安芸の持ち物である。
ギクリと安芸が肩を震えわせ、顔をすこし紅潮させてから目をそらす。付き合いの長い和仁は言葉がなくても察していた。安芸も少し海を楽しみにしていて、しかしお目付役であることが邪魔をして自分から四人を甘やかす様なことが言えないことを。
付き合いが長いが故に察せられてしまうことに安芸はため息を漏らす。
「付き合いが長いと先読みされて先生は威厳を保つのが難しいです。和仁君みたいな察しの良すぎる生徒は先生、キライです」
「僕は安芸先生のことダイスキですよ?」
屈託なく笑って和仁は答える。何を言ってもダメそうだと諦めた安芸がもう一度、今度はより深くため息を漏らして三人に向き直る。
「……という訳で三ノ輪さん。訓練が早く終わったのなら、その余りの時間は自由時間ということにします。ハァ……」
「やったー! これで須美の水着が見放題だ!」
「目的はそれなの?」
「何言ってるのさ、その立派な桃を見ずに海からノコノコと帰るわけにはいかないっしょ。グヘヘへ……」
許可が降りたことで銀が諸手を挙げて喜び、言わなくていいだろうに心の声をダダ漏れにする。泳ぎたいのだと思っていた須美は銀のエロ親父染みた行動原理に思わず胸を隠す様に身構える。
「……まぁ、訓練が予定よりも早く終わればですが」
デモンストレーションの様に設置された機械が一斉に動き出す。集中豪雨の様にバレーボールが砂浜に殺到し、なだらかだった一面の砂が月の表面の様にクレーターだらけになった。
その惨状を見て喜んでいた銀の様子が尻すぼみに元気を失い。最後は呆然とした様子で穴だらけになった砂浜を見て顔を青くしていた。
油の切れたブリキのおもちゃの様に首を回しながら銀は和仁に不安そうな顔を見せた。
「兄さん、アタシ生き残ったら須美の胸を心ゆくまで揉むんだ……」
「その時は僕を倒してからにしてね? 僕は横から応援してるよ」
苦笑しながら和仁は余裕そうにしている。連携強化の訓練であるために自分は特に何もやらされないのだろうなという思いが気楽さを作り出す。
その余裕そうな和仁に安芸はピシャリと言い放つ。
「何を言っているのですか、和仁くん? あなたもこの訓練に参加するんですよ?」
「……え、はい?」
実ににこやかな笑みを浮かべて安芸は言う。先ほどのパラソルの一件の意趣返しが含まれているのは明らかだった。
宮司システムは通常であれば研究所内にある物か樹海内にある二つしかない。研究所にありアレがどこかに移されるとは聞いていない和仁にとってこの場で自分ができることがあるとは思えなかった。
少し考えを巡らせ、記憶を掘り返していく。そして心当たりがあった。
ポケットに手を入れ、安芸は何かを拳に握って和仁に差し出す。
差し出された和仁は観念した様子で何かを受け取る様に手の平を出し、安芸はその上に何かを落とした。
和仁の手の平に乗っていたのは一対の指輪であった。金色の飾り気のない指環が陽の光を反射して輝く。
手の平を覗き込んだ園子が不思議そうに聞く。
「ワニー先輩、それなに〜? 指輪だよね?」
「これかい? これは簡易版宮司システムだよ。もしも戦闘時にシステムに故障なんかが起きた時に最低限、通信と鎮花の儀だけでも出来るように作ってもらったんだ」
「でもどうして指輪型なの?」
「さあ? 特にデザインは発注した覚えはないから開発部任せだよ」
クルリと二人の視線は安芸を見る。何故と視線で質問された安芸は肩をすくめて苦笑する。
「開発部曰く、お役目が終わった後には結婚指輪に再利用してもらおうとのことです。資材もタダではないので、他の使い道もあった方がただ作るよりも良いというのと、開発部から和仁くんへの贈り物を兼ねているそうです」
「だからって結婚指輪は贈り物としてどうなんでしょう?」
「その形状は指の神経とシステムを接続するのに最適なのだそうです。一応形から決まった様ですね、一応」
安芸は平静を保ちつつ、内心で小学生への贈り物になるシステムのデザインに結婚指輪を選んだ開発部の男性陣のセンスに頭を痛くする。
どこに小学生に結婚指輪を送るバカがいるのだろうか。割と身近に居たことに安芸は頭が痛くなり、そんなだから婚期だの出会いがなどと嘆くのだと内心毒づく。
ため息を一つ漏らして気を取り直す。
「……という訳で和仁くんは訓練中はそれを用いて三人を支援してください。あくまでも目的は連携強化。通信だけでもあなたの役割はこなせるはずです」
「……はーい」
建物の外を見輝りつける日差しに和仁は憂鬱そうに声が萎ませる。神樹による加護により、変身した勇者たちは暑さに対して耐性があるが生身の和仁にはそれがない。
これから自分に降りかかってくる日差しを思うと気が重い。
若干、気落ちしながら渡された指環を装着する。金色の指環はちょうど中指にぴたりとはまり、不思議と指との一体感を覚える。
通常の宮司システムで行う神経への直接接続の針の時のように痛みはなく、指環の表面にも触覚がある様な気がする。
試しに触れて見ると金属の様に冷たくなった皮膚に触れた様な感触を覚える。文字通り、身の一部になっているようだ。
何時ものシステムより痛くない分、これはいいなと和仁は思った。必要なこととはいえ、できれば痛いのは避けたい。少しづつだが自分を大切にしようとする思いが確かに芽生え始めていた。
三人は勇者の装束に変身し、和仁も簡易型宮司システムを起動する。感覚が広がっていくこともなく。結界や観測などの機能は一切ないが通信の機能だけは使えた。
準備運動を終えてから訓練が始まった。
「いっくぜー! さっさと終わらせて海と須美の水着だぁ!」
さっさと終わらせて海に入りたいという願望をむき出しにした銀が速攻を仕掛けて1秒でも早く終わらせようと突っ走る。
そして一人で十歩先へ前に出て、そこで終わった。
適当のように見えて隙を潰していくように迫るボールに翻弄され、最初は一つ一つ対応していた銀も次の瞬間には襲来するボールの対処が間に合わず当たり、吹き飛ばされる。
「あぁ、銀。そんなに前に出たら……。ってキャ!」
「槍で防いでも間に合わないんよ〜!」
たった二人では三人用に組まれたボール群に対処は間に合わず、須美と園子も吹き飛ばされる。精神同調がないために特に痛みの共有もしていないためにいつになく気の抜けていた和仁も呆然とそれを見ている最中に流れ弾に当たっていた。
この様な流れを何度も繰り返し、気づけば時間はあっという間に流れていた。
そして時間は冒頭へと戻り、たんと流した汗を海水に浸かることで洗い流した和仁は立ち上がる。
立って状況を俯瞰して観察している和仁と違い、歩きにくい砂浜を駆けて訓練を続ける三人は疲労困憊の様子で砂に突っ伏して動かない。
いち早く復帰した銀が力なく首を持ち上げて爽やかな潮騒の音を奏でる砂浜を睨みつける。
「クッソー……。こんなに近いのにすっごい遠い……、ガクリ」
「アハハ……、お星様が見えるんよ〜……。ガクリ」
「あぁ、お国のために戦った英霊たちが見える……。ああ、待って。考えたらあっちは内陸部……ガクリ」
それだけ言って全員、動かなくなる。
世界を背負って戦うはずの勇者三人、潰れたカエルの様な声を出し、痙攣しながらも立ち上がろうとするが披露の溜まった身体がそれを拒否する。
疲れてもう動けない三人を見て安芸は潮時だと判断する。
「今日はここまでとします。明日の訓練でも動けるように今日は早く寝ること。それでは解散です」
動き続けて数時間、頂点にあった太陽が傾き始めてそ他の色が変わり始めた頃にやっと解散となった。解散を言い渡されても勇者たちは誰も動かない。それだけ疲労がたまっていた。
動きたくても動けない。
システムからそんな声を聞いて仕方がないなと和仁は動き出した。
一番近くにいた須美の元へ駆け寄る。
和仁を見つけて、倒れているところを見られて少し恥ずかしそうにしながら須美ははにかむ。
「あぁ、お兄ちゃん。すぐに動くから少し時間を……」
「もう、こういう時は後方支援の僕に任せてくれればいいのに」
そう言って和仁は須美の首の後ろと膝裏に手を差し込み、彼女を持ち上げる。
俗に言うお姫様抱っこである。
状況を理解して須美が顔を少し赤くする。反対に和仁はからかうように笑う。
「お、お兄ちゃん、こんなことしなくても……」
「じゃあ、自分で歩いて旅館まで戻る?」
意地が悪そうな顔をして和仁は笑う。反射的に動かそうとした両足、両腕は自重に筋肉が負けて動こうとしない。むしろ何もしなくても痛い。
顔を真っ赤に染めた須美が蚊の鳴くような声を出す。
「その、えっと……。はい、お願いしますお兄ちゃん……」
「任された。今日くらいはいつも後ろにいる僕を頼ってよ」
お姫様抱っこの姿勢のまま、和仁は旅館の部屋にまで須美を運ぶ。途中、旅館の従業員とすれ違い、仲の良さそうな兄妹を見て微笑ましそうに笑われる。
「ぅう……。恥ずかしい……」
「そう? 僕は楽しいよ」
顔をさらに赤くして茹蛸のようになった須美はいっそ殺してと言わんばかりに顔を隠す。
部屋にたどり行き、丸くなった須美を布団におろしてきた道を引き返す。
戻ってくると早く来てと言いたげに目を輝かせた園子が地面と一体化していた。
「和仁選手、今砲弾に手を伸ばします〜」
「それだと僕は園子ちゃんを砂浜に振り回してから投げなきゃいけないような?」
首を傾げながら和仁は須美と同じように園子を持ち上げる。
先ほどの疲労はどこに言ったのか。園子は右腕だけを元気よく突き上げる。
「夢の国までひとっ飛びだぜ〜!」
「行くのは旅館の部屋だけどね、お布団はひいてあるからすぐに寝られるよ?」
「至れり尽くせり〜。ワニー先輩、愛してる〜」
「はいはい、園子ちゃん。女の子が安売りするものじゃないよ」
「あ〜ん、もう。そんなとこも好き〜」
気持ち元気よく走りながら園子を布団の上の転がし、再度戻って来た和仁。
砂浜に残っているのは銀一人であった。多少の時間が経ち、少し楽になったのか銀は武器を杖に子鹿のように震える両足で体を支えてなんとか立ち上がろうとする。
やってきた和仁を見て照れ臭そうに笑う。
「あぁ、いいよアタシは。なんか照れくさいし、重いだろうし、兄さんアタシは放っておいて須美と園子の面倒を見てなよ」
「……そうかい? 銀ちゃんがそう言うならそうするけど……」
和仁の手助けを銀はやんわりと断る。自分のようにガサツな奴にあのような運び方は似合わないと苦笑する。
和仁は心配そうにしながらも戻ろうとしたところで旅館の窓から声がかかる。
体をぐったりさせ、洗濯物のように上半身を窓から出した園子が野次を飛ばす。
「へいへい、ワニー先輩! ミノさんは照れてるだけだから、ここは男を見せる所だぜ〜! グヘッ……」
言い終えて園子はぐったりと窓枠にへばりついて動かなくなる。
干された布団のようになった園子を目を点にして見ていた二人は我に帰り、互いの視線を合わせる。
顔が火照る。恥ずかしそうに視線を逸らしてかゆくも無いのに頭をかいて自分の中の羞恥心を誤魔化そうと試みる。
しかし、そんなことをしても状況が変わるはずもなく、互いの間を通る沈黙が潮騒の音で掻き消される。
沈黙を破ったのは和仁からだった。
「……ええっと、その、運ぶよ?」
「え……? あ! あぁ! 頼むよ兄さん……」
そっと、世界でたった一つしかないような宝石に触れるよりも慎重に和仁は銀の膝裏に左腕を通し、右腕で肩甲骨を支えて立ち上がる。
無意識のうちに自分が和仁の首に両腕を回していることに気がついた銀は目を見開いて顔をうつむかせ、今更離す方が変だと思い体重を預ける。
沈黙したまま、二人は部屋までの道を歩いて行く。
無言の歩みの中、ちっとも静かではなかった。
胸の鼓動がうるさい。
不思議と心地のいい音を互いに聞きながら一歩ずつ進む。
あっという間に時間は進み、部屋にたどり着く。
静かに銀を敷かれた布団に下ろし部屋を後にする。
和仁は顔が赤いまま無理矢理はにかんだ。
「え、えっと。それじゃあみんなまた明日」
「お、おう。また明日な……」
そっと障子をとしてトタトタと早歩きで去って行く。
銀は呆然とした様子で誰もいなくなった障子の向こうをただジッと見ていた。
「ミノさんも女の子なんだからこういう時くらい女の子になっていいんよ〜。ポイント高いんよ〜」
「うぉ! 園子いつの間にいたんだよ!」
いつの間にか復活して横にいた園子がささやく。肩を飛び上がらせて銀がその場で小さく跳ねた。
顔を紅潮させたままの銀を園子は面白いものを見つけたかのようにニヤニヤと口角をあげてにじり寄る。
「へへへっ、お姫様抱っこは如何でした奥さん〜?」
「え、あぁ……。兄さんああ見えて意外としっかりした体してんだな……。筋肉とかすごかった。……ってなに言わせてんだ!」
心の声をダダ漏れにした銀が怒り、園子をとっちめようとするが互いに筋肉痛を起こしその場で仲良く悶えながら転がる。
「むぅ……」
頰を膨らませた須美が面白くなさそうに銀を見ていた。
人気のない廊下を進み、自分の部屋に向かっていた和仁は急いだ様子で部屋にたどり着き、転がり込むように部屋に転がり込んで勢いよく扉を閉める。
部屋に入ると和仁は糸の切れた人形のようにへたり込む。
うつ伏せになって木目の天井を見上げる。その視界に築き上げた両手が見える。
いつも通りの両手。ただ、今は初めて感じる温もりが宿っていた。
まだ微かに残るそれを確かめるように何度か手を開いては閉じる。
「銀ちゃんすごく柔らかかった……。って、僕は何を言ってるんだ。須美や園子ちゃんも一緒だろうに……」
顔に手のひらを重ねて何かを誤魔化すようにその場で転がってみる。
しかし、そうしてみても宿った熱はかき消せない。むしろ意識した分、よりはっきりとした熱量になる。
今まで感じたことのない熱に和仁は困惑する。
「一体どうしちゃったんだよ僕……」
初恋の時の止められない勢い覚えてますか?
作者は日記に残していたので今でもたまに読み返しますがすごいですね。ブレーキの壊れたドラッグマシーンみたいです。
勢いで文量が増えたので前後編になります。
それではまた次回。